こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

聖女マリー・ルイスの肖像-【20】-

2017年10月06日 | 聖女マリー・ルイスの肖像
(※カズオ・イシグロさんの「わたしを離さないで」について、ネタバレがあります。一応注意してくださいねm(_ _)m)


 今日は何を書こうかな……なんて思っていたところ、カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞の報を聞きました♪(^^)


 おめでとうございます!!いや~、ほんとめでたい!!


 な~んて言ってもわたし、カズオ・イシグロさんの本は「わたしを離さないで」しか読んだことなかったり。。。(〃艸〃)

 あと、「日の名残り」の映画を見て、すごく良かったので……原作のほうをずっと読みたいと思っていながら、いまだに読んでない的な??(*/ω\*)

 でも、「わたしを離さないで」はすごく衝撃的で、読んだ当時、ものすごく夢中になって読みました

 確か、結構テレビでもネタバレ☆っぽいこと何度も言ってた気がするので……いいのかなって思って書くんですけど、主人公を含めた幼馴染み三人が、ドナーのためのクローン人間として孤児院で育てられたとか……その頃そうしたネタバレ的なことを先に知らずに読んだので、この点は本当に「えーっ!?」ていう感じでした

 まさかまさかまさかと思っていて読んでいくと、ひとり、ドナーとして呼ばれ、またもうひとりもドナーとして呼ばれ……最後は主人公の女の子もまた……映画のほう、わたしまだ見てないんですけど、原作のほうがもうあんまり好きすぎて、見ようかどうしようか迷ってるうちに今日までやってきた的な。。。(一体何年だよ!笑)

 あとわたし、作家のカズオ・イシグロさんの気さくな人柄もめっちゃ好きです♪(^^)

 前にインタビューで、「五歳くらいまで長崎にいて、その後イギリスへやって来て……その後英語でずっとしゃっべっていたので日本語のほうは今はもう話せなくなってしまった。だから、日本へ来て日本語で話す言葉を聞いてると、変な感じがする。自分でも話せそうな気がするのに、実際には話せないから」……みたいにおっしゃってるのを聞いて、「わあ。この人好きだあ」みたいに思ったというか(笑)

 村上春樹さんは今年も受賞に至らなかったということになりますけれども、また来年、二年続けて日本人がノーベル文学賞を受賞できたりしたら、素敵ですね♪(^^)

 それではまた~!!




       聖女マリー・ルイスの肖像-【20】-

 その後、イーサンは四月に大学院へ進学するための試験を受け、一次試験と二次試験の両方にパスし、哲学科へ進んだ。ルーディも同じ試験を受け、こちらはほとんど「十中八九無理だろうが……」との前提での受験であったが、彼のほうも無事試験にパスしていた。

 ルーディ本人はもちろんのこと、このことを誰より喜んでいたのは、実はラリーである。これからまたもう二年、ルーディが院を卒業するまでは、同じ寮の同じ部屋で一緒に馬鹿がやれるわけである。これ以上喜ばしいことは彼らふたりにとってまたとなかったといっていい。

 こうして再び六月がやって来――夏休みになると同時に、マリー・ルイスがマクフィールド家へやって来て一年が過ぎた。ランディは進級スレスレという成績ではなく、国語と社会がそれぞれB、算数と理科と体育がC、音楽と図工がBマイナスという形で六年級へ上がり、ロンも兄が屋敷にいることでつきっきりで勉強を教えてもらったり、あるいはわからないことをしょっちゅう聞いたり出来ることで、成績のほうが驚くくらい上がっていた。何より、彼の場合は学校で友達もでき、落ち着いた学校生活を送れるようになったことが、そのまま精神の落ち着きに繋がり、成績も上がる結果をもたらしたようである。

 唯一、ココだけは特に変化もなかったが、彼女もまた自分ではそのように意識していなかったにしても、最愛の兄であるイーサンと、母と姉の両方を兼ねたような存在のマリー・ルイスがいてくれることで、確かな精神的支柱がしっかりあることにより、相も変わらず生意気な口を聞いては、子供らしからぬ大きな態度でいられたのだといえる。

 さて、夏休み、イーサンは自分が無事大学院へ進学できたこともあり、早速とばかりランディとロンを勉強でしごきはじめた。なんといっても来年からはもう、イーサンはランディのことを寄宿学校へやる気満々だった。そしてこれは本人のためにも、なるべくランクが上の私学校へ上げるにこしたことはないのだ。こうした理由から、イーサンのしごきは実に容赦がなかったといえる。

 相変わらず、「何故こんな問題もわからないんだ!!」と厳しく言っては定規でピシャピシャその贅肉のついた背中を叩き――「この問題を解くのと三キロ痩せるのと、どっちがいい?」と言ったり、「こんな問題も五分で解けないようじゃ、一生童貞決定だぞ」だのと、言葉による虐待を繰り返してはイーサンは弟の学力がアップするよう必死に鍛えた。

 一度、イーサンの腹の居所が悪かった日など、ランディは尊敬する兄の暴言に耐えかねて、「もう俺、一生童貞でもいい!!」と泣きだしたことさえあったくらいだった。マリーは最初から「このことにおまえは口出しするな」と釘を刺されていたため、目に余るものがあると感じながらも黙って見てきたわけだが、とうとうこの時だけは口を挟まずにいられなかったといえる。

「あの、そんなに厳しくしなくてもいいじゃありませんか。わたし、前にも言った気がするんですけど、何も寄宿学校になんてやらなくても、公立の中学校に上がれば試験なんてそもそもないわけですし……」

「ふふん。だからあんたは甘いというんだ」

 このことで議論になるたび、イーサンは(あんた、一体どこの学校を出てるんだ?)との言葉が出かかるが、それだけはぐっと堪えて口にしないようにしていたものである。

「公立校でうまくいかなかった奴の地獄を理解してない。その点、私学校ってのはな、比較的育ちのいいお坊ちゃまが集まってくるだけでも救いがあるってもんだ。また最悪、そちらでうまくいかなかった時に公立校へ転校すればいいというのもあるしな。なんにせよ、思春期ってのは魔物だ。あいつのあの体型で今までいじめにあってこなかったのが不思議なくらいだが、中学くらいになるとみんな、自分や人の容姿を気にしだすようになってくる……ま、ここまで言って俺が何を言いたいのかわかんなきゃ、マリー・ルイス、あんたのお優しい教育論も随分底が浅いとしか言いようがないな」

 ラリー・カーライルとのデートの一件があって以来、イーサンの態度が妙に刺々しいものに変わったと、マリーは当然気づいていた。だから、この家の意地悪な長兄に言わせるだけ言わせておいて、なるべく口答えなどしないよう、彼女にしても随分気を遣っていたといえる。

 もっとも、このことのうちには、マリーが気づきようのないある理由があった。彼女はイーサンが親友のことを大切に思う気持ちが自分につらくあたる理由と思いこんでいたが、なんのことはない、イーサンは単にマリー・ルイスがどうやっても自分のものになりそうもないと感じて、腹立ち紛れに何かと彼女に当たっていたというだけだった。

「ごめんなさいね、ランディ。おねえさん、このことではなんの力にもなってあげられなくて……」

 ランディの五階の部屋まで訪ねていくと、マリーはぐすぐすと涙を流しているランディの背中をさすった。彼はなんともいじましいことには、今も泣きながら兄に注意された算数の問題を解こうとしているのだった。

「いいんだ、べつに。結局、勉強できない俺が悪いんだし……ただ、兄ちゃんにはわかんないんだよ。どんなに努力したって、俺にはこれ以上は無理なんだってことが、もともと生まれつき頭のいいイーサン兄ちゃんにはわかんないんだ」

「…………………」

 このあと、マリーはランディの好きなドーナツとココアを差し入れし、彼と一緒に懸念の問題を順に解いていくということにした。問題のほうは、友人Aがデパートへ向かった十分後に友人Bが自転車で同じ場所へ向かったが、BがAに追いつくのは何分後か――といったような、お馴染みの例の問題である。

「う~ん。おねえさんも理数系が弱いものだから、さっぱりわからないわねえ」

「速さを求める時はね、距離÷時間で、時間を求める時には距離÷速さなんだ。そんで、距離を求める時が速さ×時間。でもね、おねえさん。こいつら絶対変なんだ。友人Aはいつでも先に出発させられるし、Bは自転車に乗ったり走ったりするの。友達だったらさあ、一緒に肩並べて歩けって思わない?だからさ、この間もネイサンと話してたんだけど、こいつらほんとは友達でもなんでもなくて、たぶん仲も悪いんだよ。AはいつでもBに追い抜かされるのを疎ましく思ってるし、Bがそのうち自転車事故でも起こして死ぬか怪我でもする以外に自分が勝てる道はないと思ってるんじゃないかな。しかもここにいつもAに勝利を収めるBも勝てないCって奴までいるんだ。このCって奴がまたひどいんだよ。歩きのAと自転車のBを電車で追い抜いたりとかするの。だから、たぶんBはCのことが嫌いで、自分がいつでも優越感を持てるAのほうが好きなんじゃないかな」

「そうねえ。おねえさん、そんなふうに思ってみたことなかったわ。そう考えてみると、算数の問題っていうのも案外哲学的で面白いものねえ」

 このあと、ランディはドーナツに慰められつつ、自力でいくつか問題を解いて、兄に答え合わせしてもらおうと思った。間違っていたらまた何を言われるかと思うとランディはドキドキしたが、兄のほうでも弟が泣きだしたため、流石に悪いと思ったのだろう。間違っていた箇所については、一度も怒らず丁寧に一から順に教えてくれた。

 こうして午前中のスパルタ教室が終わると、子供たちは昼食を食べ、午後からは自由に遊べると思って自分の部屋のほうへ戻っていく。唯一ココのことだけはイーサンは叱ることなく、彼女のわからない問題を根気強く教えてやるのだが、「ココばっかりずるい」とか「贔屓だ」とはランディもロンも言わない。何故といってイーサンが問題にしないくらい、そもそも彼女は成績のほうが安定していいほうだからだ。

「まったく、あんたはお気楽でいいよな。いつでも俺があの豚児どもを叱ったりなんだり、損な役割を引き受けて、あんたはあとで甘いお菓子と一緒に慰めるとか、一方的に得な役ばっかりやってればいいんだもんな。やれやれ。これが血の繋がってる俺と、血の繋がってないおねえさんとの違いってやつなのかねえ」

「そうだと思います」と、最近ではマリーも彼に対して随分ハッキリものを言うようになった。「血の繋がりのないわたしが言えば角の立つことでも、イーサンお兄ちゃんの言うことなら子供たちも納得して聞きますもの。第一、わたしがいてもいなくても、あなたの子供たちに対する教育法は同じものだったでしょう?じゃあ、わたしがフォローする分だけでも家庭環境にプラスなってるとでも思ってください」

「ふん。だんだんあんたも俺に対して生意気な口を叩くようになってきたな。まあ、なんでもいい。俺はこんな家にいてもつまらないだけだから、今日も午後からは出かける。が、まあ、ただ遊びに出かけるだけだからな。マリー、もしガキどものことで何かあったら遠慮なく電話しろ。すぐ戻って来るから」

「はい。よろしくお願いします」

 マーティンやサイモン、それにクリスティンとキャサリンは、大学を卒業したばかりである。彼らはこれから社会人一年生として歩みだすわけだが、その前に最後の夏休みというバケーションが待っていた。マーティンはすでにプロリーグと契約を交わし、そちらの寮に移ってトレーニングを開始していたし、サイモンは市役所の役人となる前の研修が九月からはじまるといった身である。クリスティンは化粧品会社の新人としての研修会がこれもまた九月からあり、キャサリンはモデル事務所に大学在籍時より所属しており、これからさらに活動の幅を広げるといったところであった。

 こうした大学の仲間が集えるのもこの最後の夏休み限りということで、彼らは毎日のように街のどこかで落ち合ってはそのまま夜まで騒ぎ通すということがよくあった。みんなで旅行する計画というのも立てられていたのだが、イーサンひとりだけは実をいうとそのことに難色を示していたといっていい。しかもその理由というのが、「来年に私学校の受験を控えた弟の勉強を見るため」というものなのである。当然その場は、白けるを通りこして大爆笑の渦になったのは言うまでもない。

『イーサン、あんた一体いつからそんなノリの悪い奴になったのよ』と、クリスティン。

『そうよ。夏休みは二か月以上もあるんだから、二週間くらいどうにか出来るでしょ?』と、これはいかにも不満顔のキャシー。

 また、彼女たちふたりと仲のいい女子たちも、スターバックスの隅のほうの席で明るく陽気に笑った。

『笑いたきゃいくらでも笑えよ。だが、俺の年の離れた弟ってのが、頭にクソを百回乗せたくらいほんと頭悪くてな。それに、なるべくいい私学校に入れてやらなきゃ、将来的に俺の負担が増えるってのもあるんだ。だから今は真面目に勉強させるのに、俺が監督しないと、あいつは将来金の使い方のわからないただの馬鹿ってことになっちまうだろう』

 この時、クリスティンとキャシーを入れた女子五人の他に、ルーディとサイモン、それにマーティンがいたのだが、男どものほうではそのあたりのイーサンの事情がよくわかっているため、何も言わず、ただ肩を竦めるだけである。

『じゃあね』キャシーとクリスティンの腰巾着の、マチルダ・コーが言った。ちなみに彼女は東洋系の美人である。『イーサンのあの五階建ての豪邸でパーティするっていうのはどう?あたしたちとバカンスに出ないだなんて言うんなら、そのくらいの罰は受けてもらわなくちゃ』

 それ賛成!!といったように、女性陣が突如騒ぎだしたため、イーサンとしては頭が痛かった。だが、みんなとバカンスへ行ったあと、子供たちのことも例年通りディズニーランドへ連れていかねばならないことを思うと――イーサンはその案を呑まないわけにいかなかったのである。

『おい、イーサン、大丈夫か?あの屋敷の女房はいまやマリー・ルイスじゃないか。それをそんな、おまえひとりで勝手に決めちまって……』

 元チアガールたちが買い物へ行くのにいなくなると、ルーディは心配そうにイーサンに聞いていたものである。

『まあ、おそらくどうにかなる。マリーと豚児どもにはその日と翌日にかけて、どっかホテルにでも泊まってもらうことにするさ。あと、食事はケータリングを頼んだり、パーティ後の掃除のほうは業者にでも来てやってもらうしかないな』

 ――というわけで、七月の第一週目の土曜日、イーサン宅でオールナイトパーティが開催されるということは、マチルダ・コー発信のSNSの連絡網であっという間に知れ渡った。実際、ユトレイシア大のその年の卒業生すべてに知れ渡ったといってもいいくらいで、当日一体人数のほうがどのくらい膨れ上がるのかは、未知数といったところだった。

 この約束をしてしまったその日のうちに、イーサンはマリーの許可を取りつけ、すぐにユトレイシア郊外にある子供の娯楽施設付きホテルのほうへ予約も取っていた。実際のところ、彼にとってはあまり気の進まないパーティではあったが、みんなと旅行へ行かない以上、そのくらいのペナルティは負っても仕方ないと思ったのである。

 そして、イーサンは大学院へ進学するという今はお気楽な身分であり、大学の仲間たちとこんなふうに会えるのもこの夏限りということもあって、色々な集会に顔を出しては最後の親交を深めていたというわけである。それ以外では大抵、大学寮のルーディとラリーの部屋にいることが多かった。そしてここにはマーティンやサイモンなども時々顔を揃え、大学時代と同じように麻雀をしたり大富豪をやったりと、過ぎ去りし日々のことを懐かしく思い返すということを繰り返していたわけだった。

 一方、そんな自由気ままな生活を送るイーサンの弟妹たちは、午前中の兄のスパルタ教室から解放されると、午後からはそれぞれの友達と過ごすことが多かったかもしれない。今ではランディとココだけでなく、ロンも友達をよく連れてくるようになった。ロンは九月からは五年級に上がり、ココは三年級に上がってクラス替えがあるのだが、ふたりとも前まで同じクラスだった友達と離れたくないと思い、夏休みにしょっちゅう会っては互いの友情を確かめあっているようだった。

 五年級から六年級は、クラスがそのまま持ち上がりなため、ランディは同じクラスの面々とこれからも仲良く過ごし、中学で別れ別れになるまではそう大きな友人同士のゴタゴタはないだろうとすっかり思いこんでいた。だが、夏休みがはじまって早々、七月の初めにその事件は起きた。ランディと仲良くしている四人ほどの仲間たちは、いつも通り彼の部屋でゲームをしたり、漫画を読んで過ごしたりしていたのだが――その帰りがけ、エレベーターを待っている時に、ネイサン・スタンフィールドが不意にこう言ったのである。

「ランディの家にゲームや漫画がたくさんあるからみんなここに来るんであって、じゃなかったらあんなデブ、誰も相手になんかしないよな」

「それは言いすぎだって!!」

 フォローするために、ケビン・クレイグがそう苦笑いして言った時――他の残りの二人、リアムとノアはハッとした。何故といえば、彼らにいつも美味しいものを食べさせてくれるおねえさんが階段から上がってくるところであり、と同時にエレベーターへ乗りこむのに振り返ってみると、そこにはランディが突っ立っていたからだった。

 彼は野球帽をベッドの上に忘れたリアムにそれを渡すと、無言のまま何も言わなかった。正直、マリーはこの時ショックのあまりどうしていいかわからなかった。ネイサン・スタンフィールドの言葉には、彼女の心臓に直接冷水を浴びせかけたくらいの威力があったといってもいい。ランディはいつでもみんなに好かれて、勉強が出来なくてもニコニコ楽しくやってると思っていただけに……子供たちがエレベーターに乗っていなくなるまで、階段のその場所から動けないくらいだった。

 けれどやがて、ランディの部屋のドアが閉まる音がし、マリーは中の様子を窺ってから、そっと小さくノックした。返事はなかったが、マリーは室内へ入り、四人の子供たちが色々と散らかしていったあとのものを、まずはただ黙って片付けた。ランディは声を洩らさずに、机に突っ伏して泣いていた。

「……おねえさん、俺、イーサン兄ちゃんの言ってたとおり、寄宿学校に入ろうかな」

「えっ!?」

 空っぽになったスナック菓子やクッキーの袋を片付けたりしながら、マリーは驚いて振り向いた。

「さっきの話、たまたま聞いちゃったんでしょ?俺もさあ、なんか変だなあとは前から思わなくもなかったんだ。ネイサンが凄い奴だっていうのは、前にも話したよね。医者の息子で、勉強もよくできて、スポーツのほうも万能なんだ。あいつ、中学のほうはロイヤルウッド校を受験するんだって言ってた。五年級に上がった時に、たまたま座席が近くて向こうから話しかけてくれて……なんでかわかんないけど、仲間に入れてくれたんだ。以来、特にこれといって何も問題なく仲良くしてきたのに、なんか、『あー、そうだったのかなー』って今は妙に納得した」

 ぐすっと鼻を鳴らすランディに、マリーはティッシュケースを差し出した。「ありがと」と言って、ランディはそれを一枚取ると鼻をかむ。

「なんにしてもおねえさんは心配しなくていいよ。学校のほうはたぶんなんとかなるから……俺、ネイサンのグループから省かれても、他にも仲良く出来そうな奴いるしね。で、勉強のほうもがんばる。なんでかっていうと、イーサン兄ちゃんの言ってたことが今ちょっとわかったからなんだ。兄ちゃんの行ってたとこでは、みんな品行方正でいじめなんてよっぽどのことでもなきゃなかったんだって。それで、それって通ってる人数が公立校より少ないから、学校の先生も管理しやすくてちゃんと目が行き届いてたり、生徒の話をよく聞いてくれるとか、そういうせいも絶対あるんだって。それに、みんな寮に入ってるから、寮特有の雰囲気っていうのがあって、自然一度仲良くなったら物凄く結束して本物の友情を築くようになるんだって、兄ちゃん言ってた」

「そうね。おねえさんは公立校でもいいかなって思ってたけど……なんにしても、もう少し様子を見ましょう。ネイサンの言ってたことが本心だとはおねえさん、あんまり思わないし、他のみんなもグループのリーダーみたいな彼の言うことにちょっと頷いたっていうだけでしょ?きっと近いうちに――明日にでも、あやまりにくるんじゃないかしら。そしたらまた元のとおりになるわ」

「ううん」と、ランディは何度もかぶりを振った。「俺の心のほうはもう、元には戻らないよ、おねえさん」

 マリーは小学生にしては大きな体のランディのことを抱きしめると、部屋のゴミなどを集めて、その場は一旦彼をひとりにしておくことにした。子供時代には友達と喧嘩したり、また何もなかったように仲直りするというのは、よくあることだ。また、マリー自身はこれまでの間、ネイサンをリーダーとするランディの属する友達グループを見てきて、彼らの友情がうわべだけのものだとは決して思わなかった。彼らはおそらく、ランディが五階建ての豪邸に住んでいなくても、そこに漫画やゲームがたくさんなかったとしても、同じように遊びにきたことだろう。

 だが、優等生のネイサンが何故、彼らしくもないことを口にしたのか……マリーにはそのことがいくら考えてもわからないのだった。



 >>続く。





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