こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

聖女マリー・ルイスの肖像-【22】-

2017年10月16日 | 聖女マリー・ルイスの肖像



 さて、今回も特に書くことないので、前回に続いて、「フランス人は10着しか服を持たない」より、わたしが読んでいて少し参考になったかな……と感じたことについて書いてみようかな~なんて♪

 それは第10章の「散らかっているのはシックじゃない!」のあたりで、書いてあること自体はもしかしたらものすごく当たり前のことかもしれないんですけど(笑)、でも「うんうん!それものすごくわかる!!」みたいに、わたしが一番思ったのがここかもしれません(^^;)

 いえ、わたしもなかなか部屋が片付かない人でねえ……この点、わたしが思うのは部屋を片付けるにはやっぱり「お客さんが来る」とか、そういう「動機づけ」がないと、なかなかある程度見栄えよく片付けるには至らないというか

 今断捨離がブームだそうですが(あ、もう過ぎたのかな?)、まずもってわたし、物を捨てるということが出来ません。「フランス人は10着しか服を持たない」というタイトルを見て、なんの魅力も感じなかったのは、まずわたしが「10着も服持ってねーよ☆」と思ったことかもしれません。。。

 あ~、もちろん服は数えれば一応10着以上はあるこたあるんですよ。でもなんてゆーか、そのほとんどが「死に服」っていうんですかね(笑)いえ、葬式に着てくとかじゃなく、着もしないくせに何故かとってある……系のものが九割

 しかも、かなりボロボロで、「こんなの、もう着ねえべ」というものまで、「ガラス拭きに使えるべ」とか思ってしまい……さらに、そこまでひどくない「実際には着ないけど、まだ着られそうな服」については、「世界の終わりがやって来てごらん。こんな服でもみんな重宝がって寒い時には「あったかい」とか言ってありがたがるに違いないよ」とまで思いはじめ……そんな自分をせせら笑ってるうちに片付けるのがだんだんいやんなってくるという(いや、ただの馬鹿だろ・笑)。

 そんで、ですね。「フランス人は10着しか服を持たない」を読んでて、なんで自分がこんなに部屋を片付けられないのかがはっきりわかった瞬間がありました。


 >>わたしのお気に入りの新聞のコラムは、「フィナンシャル・タイムズ」ウィークエンド版の家庭欄に掲載されている、デヴィッド・タンの「人生相談」。このコラムでは、ミスター・タンが「資産、インテリア、エチケット、家のこと、パーティなど、あなたのお悩み全般について」アドバイスをくれる。

 ある週には、ある男性からの相談が載っていた。その人は、自分のガールフレンドが、誰かほかの人が一緒でもない限り、土曜日の朝でもテーブルセッティングをきちんと整えて朝食をとろうとしないのが不満だと訴えていた。彼女が言うには、お客さんもいないのにわざわざそんなことをするのは『プチブル』のすることらしい。

 それに対するミスター・タンの回答は、「いつもいちばん良い持ち物を使う」というポリシーに、まさに相通ずるものがあった。ミスター・タンは相談者に対して、こうアドバイスした。「いつも素敵なテーブルセッティングを心がけましょう。ひとりで食事をするときは、とくに。そうすれば、どんな人たちと一緒に食事をしても、付け焼き刃だなんて思われません」

(「フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ『暮らしの質』を高める秘訣~』ジェニファー・L・スコットさん著、神崎朗子さん訳/大和書房より)


 いえ、ここ読んでる時にわたし、こんな想像してました。「プチブル」っていうのがプチブルジョアの意味だっていうのはもちろんわかってるんですけど、どうしても「小さいブルドッグ」のことが連想されたというか(^^;)


 夫(ボーイフレンド):「妻よ。誰かお客さんがいるって時じゃなくても、テーブルセッティングをちゃんとして朝は食事しようじゃないか

 妻(ガールフレンド):「何よ。そんなのプチブルのすることじゃないのよっ!それともあんた、なに?わたしがプチブルドッグなのがそんなに気に入らないとでもいうの!?

 夫:「そ、そんなこと言ってないよ。俺は君に満足してるよ。君が人間じゃなくて、プチブルドッグでもね

 妻:「ふーん。あっそう。じゃ、テーブルセッティングのためのいいカトラリーなんかを買いにいきましょうか。お金はもちろんあんたが出すのよ。犬のわたしにそこまでのことをさせるからには、お金くらい全部だしてもらわなきゃ。ぷんぷん!

 夫:「(まったくもう、犬と人間の女の面を都合よく使いわけるんだから……ブツブツ☆)」

 妻:「ああん!?あんた、今なんか言った!?

 夫:「べつに何も言ってないよ……


 ~(某インテリアショップにて)~


 夫の友人Z:「よう、A(夫の名☆)じゃないか。元気にしてたかい?

 夫の友人Z夫人:「まあ、ほんと久しぶりねえ。今度また遊びに来てくださいな。オホホホホ!!」

 夫:「ええ、もちろんお伺いさせていただきますとも。アッハハハハ!!」

 プチブル妻:「…………………(何故かカヤの外☆)

(こののち、三人で社交辞令的歓談が続く。。。

 夫:「あ~あ。やれやれ。面倒な人につかまっちゃったな。仕事の取引上の人だから、邪険にも出来ないし……

 妻:「……あんた、わたしをあの人たちに紹介しなかったわよね。なんで?」

 夫:「いやあ、だってべつに、そこまでしなきゃいけない人でもないっていうか……」

 妻:「嘘よっ!あんた、わたしが本当はプチブルなのが恥かしいんでしょ!?だから、あえて無視して紹介しなかったんだわっ!!」

 夫:「えっええっ!?ち、違うよ。ほんと、そんな全然深いつきあいの人ってわけでもないし……」

 妻:「じゃあ、だったらむしろ紹介したらよかったじゃないのっ。「妻のプチブルです」ってあんたが一言いったら、わたしもただちょっと会釈して、じゃあ、ちょっと向こう見てくるとか言って、別のところに行ったわよっ。それをまあ、三人でなんか盛り上がっちゃって……もうカトラリーなんかどうでもいいっ!あんたひとりでテーブルセッティングでもなんでもしなさいよっ!!

 夫:「なんだよ、おまえ。泣くことないだろ。しかもこんなところで……」

 妻:「うわああんっ。バウバウッ。わんわんわーんっ!!!


 ……なんていうことが思い浮かび、この瞬間、ハッとしてなんで自分がこんなにも物片付けらんないのかがわかった気がしました

 いえ、本とか雑誌片付けてる時もいつもこうなんですよね。なんかパラパラめくってるうちに、何かの文章が目に入ってきて、こんな全然関係ないこと考えてるうちに、だんだん片付けしてる自分がいやんなってくるっていう。。。

 なんにしても、ジェニファー・L・スコットさんの本は、ベストセラーになるだけのことはある、素晴らしい本だという話でした

 それではまた~!!
 


       聖女マリー・ルイスの肖像-【22】-

 その後も、ケビンとノアとリアムはネイサンのことをランディの家へと誘った。ランディ自身もうなんとも思ってないし、むしろ仲直りしたいと彼のほうでも言っているということを伝えたのだが、何か依怙地になっているのか、ネイサンは相変わらずランディの家へは遊びにこないままだった。

 そこで、マリーは一計を案じることにした。うちの中庭でキャンプごっこをすることにし、ネイサンにもその招待状を送るということにしたのだ。八月の中旬頃、マクフィールド家は今年もディズニーランドへ行く予定である。そしてその帰り道に去年と同じキャンプ場でキャンプしてから帰ってくる予定であった。実をいうとすでにテントやバーベキューセットなどもすべて買い揃え、ガレージのほうにしまってある。そこで、マリーはそのテントを中庭に張り、男の子だけで親睦をはかるのはどうかと思ったのだ。

 ランディがこの話をみんなにすると、リアムもノアもケビンも非常に乗り気で、「その日のやって来るのがとても楽しみだ」と口々に言っていた。そして「秘密基地ごっこしようぜ」と話したりして、大いに盛り上がったようである。

 ネイサンへの招待状のほうは、ランディたち四人で工夫を凝らして書き、少し珍しい切手を貼ると(ネイサンは珍しい切手をたくさん持っている)、あとはそれを投函するのみとなった。ノアたちが帰り道でポストに入れるということだったが、マリーは自分が買い物ついでにスタンフィールド家へ間違いなく届けてくると約束していた。

「えーっ、べつに俺たちで帰りがけにポストに入れるからいいんですよ」

「ううん、いいの。だって、今日ポストに入れたら、届くのは速くて明日ってことでしょ。でも、今おねえさんが直接スタンフィールド家のポストに届けたら、今日すぐ届いて、ネイサンが喜ぶのも一日早まるのよ。どうせスーパーへ行く通り道ですもの。これはおねえさんが責任を持って彼のおうちまで届けてくるわ」

「そういうことなら……」

 他にもうひとつ、マリーには気になっていることがあるのだった。最初、五年級に上がった時、ネイサンのほうが積極的にランディに話しかけて彼を仲間にしようとしたという。これはマリーの推測にしか過ぎないが、母親のことを八歳で亡くしたというネイサンは、ランディの気持ちがわかったのではないだろうか。それなのに、自分という後妻がいたことで――彼の中では何かが変わってしまったのかもしれない。

 実際のところ、マリーにしてもネイサン・スタンフィールドという男の子には、いい印象しか持っていない。礼儀正しくて頭のいい、いい意味で大人受けする子である。また、学校の保護者会や教会などでも彼の家族についての噂は少しばかり聞いていたかもしれない。父親は医者といっても、一般的な臨床医ではなく、医学研究センターに勤める研究医であり、無神論者であること、継母のほうはプロテスタントの正統派が異端とみなす教会に所属しており、潔癖症ではないかと思われるほど、神経質だということなど……ネイサンが家庭の中で寂しい思いをしているのかどうか、それはマリーにもはっきりとはわからない。

 けれど、何かそうしたことがあって、ランディの家庭環境と比べた場合に、彼にとっては嫉妬したり、苦しみを覚えたりすることがあるのかもしれなかった。

 マリーはこの日、マイメロディのTシャツとピンク色のスカートを着たミミと、ユトレイシア商店街で買い物し、その帰り道にスタンフィールド家のお屋敷へ寄って、ポストに手紙を入れておいた。白塗りの立派な屋敷の庭にスタンフィールド夫人がもしいたとすれば、マリーにしても少し話をしてみようと思っていたのだが、呼び鈴まで押して訪ねるというのは流石にためらわれ……「おねえさん、早くしないとアイス、とけちゃうよーう」とミミに促されるまま、帰って来るということになった。

 ――この日、屋敷の二階にある自分の子供部屋から、ネイサンはマリーとミミが門のあたりをうろつくのを偶然目にしていた。ネイサンの義母はあまり人づきあいをしない質の人なので、彼女が義母のクレアを訪ねてきたのでないとは、彼にはすぐわかっていた。となると当然、彼女の用のあるのは自分だということになる。

(きっと、あのおねえさんのことだから、俺とランディの仲がまずくなったのを気にしてるんだろうな)

 ネイサンはランディの義理の姉なのかお母さんなのかよくわからない人のことが好きだった。近所の人々が彼の義母のことを「神経に障りのある女」と噂することがあるように、ヴィクトリアパークを挟んだ向こうの通りに住むマクフィールド家の後妻については「財産目当てに結婚した女」と噂しているらしいとも知っている。

 もっとも、賢い彼は大人たちの(特に大人の女性の)する噂話には大して興味がない。ネイサンにしても、最初の頃こそ「あのおねえさんはランディのお父さんの財産をもらったりしたのかい?」と訊いたことがあったが、ランディが「よくわかんないけど、この家の権利自体はあのおねえさんのものらしいよ。そうイーサン兄ちゃんが言ってた」と屈託なく言うのを聞いて……その後、何かがどうでもよくなった。

 毎日、美味しいおやつや食事を作ってくれたり、その他四人の子供たちの細々したことを心配してあげたり――だんだん、そうした様子を垣間見る機会が増え、ランディにしても自分の両親のかわりに、兄やおねえさんのことを話すことがとても多く、そのたびにイーサンは激しい嫉妬に囚われるようになっていった。

 確かに、一般的に見た場合、ランディよりも自分のほうがスマートで見た目は良いのかもしれないし、彼よりも成績もよく、運動神経のほうも秀でていたかもしれない。だが、ランディはネイサン自身がどんなに努力しても手に入れられないものをすでにたくさん持っていた。

(そもそもこんな奴、最初に自分のほうから声をかけて仲間になんかしなけりゃ良かったんだ)

 そう思いながらも、ある種の優等生根性からつきあい続け、今までやって来てしまったのだ。あの日、みんなが夏休みは家族とどこへ行くかとまったく悪気もなく話す間、ネイサンは最後にランディが「うちは今年もディズニーランドだよ」と言うのを聞いて、最後の最後に爆発してしまったのだといえる。

 もちろん、彼にはわかっていた――リアムがノースルイスの親戚の別荘へ、ケビンがリゾート地として有名なライムリッジへ、ノアが近場にあるキャンプ場へ行くという話をする間、自分だけ特にどこへも行く予定がなかったとしても、彼らにとって大したことでないということは。そのかわりネイサンは頭もいいし、来年受験する私学校のために塾通いがあるそのせいだろうといったように考え、自分に対して惨めな地位を与えるということは決してないということも。

 また、ネイサンは是が非でもディズニーランドへ行きたいとか、そんなふうに思っているわけでもない。ただ、すでに彼の中では何かが限界だったという、これはそれだけの話だった。

『あんなデブ、こんなにたくさん漫画やゲームを持ってなきゃ、誰もここへ来たりはしないよな』

 あの瞬間のことを思うと、ネイサンとしても胸が痛む。何より、最初にランディと目があい、次にあのおねえさんと目と目が合った瞬間のことを思うと……せめても、どちらか片方に聞かれていなかったらと、今も後悔し、彼自身が誰より自責の念に囚われていた。

(だけど結局ぼくは、いつかはあんなふうに言ってただろうな。だから、あれはあれでもう仕方なかったんだ)

 ネイサンは机の上の問題集を閉じると、階段を下りて門のそばにあるポストまで走っていき、自分宛ての<サマーキャンプへの招待状>と書かれた封筒を手にして、また急ぎ家の中へ駆け戻った。

 室内はエアコンが効いているので涼しかったが、一歩外へ出るなり二十八度にもなるという気温と太陽の光に焼かれた。ネイサンは門までほんの十メートル走っただけにも関わらず、額から出た汗を拭きながら、再び階段を上がって自分の部屋まで行った。リビングの開け放しのドアから中を見ると、義母が料理の下ごしらえをし、カウンターのテーブルのところで義弟のジミーが指折り数えて何か計算しているのが見える。

「ジミー!算数の勉強をする時に指を使うんじゃありません」

「でもぼく、こうしないと算数の問題がわかんないんだよ」

「頭の中で暗算するんですよ。暗算の仕方は教えてあげたでしょ?」

「うん……でも、指で数えたほうがぼくの場合速いや!!」

 そんな会話を洩れ聞いても、ネイサンは「俺が教えてやるよ」とは言わない。はっきり言えば、ネイサンは義母のクレアに嫌われている。しかもその嫌われている理由というのが、自分の子のジミーと比べて非常に出来がいいという、そんな理由によってだ。

 もちろん、だからと言って何か具体的に意地悪をしたりということはない。ただ、はっきりと目や顔の表情や態度によって示すというそれだけだ。自分は自分と血の繋がっている息子のことだけが可愛い。でもあなたのことはただお義理で面倒を見てあげるという、それだけですからね、といったように……。

 ネイサンは真っ赤な封筒の中に、随分凝った招待状のカードと短い手紙が入っているのを見て、妙に感動した。

 リアムもノアもケビンも、それぞれ短い言葉を書いており、ランディに至っては「俺は徒歩の友人Aだけど、自転車に乗ってる友人B(ケビンとノアとリアム)のことも、友人C(ネイサン)のことも、大好きだよ!」と書いてあった。

 だが、このカードを見て感動し、非常に心動かされ、かつ瞳に涙さえ滲んでいても――もしかしたらネイサンは、自制心を総動員させてこのとても楽しそうなキャンプへは行かなかったかもしれない。何故といって、またしても例の感情の爆発が何かの拍子に起きないとも限らないと、今の彼にはよくわかっていたからだ。

 けれど、この暑い中を、わざわざ切手まで貼った手紙をマリーおねえさんが届けにきたことを思うと……彼は最終的に五日後に行われるそのキャンプに参加することを決めた。キャンプのほうは一応一泊二日の予定だが、もし楽しいようだったら、二泊三日くらいにしようと書いてある。

 ネイサンはもちろん塾のほうがあるので、ずっといるというわけにいかないにしても、たったの一泊だけでもこの家にいなくていいと思っただけで、心が晴れ晴れした。「あなたさえいなかったら、この屋敷はお父さんとわたしとジミーの三人で、一番居心地よくなるのよ!」といったような毒を隠し持つ義母と一緒の食卓で、同じ食事をしなくていいと思うだけで……ネイサンは心が清々しいくらいだった。

 もちろん、このことには父さんの許可がいる。けれど、成績も落ちていないし、塾の先生からもセント・オーディア校なら余裕で入れるでしょうと太鼓判を押されている……そのことをアピールすれば、一晩くらいよその家へ泊まることを許可してくれるに違いない。

 ネイサンは父親のことが好きだし、尊敬してもいたが、母が亡くなって以来、父の中では自分と同じく何かが永久に変わってしまったのだろうと思っていた。クレア・フェリスという女性と結婚したのも、そうしたある種の<弱さ>からだとネイサンは見てとっていた。母さんが生きていた頃には持っていた強さが失われ、それを別の何かで補う必要がでてきたそのせいなのだろうと……。

 だが、再婚後の父さんのことはネイサンはあまり好きでなくなっていた。家のほうはネイサンの母が生きていた頃のように帰ってきて楽しい家庭というのとは違ったし、クレア・フェリスの神経質なのが夫にも移ったのかどうか、自分の父親が気難しい顔をしていることが増えたともネイサンは感じている。

 ゆえに、ネイサンは話すべき時宜を心得、父親の機嫌が比較的良さそうに思われる時にこの話をし、「しかし、向こうのお宅に迷惑じゃないかね?」という父に、「ランディの家はそんなんじゃないんです。いつでも誰でもウェルカムで、ざっくばらんな家族なんですよ。だから、他にも泊まりにくる子もいるし、僕がひとりくらい増えてもどってことないんです」……このあと父の了承を取りつけると、ネイサンは心の中でほくそえんだ。この言葉の裏には『うちみたいに神経質で、人が寄りつかない家とは違うんです』という毒が、実は密かに塗りつけてあったからだ。

 ネイサンは父親が再婚して以来、自分が時々ふたりに分裂しているように感じることがある。ひとり目は、これまでもずっとそうだったように、学校でも家でも優等生のネイサン・スタンフィールド。ふたり目は、時々手に負えないくらい意地悪になる、陰険なネイサン・スタンフィールドだった。

 時々ネイサンはこのふたりがヤコブと天使のあの戦いのように、取っ組み合いをして喧嘩しているように感じることがある。だが、ヤコブが天使に勝ったようにではなく、ネイサンの中では天使が勝つこともあればヤコブが勝つこともあるという、何かそんなことの繰り返しだった。そして今彼は腿のつがいが外れた状態だったといえるが、マクフィールド家のキャンプでみんなに会えば、そんな自分の傷ついた心も癒えるだろうという気がしたのである。


   *    *    *     *     *

 キャンプ当日はお天気にも恵まれ(そのかわりかんかん照りで暑かったが)、キャンプの出だしは上々といったところだった。

 テントのほうは五人用のと三人用のとがふたつ張られたものの、三人用のほうは予備といったところで、男の子は五人とも大きいほうのテントに自分のタオルケットや枕、あるいは寝袋を持ちこんで、まずは早速秘密基地ごっこをし――それから夕刻になると、バーベキューパーティをした。このバーベキューパーティのほうには、マクフィールド家の全員が参加して、大変賑やかなものとなった。

 イーサンの監督の元、火を起こしたり、薪や炭を足したり、その上の金網で、じゅうじゅうと肉汁をしたたらせるシシカバブを焼いて食べたりと……普段の食事がいつもの三倍以上に感じられるくらい、美味しかった。夜になるとみんなで花火をしたし、何かあった時のために、三人用のテントのほうではイーサンが寝てもいた。

 彼にしてみれば、リアムやケビン、ノア、ネイサンの父母から監督不行き届きと思われないための措置といったところだったが、男の子たちは焚き火をしているイーサンの元に集まると、「何か面白い話をしてくれ」とせがんだため、子供が喜ぶような話をいくつかしてやるということになる。

 その多くは、彼のロイヤルウッド校時代のものであったが、子供たちは寄宿学校の様子などを大そう面白がって聞いていたものである。また、話のほうがイーサンの大学時代のことに及ぶと、「どうやってあんな美人のガールフレンドを作ったんですか?」と、好奇心を丸出しにしてノアが聞いた。

「べつに、どうということもない、自然な流れさ」と、庭から取った棒切れの先で炭をつつきつつ、イーサンは言った。「アメフトのクォーターバックとチア部のリーダーっていうのは、むしろカップルとしてよくあるパターンという気がするしな」

「でも、どっちから誘ったとか、そういうのってありますよね?」

 リアムが勢いこむようにしてそう聞いた。他のノアやネイサンもそうだったが、彼らにとってランディの兄というのはいわばヒーローだった。将来的に、自分もこんなふうになれたらどんなにいいかという、憧れそのものなのだ。

「そうだなあ。まあ、たぶん先に気があって誘ったのはキャサリンのほうだな。何分、他にも何かと俺に色目を使う女はいたし……それもただ、アメフト部のクォーターバックだっていう理由からな。だから、倍率的なことも考えて、先にアプローチしたほうが勝ちだと思ったのかもしれないな」

「へええっ。でも俺だったら、マリーおねえさんみたいな人がいいな。料理だって上手だし、ミミちゃんの面倒もちゃんと見てるっていうことは、赤ちゃんが出来たって同じようにうまくやれると思うもん。お兄さんはそのう……あのおねえさんとずっと一緒にいて、なんともないんですか?」

 こら、ノアっ、聞きすぎだぞ、と隣でケビンがたしなめても、ノアはどこ吹く風だった。図々しくて空気の読めないノア・サルディーのことを抑える役目を仰せつかっているのがケビン・クレイグという、何かそうした役割分担があるらしい。

「おい、ランディ。俺はマリーとなんでもなくやってるように見えるか?」

「んー……どうだろ」

 ランディは隣のネイサンと同じく、焚き火のゆらゆらゆらめく炎に魅入られていたが、突然夢想をとかれたように言葉を発した。

「俺は、おねえさんとイーサン兄ちゃんは合わないと思うな。なんでもないようにやってるように見えるのは、おねえさんのほうが割を食う形で色々我慢してるからだと思う。でも、そんなふうに片一方がひたすら我慢するなんて、不自然なことだし、そんなのは長続きしないんじゃないかな。ただ、べつにおねえさんとイーサン兄ちゃんは恋人同士ってわけじゃないから……家族としてはそんなに悪くもないっていうか、そんな感じだよね」

 実をいうと、イーサン自身がこのランディの言葉に一番驚いた。そして二番目に驚いたとすれば、それはネイサンだったろう。ネイサンはマクフィールド家に出入りするようになって一年になるが、この家族はマリー・ルイスという女性の価値をまるでわかってないと思って見てきた。つまり、時々意地の悪い毒を浴びせる長兄イーサンと、愚鈍で大飯食らいの次男、繊細で優しい三男のロン、長女のココは我が儘で、次女のミミはまだとても手がかかる……彼らがひとつの食卓につき、それぞれ勝手なことを言うのを見て、マリーおねえさんのことが心底可哀想だとネイサンは思ったものだ。

 このあと、時刻も十一時を過ぎていたことから、男の子たちに「そろそろ寝たほうがいい」と促したイーサンだったが、自分は三人用テントで横になったまま、色々なことを考えて眠れなかった。ネイサンとランディは、互いに顔を合わせるなり「すべてわかりあった」というような具合で、「俺、気にしてないからさ」とランディが言い、ネイサンもまた「なんであんなこと言ったのか、今じゃ自分でもわからない」とあやまって、元通りの関係に戻ったわけだった。

 むしろふたりが前よりも強い絆で結ばれたように感じて、イーサンもその点については安心していたといえる。六学級に上がってから、友人関係のことが原因で不登校になったり成績が落ちるといったことはまずないと見ていいだろう。だが、ランディが自分とマリーがうまくいかないと言ったことに対して……(ガキってのは、こっちが思った以上によく見てるもんだ)と感心したかもしれない。

 事実、ランディの言うとおり、マリー・ルイスに対してこれまでの間ずっとイーサンは優位な立場を保ってきた。高圧的に上から押さえつけて大体のところは自分の言い分を通してきたし、彼女も彼の方針に概ね従ってきたといったところだ。だが、彼女に足を……ではなく、心を開いて欲しいと思ったら、やり方を変えなければならない。そのためにはどうしたらいいのか、この夜イーサンは初めて考えたというわけだった。



 この翌日の朝食はサンドイッチだった。マリーが子供たちが起きてきたのに合わせて、テントのそばにピクニック用の折りたたみテーブルを置き、そこにご馳走を色々並べてくれた。

 ネイサンは九時から塾の授業があるため、朝食後、このキャンプ大会から出ていったわけだが、他の四人は広い庭でウォーターマシンガンを撃ちあったりして遊んでいた。キャンプの間くらいはスパルタ塾のほうは休みにしてやろうとイーサンが言ったため、ランディは心おきなく羽を伸ばして友人たちと楽しい時間を過ごしたというわけである。

「子供って、いいですね」

 テントの中で寝違えてしまい、イーサンが首をひねりながらリビングにやって来ると、マリーは彼の首の具合を心配したあと、そう言った。彼女が何故そんなことを言ったのかも、イーサンにはよくわかっている。窓を開けた外からは、男の子が浮かれ騒ぐ楽しげな声が、夏の空気の中に響いていたからだ。

「まあ、たまに憎たらしいこともあるが、大体のところガキってのはいいもんだってことは言えるだろうな」

 出されたアイスコーヒーをがぶ飲みしつつ、イーサンはそう言った。

「なんにしても、ネイサンとランディが仲直りできて、本当に良かったです。もし学校がはじまってからもこのままだったらどうしようって、心配でしたし……」

「確かにな。なんでもあのネイサンって子は、セント・オーディア校を受験するらしい。おそらくロイヤルウッド、あるいはそれよりもいいフェザーライルでも受かるんじゃないかってくらいの成績らしいが、三番目くらいにいい私学校とされるセント・オーディアを受験するんだと。なんでかっていうと、セント・オーディアのある町に母方の祖父母がいて、もしそこに受かったとすれば、週末や休暇の時にはそちらの家にいけるからってことだった。父親のほうはフェザーライルかロイヤルウッドのどちらかを受験させたいらしいが、そこは譲れない一点であるとして、あの子は頑張ってるらしい」

「そうだったんですか……」

 男の子たちが思った以上に早起きだったため、十時には何かおやつを出してやらねばならないだろうと思い、寝かせてあったクッキーの生地をマリーは冷蔵庫から出した。あとは型抜きしてオーブンに入れればいいだけだった。他にきのうのカップケーキの残りなどがあるから、ここにクッキーを足せばいいだろうと思ったのだ。

 イーサンはいつも通り、この日も新聞を読む振りをしながら、猫や犬といった動物のクッキー型を押し当てるマリーの姿を時折見つめた。『おねえさんとイーサン兄ちゃんは合わないと思うな』……確かに、その通りなのだろうとイーサンにしても思った。そして初めて、マリー・ルイス自身も同じように『わたしとあなたじゃ合わないわ、イーサン。わかるでしょう?』と思っているに違いないとの結論に、この時至ったわけである。

 ミミはもう、毎日見るのを楽しみにしている子供番組を見るために、テレビのある部屋のほうにいたし、一応ダイニングで今イーサンはマリーとふたりきりだった。だがまるで、子供のこと以外話すことのない夫婦と同じように、彼らの間に共通の会話などというものはない。

(さて、と。戦略を練り直さないとな……ミミは九月から幼稚園のほうに入る予定だから、午前中、マリーはひとりだ。もっとも、平日は俺も大学院の講義ってのがあるから、そうは言ってもなかなか難しいが、キャサリンときちんと別れたあと、こいつとふたりきりになった時にうまくそういう方向に話を持っていけばいいわけだ……)

 それ以前にイーサンにとってもっといいのは、ディズニーランドに行き、楽しさの頂点にあったあたりで、何かの錯覚からでもマリー・ルイスのことをものに出来るということだったが、彼女は「子供がいるのにいけない」という自制心の強いタイプの女性なため、やはり難しいかもしれなかった。

(やれやれ。八方塞がりか……)

 マリーがオーブンに動物クッキーを入れ、ミミのいる部屋のほうへ行ってしまうと、イーサンはダイニングにひとり残された。もう一週間もすればキャサリンはクリスティンやマーティンたちと一緒に、すっかり日焼けして旅行から帰ってくるだろう。イーサンはその時にこそ、彼女に別れ話をしようと、そんなふうに思っていた。そうしたところでマリーとの関係にすぐ変化がでるというわけではないとわかっていたが、八方塞がりの一点が、そうすることで突破されたらいいと感じていたという、そのせいであった。



 >>続く。





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