こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

聖女マリー・ルイスの肖像-【15】-

2017年09月20日 | 聖女マリー・ルイスの肖像


 ええと、今回もアメフトのことで言い訳事項があったりして

 まあ、アメリカのカレッジフットボールと同じにしなきゃならない理由もないので、そのあたりはテキトー☆に誤魔化して書いてるってことでよろしくです(^^;)

 さて、そんなわけで今回もちょっとアメフトのことについて、何か書こうかな~と思ったり。。。

 いえ、最初は↓のように試合展開の細かい描写については書いておかず、次に読み返した時にでも、少しくらいアメフトの描写を入れることにすればいいんじゃないかなって思ってました。

 ところが、ですね。特にそんなにそういうことについて細かく書いてなくてもそんなに不自然でもないかな……と思ったので、特に直さなかったというか(^^;)

 でも、わたしがアメフトのことを調べはじめて、一番参考になった本というのが実は、映画「しあわせの隠れ場所」の原作本、「ブラインド・サイド」でした。

 たぶん、アメフトのことに興味ない方にとっては、あんまり面白くない本……かもしれませんし、また映画を見て感動したので原作を読むことにしてみた……という方にとっても、「あれ?なんか期待してたのとちょっと違うような」と感じるかもしれません。

 でもこの本、わたし夢中になって読みました。なんでかっていうと、わたしがアメフトに関することで「そうそう!!わたし、こういうことが知りたかったのよーう!!」ということが次から次へとざくざく出てくるお宝のような本だったからなんです

 中身の濃い本なだけあって、色々書くと長くなりすぎるのでどうしようかなって思うんですけど……映画のほうの内容は、黒人の貧しい家庭に育ったマイケル・オアーという少年を、白人の富裕層に属するテューイ家が引き取り、その後マイケルは類い稀なその体格を生かして、高校や大学、さらにはプロとなって活躍するようになっていく……だが、そこへ至る過程というのは、決して平坦なものではなかった……といったところでしょうか(^^;)

 ただ、原作のほうはまず、マイケルのポジションであるレフトタックルのポジションについて、このポジションが何故今のアメフト界でクォーターバックに次ぐ高額を稼ぐ重要なポジションと見なされているのかについて、かなり詳細に述べています。

 その、わたしと同じように、アメフトのポジションで聞いたことあるのがクォーターバックで、なんかそのポジションっていうのは一番の花形らしい……くらいの知識しかアメフトに関してはないっていう方、たぶんとても多いと思います(^^;)

 あと、とても有名なアメフト漫画に「アイシールド21」があるので、そちらを読んでアメフトに詳しくなった……という方もいらっしゃるかもしれません。でもわたし、アメフトについて調べよう!って思った時に、漫画なら一番わかりやすいんじゃないかなと思ったんですけど、でもわたしの頭が悪いせいか、どちらかというとキャラ同士のやりとりなどを楽しむような形で読んでしまって、アメフトのルールに詳しくなる……とか、そんな感じじゃなかったというか(あ、アイシールド21はとても素晴らしい漫画で、面白かったです^^;)。

 で、「ブラインド・サイド」のことに話戻るのですが、漫画「アイシールド21」にもディフェンスチームがオフェンスのクォーターバックを攻撃する……というシーンが何度も描かれていたと思うんですよね。これを「サック」と言って、クォーターバックがボールをパスする前にディフェンダーがタックルすることを言うそうなんですが、実はこのプレイ、アメフト界にローレンス・テイラーという選手が現れる前までは、存在しなかったプレイなんだとか(^^;)

 もちろん、アメフト好きな方にとっては「そんな知ってて当たり前の常識みたいなこと、あらためて語るない!」といったところかもしれませんが、「しあわせの隠れ場所」の映画のほうでサンドラ・ブロックが「神とローレンス・テイラーに感謝している」みたいに言ってたあの科白……わたし、この原作本のほうを読まなかったら、「ローレンス・テイラーってだれ?」で終わってた気がします。

 ようするに、正直いってオフェンスのラインメンってあんましというか、まるで注目して見ない場合が多いらしく……何故かというと、センター(アイシールドキャラでわかりやすく言うと、栗田くん)がクォーターバック(この場合ヒルマくん)にまずボールをスナップ(パス)しますよね。で、やっぱりクォーターバックに次ぐ花形であるランニングバック(主人公のセナくん)やレシーバーにパスするっていう場合が多いと思うのですが、こうなると、一般的に誰でも「ボールのゆくえを追う」ということになり、その間オフェンスのラインメンがディフェンスのどの選手をどんなふうに止めているかなんて、誰もあまり注目して見ないことになりますよね?

 こう考えた場合、近年のアメフト界でこのオフェンスのラインメンのポジションのひとつであるレフトタックルが一番の花形であるクォーターバックに次ぐ俸給を得るに至ったのは何故なのか……ということになります。これはもちろん、アメフト界にローレンス・テイラーという選手が現れる前までは考えられなかったことでした。

 レフトタックルというからには、当然ライトタックルもあるわけですけど、この左か右かの違いで、何故そんなにもNFL(アメリカのプロリーグ)では俸給に違いがでるのか、というのが「ブラインド・サイド」という本のタイトルの由来です。

 これは「アイシールド21」でも書いてあったと思うんですけど、大抵のクォーターバックっていうのは右利きで、右手でパスを投げる際、反対の左側が死角(ブラインド・サイド)になるんですね。そして、ローレンス・テイラーはそこへ襲いかかっていって、クォーターバックがパスを投げる前にタックルしたわけです(彼によって再起不能になった選手もいました)。

 クォーターバックっていうのはチームの司令塔ですから、そうした形で潰されると、その後の試合展開に当然物凄く影響します。そこで、このような形でディフェンダーがクォーターバックを襲うのを止めるのにとても重要なポジションなのが、レフトタックルということなんですよね。

 わたしも映画見たの結構前なので、記憶がすでにおぼろげなんですけど……冒頭のほうでこのローレンス・テイラーのプレイの再現が出てきていたと思います。ゲームがはじまり、クォーターバックが骨を折られるまでほんの4秒しかかかっていません。

 こうなると、クォーターバックに襲いかかる4秒ないしは5秒以内にこの危険なディフェンダーを誰かが止めるか、あるいはクォーターバックのほうでボールをパスしなくてはなりません。アメフトではパスルートやプレイといったものが最初から決まっていて、映画の中などでよく、「ブルー、2-81!」とか「グリーン、6-74!」とか、何か暗号みたいのを叫んでることがありますが、これがどのプレイでいくかの暗号っていうことですよね。

 けれども、ローレンス・テイラーのような危険なディフェンダーがいると、それだけでもうクォーターバックには精神的に物凄い重圧がかかります。何故といって、アメフトに怪我はつきものとはいえ、サックされて骨を折って退場だなんて、こんな不名誉なことはありませんし、襲いかかってくる相手がクォーターバックの骨を折ることに喜びを覚えるような野獣となれば尚更です。そしてディフェンス側にとっては、クォーターバックをサックして倒すというのはビッグプレーで、成功した場合にはその選手は拍手喝采を受ける非常に目立つ行為ということになりますよね(^^;)


 >>QBサックがNFLの新たな公式スタッツになったのは、テイラーがそれをゲームのターニングポイントへと変貌させたあとの1982年のことだった。公式記録の定義によると、サックとはスクリメージラインよりも後ろでパスを投げようとしているQBにタックルすることである。テイラー自身はこう定義している。

「サックとは、QBに気付かれることなく背後から駆け寄っていき、思いっきりヘルメットで当たっていくことだ。ボールはQBの手から離れて転がり、コーチがフィールドに出てきてQBに『大丈夫か?』と聞く。これがサックだよ」

 NFLでの最初のシーズンが終わると、テイラーはルーキー初の最優秀ディフェンス選手に選ばれ、自分の特技に関するちょっとした論説を披露した。

「QBを押さえ込むだけじゃ満足できない。トレーナーがQBに指を三本見せるとき、それが七本に見えるようにしてやりたいんだ。ヘルメットから突っ込んでいくし、可能なら頭上から腕を振り下ろしてそいつを真っ二つに切断してやるよ。ボールを持っているQBを痛めつけるつもりでやる……的確に急所にタックルすれば、そいつは感電したみたいになって、数秒間は自分がフットボール場にいることを忘れてしまうだろうな」

(『ブラインド・サイド~しあわせの隠れ場所~』マイケル・ルイスさん著、江口正史監修・藤澤將雄さん訳/早川書房より)


 もちろん、以前のわたしと同じく、アメフトになんてまるで興味のない方にとっては、「それがどーしたの?」とか、「てか、アメフト知らないし、よく意味わかんない☆」という方のほうが多いかもしれません(^^;)

 さて、体格とかもろもろ、色々違うかもしれませんけれども、「アイシールド21」に出てくる峨王くん……いやあ、あんなのにサックされるところを想像しただけで、ほんとわたしがQB(クォーターバック)ならマジでビビりまくりです

 そして、「しあわせの隠れ場所」のマイケルくんは、身長が196センチ、体重が154キロもあったそうですが(高校生当時)、にも関わらず、彼は75キロくらいしか体重がないみたいに、軽々とした動きをフィールドで見せていたそうです。これはまあ、本当にありえないことで、お相撲さんがその重い体重にも関わらず、軽々動いてでもいるようなものなんじゃないかなって思います(^^;)

 いえ、どう考えてもこのくらい体重があったら力はあっても動きは鈍くなるはずなのに――けれども、このことがレフトタックルとしてクォーターバックに襲いかかろうとする危険なディフェンダーを食い止めるのに、とても重要な資質だということなんですよね。

 なんにしても、こうしたことを「ブラインド・サイド」を読んで知ったので、イーサンの親友のひとりであるマーティンのアメフトのポジションはレフトタックル、ということにしてみました♪(^^)

 それではまた~!!



     聖女マリー・ルイスの肖像-【15】-

 ユトレイシア・スタジアムは、ユトレイシア郊外に位置する、総工費十億ドルの十万人を収容することの出来る巨大スタジアムである。レギュラーシーズンの決勝まで進出したユトレイシア大はこのホームグラウンドといっていい場所で対戦相手の強豪校ジェイリーン・グリフォンズに34-23で勝利した。

 この試合はマクフィールド家の全員が最前列のかなりいい席で観戦しており、マリーはアメフトの試合を実際に見ることなど初めてだったので、終始ドキドキしっぱなしだったといえる。それは試合のゆくえがどうなるのかということもそうだったし、まわりのアメフトファンたちの歓声や野次や罵声などが凄いため、そのことにもドキドキし、子供たちがトイレに席を立ったりする時にもはぐれやしないかと、そんなことにもドキドキしてばかりいた。

 もともとマリーはアメフトのことを野蛮なスポーツと思っていたわけだが、テレビに自分の知っている人物(イーサン)が映っていたことにより、徐々にその面白さがわかってきていたとはいえ――実際に試合観戦に来てみると、テレビで見ていた時以上にタックルで弾き飛ばされた時の衝撃が凄まじく感じられ、彼女は目も開けていられないことが何度もあった。

 そしてそんなハラハラしているマリーの様子を後ろのほうからルーディは眺め、その彼の隣には悪友のサイモンとラリーが同席していたわけだが、試合のほうがユトレイシア・ガーディアンズの勝利で終わろうかという時、彼は隣の席に座るラリー・カーライルの顔と目の色の変化に気づかないわけにはいかなかった。

 いつもは相手校を野次るのにこれでもかというくらい、ありとあらゆる口汚い言葉を飛ばすラリーであったが、この日、彼はその態度を控え目にし、試合よりもむしろひとつ前の席に座るマリー・ルイスのことを気にしてばかりいた。ルーディを真ん中にして右隣にサイモンが、左隣にラリーが座る形であったため、もともと色恋沙汰には鈍いせいもあり、サイモンのほうではそうしたラリーの変化にほとんど気づかなかったようだった。とにかくユトレイシア・ガーディアンズ側がタッチダウンするたびに狂喜し、相手校の得点となった場合にはガムをクチャクチャやりながら口角泡を飛ばして野次るのであった。「この腐ったホモ野郎どもめ、死にさらせ!」だの、「オカマがカマを掘られるためにケツを振ってるぜ!」だのと手をメガホンにして叫んでは、今日が初対面のまわりの人々の賛意を得ていたものである。

 普段はサイモンに負けず劣らず汚い言葉の限りを尽くすのを知っているラリーの態度が至極控え目であった……この異常な事態に対し、ルーディのほうでも対処が難しかったといえる。というのも、マクフィールド家の子供たちが何かのことで席を立とうとすると、ミミがいるために一緒についていけないマリーが気を揉むのを見ては――「自分がお坊ちゃまたちについていきましょう」だの、あるいは「俺がミミちゃんのことを見てますよ」だの言って、彼は気を遣っていたからだ。

 しかも、帰り道でサイモンがその日の試合のことを興奮して語るのとは反対に、ラリーの様子はその後寮へ戻ってからもおかしいままだった。もちろんルーディはマーティンとふたりでマクフィールド家を訪ねたという話はしていた。だが、イーサンがすっかり黒後家蜘蛛の家庭的な愛液にやられているらしい……といったことは話さなかったし、当然そのような話し方もしなかった。マーティンとルーディが彼らに語ったのは概ね次のようなことだった。キャサリンとクリスティンに問い詰められ、自白せざるをえなかったこと、またそのことで良心の呵責を覚えたため、懺悔しにいったこと、さらに黒後家蜘蛛の愛らしい様子や、お菓子が美味しかったことや子供の面倒見がいいことについては話したが――イーサンはもうほとんど新婚家庭で暮らしているようなもので、実際に結婚するのも時間の問題だろうとは言わなかったのである。

 このことについて、ルーディは非常な懸念を覚えた。というのも、そこに恋の前兆を見たからであり、よくある男女間における三角関係やそこに絡まる誤解といった兆しをすでに見てとっていたからだ。

(まずいな。ラリーとイーサンは、本当にいい親友同士なのに……このままいったとしたら、ひとりの女を巡ってせっかくの男同士の友情にヒビが入るとか、そんなことになってしまうのか?)

 サイモンとラリーとルーディ、それにマーティンとイーサンとは、大学の寮生活を通じて親友としての絆を築いたといっていい。だが特にその中でも、イーサンとラリー、あるいはマーティンとイーサン同士の友情というのは、大学から親しくなったルーディとサイモンとはまた違う長い歳月を通じて培われたものだった。イーサンとラリーとマーティンとは、同じロイヤルウッド校の出身で、そちらでは六年間の寄宿生活を通して三人は友人となっていたのである。

 ルーディとサイモンとはフェザーライル校の出身で、やはり寄宿舎では一緒だった。ゆえによくわかるのだが、思春期の時にそうした形で出来た友というのは何よりかけがえのないものだ。また、五人が五人とも、他の何ものよりも男同士の約束やつきあいを大切にするということでも一致していたといっていい。マーティンとイーサンとはロイヤルウッド校時代よりずっとアメフト部に所属していた仲間同士であり、ラリーとは寄宿舎で同室になるなどしてすっかり意気投合したらしい。

 他に、ラリーとイーサンの間には、家族運というのか、家庭運に恵まれていないという共通点もあった。イーサンはたったの十一歳で母のことを亡くし、また実の父の正妻のいる屋敷へ帰ることも出来なかったことから、夏休み、あるいは冬の休暇の時も行けるような場所がどこにもなかったという。そこで、ラリーは「俺を助けると思ってうちへ来てくれよ」とイーサンに頼んだらしい。何分、イーサンはもともとプライドの高い質だし、同情されるのなど真っ平ごめんだといった性格をしている。だが、ラリーの実家には父親が母の死後に再婚した後妻がいて、そんなところへ帰っても楽しいことなど何もないと彼は親友に話したのだった。

 実際、イーサンがラリーの実家へ一緒についていってみると、なるほどまったくそのとおりだということがわかった。ラリーは三人兄弟の真ん中で、父親はよく出来た長兄のほうを自分の跡継ぎとして可愛がり、妹のほうとは血の繋がりがなかっただけでなく、この後妻の連れ子というのがひどく生意気で、母親にあることないことなんでもすぐ言いつけるといったタイプの娘だった。

「俺には確かに一応帰ることの出来る家があるにはあるが、実質的には居場所なんかないも同然なのさ」……こうしてイーサンは夏休みや冬の休暇などにラリーの実家へ遊びにいくようになり――ふたりは心ゆくまでその休みの日々を面白おかしく過ごしたというわけである。

 つまり、そのようなふたりだったから、もし同じあるひとりの女を好きになったとしたら、おそらくは互いに遠慮しあって強硬に奪いあうような真似は決してすまいと思われた。だが、今回ばかりは流石に相手が悪いというのか、同じ大学内などで知り合った女性が相手なのではなく、イーサンがすっかり家庭の監督ぶりを気に入っている女性、しかもすでに同棲までもしているという、この点が問題なのだとルーディは思った。

 彼はこのことでなんとなく自分にも責任があるように感じ(というのも、イーサンがキャサリンとは別れて彼女とつきあうつもりらしい、といった話を先にしておかなかったことから)、同室者であるラリーにさり気なくこう聞いていた。

「おまえ、まさかとは思うけど、イーサンの家の女中にすっかりイカレちまったのか?」

 その時、ラリーは机に向かって「事例に学ぶ尋問技術」という本を読んでおり、ベッドの上でグラビア雑誌を眺めていたルーディのほうを振り返った。寮の一室はその部屋にもよるが、ラリーとルーディの場合は十畳程度のところをふたりで使っており、机がふたつと二段ベッドがあるというだけでも、相当に場所を取られる。そして他には細々とした棚があちこちに設置され、それぞれの持ち物を適当に突っ込んであるといった具合で、見目麗しく整理整頓されているとはとても言い難い環境だった。

 だが、ふたりは自由と友を愛していた。ルーディもラリーも、このユトレイシア市内にそれぞれその両親が立派な邸宅を構えていたが、逐一行動を干渉されるのが嫌で、このような猫の額ほどもある広い部屋で青春を謳歌することに決めたわけである。

「マリーさんは女中なんかじゃない。あの人は立派な、心がけの正しい女性だ。俺も実際に会ってみるまでは、マクフィールド家の遺産狙いなんてことを考えたりしたが、イーサンの言う通りそんな気はもともとないんだろう」

「ふうん。俺はまだどうもその疑いを捨て切れないね。確かに可愛らしい、子供好きないい人さ。だが、やはりよくわからんよ。いくら子供好きでも、赤の他人の子供を四人もだなんて、なあ。第一彼女はほんとにイーサンにそうした気はないらしいからな。ラリー、おまえが口説いたところで、靡くかどうかはわからんぞ」

 ラリーは少し書きものをしてから、本を閉じると二段ベッドの上にのぼってから答えた。上に寝るか下に寝るかは、一日おきということに決まっているが、このことについてはふたりともそう神経質ではない。

「彼女は本当に素晴らしい人だよ。俺にはそのことがわかる……最初、イーサンに写真を見せてもらった時にも、何か予感めいたものはあったんだ。だが今日、あの人が自分のことよりも子供たちのことを何かとても気を配ったりしてるのを見て――最後に食べたものや飲んだものの残ったゴミなんかをちゃんと分別して捨てさせたりさ、そんなちょっとしたことを見てるだけでもわかる。ああいう善良な心の美しい人は、誰かが守ってやらないと絶対に駄目だ。何故かというとな、世の中は善人の皮を被った悪党で溢れてる。そしてマリーさんみたいな人を何かの拍子に襲って無一文にさせたりなんかするんだ。なんにしても俺は今日、非常な感銘を受けた。近いうちにイーサンに紹介してもらって、彼女に結婚を前提にした交際を申し込むつもりだ」

「はあ!?ラリー、おまえ……俺が言ったとおりほんとに頭がイカレちまったんじゃねえのか?」

「俺はイカレてない」

 室内の照明をピッとリモコンで消すと、ラリーは枕元のライトをつけて、エラリー・クイーンの小説の続きを読みはじめた。ルーディは下のベッドで横になったまま、同じように枕元のライトだけでグラビアの半裸女性を眺める。

「最初はな、イーサンのこともちらっと考えたりはした。あんな可愛い人とひとつ屋根の下で暮らしていて、本当にどうとも思うところがないのかとか、そういうことをさ。だけど、今日アメフトの試合を見ていてわかったんだ。彼女、イーサンが怪我しないかどうかとか、そんなことはハラハラしながら気にしてただろうけど、あれが男にとっての最高の競技だとか、そんなふうにはまるっきり思ってないってな。つまり、イーサンとは根本のところで馬が合わないんだよ。それに、ハーフタイムショーになった時、ココちゃんが言ってたろ?イーサンの恋人のキャシーみたいに自分もチアガールとして応援したい、みたいなこと……ようするにマリーさんのほうでもイーサンには恋人がいるってわかってるんだ。こう考えた場合、何も問題はない。だろ?」

「あー……そうか。確かにまあ、そうだな」

 何故なのだろう。(イーサンはキャシーとは別れるつもりらしいぞ)とは、ルーディには突然言えなくなった。というのも、マリーの立場に立った場合、イーサンとラリー、どちらとうまくいくのが彼女にとっていいことなのか、ルーディにもわからなかったからだ。イーサンはとにかく女性によくモテる。結婚相手がキャサリンでもマリーでも他の誰であっても、とにかく浮気しないでいるのが難しいくらいの男だといっていいだろう。何故といって、女のほうから磁石に惹きつけられた砂鉄か釘のようにとにかく寄ってくるのであるから。一方、ラリーは女性に対して紳士的で一途で優しい。初対面の相手が二度目せずにはおれぬほどのすごい赤毛かもしれないが、容姿のほうも整っているし、彼のような男と結婚する女は幸せになれるだろう……と、ルーディが友人として見た場合、そのように感じるほどの男なのである。

「だが、おまえも一目会ったくらいでよくそこまで思えるねえ。しかも、血の繋がりはないとはいえ、四人ものガキのコブつきだぞ?俺だったら相手が仮にどんな美人であったとしてもごめんだな。結婚したあとに自分との間にもガキが生まれたらと想像しただけで……責任の重圧に耐えかねて、蒸発することを考えるかもしれん」

「はははっ。ほら、俺は逆に自分の家族があんなだろ?だからこそわかるのさ。ああいう女性と結婚すれば、男は必ずいい家庭を築ける。それに、これはイーサンにとっても得になることだと思うんだ。あいつ、いつも四人の弟妹のことを豚児呼ばわりしてはいるが、根が真面目な奴だからな、おそらく彼らが人間として一人前になるくらいまでは自分の結婚については考えないかもしれん。だが、俺とマリーさんがうまくいけば……ある部分責任の重圧も軽くなって、自分の幸せのことも考えることが出来るだろうし、あの屋敷にもまるで遠慮ってものをしないで帰ってこれるだろ?もっとも、仮にもし俺とマリーさんが結婚したら、俺はイーサンの親父ってことになるわけで、その点はちょっと笑ってしまうんだがな」

 今度はルーディのほうが笑った。袋閉じが大したことなくてがっかりしたグラビア雑誌を閉じ、電気のほうを消す。

「まあ、そういうことならな。マリーさんのほうでどう思うかはわからんが、おまえは家柄もいいし、将来性もある有望な男だ。喧嘩になると屁理屈をこねだしてどうしても勝てないっていう欠点に目を瞑ってくれるというのなら、ラリーと彼女はうまくいくかもしれんな。それにしてもラリーにマリーか。おまえが本当にマリー・ルイスとつきあうことが出来たら、おまえらのことはラマリーと呼んでやるよ」

「やめてくれ。マラリーよりは多少マシではあるがな」

 ふたりはそんな話をして笑いあうと、ラリーはほんの数ページも小説の続きを読まずして、ライトを消して眠った。彼の頭の中はマリー・ルイスのことで一杯だった。ミミの手を引くマリー、応援しすぎて喉の痛くなった子供たちに飴を渡すマリー、ランディの隣にいた大男の観客が、手を振り上げた瞬間にポップコーンの箱に手がぶつかり――中身をぶちまけた時、席を替わってやったマリー……。

『べつにあなたが掃除することないんですよ。そういう係の人間がきちんといるんですから、放っておいたらいいんです』

『でも……』

 マリーが言いよどんでいるので、ラリーは新しくポップコーンを買いがてら、係の者に声をかけて散らばったポップコーンの掃除をしてもらった。半分以下に減ったキャラメルポップコーンが新品になり、一緒に食べていたランディもココも喜ぶ。

『本当に、ありがとうございます』

 ――それが今日……いや、日付が変わったのですでにきのうだが、ラリーがマリーとした一番長い会話だった。もちろん、ラリーは彼女が自分に対して(まあ、ものすごい赤毛)という以外で、特に何か強く印象に残っているとは思わない。それでもすっかり、彼女さえ交際をオーケーしてくれるなら、自分はすでに幸福な家庭を手に入れたも同然だと思い、ラリーはこの夜、幸福な眠りへとすぐさま落ちていったのである。



 >>続く。





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