こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア-第二部【28】-

2024年09月07日 | 惑星シェイクスピア。

 ええっと、すみません前回の続きの萩尾先生と清水先生対談の第二弾のことについて何か書こうと思ってたものの……実は前回以上に文字数使えないことがわかりましたm(_ _)m

 

 まあでも、フラワーズ側の【第二部 この世に理想の男性は存在するのか】は、「理想の男性論」(?)を巡って映画俳優の方の名前などが飛び交い、おふたりが(とてもいい意味で)楽しくざっくばらんに雑談されてる模様……といった空気感かなと思いますので、その中でわたしが特に興味を感じた部分についてまとめてみようかな、なんて(例によって自己満足の駄文ですが、お気になさらず^^;)

 

 >>「現実で理想の男性にお会いになったことは……?」と清水先生に質問され、「映画の中にしかいないです」と萩尾先生。「『スター・ウォーズ』のハン・ソロとか、『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンとか」、清水先生:「それで言うと私は、サム・シェパード。『ライト・スタッフ』っていう映画の……」

 

 ええっと、文字数が足りないため、短くまとめなくちゃなんですけど(汗)、萩尾先生は美少年や中性的な顔立ちというよりは、はっきり「これは男の顔だ!」という方のほうが好みということでした『青きドナウ』については、軽くググって「この子のことかな?」という画像があったのですが、ウィーン少年合唱団は増山法恵さんの領分というか、そんな感じでしたっけそれはさておき、『トーマの心臓』のユーリのモデルは若い頃のリストだとか!あとから、清水先生がJO1の河野純喜くんのことを推している……という話になるのですが、そういえばリストはピアノのコンサートで女性が失神していたというあたり、アイドルの元祖という気がしなくもありません(^^;)

 

「お互いの作品で好きな男性キャラは?」という質問については、清水先生は「エドガーとオスカー」、それと『感謝知らずの男』のレヴィを挙げておられました萩尾先生は(男の子じゃないけど)『輝夜姫』の晶。トップ画の第1巻の「なめたらあかんぜよ!」みたいなこのポーズがめちゃくちゃ格好いいと(たぶんこれ、『スケバン刑事』ですよね。Z世代の方にわかるかしら(笑)。清水先生のお話では、晶のモデルは内田由紀さんとのことなのですが)。

 

 あと、『秘密』の薪さんがラルクのハイドさんがモデルっていうのは有名な話ですもんね♪他に、萩尾先生は『輝夜姫』の高力士が格好いい系と言及されており……いえ、わたし最初に高力士見た時、「(グラン・ブルーの)エンゾそっくり!絶対エンゾがモデルで間違いない!!」とか思ってたら、その時点で清水先生は「グラン・ブルー」見たことなかったって、コミックスのどこかに書いてあった記憶があります(同じこと書いてくるファンの方がたくさんいらっしゃったらしい^^;)。

 

 さらに、「少女漫画のヒーローの条件は?」という質問については、清水先生は『いたずらなキス』の入江くんを挙げておられました(笑)。萩尾先生は「オスカルとアンドレ」。このひとつ前の質問で、「自分の作品に理想の男性は登場するのか」というのがあって、まあ簡単にまとめると、「完璧な人物は登場させても仕方がない。何かひとつくらい悩みや欠けを持っていなくては……」とのことで、そうした意味で登場させられない(?)というのでしょうか。萩尾先生の名言に「美少年のくせに幸せになろうなんて甘い!」というものがあって、このあと、ビョルン・アンドレセンくんの『世界で一番美しい少年』のことに話が繋がります。「西洋の美少年は美しい期間が短く、アメリカの美少年はお太りになられることが多い」とのことで……あ、わたし実は『世界で一番美しい少年』については、そのうち機会があったら必ず感想書こうと思ってたり

 

 あと、「好きなもの語り」というところでは、清水先生がまず『羊たちの沈黙』や『タイタニック』といった映画を挙げておられ、そのあと萩尾先生との間で『RRR』や『メメント』、『第三の男』、『1917命をかけた伝令』、『新しき世界』、『ミッドナイトクロス』、『アパートの鍵貸します』……など、色々な映画の名前が挙がります。(好きな俳優として)レオナルド・ディカプリオ、クリント・イーストウッド、リヴァー・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノの名前などもあがったり(ちなみにわたしはここに、マイケル・J・フォックスさんも加えたい。あと、ジャン・レノとかキアヌ・リーヴスも・笑)。

 

『羊たちの沈黙』はすでにもう古い映画かもしれませんが、確かに『秘密』と雰囲気がリンクするところがありますよねわたしも最初に見たのは遥か昔な気がするものの……その後、レクター博士の出てくるものとしては、続編の『ハンニバル』なども面白かったような気がします

 

 頭のいいシリアルキラーって、漫画創作でいうと「デスノート」のライトくんとか、それを追う(同じく頭のいい)捜査官との攻防って、やっぱりうまく描かれてるとすごく人気のでるジャンルですよね(^^;)

 

 最後、「最近注目してる漫画」として、萩尾先生は『龍と苺』という将棋まんがを、清水先生は「最近あまり漫画を読んでない……」とのことだったのですが、旦那さんにおススメされた『推しに甘噛み』という作品が結構面白かったとのこと

 

 わたしはどちらも読んだことないんですけど(汗)、きっとどちらも面白いんだろうな~なんて思います♪

 

 なんにしても、まとめ方ヘタすぎですが(殴☆)、まあ一番良いのは直接読むことですので(当たり前やがな!笑)。

 

 それではまた~!!

 

 

       惑星シェイクスピア-第二部【28】-

 

『ふう~ん。なるほどねえ……』

 

 遭難して以降、半年もの時間があれば、そのくらいのことは起きていておかしくはない――そう感じるのと同時、コリンはギベルネスの話の中にそれ以上のものを感じていた。もしかして、あれは転移装置のパワーダウンなどではなく、ギベルネスを<神の人>に仕立て上げるため、故意に仕組まれたものだったのではないか?との疑念すら生じてくる。

 

(だが、ニディアが俺に最後にした話によれば……)と思いかけて、蠅――ではなく、コリンはモニター画面の前で首を振った。

 

『そうだな……ギベルネス、それじゃこうしよう。俺は大抵のことにおいて、あんたがしたいと思ったとおりのことを支援するよ。そのことを本星エフェメラへ戻ったあと、当局へ訴えでたりもしない。そのかわり、あんたも俺がこれから話すことで、絶対に俺を当局へ訴えでないと約束して欲しいんだ。というか、そんな事情があんたに存在するとまでは思ってなかったから、あんたがこっちへ戻って来るまでは動揺しないよう嘘をついてでも誤魔化し通すべきかとも思った。でも、どうやらすべて話してしまったほうがいいらしい……』

 

「そうだ。今、宇宙船で動けるのは君だけだなんて、一体何があったんですか!?ノーマンやダンカン、それにニディアはどうしたんです?」

 

 実際にいるかどうかもわからぬ占いの館の老婆がどうだの、目に見えぬ異星人が存在するだの、『考えすぎじゃないの?』と疑いを差し挟むでもなく、コリンはただ黙って話を聞いてくれた。相手の姿を目の前にしているわけではなかったにせよ、ギベルネスは彼が自分の言ったことを嘘ではないと信じてくれているようだと感じた。それであればこそ、取引しようという言葉が出たのだろうと。

 

『俺のほうでも、ギベルネス同様、話すとしたらちょっと長くなると思う……ようするに、ノーマンとダンカン、それにアルダンは殺されたんだ。他でもない、ニディア・フォルニカにね。そして、ニディアのことは俺が殺した――正確には自殺のようなものなんだが、自殺幇助したに等しいという意味では、俺が殺したようなものだ。彼女が死ぬのをただ黙って眺めていたという意味でもね』

 

「な、なんだって!?」

 

 ギベルネスはショックだった。ここ、惑星シェイクスピアへやって来た惑星学者の中で、彼にとって一番親しく話をした相手だったという意味でもそうだし、彼女が人を殺したなどとは到底信じられないという意味でもそうだった。

 

「その……コリン、おかしなことを言うようなんだが、例の占い師の老婆に受けた精神攻撃――それを、ニディアが受けていたという可能性はないか?いや、そうとでも考えないことには、私には彼女が人を殺したなどとはとても信じられない」

 

『気持ちはわかるよ、ギベルネス』と、コリンは深い溜息を着いた。『宇宙船の乗組員がひとり、またひとりと殺されていき、そして誰もいなくなった……だなんて、今どきドラマにせよ映画にせよ随分流行らない設定だ。しかもそれが目に見えぬ異星人の攻撃を受けたからだなんて、俺は恥かしくてそんなこと、本星への報告書にだってとても書けやしないよ。いいかい、ギベルネス――俺はそこらへんのことも考えて、まだ救難信号さえ打っちゃいないんだ。何より、あんたになるべく早くこっちへ戻ってもらって、お互いにうまく口裏を合わせるか何かしないことにはとても無理だとそう思ってね。ギベルネス、君がもしこのまま戻って来なかったとしたら、俺はどうなると思う?まず、殺人の容疑をかけられることだけは間違いないだろうね。いや、そのことはとりあえず置いておくとしても……今あんたが話したことをすべて、俺があっさり信じたことには理由がある。つまり、俺はずっとこのひとりぼっちの宇宙船の中で――目に見えない幽霊のような存在を感じてるんだ。それで、そいつは俺のことを眠らせずにおいて、発狂させることも出来るような何かだ……つまり、こちらに友好的な存在ではまるでないんだよ。そのことだけは気配だけでもはっきり感じ取ることが出来る。次にニディアだが、彼女が俺以外の人間を殺し、自殺した理由についてだが、彼女は死ぬ前にいくつかおかしなことを話していったんだ……『わたしが死ぬことはおまえにとって益になる』ということや、『仲間たちにはおまえにだけは手出ししないようにと頼んでおいてやろう』といったようなことをね。わかるかい、ギベルネス?あの女は、ニディアは、そもそも最初からこいつらの仲間だったっていうことなんだよ!!』

 

「…………………っ!!」

 

 ギベルネスは言葉を失うくらい驚いた。ニディアは彼の目には心優しい賢い女性であるといったようにしか、映ってはいなかったからだ。

 

『ギベルネス、あんたはさ、彼女と結構親しかっただろ?ちょうど、アルダンとダンカンが親しかったみたいにさ……俺があの女の自白を聞いていた時、ニディアはあんたのことではこう言ってたよ。つまり、自分は地球発祥型人類という奴が大嫌いだが、その中であんたは比較的まともで話していても穢れを感じない、いい人間だと思ったというんだな。だから、あんたを殺すのに忍びなかったし、これから自分がしようとしていることをあんたに見られたりするのも嫌だったらしい。じゃなかったらギベルネス、あんたは今ごろレーザー銃か何かで撃たれて、ダンカンやアルダンたち同様、遺体安置室に密閉されて眠っていたことだろうよ』

 

「そんな……あの時、ニディアは自分が先に宇宙船へ戻って、そのあとあの転移装置のパワーダウンが起きて……」

 

(まさか、あのすべてが演技だったとでもいうのか?私のことを心配するような素振りを見せていたことも何もかも……)

 

『すまない、ギベルネス。話のほうは前後するんだが、俺はさっきこんな信じられないような話、当局には恥かしくてとても出来ない――といったようなことを口にした。だが、正確には意味のほうが違う。当局、つまりこの場合は本星諜報情報庁という意味なんだが、そちらはこうなるかもしれないということも、一応事態として把握した上、この俺のことを今回の任務へ派遣したということなんだ。あんたにとっては、『一体どういうことだ?』と話がややこしいと感じることだろうが……とにかく順に聞いてくれ。質問のほうはあとからなんでも受け付けるから。確かに俺は今のこの状況のままでは、情報諜報庁員専用の緊急コードを送信したりすることが出来ない。恥かしいというのはそういう意味だ。何故といって事態のほうが混沌としていて、事態をある程度収拾したとすら現段階では到底言えないからだ。それでも究極、この宇宙船にそこらへんにいるように感じる霊的存在……精神的存在か?とにかくそいつらがもし俺に危害を加えそうだったり、命の危険があるとしたら、当局のほうでも事態を憂慮し、なんらかの緊急手段を取ってくれるか、あるいはそのことを俺自身に許すだろう。だが、俺はなんにしてもまず、ギベルネス、あんたのことをなんとしても助けたかったんだ。そして、無事こうしてあんたを発見して今こんなふうに色々説明できることに対し、本当に感謝してる。普段はまったく信じてもいない神のような存在にすらな』

 

「ということは、つまりコリン、君は……」

 

『そうだ。本星エフェメラから派遣されてきた捜査諜報員なんだ、俺は』ここで小蝿は、彼の情報諜報員の身分証明書を暗闇の中に照射した。そこにはユベール・ランバートと、彼の本名とID番号、それに写真や時に<嘘つきのしるし>と揶揄されることのある、ダビデの星――情報諜報庁のシンボルマークである六芒星が輝いている。『それで、俺の任務のほうについてなんだが、そもそも最初から俺はニディア・フォルニカが何者かを知っていた。つまり、彼女がもともとはマルタン・マルジェロの……なあ、ギベルネス。遭難する前のあんたなら、きっとこんな話をしても信じなかったと思うぜ。だが、今こう言ったとしたらあんただって信じてくれるに違いないと思って、俺は正直に話すんだ。ようするに俺は、本星情報諜報庁からいわゆる<精霊型人類>というやつを追えと、そう命じられてやって来たんだよ』

 

「精霊型人類……!!」

 

 ギベルネスも、噂では一応聞いたことがある。その存在のすべてがそうだというわけではないらしいが、半物質・半精神的存在であり、その性質ゆえに、物質的なものに宿ることも出来れば、あるいはただ精神的存在として――人間の目には見えぬ形で空中を漂っているような、そうしたこの宇宙のどこかの惑星にて確認されることのある、それは特殊な生命体だというのである。

 

『まあ、これは俺やあんたのような地球発祥型人類というやつが分けてる分類というやつで、たとえば爬虫類型人類や馬型人類という連中や、この広い宇宙には色々に分類される生命体がいるわな……だが、その生命体が多数を占める惑星においては、俺たちはそんな言い方はしない。簡単にいえば、失礼に当たることだし、公の場で政治家がそんなことを口にすりゃ、宇宙の惑星間で緊張が高まることもあるくらいだからな。そいつはさておき、前者は恐竜がその祖先で、そこから進化したような存在で、馬型人類は知性の高いユニコーンのような馬を祖先に持ってるとか、ある程度研究のほうも進んでる……まあ、魚から進化した魚類型人類とか、海老や蟹を祖先に持つ甲殻型人類だの、他にも色々な生命体がこの宇宙にゃいるが、とにかく精霊型人類なんてやつは珍しく、発見されてもいるのかいないのかその存在については確認のほうがはっきり定義出来ないことが多い――と、一般的に言われている。が、実際には彼らを相手に本星ではかなり厳しめの戦争というのをやったことがあってな、言ってみればマルタン・マルジェロは、この精霊型人類というやつが地球発祥型人類に憑依し、お互いに殺しあうことになったという、その組織の成れの果てだ』

 

「その……一応私も、その名前については聞いたことがあります。本星エフェメラの基準においては、超A級のテロリスト集団だということでしたが……」

 

 とはいえ、今までの長い宇宙の歴史において、テロリスト=悪といったようにも断言できないという、そんな雰囲気が惑星間に蔓延しているところもあった。何故といって、本星エフェメラを頂点とする地球発祥型人類側に攻撃を受けた異星人の惑星すべてが――決して友好的な過程を通ってその後和睦したとは限らないからだ。そして、そうした時に最後まで抵抗した異星人たちが、その後テロリストとして宇宙間を漂い、地球発祥型人類と聞いただけで特にこれといった理由もなくテロ活動を行なったとしても……その行動を「まったく理解できない」とまでは感じられない程度、情報開示のほうもなされている場合が多いからだ(そして、こうした地球発祥型人類の敵に回った彼らは、自分たちの惑星を侵略した彼らのことを、決まってこう呼ぶ。『(煮ても焼いても滅ぼすことの出来ない、しぶとい)宇宙のゴキブリ』と)。

 

『まあな。実際のところ、今ハイエナジールームで目ぇカッ開いてるロルカのおやっさんにしても……マルタン・マルジェロが自分の惑星がエフェメラから干渉される原因を作ったとして、怨みを募らせ、こんな惑星シェイクスピアなんて辺境の地までやって来ることに同意したんだからな。まあ、おやっさんのことは、また今度話すとかでも問題ないだろう。とにかく俺はな、情報諜報庁の一隊員としてな、今まで色々な任務をこなしてきた。命の危険なんて幾度となくあったし、その時の肉体が寿命に達すれば、次の体に脳内の記憶データを移植して生き延びてきた……その際、なんらかの操作があったかもしれないとは思わないかだの、これもまた映画やドラマでしょっちゅう論じられるテーマだが、これもまた今俺があんたに話してることとは直接関係がなく、語れば長くなる話だからな。そんなことも一旦どうでもいいとして、この場合大切なのは簡単にいえば、今回惑星シェイクスピアへ派遣された七名の惑星学者のうち、ニディア・フォルニカがマルタン・マルジェロを率いる元首領だったことを知っているのは、ロルカのおやっさんと俺のふたりだけだったということなんだ』

 

「……では、つまりこういうことになりますか?ニディアがロルカにレイプされそうになったとかいうのは彼女の狂言で、実際にはレイプされそうになったのではなく、なんらかのトラブルがふたりの間には生じて、それでロルカはあんな哀れな姿に成れ果てたのだと……?」

 

『そうなんだ。ギベルネス、やっぱりあんた頭いいな!これが他の人間が相手なら、もっと言葉数を費やして色々説明しなきゃならんところだぜ……本星エフェメラのAIエレクトラは決して馬鹿じゃない。マルタン・マルジェロの元首領が自分の惑星の宙港エスタリオンへやって来た時から、ずっとマークしてたのさ。そこで、彼女が今後どんな行動を取るのかと見張っていたところ、惑星シェイクスピア行きの惑星学者の募集に応募してきたというわけだ。何分、相手は精霊型人類だからな。それでも、長期間地球発祥型人類に憑依していると宿主が死ぬまでそこから出られなくなるとも言われてるんだが、突然取っ捕まえたところで拷問を加えた相手が間違いなくマルタン・マルジェロの首領だと、そうはっきり確認が取れるわけでもない……というわけで、彼女を追ってきたロルカのおやっさんと俺は、情報諜報庁の命により、同じく惑星学者としてここ惑星シェイクスピアへ派遣されることになったんだ。もっとも、おやっさんの場合はな、応募ののち、身許を洗ったところそんな経歴が出て来たもので、先に面接の時に問い詰められることになったわけだ。事と次第によっては君を惑星シェイクスピアへ派遣するわけにはいかない――といったわけでね』

 

「そうでしたか……ですが、結果からしてみれば、ロルカは復讐心を捨てるべきだったのではないでしょうか。いえ、一応私にもわかる部分はあります。私だって、隣の兄弟惑星がある日突然攻め込んで来たんですからね。これでもし、軍務に就いていた父のみならず、愛する母や妹の命まで奪われていたとしたら――復讐の鬼と化し、それこそテロリストグループにでもなんにでも手を貸していたことでしょう」

 

 具体的に、ロルカが一体何が原因でこんな惑星シェイクスピアのような辺境宙域にまでやって来たのかはわからない。だが、マルタン・マルジェロに対する復讐……そう聞いただけで、ある程度のところは推察できる。つまり、地球発祥型人類に惑星へ攻め込まれて蹂躙されたマルジェロ側が、今度はこの宇宙のゴキブリに死力を尽くして復讐しようという過程で、ロルカのいた惑星をも巻き込んだということなのだろう。そこで肉親を失うなどした彼は、マルタン・マルジェロに復讐することを誓い、おそらくは気の遠くなるほど長い時をかけてここまでやって来たに違いないのだ。ギベルネスに何故そこまでのことがわかるかといえば、ある理由がある。何故といって彼自身、惑星ロッシーニから難民として避難してくる過程で、いかに苦労して本星エフェメラへやって来たか……それは一言で言えば、自分たち家族がラッキーだったからに他ならない。そうでなければ、そもそも最初から滅多なことではエフェメラという場所は移民に扉を開くことはなく、さらには観光目的でやって来た人間のことさえも制限しているくらいなのだから。

 

「ですが、おかしいですね……それで言うと、ニディアは宙港エスタリオンあたりですぐにも逮捕されるとは考えなかったのでしょうか?それとも、その際には肉体をすぐに離れればいいという、そうしたことになりますか?……」

 

『わからんよ。彼女が死んでしまった今となってはな……だが、その結末から逆算して考えるに、ニディア・フォルニカの目的はここ、惑星シェイクスピアにあったに違いない。無論、真の目的についてなど俺にもわからん。何故といって、俺も一応色々聞いたりはしたんだぜ。だが、「最後だから死ぬ前にそのあたりのことを教えてやろうじゃ~ないか」というような、彼女は親切な人間じゃなかったもんでな。が、さっきのギベルネスから聞いた話から思うに、こう推察することは出来るんじゃないか?つまり、そこには彼女の仲間か、それに類するような精霊型人類が存在するということだ。我々人間でいうところの……言ってみれば疎開、亡命、他惑星移民といったところなんじゃないだろうか。彼らの種は固有の肉体を持たないから、目に見えない形で潜伏できるという意味では、移民する惑星のほうは何もここ、シェイクスピアじゃなくても良かったはずだ。だが確かに、我々地球発祥型人類に復讐する拠点としては、発見されずらく、遥か彼方にあって肉体を持ち、時空の力に縛られざるを得ない我々がそう簡単に行き来も出来ないという意味では――うってつけの場所だったのかもしれない』

 

(いや、おそらくはそれだけではないという気がする。彼らは、我々地球発祥型人類などより遥かに賢い種なのだ。我々が思いつくそんな理由などより、もっと崇高な理由があるのではないか?)

 

 ギベルネスが感じたそのようなことは、ユベールにしてもまったく同じように感じていたらしく、彼もまた、まずその点を指摘してから次のように言った。

 

『だが、もうひとつ――もし彼らが我々地球発祥型人類に復讐することに拘泥していたとすれば、だ。もっと下等な理由というのも存在する可能性がないでもない。つまり、その進化の過程が地球人類にそっくりの惑星シェイクスピアの人間たちに憑依し、彼らの科学技術水準が普通では考えられぬほど速く成熟するよう導き、本星エフェメラを敵として死力を尽くして戦うといったようなことだ』

 

「そうでしょうか。私は、やはり彼らには何かもっと他に目的があるのではないかという気がします。たとえば、ニディアがそこまでの危険を冒してもいいと判断するほどの……」

 

 ここで、宇宙船カエサルのほうでは、隣のメインブリッジのほうからガシャーンという大きな音がしたが、コリンはそちらへちらと視線を走らせると、異変のないのを確認した。ここでひとりで暮らすようになってから、しょっちゅう似たことが起きている……そもそも、ガシャーンというような花瓶が割れるような音のする物自体、隣のメインブリッジにはないのだ。だが、コリンは毎日、似たような現象によって睡眠を邪魔されていたし、目に見えないがそのようにいちいち存在を伝えてくる彼らを、どう扱っていいかもさっぱりわからないのだった。

 

『とにかくさ、今俺とあんたが話してるようなことはあんたがこっちへ無事戻って来てから、いくらでも時間を費やして討論するとしようぜ。俺はロルカのおやっさんと同じく、見た目通りの年齢ってわけじゃなく、今まで色んな惑星に諜報員として派遣されてきた……命の危険を感じたのなぞ、それこそ一度や二度じゃない。だが、今回ほど不気味な任務は初めてなんだ。俺は、宇宙飛行士や情報諜報員の試験にもパスできたくらい孤独ってものには耐性がある。その俺をして、ここ宇宙船カエサルからはなるべく早く逃げだしたいと感じてるくらいなんだからな。いや、実際のとこ、神経が参りはじめてるくらいだ……ギベルネス、遭難したあんたもこうしてこっちと連絡取れて嬉しいかもしれんが、そんなの、俺だって同じくらいそうなんだってこと、覚えておいてくれ。だから、俺としては一刻も早くあんたにカエサルへ戻って来て欲しいとはいえ、あんたのほうの事情って奴もよく理解してるつもりだ。つまり、この場合の一刻も早くってのは、実際には結構時間がかかるにしても、なるべく努力して短めに頼むって意味なんだ』

 

「ありがとう、コリン……いや、ユベール。アルダンやダンカンがいたら、こうはいかなかっただろうけど……あ、違うんだ。これはそういう意味じゃなくて……」

 

『わかってるさ。俺は任務柄な、電波系の天然キャラを演じることで、ギベルネス、あんたや他の惑星学者とはある一定の距離を取ろうと最初は考えた……そうだ。言い忘れてたけど、ロルカがマルタン・マルジェロの元首領であるニディアに、そのことを自分は知ってるんだぞと言って脅迫したというのは――おやっさんが勝手にやったことであって、実は俺自身のシナリオにはなかったことなんだ。ただ俺は、おやっさんに向こうが不審な動きを見せるまでは、ただ注意して見張っておいたほうがいいと命令しておいたんだ。ところがあのザマだろ?俺はさ、ギベルネス、あんたやロルカのおやっさんのファイルだけじゃなく、アルダンやダンカン、ノーマンの過去の経歴について記された調査書についてもよく知った上で、誰からも距離を置き、これからこの宇宙船カエサルで何が起きるかを観察しようと考えていた。何分、任期は五十年もあるからな……もっとも、途中で様子のおかしくなった奴が先にコールドスリープに就かされるといったようなことはあるにせよ、その前に簡易の裁判というか、会議を開いて評決を取る必要はあるわな。また、その間相手がまだそこそこまともなら、自分の部屋に軟禁状態にしておいて、AIクレオパトラに見張らせておけばいいって話でもある。だが、すっかり興奮して頭がおかしくなってるという場合は専用の監禁場所が船内にあって、そちらへ囚人として収監してもいいってことになってるわけだ……俺は、ニディアがノーマンやダンカン、アルダンを殺したらしいとわかった時点で容赦するつもりはなかったし、何分相手は精霊型人類という得体の知れない存在なんだからな。その点を重々考慮して――俺は、対精霊型人類兵器を使用する可能性も頭に入れておいた。だが、そうした追い詰められた状況にはならなかったんだ。アルダンはダイヤモンド並みに義手の硬度を上げたニディアに腹を抉り殺されていたが、まあ脳さえ無事ならな……いや、この話はあとにするとして、俺がイレイザー銃を構えて照準を合わせると、意外にも彼女はすぐに武器を捨て、降参するように両手を上げたんだ』

 

「それで、どうなったんです?」

 

(対精霊型人類兵器だって!?そんなものまであるのか……)と驚くのと同時、元はニディアたちがいた惑星が侵略されたということは、当然目に見えぬ存在である彼らに勝利する鍵となる兵器があったのだろうことは、推理の帰結として当然のことでもあったろう。

 

 それと、ギベルネスは他にも気になることがあった。ロルカがハイエナジールームで眠りに就いているように、死亡しても完全に脳の細胞が死滅していなければ……まずは頭部を細胞レベルで修復し、意識領域や記憶領域さえ無事であれば――首から下の肉体においては替えの汎用パーツがいくらでも存在するのである。それが気に入らなければ、本星へ戻ってからでもオーダーメイドの肉体を発注すればいいだけの話でもあったろう。

 

『ニディアは、「殺したければ殺せばいい」と言ったんだ。「もう仲間がすぐそこまで迎えに来ているからな」と……わかるか、ギベルネス?もし俺が彼女を追ってきた諜報員でなかったとしたら、きっとこの女はこんな宇宙の果てにやって来たことで頭がおかしくなったのだろうと考え、すぐにも殺していたところだ。何より、自分の命を守るためにな……だが俺には、切り札として対精霊型人類兵器がある。それは、精霊型人類がその宿主としている物質や人間の器から離れるという時……姿を見ることが出来るというのが第一段階、それから奴らの活動を分子レベルで停止させ、破壊するというのが第二段階だ。一応、究極の選択を迫られた場合には抹殺するのもやむなし、という命令を受けてはいた。だがやはり、俺は出来るなら彼女を殺したくなかったんだ。人間としての彼女の姿が若く美しかったからではない。宇宙船で共に暮らすうち、何がしかの共感性が育まれたからでもまったくない。にも関わらず、俺はこの件については、自分たち地球発祥型人類のほうが間違っていて、超A級のテロリストグループであるマルタン・マルジェロのほうが正しいのではないか……という考えが根底にあったんだ。かといって、自分がニディアに殺され、二度と甦ることのない肉体に成り果てるというのはなんとも割が合わんからな。俺が迷っていると、彼女は言った。『なあ、ここはひとつ、取引をしないか?』と』

 

「…………………」

 

 ギベルネスは一度黙り込み、暗闇の静寂の中で小蝿の話を聞き続けた。最初は不気味でしかなかった地獄の庭園も、今は何も気にならなくなりつつある。それは夜明けが近いせいでもあったが、急に――彼は何かわかる気がしたのだ。あの占い師の館の老婆から感じた、あの憎しみにも近い悪の色の波動……だが、今のユベールの話を聞いていて何かを理解した気がした。相手が地球発祥型人類だというだけで、彼らの憎しみがいかに暗く、絶望の色によって塗り固められていったのかを。

 

『「実はわたしは、ここへ死ぬためにやって来たんだ」と、ニディアはそう言った。「そうだな。ある程度おまえら頭の悪い地球発祥型人類のために翻訳して説明するとしたらば、だ……簡単にいえば、わたしはもう切りのないテロ活動というやつに疲れたのだ。一応、仲間たちのことも説得しようとはした。だが、説得するのは不可能だったのだよ。そこでわたしは単身、惑星シェイクスピアを目指すことにしたわけだ。審査書類のほうに不備はなかったはずだが、これは当然危険な賭けでもあった……わたしはな、おまえら銀河諜報員とやらが、わたしのことをまずは泳がせるのではないかと算段した。無論、おそるべき完全死、存在の消滅という可能性も考慮には入れておいた。だが、先に忠告しておくぞ。もしここでおまえがわたしを殺せば――すぐ近くまで来ている仲間が、同じように『こんな死に方だけは絶対に嫌だ』という方法によって、おまえのことを必ず抹殺する。あるいは、脳だけ生かしておいて永久にいたぶるという、おまえらお得意の精神拷問に貴様のことをかけるという方法もある。どうだ、理解したか?今、わたしはこうして降参のポーズを取ってはいるが、我々の関係性は決してイーブンではない……」俺は、ニディアと名乗る女の言った言葉の意味を正確に理解した。そこで、彼女に照準を定めていた銃を下ろし、今度は自分のほうが両手を上げ、降参のポーズを取ることにしたわけさ。「だが、先に聞かせて欲しい」と、俺は言った。「何故、アルダンやダンカン、それに君に好意を抱いていたらしいノーマンのことも殺した?ロルカのことは一応理解できる……彼にも悪い部分はあっただろうということもな。それに、同じ殺すにしても方法ってものがあるだろう?君たちの地球発祥型人類に対する憎しみの深さについては、ある程度は理解する。だが、彼らは君の惑星へ攻め込んだ人間でもなんでもないだろうに」とね。すると、彼女は笑っていたよ。さもおかしくて仕方ないとでもいうように……「おまえも可哀想な奴だな。これから先も決して霊的真理に目が開かれることなく、迷妄の道を視力がない者のように手探りで歩いていくしかないのだろう、という意味でな。銀河諜報員という奴らは、最初は我々超A級テログループを滅ぼすことこそ正義と信じてのこのこやって来るらしいが、自分たちがただの思考機械の細胞のひとつでしかないということをまったく理解していない。ようするに、ただの替えが利く捨て駒だということだよ。わたしは今、おまえに対してたぎる憐れみを感じてさえいる――ダンカンとノーマン、それにアルダンが死んだ、というよりわたしがなんの良心の呵責もなく殺せたのは、ある程度理由あってのことさ。その程度の生命価値しかなかったから、というな。だが、貴様らには今後ともわかるまい。すべての人間の価値は平等だのいう建前を振りかざしながら、実際には序列をつけ、支配階級と被支配者階級とに分けることから逃れられぬ運命のおまえらには決してな……その中でも、ギベルネス・リジェッロは比較的人間として生きる価値があるようだとわたしは判断し、ゆえに彼のことは逃がすことにした。が、となるとどうなる?ここでわたしに殺されずに惑星シェイクスピアへ逃れられただけでも御の字――ということが彼にはわかっていないのだからな。ユベール・ランバート、おまえが今生きている理由も、わたしが憐れみをかけ、おまえを殺さぬ理由もすべてそこにこそある。転移装置については、向こうと宇宙船のこちら側と、両方で操作せねばならんものだからな」……なあ、ギベルネス、事はそういうことなんだよ。ニディアがあんたと仲良くしてたってのはさ。これは俺も噂で聞いたことに過ぎないんだがな、精霊型人類というやつは、地球発祥型人類に憑依するという時、ある程度相性ってやつがあるらしい。つまり、彼らの主観による判断で<穢れが多い>と判断されたような人間は、憑依することなぞ論外ということになるだろう?だが、そんな中で気に入られる地球発祥型人類もいるわけだ……簡単に言えばあんたがそちら側の人間だったから、俺の命も瞬殺されずに済んだということ、先に礼を言っておくよ』

 

「そんな……いや、わかりません。ニディアはおそらく、私の母星であるロッシーニが隣の兄弟惑星に攻め込まれ、私が難民になって苦労したことから――その点に同情したのかもしれませんよ。なんにしても、その後彼女が自殺したというのは一体どういう意味なんです?」

 

 ギベルネスはその点が一番気になっていた。もしニディアが精霊型人類であるというのならば、自殺しても彼女の本体である精神体それ自身は生きているということになる。そしてその後、一体どうしたというのだろうか?

 

『つまりな……今、ニディアの死体自体は、宇宙船の近くに今もぷかぷか浮かんでやがるんだよ。俺も一応聞きはしたのさ。同じ死ぬにしても、その死に方には何か意味でもあるのか、と。だが、とにかく彼女は「自分の言ったとおりにしろ」といったようにしか言わなかった。わかってくれるか、ギベルネス?俺は何もニディアに、マルタン・マルジェロの元首領に、「仲間がすぐ近くまで来ている」といったように言われたから、突然身近にいるかもしれない幽霊的存在に怯えだしたってわけじゃないんだ。どちらかというと、その種の話には懐疑的な質でな……だが、ちょうどその頃からなんだ。「もし滅多なことをしたらどうなるか、わかっているな?」とばかり、ちょっとした怪奇現象のようなことが頻発しだしたのは。AIクレオパトラの再起動を試みるのは自分が死んでからにしろ、というのに、俺は当然聞き従った。何故といって、あちこちの電気が点いたり消えたり、その際に空中でラップ音的なものがしょっちゅう鳴るわで……俺にしてみりゃそんなもん、「他の電源だって落とそうと思えばそう出来るんだぞ」という脅しのようにか思えなかった。そして、そんなことが出来るということは、他のエネルギー供給源を根本から絶つなり故障させることも彼らにはお茶の子さいさいだということになるだろう?ニディアは最初の頃こそ雄弁だったが、その後はめっきり口数も少なくなって、自分の自殺の方法を冷静に俺に指示しだしたんだ。自分が宇宙服を着用して外へ出たらエアロックを閉めろ、とね。俺は訳がわからないなりに言うとおりにした……そのあと、彼女は自分の頭をレーザーガンによって射抜いたんだ。遺体を回収しようかとも思ったが、やはりやめておいたよ。そんなことをしてもし宇宙船のほうへ戻って来れなかったとしたらどうする?そんな恐ろしい孤独と死の恐怖のことを思い、俺は毎日、なんとなくニディアの宇宙服を着た遺体の浮かんでるほうをモニターでチェックする。なんでかな……本当は見たくもないんだが、かといってそこからなくなっていたらなくなっていたで、俺はそこに何か凶兆めいたものを感じる気がするってのは……』

 

「すみません……そんなことが起きているとは露知らず、実は私はあなたたちのことを恨みはじめてさえいたんです。アルダンやダンカンが宇宙船の食堂で『ギベルネス?あんな間抜けな奴、探す手間をかけるだけ無駄だ』といったように話す夢まで見たことがあります……でもユベール、起きたことのつらさという意味では、あなたのほうがよほど大変だったでしょうね。とはいえ、私がこちらでなすべきことをすべて終えてそちらへ戻れるまでには、まだまだ時間がかかりますし……」

 

『ああ、わかってるよ。精霊型人類というやつには決して逆らわないほうがいい――それが、俺が今回得た一番の教訓なんだからな。何分これから先、俺はあんたと大体のところいつでも連絡を取りあうことが出来ると思う。実際のとこ、こいつは大きいぜ。AIクレオパトラの擬似人格としゃべってるなんていうんじゃ、俺の孤独は紛らせないからな……ほんと、今ほどこんなにほっとしたことは、俺の長い諜報員人生でもないくらいなんだから。まったく、これまで色々な案件を手がけてきて、「精霊型人類?そりゃなんだかちょっと面白そうだ」なんて思っちまったのが運のツキという奴だ。なあ、ギベルネス、あんた――こっちから持ってきたものの中に、強力な磁場障害か電波障害を起こさせるものがあるんだよ。ニディアは時計に細工をしたと言っていたが、今もそれ、どこかに隠し持ってるだろ?』

 

「え、ええ……ボロっちい麻のズダ袋を二重底にして、そちらにここの惑星の現地人に見られてはいけないものをいくつか収納してます。時計といえば、父からもらったのがあるんですが、それに細工するといっても、私はカエサルにいた頃から、ほとんど自分の身近に置いていましたし……」

 

『転移装置が作動しなかったのはそれが原因らしいぜ。思いだしてくれ、ギベルネス。さっきあんたがベッドから起きたら、体のまわり中虫だらけだったのを……俺はな、衛星画像から見てあんたを発見したと思った時、気が狂うかというくらい喜んだんだぜ。ところが、虫の触手かなんかであんたをくすぐって起こそうかと思ったってのに、近くまでいくとバシッと何かに弾かれたみたいになってバッタリよ。しつこく何十匹もの虫をそちらへ向かわせたが――こいつらはいくらでも自動複製が可能だから――ぐっすり眠ってるあんたは少しも起きるような気配を見せやがらねえ。俺が最後、ふらふらしながらもあんたに話しかけることが出来たのは、あんたが寝ていたベッドから起きて、少しくらいは電波障害を起こすものから離れたからだ。それがわかったらギベルネス、持ち物の中から心当たりのある時計のほうを始末してくれ』

 

「そ、そうだったんですか……ズダ袋のほうは実は、ベッドの下のほうに隠しておいたんです。じゃあ、本当にそのせいだということですね。でも、参ったな。あんな精巧な時計、一体どこへ捨てたらいいのか……」

 

 誰かの目に触れた場合、当然「これは一体なんだ」ということになるだろう。土に埋めても何かの拍子に掘り返される可能性があり、海へ捨ててもどこかに打ち上げられる可能性はゼロではない。バラバラにして、それとわからぬ形で分解して捨てるしかないということだろうか?

 

『戦死した父上殿のくださった腕時計ということなら、方法のほうはあんたに任せるよ。もちろん、忍びない気持ちはよくわかる……だが、もう二度と電磁波的なものに阻まれてあんたに話しかけられないとか、そんなふうになるのはご免なんでね』

 

「わかっています……父もきっと、理解してくれるでしょう。まあ、私が医大を卒業した時に、記念のプレゼントとしてくれたブランド物なんですが、実際のところ仕事中は邪魔になるしで、ほとんど着用したことはなかったんです。ただ、父のそうした気持ちが嬉しかったというそれだけでね。さてと、そろそろ夜明けが近くなって来ました……あの大量の虫連中も始末しなけりゃなりませんし、話のほうは一旦切り上げたほうがいいかもしれません。先ほども申し上げましたが、私はなんとも気の進まないことに、次は<東王朝>へ旅をし、<死の谷>と呼ばれるところまで行かねばならないそうですから……でもユベール、あなたと連絡がついて本当に良かった。実は私はつい先ほどまで、完全に遭難したとわかってから、これほどの気の落ち込みを感じたことはないというくらい鬱屈として絶望してたんです。でもそんな気の落ち込みも、あなたの絶望に比べたら――耐え忍ぶのが少し楽になりました。何より、元の世界へ帰れる望みがある、という意味でもね」

 

 元の世界へ帰ったところで、知っている人間はみな死亡している可能性が高いというのに――別の意味での絶望を味わうだけかもしれないのに、それでも自分は今喜んでいるのだ……と、ギベルネスはそう思って少しばかり不思議になる。

 

(いや、単に私は知りたいだけなんだ。その後、母星ロッシーニがどうなったか、戦争の終結ののち、どう様変わりしたのか……妹はどんな人生を送ったのかといった、そうしたことを。それに、もうひとりのクローディアが結婚して幸せだったかどうかということや、彼女の子孫に会うことは可能かどうかといった、そんなことを……)

 

『そうだな。俺のほうは俺のほうで、実はあんたほど自分は不幸じゃないのかもしれない……と思ったりもするんだぜ』と、小蠅は小さく笑って言った。『まあ、これからも俺は蠅か蚊の姿に身をやつして、ギベルネス、あんたのあとについていくよ。服のどっか隅っこにでもくっついてさ。それでもしあんたのほうで必要なことがあれば、いつでもこっそり話しかけてくれ……もちろん、誰もいないところでな。そしたら、現在地が今どこで、目指す目的地の正確な地図なんかも表示することが出来ると思うし、カブト虫タイプのインセントでちょっと先のほうを偵察するとかさ、俺に出来ることはなんでもするよ』

 

「ありがとう、ユベール。力強いし、本当に助かります……でも、本当のことを言ってもいいですか?私はたぶん……あなたが今後、なんの役に立ってくれなかったとしても、ただ虫の姿としてそばにいてくれて、時々相談に乗ってくれるというだけで、その度に泣きだしたくなるほど感謝すると思います。実際、このまま一番近い場所にある基地目指して帰りたいくらいですよ……とはいえ、そういうわけにもいかない以上、あとはこの惑星における自分の任務というものを果たすのみといったところです」

 

『ああ、がんばってくれ。ようするに、簡単に言えばそのハムレット王子ってのが王さまになるのがゴールってことだろ?まあ、そんなゲームのエンディング目指すみたいにうまくはいかねえだろうし、時間もかかるだろうが、唯一希望の持てる可能性としてはな……こんな緊急性の高い非常事態が起きてしまった以上、俺たちはすぐ帰れる可能性が高いってことさ。五十年も任期を務めたところで、他に協力できる惑星学者もいないわけだからな。そう思えば、「つらい」とか「もうやだっ!!」て時にも気力を振り絞ることが出来るかもしれないだろ?愚痴のほうなら、これからはいつでも聞くからさ』

 

「そうですね。まあ、そうとでも思ってがんばることにしましょうか」

 

 ギベルネスは大理石の噴水の縁から立ち上がった。東の空が曙光によって染まりはじめている。それと同時に、暗闇に包まれていたはずの地獄の庭園にも光が差しつつあった。アーチ型のくぐり戸のところには必ず、悪魔や鬼が不気味に大口を開けている様が描かれているが、ギベルネスは今はもうそれらを怖いものとは思わない。そこここにあるグロテスクな石の彫刻像も、夜明けとともに人に恐怖を与える力を失ったようですらあった。横笛を吹いている悪魔の彫像など、ある意味滑稽で可愛気のあるようにすら見えるほどだ。

 

『ま、物は考えようだっていうものな』

 

 ユベールは蠅として、蓮池から漂う泥の匂いに惹かれたとでもいうようにそちらへ行き、三椏の矛を持つ悪魔の像を観察するように一回りしてから、戻って来て言った。

 

『こういう気味の悪い像ってのはさ、魔除けにもなるって言われたりするだろ?この庭園にだけ魔の者や悪い瘴気的なもんが集うかわり、城の他の部分は霊的にすら清められる――だの、なんかそんなふうにポジティヴシンキングに考えりゃいいんじゃねえの?別の意味ではさ』

 

「確かにそうですね」

 

 ギベルネスもくすりと笑った。彼は彼なりに、今までそのポジティヴシンキングの精神を出来るだけ発揮するようにして、この遭難した惑星で過ごすよう心がけてきたつもりなのだ。だが、そのギベルネスを持ってしても、昨日は落ち込んでいたというのに――夜明け前がもっとも暗い、などという言葉なぞクソ食らえだという気分だったというのに――今は、もっともつらい試みの期間を終えることの出来た修行僧のような、清々しい気分で朝陽を迎えようとしている。

 

「まあ、なんとかなる……なんていうふうには、私は普段あまり思わないほうなんですがね。小蠅のお陰で今はすっかり普段の思考法まで変わってしまったような気がしますよ」

 

『そうそう、その意気だよ、ギベルネス!!』

 

 ふたり――いや、ひとりと一匹は、こうして地獄の庭園をあとにすると、マリーン・シャンテュイエの城内に入ってからは、お互いすっかり無口になった。ギベルネスはまず、不気味な昆虫たちをシーツにくるむと、地獄の庭園のほうへ再び戻ってきて、あやしまれないような場所に捨てたり埋めたりした。他に、時計のほうも金槌でバラバラにしたが、ベルトの部分や部品のほとんどは麻のズダ袋の底に仕舞い込むことにしたわけである。見ると、精密な時計の動作自体には関係しない形で、本当に小さな浅葱色に輝く石があったのだ。実際、その石を見つけた時、金槌で時計をバラバラにしてしまったことをギベルネスは後悔した。小型ドライバーで背面部分のネジを外すなどして、この小石のみ取り除けば良かったのだろうから、時計自体を惜しむというより、亡くなった父に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

『そりゃたぶん、俺たち諜報員や軍部の特殊隊員が敵側のレーダーなんかを狂わせたりするのに使う、ジャミング石の一種だろうな』

 

「こんな小さな石粒で、転移装置がダウンするものでしょうか……」

 

『転移装置ってやつは、そのくらい精密なもんなんだよ。あんたという人間をスキャニングして、人間としての肉体のみならず、身に纏っている衣服その他、バッグの中身なんかもすべて――決められたAという箱から次のBという箱に移動する際、スキャン出来ないもの、してはいけないとコンピューターが判断したものは、それが0.00001グラム程度のものでも、弾かれてしまうんだ。普通ならそういう時、着ているものか何かにそうしたものが付着しているだろうと考え、最悪裸の格好で何も持たずに転移装置に入るのが一番安全ということになるわな……今考えてみりゃ、最初からそうするのが一番安全だったんだ。だが、パワーダウンまでしたとなりゃ話は別ってことにあの時はなったんだものな』

 

(いや、もしかしたらそもそもすでに最初から、あの場所には例の精霊型人類というのがいたのかもしれない……)

 

 だが、ギベルネスはあえてその可能性については口にしなかった。もしそうだったら自分は遭難せずに済んだのにだの、あったかもしれぬ可能性について今さら検討したところで仕方がない。

 

 そしてこの時、ギベルネスとユベールが、可能性としてゼロではない、いや、むしろ大いにあることかもれしれないと想定すべきこととして――とっくにそのことに気づいていながら、あえて口にしなかったことが他にもある。つまり、精霊型人類というものは、肉体を持つ人間の視力には感知されないし、目に見えない。そして、ユベールは宇宙船カエサルにて、監視のためと彼は想定しているが、もっと別の目的があるかもしれない精霊型人類と暮らしている……それがもし二体以上存在した場合、ギベルネスとユベールのそれぞれに憑依し、ふたりが殺し合いを演じ、完全に死亡してのち、その二体の精霊型人類は離脱。宇宙を遊泳して再び惑星シェイクスピアへと戻っていった――ということは、まず真っ先に考慮されるべき懸案事項ではないかということを、ふたりは気づいていながら、今はまだそのことは口にすべきでないとして、あえて話し合わずにおいたわけである。

 

 

 >>続く。


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