還暦の真っ赤なプリンス
まだまだだと思っていた還暦の日が来た。鉄鋼物流業の茨城・鹿嶋支店 金属加工業の和歌山支店 貸ビル賃貸業の大阪支店 化粧品雑貨の神戸支店 ありがたいことに結構忙しい日々を送らせていただいているが それに加えて 福井の全国大会に出場して 素人そば打ち日本一をめざしていた「手打ちそば打ち」の趣味が高じて「手打ちそば屋」をやりはじめてしまったものだから たまらない。
三六五日 休みなしで 働く羽目になってしまった。それはそれで 自虐的に楽しんでいるのだが。
そんな毎日の中 還暦の日を 迎え ある日 茨城の支店に出張していた時に ハンドルを握っていた車窓に 思わぬものが飛び込んできた。カーショップのガラスのショルームに たたずんでいたのは 1968年製の真っ赤なプリンススカイライン
思わずつぶやいた。「運命的な 俺の還暦を祝うような 真っ赤な還暦カラーぢゃないか」。
第二回日本グランプリに プリンスは 社運をかけて 1500ccのボディを無理やり200mm伸ばし グロリアの2000cc六気筒のエンジンを詰め込んだ怪物マシンをつくりあげた。当日 ゼッケン41番の生沢徹が たった一周だけレーシングマシン ポルシェ904抜き去りトップに立ち 日本中が狂喜乱舞した。スカイライン伝説の始まりである。そのホモロゲーションモデルの車が 目の前にある。
迷いはしなかった 憧れの車 ましてや 運命的な還暦カラーだ。エンジン 足回りを 一通り見て回って 衝動買いしてしまった。
66年に日産と合併して プリンスの名が消える。しかし プリンスの熱い心 プリンスマークと プリンス2000のエンブレムが 誇らしげに 輝いている。
還暦記念に手に入れた真っ赤なプリンス。 セルモーターをまわす。かすかに すえたガソリンの香りが鼻につく。コトコトとバルブが開く音が聞こえる。 心地よい6発サウンドが 今の車にない男の野心をくすぐる。5400回転くらいまで引っ張ってやると 青春時代のたぎる心 若年の血気を思い出させるように レーシングマシンのうめき声を聞かせてくれる。
あと15年は 現役で働いていたい。いや20年。いつまでもつか こいつと俺。
その時まで こいつと寄り添い艶と色香のある人生を楽しんでいきたい。