再生可能エネルギーによる地域づくりが全国各地で動き出している。この動きの目指すところは、社会転換であると考え、その社会転換に至る5つのステップを図のように設定した。
図では、各ステップが順番に動きだすようにみえるが、実際には各ステップは同時並行的に進行し、相互に影響しながら、各ステップが高まっていく。
「ステップ1:生成」とは、再生可能エネルギーに係るAイノベーションの生成を指す。例えば、市民共同発電が地域で発案され、事業化されるこという。地域・市民主導の再生可能エネルギー事業の企画・設立・運営は、地域にとって新しい知識の創造のプロセスであり、まさしくイノベーションである。
「ステップ2:普及」は、Aイノベーションに対して地域内の主体の関与が高まったり、Aイノベーションが地域内で複製、増殖するプロセスである。例えば、市民共同発電に対する出資者が段階を経て増加したり、市民共同発電所の数が同じ事業主体あるいは異なる事業主体によって数を増やしていくことをいう。
「ステップ3:波及」は、ステップ2までに触発されて(Aイノベーションとは異なる)Bイノベーションが生成されることをいう。例えば、屋根貸しの太陽光発電の市民共同発電事業とは別に、木質バイオマスや小水力発電の事業が地域内で新たに生成されることをいう。
ステップ3までは同地域内での動態であるが、「ステップ4:連鎖」は他地域に対して影響を与え、他地域での動きが生成されることをさす。例えば、α地域でのノウハウを形成した市民共同発電事業がβ地域に伝搬されることを示す。伝搬といっても、α地域の事業主体がβ地域に事業エリアを拡張して展開する場合、β地域の事業主体がα地域の事業主体から学習し(模倣し)、事業を開始する場合等がある。
ステップ4の動きが活発化することで、そのボトムアップの動きが国の社会経済システムやそれを支える国民意識等の転換が始まる。これが「ステップ5:転換」である。この転換は、目に見えて劇的な大転換にはならないかもしれないが、地域での動きの増殖と連鎖により。均質的な価値規範と脆弱な構造を持つ社会を、多様な包括力のある重層的社会に変える可能性は十分にある。
また、図では各ステップの動きが「地域の3つのウエア」と「地域資源」を活用することによって形成され、各ステップの動きにより「地域の3つのウエア」あるいは「地域資源」が強化されるという相互作用があることを示している。「地域の3つの基盤」は、白井(2012)が整理したハードウエア(人工施設)、ソフトウエア(制度、情報)、ヒューマンウエア(人の意識・関係)をさす。「地域資源」は地域にあるもの有形、無形な自然資源、人文資源をさす。再生可能エネルギーもまた「地域資源」である。
例えば、公共施設の屋根貸しでの市民出資による太陽用発電所の設置は、太陽光という「地域資源」を活用するとともに、地域内にある施設の屋根というハードウエア、公共施設の屋根を目的外に利用することができるルールとしてのソフトウエア、それに出資する市民の意識や事業主体との関係性といったヒューマンウエアによって実現する。そして、その太陽光発電所の設置に伴い公共施設での環境学習を実施すれば、ヒューマンウエアが高まっていく。
なお、この5つのステップの考え方は、Rogers(1983)がまとめたイノベーション普及学や谷本ら(2013)のソーシャル・イノベーションの生成と普及に関する著作を参考にしている。ただし、Rogers(1983)はステップ2の普及段階を中心にした分析をしており、谷本ら(2013)はステップ1の生成、ステップ2の普及を中心にしている。地域の変容に注目し、ステップ5の転換までを見通したとらえ方は、独自のものである。
参考文献)
白井信雄(2012)「環境コミュニティ大作戦-資源とエネルギーは地域でまかなう」、学芸出版社
E. M. Rogers: The Diffusion of Innovations (3rd ed.)、 The Free Press 1983.青池愼一・宇野善康(監訳):イノベーション普及学、 産能大学出版部、 1990.
谷本寛治・大室悦賀・大平修司・土居将敦・古村公久(2013)「ソーシャル・イノベーションの創出と普及」NTT出版株式会社