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う゛~ん。ここまででまだ【21】なんですよね(^^;)
わたし的には「ぼくの大好きなソフィおばさん」と同じくらいの長さかな……まあ、それよりは少し長いか☆
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そなわけで、ここの前文にも特にそんなに書くことないや……みたいに早速なってきちゃったというか
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ディキンスン関連のことについては、まだ色々書けることたくさんあるものの……ある程度書いたら自分的に満足しちゃった☆というのがあったりで、とりあえず今回は古本屋さんで何気に買った某ベストセラー、「フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ<暮らしの質>を高める秘訣~」のことについてでも、何か書いてみようかな~なんて(^^;)
いえ、ベストセラーになってるっていうのは知ってたんですけど、正直「自分には関係ない本だな☆
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もちろん、著者のジェニファー・L・スコットさんはとても素敵な方で、本に書かれている内容のほうもとっっても素敵です♪
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ただまあ、なんていうか……ファッション大好きのオサレな方が読む感じの本で、その中に含まれてない自分にはなんていうか、特にそんなに参考になるってこともなく、書いてあることも「パリ」という魔法に包まれてなかったとしたら、なんか結構フツーかな~……なんて
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そんなわけで、↓のお話と少しだけ関連するような箇所について、ちょっと何か書いてみようかなって思いました(だって、ほんとに何も書くことないんだもん!^^;)
前に、やっぱりジェニファー・L・スコットさんと同じアメリカの作家さんが似た感じのことを書いてたことがあったんですよね。
つまり、アメリカの子っていうのはみんな、とにかくリビングのあたりにやってきたら、冷蔵庫の中を見て、なんかしら口の中に入れてくっちゃらくっちゃら☆食べてるものだと……まあ、アメリカのファミリードラマでもたまに、何かそうした子供たちをママが厳しく注意する……みたいな場面があったり。。。
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こうしたことを「よくない習慣」と思ってる親御さんは多いし、日本でも最近はポテトチップスにはトランス脂肪酸がたっぷりとか、コカコーラは栄養価がなくて糖分だけたっぷりとか、そうした意識が高まってきてますよね
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んで、「フランス人は10着しか服を持たない」にも、そうした食に対するフランス人とアメリカ人の意識の違い、みたいなお話が出てきます。
>>「間食なんてシックじゃない!」
間食はシックじゃない。誰かがぼーっとテレビを観ながらおやつを食べているのを見たことがあるだろうか?
テレビの前に座ってプレッツェルの袋やアイスクリームの大きな容器を抱えて、味わいもせずにもぐもぐ食べているだけ。シャツの前にお菓子のくずをこぼしたり、アイロンをかけたばかりのスカートにアイスが垂れてシミを作ったり……。
やっぱり、間食なんてシックとは真逆のこと。それだけでパリではアウトだ。
(『フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ<暮らしの質>を高める秘訣~』ジェニファー・L・スコットさん著、神崎朗子さん訳/大和書房より)
ジェニファーさんも、スーパーボウル見てる時とか、そういう時は仕方ないって書いてますけども、そもそも米が主食の、和食や洋食をうまくバランスよく取る日本人と違って、アメリカ人の方の食事って「将来太ったり病気にならないのがまずもっておかしいとしか思えない食生活」のような気がしたり(^^;)
その点、フランス人は食に対する観念がしっかりしてるって言うんでしょうか。三食+おやつを食べる以外では、間食はしない、その食事の方法や内容などもしっかりしていて、アメリカ人みたいにだらしなくない……みたいなことが本には書いてあって、また間食する場合でも、フルーツとかにしてスナック菓子にコカコーラとか、明らかに栄養がなくてむしろ体に害になるようなものはなるべく食べないようにする……とかって書いてあったんですよね。
まあ、フツーに考えて、「まあ、そらそうやがな☆
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そんで、こーしたことがなんで↓のお話と関係あるかと言いますと、わたしの書いてる小説って大体のところ、アメリカの映画やドラマや、こうしてなんとなく読んでるアメリカの作家さんの本のイメージっていうのがものすごく大きいっていうことでした
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マクフィールド家のキッチンも、「なんとなくそんなよーなイメージ☆」で書いてたりしますし、冷凍庫にはホームパックのアイスクリームが入ってたりとか、マリーが来てからはランディくんの食生活も少しは変わったのかなって思ったりするんですけど、とにかくこの子はゲームしながら美味しいおやつを食べてるのが人生の一番の幸せといった感じの子で
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「空腹は最高のスパイス」なんていいますけども、「いつでもある程度なんとなく満腹してる」と、満腹中枢が鈍くなって、「美味しいような~、それほどでもないような~」みたいになるって言いますよね。
まあ、マリーが変えたというか考えたのは、「とにかく口になんか入れたい」っていう部分がランディくんの場合は大きいみたいなので、同じクッキーを口に入れるにしても、市販のものではなく、全粒粉とかおからで作ったりとかして、しかも味にうるさい彼の満足するものを……みたいにしたっていうことなんだと思います。
もちろん、こんなこと出来るのもみんな、マリーが専業主婦でマクフィールド家がお金持ちだからですけど(笑)、なんにしても、ランディくんやネイサンくんのお友達関係のお話がもう少し続きます。。。
それではまた~!!
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聖女マリー・ルイスの肖像ー【21】ー
こうした事情から、娯楽施設付きの超豪華ホテルへ泊まれるという日も、ランディは元気がなかった。マリーは(せっかくの夏休みなのに、こんなにしょげてなくちゃいけないなんて)と思い、どうにかしてやりたいとは思いながらも、いかんせん子供の世界のことに余計な口出しをするわけにもいかず、彼女に出来たのはただ、「神さまにお祈りしたら、きっとうまくいくわ。だから一緒にお祈りしましょうね」ということくらいだっただろうか。
言うまでもなく、家族の中にひとり暗い悩みを持つ者がいると、その雰囲気というのは伝染する。部屋は二部屋取ってあって、ランディとロンが同室、そしてマリーとココとミミが一緒の部屋だった。バイキングで夕食を取ったのち、ひとつの階すべてがミニ遊園地のようになっているフロアへ全員で遊びに行こうとしたのだが、ランディは部屋に戻ってひとりでいたいという。
「あーっもう、イライラするっ!!」
食い意地の張った兄が珍しくもバイキングで大してものを食べもしないので、その時からココはイライラしていたのだが、この時にはもう我慢の限界だった。
「ロンのいじめ問題が解決したと思ったら、今度はあんたなの、ランディ!?家族の中にひとり『この世の終わりだ』みたいな顔をしてる奴がいると、ごはん食べてても美味しくないし、遊んでたって楽しくないのよっ。嘘でもいいから今くらい、あたしたちに気を遣って元気で楽しいって振りくらいしたらどう!?」
「ぼくはべつに、いじめにあってたわけじゃないよ。ただ、友達がいなかっただけで……」
ロンは一応、小声でそのように訂正を加えた。対するココは、「そんなのどっちだって同じよっ!」と言い返している。
「うん。そうだな……なんかごめん。みんな、俺のことは気にせず楽しんでくれよ。ただ、俺はもうほんと、ダメなんだ……」
ランディは目頭のあたりに腕をやると、その場で泣きだした。ファミリー向け仕様のホテルなため、家族連れが多く、廊下を行き交う人々も、当然小さい子にその両親といったパターンが多い。そしてそんな他の人々を見ているうちに、ココまでが泣きだしていた。
「うわーん。わたしだって、わたしだって、ほんとはママとパパが一緒がいいよう。みんな、今年も家族みんなで旅行に行ったりするんだって。うちにはイーサンとおねえさんがいるけど、それはパパとママが一緒っていうのとは違うもん。夏休みの思い出ってタイトルで毎年作文書いてくる子がいるけど、わたしだって……わたしだってほんとは羨ましいんだからっ!!」
ロンもまた困り果てた顔をし、「ごめん、おねえさん」とあやまっていた。ミミはといえば、マリーの体にひしと抱きつき、何があろうと自分はおねえさんがいればいいということを必死にアピールしていたが――今のマリーにはそのこともなんだかつらかった。
とりあえず、ランディとココという泣いている子供ふたりを廊下脇にあるベンチまで連れていき、彼らが泣きやむのを待つということになる。このあとココとランディは、心の中で通じあうものがあったらしく、泣きやんだあとは仲良くし、遊園地では家族みんなで心から楽しむことが出来た。一時は途方に暮れたマリーも、この時には本当にほっと安堵したものである。
泣いたことと、そのあと遊び疲れたのとで、ランディとココは部屋に戻るなりすぐ寝てしまった。明日はホテルの豪華なプール施設で遊んでから帰宅する予定だが、明日も元気いっぱいにプールで泳ぎ、悩みのほうはもしかしたら少しだけ軽くなっているかもしれない。
子供を四人も連れていると、色々と心を砕くことが多く、マリーもまた特にこれといって何もしていないというのに、何故だかとても疲れていた。そこで、隣の部屋のロンとランディに声をかけたのちは、彼女もまたココやミミと一緒に寝仕舞いをして就寝することにしたのだが……真夜中、肩を何度か叩かれたマリーは、ハッと身を強張らせていた。
「ま、まあ。どうしたの、ミミちゃん。もしかして眠れないの?」
ココは隣のベッドで、すかーという寝息を立ててぐっすり寝ている。ホテルに予約を入れた時、五歳以下の子には少し小さめの天蓋付きベッドを用意できるということで、イーサンはそれを頼んでいたのだが――ミミはどうやらココの羨ましがったそのプリンセス・ベッドではよく眠れないらしかった。
「おねえさん、ミミね、うさしゃんのパジャマ、おうちに忘れてきたの。あれがないとね、うさしゃんは眠れないっていうの。だからね、これから取りに帰ってもいーい?」
「えっと……」
この時、マリーには『うさしゃんにはそれで我慢してもらって』とは何故か言えなかった。ミニ遊園地で遊んでいた時、ミミはある瞬間にマリーの手を捉えて、こう言っていた。「ミミね、ママやパパがいなくても、平気だよ!だってね、ミミにはおねえさんがいるもん!!」……その時のことを思うと、このいたいけな子供の願うことならなんでも叶えてやりたいと、マリーはそう思ってしまった。
時計を見ると夜の十二時過ぎである。ミミの様子を見ると、前にどうしてもコーヒーが飲みたいと駄々をこねた時と同じく、目や顔の様子がギンギンであることがよくわかった。うさしゃんが眠れないのではない。ようするに、ミミ本人が環境が変わったことで眠れないのだ。
「そうね。じゃあ、おねえさんがうさしゃんのパジャマを取ってくるわ。たぶん、タクシーで行って戻ってくるとしたら、一時間くらいかしら……その間、お部屋の外をうろうろしたりしないで、ここで静かにしていられる?」
ミミはこっくり頷いていた。それから、喉が渇いたというので、冷蔵庫の中からジュースを一本取って飲ませてあげるということにする。マリーはその間に身支度をすませ、「いい子にしていてね」とミミのほっぺにキスをしてからホテルの部屋を出た。
実際、マリーは自分のしていることが馬鹿げているとも思った。『あんた、ミミをちょっと甘やかしすぎだな』とは、イーサンにも何度となく言われていることである。けれど、結局のところ同じ市内のホテルにいるわけであり、タクシーを使えば深夜で交通渋滞もないだけに、行って帰ってくるまでに、一時間もかからないはずなのだ。
(そうよね。それで、ミミちゃんの寝室の鍵を開けて、うさしゃんのパジャマを取るには五分もかからないはず……)
マリーはホテルの前に停まっていたタクシーに乗りこむと、「ヴィクトリアパークに向かってください」と告げ、バッグの中のお金を確認した。マクフィールド家にやって来るまで、マリーはクレジットカードというものをほとんど使ったことがなかったが、イーサンからは「なるべくカードを使ってくれ」と言われていた。そのほうが現金を渡したりするより面倒がなくて済むということだったし、もちろんタクシーでもクレジットは使える。けれど、慣れない貧乏人のサガというべきなのか、マリーは今でも現金で支払いを済ませたいと思うことが多いのだった。
繁華街のあたりを通り抜けるというわけでもなかったので、道は思った通りすいていた。そこで、三十分とかからずして自宅に到着したことをマリーは時計を見て喜んだ。だが、ここからが問題だった。学生のパーティというのがどんな賑やかなものかを知らないマリーは、もうとっくにお開きになっているものとばかり思っていたにも関わらず――五階建ての屋敷のほうでは、門のあたりまで聞こえるくらいの音量でクラブミュージックが流れ、二十代の若者たちが奇声を発してはプールに跳びこむ音が聞こえたりと……今こそが宴もたけなわといったところらしかった。
玄関のドアを開けて入ってみると、廊下はクラッカーの中身から飛び出したものや、あるいは風船など、種々雑多なゴミですっかり彩られていた。階段もまったくそのとおりであり、マリーが居間のほうをちらと覗いたところによると、そこでは酔っ払って半裸になった女性たちが踊っていたし、そのまわりには何かをけしかける男の掛け声がしている。
二階の部屋のほうも事情は大体似たりよったりで、一体今この屋敷内に何人の人間が詰め掛けているのかも、マリーには把握しかねていた。三階や四階のあたりからも人の大声や笑い声がしていたし、マリーは廊下でも自分と同年代の男女とすれ違っていたわけだが――この時、マリーは自分を透明人間か何かのように見なして、ミミの寝室の鍵を開けると、そこでうさしゃんのパジャマを見つけたあとは、脱兎の如くこの場から逃げだそうと思った。
ところが……。
「おおーい。新たな新人メンバーを発見したぞおっ!!あんた、ちょっと前にパーティに来たんだろ?何?どこの学部?」
酔っ払いを相手にしても仕方ないと思い、マリーは赤茶色の髪をした体格のいい男から逃れるようにして、階段を下りていこうとした。すると今度は別の男がやって来て、「おりょりょ。つきあい悪いな、彼女。お高く止まってるってことは、法学部かどっか?」と、マリーの腕を掴む。
ここで何故か<法学部>と聞いて、その一帯では笑い声が起きた。そして別の者が言う。
「違うぞ、ポール。法学部の女どもはお高いんじゃない。お堅いんだ。特にアソコのあたりがな」
ここでまた一同大笑いだった。もちろん、マリーはといえばこんな下等な会話からは逃れたいという思いしかない。
「あの、離してくださいっ!!」
酔った男に抱きよせられそうになって、マリーは相手の体を押し戻した。そしてこの時、偶然階段の上からこの様子を見ていたキャサリンが、そこから大きな声を降らせたのだった。
「やめなさいよ、リッキー。その子、この屋敷の家政婦さんよ。我らユトレイシア大学の同胞なんかじゃないわ。なんでも、高校しか出てないそうだし」
「へええ。かっせいふさんでしたか!そりゃ、しっつれーしました!!」
男がマリーに向かって敬礼すると、あたりではまたも笑いが巻き起こった。すると、今度は四階からこの場面を見下ろしていた男が言った。文化人類学科を六年かかってようやく卒業したトニー・マクラウドという男だった。
「そいつは違うぜ、キャサリン!その子は大富豪ケネス・マクフィールドの御老体と寝たって子だ。それで、大金目当てにこの屋敷に転がり込んだって話だぜ!!」
何故か、口笛が上階からこれでもかとばかりに降り注ぐ。
「大股開きって奴か!そいつはすげえな。俺もお相手願いたいぜ」
今度は嘲笑が矢のように降り注ぎ、マリーはそこから逃げだそうとした。けれど、慌てるあまり、階段を下りる途中で転んでしまい、またも周囲の爆笑を買ってしまう。その時、手を差し伸ばしてくれた男に掴まり、礼を言おうとしたのだが――今度はその手がぎゅっと握りしめられ、離れていかなかった。
「へへっ。あんた、男に飢えてんだろ?それにしても、あんな年寄りを相手にねえ。そう見えないだけにびっくりだな。俺にもサービスしてくれよ」
「あ、あの……」
マリーが手近にあったゲストルームに引っ張りこまれそうになった時のことだった。ドカッ!!と黒髪の男の顔の横で、壁が強く打ち叩かれる。イーサンだった。
彼がジロリと睨んだだけで、元同じ経済学部にいたマイケル・スチュアートはその場から逃げだしていた。一気に酔いも覚めた様子で、「そろそろ帰るわ」と周囲の人間に挨拶し、玄関から出ていく。
「あんた、一体ここで何してる?」
ゲストルームの鍵を後ろ手に閉めると、イーサンは不機嫌な顔つきのままで言った。先ほどのやりとりであれば、キャサリンが家政婦云々と言ったところから聞いていた。だが、何も聞こえなかったという振りをしたほうがおそらくはいいのだろう。
「えっと……ミミちゃんが眠れなくって、それはうさしゃんのパジャマを忘れたせいなので、それを取りに……」
そう言ってマリーは、スカートのポケットの中から、ピンク色の小さなパジャマを取り出してみせる。
「まったく、馬鹿か、あんたは」
イーサンは脱力したように、はーっと溜息を着き、片手で顔を覆った。
「そんなもん、うさしゃんに催眠術でもかけて眠らせればいいだけの話だろうが!それで?ガキどもは寝てるのか?」
「はい。その、ランディは例の友達との件でまだ落ち込んでて、それがココちゃんにも伝染しちゃって、ふたりで泣いたりしてたんですけど、そのあとホテルのミニ遊園地で元気になって……明日はプールで遊んでから帰ります」
「そうか。じゃあまあ、気をつけて帰れよ。門のところのタクシー、待たせてるのあんただろ?」
「はい。あの……さっきはありがとうございました」
マリーが礼儀正しくぺこりと頭を下げると、この時イーサンの心に魔が差した。実際には大して酔ってはいない。だが、そういうことにすることも出来ると思った。
彼女の肩を掴み、振り返らせると――そのまま客室のベッドの上に勢いよく押し倒した。特に強引に何かしたいというよりも、こうすることでマリーの反応を確かめたかったのかもしれない。
「あんた、さっき俺が止めに入らなかったら、どうしてた?男ってのは酔ってようが酔ってまいが、大概がこんなものなんだ。その教訓を教えてやるって言ったら……」
イーサンが、マリーの首筋にキスしかかった時のことだった。ドアがノックされ、キャサリンの声がした。「ちょっと!家政婦さん!!もしかしてそこにいるの!?」
三階から見ていた時、最初は「ざまあみろだわ」と思ったキャサリンだったが、誰か男に引っ張っていかれたらしいと見てからは、少し責任を感じていた。何故なら自分があんなに大きな声で家政婦呼ばわりしなかったら、四階からトニー・マクラウドが反応することもなかったろうからだ。
けれど、部屋の中から最初に顔を真っ赤にしたマリーが、次にイーサンが冷静な顔をして出てくると、やはりキャサリンは眉を吊り上げたものである。
「イーサン!!あんたあの家政婦さんとここで、一体何してたのよ!?」
「べつに。マイケル・スチュアートの奴にレイプされそうになってたから、おまえは馬鹿じゃないのかと、説教してたところだ」
「まっ……」
キャサリンはここで絶句した。それなら、マリー・ルイスが顔を真っ赤にしていたのもわかる。なんにせよ、キャサリンとしては出来心からでもイーサンがあの初心そうな家政婦に手出しさえしなかったら、それでいいのだ。
「……それで?あんた、わたしのことここで、レイプしてみる?」
自分の恋人の誘いを断る理由が、イーサンにはなかった。結局、自分たちがどこにもいなければ、おそらく部屋のどこかでよろしくやっているのだろうと誰もが思うのは間違いない。あと、この屋敷に残るのは、大量のゴミとゾンビみたいになって寝てる連中とゲロ、それに損壊された何かといったところだろうか。そして、明日の午後にはマリーと四人の子供たちが帰ってきて、何もかもが元通りになるだろう。
イーサンはその時のことを思うと楽しみだった。ラリーのデートの件があって以来、彼は欲求不満気味だった。というのも、マリーが自分も含めたあっちの男のこともこっちの男のことも薙ぎ倒し、清廉潔白な身とやらを保っているのをみるにつけ、少しくらいどうにかしてやりたいとずっと思い続けてきた。
その復讐を軽く果たすことが出来て、イーサンは愉快だったのだ。
「ねえ、あの家政婦さんって、結局どういう人なの?」
いつも以上の快楽を与えられたあと、キャサリンは甘い吐息とともにベッドの中でそう聞いた。マリーが酔っ払いどもに貶められるまでは、あんな女がイーサンと暮らしていること自体気に入らなかったキャサリンだが、今はそのせいもあって心の中に哀れみという慈悲の心さえ持つことが出来ている。
「さあな。まあ、親父の前で大股開きしたってことはないだろうが……実際、俺にもあいつのことはよくわからん。ただ俺にとってはガキどもを押しつけておくのに何かと便利な女だという、それだけだ」
「へえ。まあ確かにイーサンも、そのためなら遺産の一部を分け与えてやっても安いくらいだって言ってたものね。まあ、わたしが気に入らないのは、そのうち彼女がイーサンに色目を使いはじめるんじゃないかってことだけど――今回のことで、身の程を知ったっていうところかしらね」
「…………………」
イーサンは黙りこむと、煙草を一本吸った。それから服を着、屋敷のほうがどうなっているのかを見て回る。パーティのほうは自然お開きといった形に落ち着いており、廊下などで寝ている連中のことは、イーサンはそのまま放っておいた。中庭のプールも内外にゴミが散らばり、ひどい惨状ではあったが、こうなることは予想していたので、ある程度は仕方のないことである。
<悲しき青春の終わり>という言葉が脳裏をよぎって、イーサンは何故だか物寂しい気持ちになっていた。何より、先ほど寝たばかりの女とも、自分はいずれ別れねばならないとイーサンは思っている。大学内で一番のお似合いのカップル……といったように言われ続けて約三年。大学卒業後になら別れたとしても、キャサリンは周囲からプライドを傷つけられるでもなく、おそらくはどうにかやっていけるだろう。
もちろん、キャサリンがどの程度自分に惚れているらしいのかは、イーサン自身がよくわかっていた。だが、彼女ほどの女ならば、再びある程度財産を持ったハンサムな男というのにこれからだって出会える機会はあるだろうし、そう考えれば何も問題はないだろう。つらいのは最初のうちだけ……そして、自分にしてもその時に別れ話をする気まずさやうしろめたさに耐えなければならないということになる。
キャサリンがイーサンに対して、顔良し・学歴良し・財産良し・セックス良し……といったように順に採点していき、今の時点で考えられうる最高の物件だといったように考えているらしいのは彼も知っていた。一方、イーサンのほうでも、顔良し・スタイル良し・セックス良し……といったように考え、彼女とはつきあっていたのだから、何もそのことに関して責めるつもりはまったくないのだ。
というより、イーサンにとって恋愛というのは一種のゲームであり、男と女による狸と狐の化かしあいであり、究極、ギブ&テイクの秤にかけた時、自分の側に出来る限り損が出なければいいというそうしたものでしかなかった。この意味で、イーサンにとってキャサリンとの関係というのは、互いに利害の一致した、秤のバランスが大体のところ取れているという、そうした関係だったといっていいだろう。
実際、今キャサリンがそう考えているように、イーサンは彼女との結婚ということもちらと考えないではなかったし、彼はあのような父を持ったことから、避妊ということには気を遣っていたとはいえ――それでも、彼女が妊娠したといった事態が起きた場合、そのことを契機に結婚するということはおそらく大いにあったに違いない。
だが、マリー・ルイスという女が現れたことで……イーサンの中で何かが狂いはじめた。彼は一方的に誰かに与え尽くす愛だの、そんなことは偽善か欺瞞のいずれかだといったようにしか信じては来なかった。つまり、本人にとって何か少しくらいは得なところがあるから、そんなふうにすることが出来るということである。
そしてイーサンはこの日の午後、マリーと自分の四人の弟妹が帰って来、「いつものどうということのない日常」が戻ってくると、心底ほっとした。クリスティンやキャサリンたちには、最後までしつこく大学最後のバカンスに一緒に来るよう誘われたが、イーサンは特に行きたくもなかったのだ。それよりも自分が居心地のいい家にいたいと望んでいることに対し――むしろ誰より、彼本人が一番驚いていたといっていい。
(それというのも全部、この女のせいだ)
朝、イーサンは新聞を見ながら食事をし、記事を読む振りをしながらマリーの様子を窺うのが楽しい。ミミがうっかりうさしゃんの顔をオートミールの皿につけてしまうと……「じゃあ、あとでうさしゃんはお風呂に入りましょうね」とマリーは言った。今の彼にはそれだけのことでも、吹きだしそうになるくらいおかしい。うさしゃんにとっての風呂というのはようするに洗濯のことだが、ドラム式洗濯機の中でうさしゃんが脱水されているところなど――マリーは決してミミに見せられないだろう。
「イーサン、一体どうしたの?」
兄の新聞を持つ手が震えているらしいのを見て、ココは怪訝そうに聞いた。だが、イーサンからは「いや、なんでもないさ」という返事しか返ってはこない。
例のパーティがあって以来、イーサンはずっと上機嫌だった。マリーはイーサンに押し倒されたことなどなかったような顔をしてはいたが、それでも何かの拍子に自分が後ろに立ったりすると、彼女が少しは意識しているらしいことが彼にもわかる。
(だが、俺の言い分としてはこうだ。俺は単に、世間知らずなあの女が馬鹿な男の口車に乗せられて変な場所へ連れこまれたりしないよう――少しばかり男の手口というのを示してやったに過ぎない。言うなれば<親切心の善意>で、何もする気はないが、軽く押し倒してやったといったところだ)
この<親切心の善意>ということを思うと、イーサンとしても胸がすく。たとえば、マリーはやはりこの「親切心の善意」で、イーサンの脇腹の具合を聞いたことがあったが(今はもうすっかり治った)、今にして思うと彼は、「非常に痛むので代わりに湿布を貼ってくれ」とでも言ってみるべきだったと思っている。
言うまでもなく、マリーとの恋愛は長期戦になると、イーサンにしてもよくわかっていた。今となっては自分のほうから「あんたが好きなんだ。それに、あんたは気づいてるかどうか知らないが、実質、俺たちは一緒に暮らしてる夫婦みたいなもんだ。マリーママにイーサンパパ。それなら、このまま結婚でもしちまったほうが、あのガキめらにとってもいいと思うがな」……と言ったりすることなど論外だった。今のイーサンには、彼女のほうこそが自分の魅力の前に屈服して、「あなたのことが好きになりました。どうか抱いてください」と言うくらいになるのでなければ、何かが面白くなかった。
なんにしても、ランディの友人関係のことでマリーは気を揉んでいたわけだが、イーサンのほうではこの件に関し、大してどうとも思っていなかった。そもそも「本当の友達」というのと、ただなんとなく集団生活の中で自分を守るため、グループに属するということの間には、大きな違いがある。「あいつらとおまえの関係がこんな程度のことで駄目になるのであれば、それはもともとがそう大したつきあいじゃなかったってことだと思って諦めろとしか、俺には言えんな」と、ランディにもはっきりそう言った。
イーサンにしてみれば、このことを契機に突然ランディが勉強にやる気を見せだしたことのほうがよほど重要であり、クイーンユージェニーホテルから彼が帰ってきた翌日からは、定規でピシャピシャ叩くでもなく、差別的発言についても一切封印して、ただ真面目に淡々と弟に勉強を教えた。このことについて、マリーとは違い、イーサンは実に満足だった。「本物の友人」など、寄宿学校に入ってからでも十分出来ると思ったし、人間関係の何がしかで傷つくということなど、これから先だって何度もあることだろうとしか思わなかった。
そしてその後、まずはケビンから連絡があって、彼は本当に心のこもった手紙をランディに書いてよこし、彼のことを心の底から感動させたのだった。
>>親愛なるランディ・マクフィールドさま。
夏休みになってから、毎日のように会っていたのに、ここ一週間くらいランディの顔を見れなくて寂しいです。
それはノアやリアムも同じことを思っているみたいで、俺は特に「それを言っちゃあ」みたいなことを言ったせいもあり、せきにんを感じています。
でも、なんで急にネイサンがあんなことを言うようになったのか、俺たちにもよくわからないし、ランディの家に集まらなくなってからは、ノアやリアムや俺の家に順番に集まってるけど、なんか前よりつまんなくなった感じ。
きのう、ネイサンに「ランディにあやまろうよ」と言ったら、あいつは「あんな奴とは絶交だ」と言ったきりなんです。
そこで、ネイサン抜きで俺とリアムとノアで話しあった結果……俺たちだけでもランディと仲直りしようってことに落ち着きました。
あのさあ、確かにランディは少し太ってるかもしれないけど、俺たちは何もランディが漫画とかゲームをいっぱい持ってるからとか、そんな理由で仲良くしてきたわけでもないと思う。でも、ネイサンが最初にランディに声をかけて積極的に仲良くしはじめたから、俺たちもランディと友達になったことを思うと、なんか変な感じ。
本当はこれ、メールで送るつもりだったんだけど、他のメールに紛れてランディが読まない可能性もあるとリアムが言い、ノアが「手書きの手紙のほうが心がこもってる感じがしていい」と言うので、俺が特に代表して書くということになりました。
じゃあ、続きはまた、前までと同じように明日会って話しあおう。
リアム&ノア&ケビンより
最後のサインのところだけ、ノアとリアムが自分で手書きしたことがわかって、ランディは嬉しかった。その手紙を読み終わった時、ランディが食卓で嬉し涙を流したため、マリーも彼の肩に手を置き、「良かったわね」と言った。手紙の内容を読まなかったとしても、大体そこに何が書いてあるか、わかるような気がしたからだ。
偶然その場に居合わせたイーサンは、「なんだ?ファッティランディ(太っちょランディ)いじめはもう終わったのか?」などと無神経なことを言っていたが、結局のところ、夏休みが終わるまでにはこんなことになるだろうと、彼も予想はしていたのである。
この翌日、午前中のスパルタ教室が終了し、ランチを食べた午後一時ぴったりに――前と同じようにケビンとノアとリアムが遊びにやって来た。いつもはそのままエレベーターに乗って「みょーん」などと言いながら五階へ上がっていくのだが、この日は三人ともダイニングのほうに真っ直ぐやって来た。
「おねえさん、こんちはー!」
「いらっしゃい、こんにちは」
三人とも、一週間以上もの間マリーの顔を見ていなかったため、今回のことで彼女が気分を害していないかどうか、そのことがずっと気になっていた。特にケビンはネイサンに答えて「それを言っちゃあ……」と言っていただけに、この一週間もの間、随分罪悪感に悩まされたものだ。自分の被害妄想かもしれなかったが、「あなたがそんなこと言う子だなんておねえさん、思ってもみなかったわ」と、そんなふうに思われていたらと思っただけで、つらかった。
「そのう、おねえさん、ぼくたち……」
いつもは元気のいいリアムが、妙にもじもじして言った。
「おねえさんって大変なんだなーってわかったんだー!」
もじもじしているリアムにかわって、お調子者のノアが言った。
「ランディんちに来ない間、俺んちとリアムんちとケビンちをかわりばんこで遊び場にしてたんだけど、母ちゃんに「なんかおやつくれ」って言ったら、大体大したもんが出てこないんだもん。そこに来たらランディんちは天国だってきのうもみんなで話してたとこ。ところで今日のおやつはなんですか?」
「おまえ、馬鹿っ。そんなこと聞くなんて失礼だろっ!!」
何故かリアムが真っ赤になってノアに注意する。対するマリーはといえば、くすくす笑いながら「ザッハトルテとクッキーよ」と答えていたものである。
「わあ、俺、あのケーキ大好きなんです!」
ノアはそばかすのある顔を喜びで輝かせると、今度は椅子に座っていたミミに「プリンセスうさしゃんはお元気ですか?」と聞いた。ミミは「うさしゃんはご機嫌うるわしいです」と言い、神妙に頷いている。
ケビンだけが喉が詰まったように何も言わないのに気づくと、マリーはそれと察して、彼のことを抱きよせるとその頭のてっぺんに許しのキスを授けた。言葉はなくてもそれだけで意味は通じたようで、あとは大体のところいつもと同じだった。四人はエレベーターまでバタバタ走っていくと、お互いに「みょーん、みょーん、みょ~ん」などと言い合いながら、五階のランディの部屋へと上がっていく。
夕方になり、ランディの友達三人が帰ったあとは、前と同じようにたっぷり夕食を食べるランディが戻ってきたというわけである。イーサンはこの時も「やれやれ。おまえのダイエットはもう終わりか。根性がないな」とからかっていたが、ランディのほうでは意地悪な兄のこの物言いも気にならないくらい幸せだったようで、ローストビーフをぱくぱく口許に運んでいたものだった。
「それで、なんだっけ?そのネイサンとかいう子は、結局なんで突然おまえのことを外そうとなんてしたんだ?」
ココがファッションデザイナーをしているモニカ・ブランウェルの母親の職場へ行った話をし終えると――イーサンは前から少し気になっていたことを口にした。医者の息子で頭がよく、スポーツ万能……よくそんな子がうちのでぶっちょと仲良くしてくれるもんだと、前から感心していたのだ。
「んー……なんかケビンの話だとね、ようするにネイサンは俺に嫉妬してたんじゃないかってことだった」
ここでイーサンは遠慮なくぶっと吹きだすようにして笑った。
「あんな見た目のいい、おまえより三倍は頭もいいだろう子が、なんでランディなんかに嫉妬しなきゃならない?成績もよくてスポーツ万能、クラスでも男女問わない人気者なんだろ?で、そんなクラスの中心人物に嫌われたら、俺の人生はもう終わりだと思って、おまえはメシも喉を通らないくらい落ち込んでたんだろうが。こんな太っちょの一体何をそんなに羨ましがる必要がある?」
「だからさあ、それがまたおねえさんのことなんだよ」
大好きなマッシュポテトを頬張りながら、ランディは言った。
「ネイサンの家って、ネイサンのお母さんが死んだあと、お父さんが再婚したんだって。で、この継おっかさんっていうのが、神経質な人で、ネイサンにも時々当たったりするっていう話。そこんとこいくとさあ、うちのゴサイのおねえさんは優しいでしょ?俺、そんなことが理由だなんて考えてもみなかったけど、なんか「あーそっかー」とか思って……」
「なんか、スタンフィールド家って、うちと違ってすごく厳しいらしいよ」
ロンはポタージュスープを啜って言った。
「弟のジミーのこと知ってるけど、彼、お母さんの連れ子だから、お兄さんとは血の繋がりはないんだって。でも、漫画は一月に一冊だけしか買ってもらえないし、ゲームなんてクリスマスか誕生祝いの時しかプレゼントしてもらえないって話。で、ジミーのお母さんは弟のジミーのことは無条件で可愛がってるらしいけど、お兄さんに対しては「将来医者にするっていうパパのご意向」があるから、勉強をしっかりするよう厳しく監督したり、甘いものなんかもね、勉強の集中力を妨げるからって、毎日ほんのちょっぴりしかもらえないっていうことだったよ」
「ふふん。おまえら、マリーおねえさんと俺の寛容さに感謝しろよ。世の中、むしろそのネイサンのような子のほうが普通だと言ってもいいくらいだ。それでランディ、おまえはどうするんだ?デブと言われた腹いせに、今度は暫くそのネイサン・スタンフィールドの奴を省いておくのか?」
「そんなことしないよ」
ランディはサーモンのパイ包みをもぐもぐ食べながら笑った。それから、マリーのほうを見て彼女にだけわかる言葉でこう話す。
「俺はね、友人AにもBにもCにも、みんな仲良くしていて欲しいんだ」
>>続く。