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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、15回目:西粟倉村の再生可能エネルギーと地域づくり(1)

2017年09月08日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

 西粟倉村は岡山県の最東北端に位置する県境の村である。人口1,529人、森林比率95%。主な産業は林業、農業、観光業である。

 

●西粟倉村の取組みの特徴

 西粟倉村では、合併を選択しなかった小規模な山村 として、森林という地域資源を活かし、人材を外部に求めることに活路を見出し、スピード感を持って地域づくりに取り組んでいる。2つの地域づくりの文脈がある(これらの2つの文脈は不可分)。1つは地域資源である森林を柱とする木材の循環的利用を図る「百年の森構想」。それが基流となり、森林の持つ気候変動防止の働きを強調し、環境モデル都市の指定につながっている。もう1つは、2007年の雇用創出協議会で打ち出した「起業型移住者を受けいれる」という流れである。

西粟倉村の再生可能エネルギーへの取組みの特徴は3点である。

第1に、上記の2つの地域づくりの文脈(百年の森構想と起業型移住者)の中で再生可能エネルギーへの取組みが生まれている。森林資源の活用においては、木材循環のカスケード利用におけるサーマルパスの部分として、木質バイオマス利用がある。さらに、環境モデル都市となることで、木質バイオマス利用のエネルギー利用に加えて、小水力や太陽光(市民共同発電)、電気自動車導入がなされてきた。また、薪ボイラー事業の中心人物は移住者である。薪ボイラー事業はゲストハウスに導入され、他の起業型移住者達とのつながりを強めている。

第2に、行政と民間の協働によるスピード感のある取組みがなされている。このスピード感は、行政が主導しつつも、積極的に地域内外の民間の力や国の事業を活用することで生まれている。「百年の森構想」では、村役場と森林組合、森の学校(民間)の協定により、役割分担を明確にして、取組みを進めているように、地域づくりにおける民間の役割を明確にしている。

第3に、コンパクトな山村ゆえの電気自動車と地域冷暖房が導入されている。村役場は幹線道路沿いにあり、その周辺に商工会議所や郵便局等の施設が集積している。また、同街道沿いに道の駅などの観光施設が立地している。こうした特性を活かし、山村でありながらも、地区内の移動手段としての電気自動車の導入を図ってきた。また、老朽した建物の多い村役場周辺の整備において、地域冷暖房の検討を行うなど、集積度が高いゆえに面的な整備を行っている。

 

●観光施策の検討から生まれた環境モデル都市構想

西粟倉村の再生可能エネルギーに係る取組みを、表に整理する。第1段階は、合併をしない選択をして、起業型移住の受け入れと森林資源活用の方向性を打ち出した時代である。第2段階の取組みを記す。

2010年に入り、西粟倉村は、環境・エネルギー面でも村をアピールできるということに気づく。鳥取自動車道の2014年3月全面開通をにらみ、観光のブラッシュアップのために地域資源の見直しをするなか、森林が34,000トンの二酸化炭素を吸収していることから、環境面でのアピールを図ることとなった。

そして、2013年1月の岡山県スマートタウンパイロット地域指定、2013年3月の環境モデル都市選定(内閣府)、2014年5月のバイオマス産業都市認定(農林水産省)と、次から次へと環境に関する先進的な取組みのモデル地域としての指定をとりつけていく。

急ピッチの転換について、産業観光課課長の上山隆浩氏は、「モデル事業になるには、普遍化されてからでは遅く、急いで先んじないといけないとスピードをつけた。国の財政が厳しい見通しにあるなか、国の資金があるうちに進めた方がよい。やる気があるところを支援するということなので、チャンスだと思っている。」という。

 環境モデル都市について、上山氏は、「江戸時代はあるものを使い切るしかなかった。それが結果として、環境負荷のかからない社会になっていた。西粟倉村もそうなることを目指している。」、「規模の経済を追求しても勝てないから、密度の経済を追求し、域内収支をよくしていく。人と人、事業と事業がきめ細かい、多様性と密度の経済に移行していくにはコミュニケーションが欠かせない。」という。

 

●スピード感をもって実現した市民共同発電

西粟倉コンベンションホールの屋根上に、48.68kWの太陽光の市民共同発電所が設置されている。同所で温泉まつりを実施した際、再生可能エネルギーのコーナーをつくり、そこに展示をしてくれていた廣本悦子氏と上山氏の意見交換がきっかけとなって設立された。廣本氏は、岡山県内で早くから市民共同発電事業を手掛けてきたNPO法人おかやまエネルギーの未来を考える会(略称:エネミラ)の代表である。

廣本氏は、「環境モデル都市になったときに、西粟倉村の活動が急に大きくなった。大きくなって行政が頑張っているが、住民の顔がみえない地域もある。西粟倉村は住民と一緒になってやっていく形がいい、西粟倉コンベンションホールの屋根で、市民共同発電ができれば、いいですね」と提案した。上山氏は、即座に「屋根貸しはどうにかなります」と答え、屋根貸し条例を急ぎ作った。

議会では、①環境教育を廣本氏のエネミラにお願いする、②災害時に物資の集積拠点になるような電源確保できる、③太陽光発電の実績データがなく 、公共施設への設置で県北での発電量データがとれる、という点を説明し、速やかに条例が制定された。

2013年の5月に発案され、2014年3月完成。資金調達では、エネミラの実績が認められたこともあって、トマト銀行からの融資の即答が得られた。設置資金1,500万のうち、銀行から1,000万円、住民20人からの擬似私募債で490万、残りは寄付のプール金を充てた。

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