●再エネの普及促進は何のため?
2010年代、太陽光発電や小水力、風力等の再生可能エネルギー(以下、再エネ)による発電所の設置が進んできました。2017年7月に開始された制度(固定価格買取制度)がその設置を促してきました。同制度は、再生可能エネルギーによる電気を高い価格で買い取り、発電所の採算性を高め、設置を促すものです。
買取に使うお金は、私たちの支払う電気料金に上乗せ(再エネ賦課金)されてます。では、私たちは、なぜ再エネの費用を負担するのでしょうか。
●行政における位置づけ~気候変動防止、防災、地域経済の活性化
国や地方自治体は、気候変動(地球温暖化)防止、防災(非常時の電源)、地域経済の活性化という3つの側面を強調します。再エネは二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーであるため、気候変動防止に役立ち、自宅に設置しておけば停電時も電気が使えるため防災に役立ちます。
再エネによる地域経済の活性化は、地域資源である再エネによる売電収入が地域に入ってくこと(移入効果)や、再エネの電気を使えば、地域の外に支払っている電気代を抑制できる(移出代替効果)として現れます。
●ライフスタイル再生~自立共生の歓び
これらは重要なのですが、他にも忘れてならないことがあります。私たちのライフスタイル再生ということです。
今までは、電気は電力会社からしか手に入れられず、電源構成を自分たちで選べませんでした。しかし、再エネの発電所は自分や地域で出資することで作れます。消費者が生産者になれます。
また、市民が出資しあって共同で発電所(市民共同発電所)をつくれば、それを通じた新たな人間関係が形成されます。その関係や売電収入を原資として、新たな地域活動を起こすこともできます。
再エネ事業への参加者は、エネルギーをつくる、仲間とつながる、社会のことを学ぶといった経験を通じて、自立し、支えあうこと(自立共生)の歓びが得られます。
●ライフスタイルの魅力が人を動かし、地域を動かす
私は、市民共同発電所を地域内に350か所以上設置してきた市民会社がある飯田市、100世帯の山村集落が全戸出資で小水力発電所を設置し年間2千万円もの売電収入を得ている岐阜県の石徹白(いとしろ)地区等の全国各地を調査し、未来を志向する生き生きとした人たちが地域づくりを担ってきた経緯を学びました。
気候変動防止や防災、地域経済といった大義も重要ですが、再エネを活かす地域づくりを担うライフスタイルが魅力的だから、地域づくりが動いています。
生産現場が見えず、ライフラインが停止したときに何もできないという不安や弱さから脱し、自立共生型ライフスタイルへの転換を図るという観点で、再エネのさらなる普及やそれとの関わりの創造を考えてみませんか。
●再エネの地産地消、農林水産物(食料や材料等)や福祉の地域まかない
一方、地域内の再エネによる発電だけでなく、それを地域に売る仕組み(再エネ電気の小売事業)をつくることが期待されます。再エネの地産地消が、さらに多くの人々が再エネに関与し、ライフスタイル再生に踏み出すきっかけになるでしょう。
エネルギーだけではありません。農林水産物(食料や材料等)、あるいは福祉についても、地域資源を活かし、自分や仲間と賄っていくことで、自立共生型ライフスタイルを全人的に実現していくことができます。
注)本原稿は、2019年7月28日の山陽新聞の提言2019に掲載された記事の元原稿です。