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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、3回目:飯田市の再生可能エネルギーと地域づくり(1)

2016年07月31日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

●再生可能エネルギーの先進地といえば飯田市

 

 飯田市は、人口10万4千人の南信州の中心都市である。この飯田市に、337ヶ所(2014年度末)の太陽光の市民共同発電所が設置されている。気候ネットワークの豊田陽介氏の調査によれば、全国の市民共同発電所は800弱とされることから、飯田市における市民共同発電所の集積度の高さがわかる。

 

 2013年4月には「飯田市再生可能エネルギー導入による持続可能な地域づくりに関する条例」が施行された。この条例により、地域自治組織と「おひさま進歩エネルギー株式会社(以下、おひさま会社)」等との協働による発電所の設置を、市が調整・支援する仕組みが整備された。既に、市内7ヶ所で発電事業が稼働を始めている。本特集の前回では、東日本大震災以降、再生可能エネルギー条例を制定した地域の動きを紹介したが、条例の実効性において飯田市は抜きんでている。

 

●再生可能エネルギーへの取組みの4段階

 

 飯田市の取組みは4段階で捉えられる。第1段階は市民共同発電事業の開始以前、第2段階は同事業の創設、第3段階は同事業の展開、第4段階は再生可能エネルギー条例の導入による新展開と捉えられる(表参照)。

 

 第1段階では、全国に先駆けて、行政による住宅用太陽光発電設置への融資あっせんと利子補給が開始された。そして、シンポジウムの開催を契機としたNPO法人南信州おひさま進歩(以下、NPOおひさま)と、市役所職員の有志を中心としたNPO法人自然エネルギーネットが設立された。

 

 第2段階では、2004年度に環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業(略称:まほろば事業)」による補助金を活用し、市民出資と市役所の支援により、公共施設の屋根上での市民共同発電事業が開始された。当時、市民共同発電における大規模な資金集めの先例は多くなく、引き受け先がないなか、NPOおひさまがリスクを覚悟して、おひさま会社を設立して、事業主体となった。

 

 第3段階では、おひさま会社と市役所の協働により、一般住宅や工場等の屋根上での太陽光発電所の設置が全市的に展開された。第4段階は、「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例(再エネ条例)」の制定以降である。

 

 表 飯田市における再生可能エネルギーへの取組み(おひさま会社を中心として)

段階

おひさま会社関連の取組み

第1段階

発電事業を担う主体の離陸

2001年 「おひさまシンポジウム」の開催

2004年 「おひさま進歩」の設立、「明星保育園」への「おひさま発電所」1号の設置(寄付型)

第2段階

市民共同発電事業の創設

2004年 市民共同発電事業の公共施設への全市的展開(環境省「まほろば事業」の活用)

第3段階

市民共同発電事業の展開

2009年 「おひさま0円システム」による住宅用太陽光発電の全市展開(個人住宅対象)

2012年 「メガさんぽプロジェクト」による非住宅用太陽光発電の全市展開(工場等対象)

第4段階

条例の導入による新展開

2015年 「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」の認定案件における発電事業の開始

 

 

●おひさまによる住民の啓発効果

 

 NPOおひさまは、2004年に社会福祉法人明星保育園に太陽光を利用した3kWの市民共同発電所「おひさま発電所」1号を設置し、保育園の園児や父兄に向けた環境教育を始めた。これは同社社長(原亮弘氏)の想いを形にしたものである。まほろば事業以降も、おひさま会社では保育園等での環境教育を展開してきた。

 

 筆者が実施した飯田住民アンケート(2009年)では、「飯田市の市民共同発電事業は、20歳代を除き、男女を問わずに幅広い年代の世代に認知され、影響を与えている」こと、そして「同事業を通じて、住民の多くが温暖化防止行動のおもしろさや関連する社会の動きの活発さへの認知と住宅用太陽光発電の設置し易さへの評価を高めている」という結果を得た。公共施設等の屋根上に市民出資により太陽光発電を設置することによるデモンストレーション効果であり、太陽光発電を設置した保育園等での環境教育にも力を入れてきた成果である。

 

 飯田市の取組みで注目すべき点が多いが、再生可能エネルギーについてはやはり10年以上の経験を経て、市役所との協働により成長してきたおひさま会社という中核的事業体の存在が重要である。NPO活動を始めたときの環境教育を広げたいという単なるビジネスを求めない事業姿勢が地域づくりに影響を与えてきた。

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