腫瘍内科医一家のニューヨーク滞在記

ニューヨーク研究留学中での出来事を感想を交えてメモ代わりにつづります。

仮説の落とし穴

2010年07月29日 15時53分55秒 | 日記
 このところ、実験系が安定しつつありデータはそれなりに出るようになってきたのだが、すっきりしない日が続いている。

 先週末の実験結果にもとづいて次の実験計画を立てたのだが、試薬等の実験材料がそろうまで少し待ち時間ができてしまった。
 
 昨夜、別のプロジェクトの実験結果を解析して出てきたデータは個人的には興味深いが、その現象が生じている原因と結果をつきとめる方法が思いつかない。実験を進めていくと過去に論文で報告されていることが当てはまらない場面に遭遇することが結構あるのが困りものである。
  
 こちらの研究者(とくに医師研究者)は、予め立てた仮説だけにあわせるように研究を進めてしまう人が相当数いるように感じる。研究費を継続的に獲得し期限内に結果を論文にまとめていく義務を果たすためなのだろうが、初めから答えありきといったような研究手法はいかがなものかと思う。そんなことで真実が見出せるはずがない。
 いいかげんなデータであっても、とにかく論文を書いて、研究予算をとったものが勝ちという風潮がひろがってしまうと、いわゆる「やったもの勝ち。」といったおかしな考え方を助長してしまいかねない。
 もちろん仮説なしには何も始まらないのであるが、自然現象は人間の予測通りのメカニズムであるとは限らない。あまりにも当たり前のことであるが、我々はいつもそのことを肝に銘じておかなければならない。
 自分自身の倫理観との戦いなのだと実感するこの頃である。

決め手に欠く展開

2010年07月24日 17時17分36秒 | 日記
 7月に入り詰めの実験を行っているが、出るはず(出てほしい?)データが出ない。
 2週間があっという間に過ぎ去ってしまった。
 今週は体調も芳しくない。

 昨日は、朝から考えうる条件設定で網羅的に実験を行ったが、残念ながら期待しているデータは出なかった。
 仮説を立てることは、それほど難しくないが、予想通りいかないのが研究だと思う。今回は、もう一歩のところまで来ているだけに、頭から仕事のことが離れない。
 予想外の結果が出る理由が隠れているのかもしれない。
 上司は今の時点でまとめようと言ってくれるが、簡単に妥協したくない。感謝しているからこそ、自分が納得できるところまで頑張りたい。

 気がつくと、深夜三時すぎ。
 ラボから見下ろす、マンハッタンの夜景は素晴らしい。
 また、明日から出直しだ。

娘の気持ち

2010年07月22日 11時40分37秒 | 日記
 娘の詩がNYのローカル新聞に載ったことは先日触れた。
 学校の先生が応募してくださったそうだ。

 なぜ、娘がこのような詩を書いたのか、思い当たる節があった。
 最近、娘のクラスメート同士でトラブルがあったそうである。
 子供同士のけんか、トラブルによる怪我等は昔からよくあることである。
 小生などは、わんぱくだったので、子供のころよく喧嘩をして、相手にけがをさせてしまうこともあり、担任の先生に「往復ビンタ」を食らったことが一度や二度でない。
 でも、悪いことをしてしまった時は、素直に「ごめんなさい。」と謝ることで大抵のことはおおごとにならず、学校内で解決したように記憶している。

 今回のいきさつは第三者なので正確にはわからないが、どうやら、子供同士、学校内で解決されずに、学校を巻き込んでの親同士のトラブルにまで発展してしまったと聞く。
 悲しいことに、片方の生徒(娘のクラスメート)が一学期を持って退学してしまう事態となってしまった。

 そのことを考えつつ、この詩を読むと娘の心情がよく伝わって来るような気がする。
 娘はとても心配して経過を見守っていたそうである。
 「みんなと仲良くしたい。みんな楽しく生きてほしい。」
 そんな、当たり前のシンプルなことができないのが人の世なのである。
 つまらない「プライド」が捨てられない人間は悲しい。
 
 これから大きくなるにつれて、いろいろあるだろうが、娘にはいつまでも根っこの部分では純粋な優しさを失わないでもちつづけてほしい。
 
 小学校の卒業式で、悪いことをしたときに思いっきり「ビンタ」をくれたN先生が「これから、寂しくなる。」と泣きながら頬をさすってくれたことは、今でも私の素敵な思い出の一つだ。
 大好きだったN先生、今頃どこで何をされているのだろうか。
 

日米 医学部入学までの違い

2010年07月20日 23時30分00秒 | 日記
 今月に入り、こちらの高校生がサマースクールと称して、夏休みの期間限定で研究室研修に来ている。

 もちろん、アメリカの高校生がみんな夏休みに研究するわけではなく、高校の化学の先生が、医学に興味があり、かつ、優秀な生徒をピックアップして推薦してくるとのことである。各自、それぞれ興味も違う。
 こちらの高校生と話をすると、「自分はとても優秀だから、先生が推薦してくれてここに来た。選ばれた人間しかここには来れない。」と、さらりと言ってのける。一瞬、「なんや、この勘違い野郎。」と思ったが、自ら自分を高く売り込むのがこちら流のようである。ここはアメリカなのである。なんだか、面白くなってきたので、こちらの学生たちにこちらの教育事情について聞いてみた。
  
 アメリカでは、4年生の大学を卒業してから、さらに4年間の医学部を受験するのであるが、医学部の入試を応募するためには、共通テスト(呼び方は正確でないかもしれない。)で高得点をとることに加えて、複数の「しかるべき人」の推薦状をもらうことが大事とのこと。このため、活動歴として、有名な研究所で研究をした経験があるとか、そこにいる有名人とのコネクションを作ることは、とても重要なことらしい。ボランティア活動も評価対象になるとのこと。
 考えてみると、大人の世界での人づきあいを、高校生の時代から学んでいるようなものである。こちらの医学生が、概して要領がよく、人当たりが良く、「さばけた」感じの子が多いのも、このような部分も影響しているのかもしれないなどと勝手に想像した。
 
 日本の学生であれば、高校生ぐらいまでは、身内や親戚をのぞけば、学校の先生や塾の先生ぐらいしか、きちんと大人と向き合う機会はないのかもしれない。自分の昔を顧みてもそうだった。
 4年半の大学教員兼務の経験からは、日本の医学生(おそらく、他の学部も同じだとは思うが)の中には、失礼ながら人とのコミュニケーションがきちんと取れないと思われる生徒が各学年に必ず何人かはいた。数分も話さないうちに、不愉快な気分にさせられるような子もいた。確かに日本の受験システムは、一定のルール内において「公平」ではあるが、予め決められた「答え」のあるパターン学習をしっかり行えば大学に入れるという一面も事実である。だから、日本では、競争に乗り遅れまいと、親の誘導(洗脳?)のもとに、小学生ぐらいから毎日パターン学習に明け暮れる子供が多数存在する。

 個人的には、高校生ぐらいの時点で、志望するとまでいわないまでも、興味がある分野で「一流」と言われる人と接する機会が得られるのは、とてもいいシステムだと感心した。たとえ少数だとしても、本当に興味をもった生徒には、受験での「パターン学習」や「点取り競争」以上の学問のおもしろさを実感してもらえる事請け合いだと思うがいかがだろうか。もし、将来機会があれば、日本でありがちな大学一日見学といった表面的なものでなく、月単位で高校生が大学での研究や授業に参加できるような仕組みを提案してみたい。それ以前に、お前のような「三流」の所になんて行きたくないなどと言われないように頑張らないといけない。

 口の悪い同僚は、学生の相手が面倒のためか、「あいつらは入試の推薦状目当てでまじめそうにやっているだけさ。」などと毒づく。どこにでも皮肉屋さんがいることは世界共通のようである。

 そういえば、自分のボスも高校時代に、ここの研究室に研修をしたのが始まりだったと聞いた。
 思うに、アメリカは日本よりはるかにコネ社会のようである。勿論、このことには弊害も多いが。

土曜の朝は

2010年07月20日 15時33分35秒 | 日記
 家族が一時帰国して2週間が経過した。
 今は単身なので土曜の朝のデューティー?がなくなり、朝はゆっくりできる。

 
 実は、毎週土曜日の朝に、自宅から徒歩5分ほどかけて、ファーマーズマーケットに一週間分の野菜や果物を買い出しに行っていた。一週間分の買い出しなので、カートを引いて歩いていく。日本の知り合いの方がカートを引く私の姿を見たら、さぞかしびっくりされることであろう。ここはニューヨークなのである。
 
 ルーズベルトアイランドのファーマーズマーケットであるが、ペンシルバニアの農家が20数年前より毎週土曜日に、島に野菜や果物を売りに来てくれる。
 彼らは、アーミッシュの方らしく、宗教上の理由から昔ながらの生活をされているそうで、その生活様式は非常に興味深い。
 アーミッシュについては以下を参照していただきたい。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
 
 日本の方は、なにもこの時代に青空市場なんて行かなくてもスーパーマーケットに行けばいいのにと思われるかもしれない。しかしながら、概してマンハッタンのスーパーは野菜や果物の質が悪いというか、古くなっているものが多く、しっかり一つ一つ手で確認しないと腐っていることさえある。これ、ホント。
 そのため、マンハッタンでは、各地でファーマーズマーケットが開催されている。

 この市場の野菜や果物は本当に新鮮でおいしいので、我が家では重宝している。