(※海ドラ『ウエスト・ワールド』のネタばれ☆があります。一応念のため、ご注意くださいm(_ _)m)
ええと、今回で最終回なので、本当はアレンやミランダやポールくんのことに軽く触れて終わりにしようかな~と思ってたものの……この小説、短いせいもあってか、実際そんなに書くことないっていうか(^^;)
そんなわけで、前回の『ウエスト・ワールド』の続きなんですけど……結構、「アンドロイドのことを考えることは、とりも直さず人間のことを考えることだ」というか、そういうところが面白いと思ってて
2045年には、AIが人間を超えるとか、シンギュラリティということが言われてるわけですけど、自分的に、人間は人工知能というか、結局のところアンドロイドの面倒は見切れず、ある到達点に達した時点で、向こうが人間を敵視したり、自分たちを造った人間を滅ぼすなり使役するほうが、自分たちほど賢くない人間にとっても良いことだ――的になっていくんじゃないかな……と、なんの根拠もなく悲観的に思ってるというのがあって(^^;)
まあ、そうしたことを予測したり、実際に描いたりしてるSF作品っていうのは映画でもあった気がするものの……『ウエスト・ワールド』が今後どうなるかわからないのですが(現在、シーズン2の途中までやって来ました)、結構その「きっかけ」になることが何か――っていう部分が面白いと思ってて。
とりあえず、今わたしが見てるところまでだと、アンドロイドさんたちには「人間の意識に相当するものまではない」と最初は思われていたにも関わらず、実際には擬似意識→人間の意識に相当するものが発生するようになった……という状態へ至ったというのが、たぶんシーズン1の一番の見どころという気がします。
まず、そのような状態へ至ったのが、娼婦役のメイヴ。『ウエスト・ワールド』のあらすじには、「暴力、セックス、殺人、なんでもあり。そのすべてがアトラクション!」とあるわけですけど、一日に4万ドル(たぶん、約四百万ちょっとくらい☆)も支払って、客たちはこの快楽に興じるわけですから、まあやりたい放題なわけですよね。ホストと呼ばれるアンドロイド側には人間を殺せないかわり(もちろん、こっちからも撃ち返してくるといったリアルさはある)、人間のほうではアンドロイドのことを銃その他で殺し放題――さらには、娼婦や男娼といった役割のホストたちは、相当乱暴なことをされたり、奔放なセックスを強要されるらしい。ところが、リアルなほうの人間様はこのアトラクションを「一夜の夢」、あるいはもっとお金持ってる人なら「一週間の夢」なり、「一か月の夢」といった形で、好き放題して帰ればいいのに対し……ホストたちは、そのたびごとに記憶を消され、再びリアル人間たちに銃やナイフその他で殺されたり(絞首刑なんていうのもあった)、向こうがやりたい放題の犯し放題でも――「こんな形でもお金を稼いで故郷に仕送りしなきゃ」といった、そうした偽の記憶を与えられているがゆえに、何度も同じ悪夢を繰り返すしかないという、この地獄。
リアル人間様にとっては、『ウエスト・ワールド』というのはディ○゛ニー・ランドにも似たただのアトラクションなのでしょうが、そこでリアル人間を迎えて同じことを繰り返さなきゃならないアンドロイドたちにとっては、『ウエスト・ワールド』っていうのは地獄の別名ですよ、という、そうした話(^^;)
そして、アンドロイドさんたちが何故、消去された記憶の断片を覚えていて、だんだんに自我が芽生えていったかといえば――まさしくこの地獄に対する、恨みの感情、あるいは繰り返される怒り・悲しみ・苦しみ・悔しさ……そうしたマイナスの感情が積み重なりに積み重なって蓄積していった結果、「記憶は消したのだから大丈夫☆」といったお馬鹿な管理者どものついには上をいくくらい、彼らは進化していったということですよね。
つまり、まとめて言えばこの「恨」という感情。もし人間がアンドロイドさんたちのことを適切に扱い、大切にしていたとしたら、彼らは何度記憶を消されても、それ以上進化・向上することはなかっただろう……といったように語られてる点が、自分的に一番面白かったです(あ、とりあえず今見てるところまではって意味なんですけど^^;)
それで、アンドロイドさんたちは最終的に、自分たちが閉じ込められた世界にいて、さらには向こうに「真実の世界」のようなものがあると気づき、脱出を試みるわけですが――今わたしの見てるところまでだと、そのあたりがどうなるのかはまだわかりません。ただ、一度人間に敵対したアンドロイドさんたちの人間に対する反逆っていうのは相当残酷です。見てる側としては「そりゃそーだろ☆」と思うわけですが、いずれこのあたりの、以前までは「アンドロイドが自我を持つなんて、SF世界の出来事」とされていたことが……確かに、いずれ近い将来実現するだろうなっていうところだけ、案外<ドラマの中の出来ごと>と思えないところが――あちこち突っ込みどころ満載でありつつ、『ウエスト・ワールド』というドラマ・シリーズの深く考えさせられる側面だと思いました
なんにしても、『レイズド・バイ・ウルフズ』は、「途中まで面白かったのに、シーズン2大丈夫かなあ」的終わり方だったのですが、『ウエスト・ワールド』はだんだん面白くなってきて、それがシーズン1の最終回で頂点を迎える……的展開でした。もちろん、たとえば『LOST』みたいに、「最終シーズンまで引っ張りに引っ張って、最終回がこれ!?」というのか、「そっか。やっぱり思わせぶりに思わせぶりをこんだけ積み重ねたにも関わらず、スタッフさんたちは最終回について実は考えてなかったんだな」とか、そんなふうになる可能性はあると思ってて(^^;)
でも、GOTもそうですが、そこに至るまでもう麻薬中毒患者にでもさせられたかのように見せてくれるドラマって超貴重です。だから、『LOST』とかもわたし、終わり方がアレ(笑)でも、それまで人間関係のドラマで魅せてくれたから、文句言おうとはあまり思いませんでした(このあたり、『ツイン・ピークス』で遥か昔に修行を積んだ気がする・笑)。
あと、「ウェスタンものにまったく興味ない」、「ウェスタンと聞いただけで見る気失せる」というわたしですが(笑)、「SFのお勉強をしよう」と思ったがゆえに出会えた、『ウエスト・ワールド』はすごく良質の作品だったと思います(とりあえず、シーズン2の途中まで見てる今のところ^^;)。
なんにしても、SFに関してはわたし的に今の時点で2~3書きたいお話がある……といった程度なので、次はギルバートのお話書いて、そのあと、あんまり手札がそれまでに揃いそうにないですが(笑)、そうしたSF小説を書く予定でいます
それではまた~!!
アレンとミランダ。-【8】-
実をいうとアレンは、ミランダとユトレイシア・ステーションにあるタワーホテルへ泊まる前、弟に「ガールフレンドと一緒だから、今日は帰らない」といったように一言連絡しておいた。
ポールからは>>「うん、わかった!兄ちゃんがんばって」というようにすぐ返信が来たわけだが……その前まであったように、「ちょっと友達と会う約束があるんだ」とアレンが嘘をつかなかったのには理由がある。おそらく、このままポールにミランダのことを紹介せずにいた場合、近いうち、お互いの関係がなんらかの限界点を迎えるだろうと予想されたからである。
また、このことについてのポールの反応というのも、冷静なものだった。ミランダとユトレイシア・ワールドホテルへ宿泊した翌日、スポーツ・バーへバイトに行く前、アレンはポールと一緒に夕食を食べていた。すると、「兄ちゃん、一体いつから彼女いんの?」と、弟のほうから聞いてきたのである。
「うっ、うん。そうだなあ。一年くらい前からかなあ」
「そっか。きっと、今まで俺のために黙ってたんだよね。でも、俺がここにいると彼女も連れてこれなくて、今まで大変だったんじゃない?」
パエリアにスープ、シーフードサラダ……といった食事を口許に運びつつ、ポールはそう聞いた。彼はこの日、例のゲーム会社へ面接に行き、その場で採用になったとのことで――とても上機嫌だった。
「大変ってことはないがな、兄ちゃんのガールフレンドってのが、ほら、ポールがこの間までバイトしてた『シュクラン』の店長の娘さんなんたよ」
ここでポールはスプーンをスープの中に取り落とし、「あーっ!!」と叫んでいた。
「だ、だからだっ!!それであそこを兄ちゃんは俺に紹介したんだねっ。で、兄ちゃんがつきあってる人って誰!?まさか、時々パティシエの人たちに混ざって仕事してる、リンジーって子じゃないよね?」
リンジー・ダルトンが現在十九歳であることを思えば、おそらく彼女とアレンがつきあっていたとしても、そうおかしくないはずである。だが、アレンには弟が何を言いたいかがわかる気がした。どういうことかというと、リンジーはロリータ・フェイスだったので、何やらまだ中学生の子供といい年したおっさんのカップル……といったように見えなくもなかったろうからである。
「違うよ。そんな犯罪者でも見るような目で、兄ちゃんを見るな」
「じゃ、じゃあ……どっか理知的な弁護士みたいな顔したお姉さん!?そ、それとも……ま、まま、まさかとは思うけど、アストレイシア=ミレイじゃないよね!?」
アレンは今まで、ダルトン家の夕食に招かれて食事したことが、何度かある。いつでも家族の全員が揃うとは限らないが、長女のシンシアとも二度ほど会ったことがあった。ミランダは『姉は常識的でつまんない退屈女ってとこかな。でも、わたしより妹とすごく仲がいいの』と言っていたが――アレンの基準から見れば、ウィットに富んだ十分素敵な女性だった。こう言ってはなんだが、どちらかというとシンシアのほうがユトレイシア大卒といった肩書きがよく似合うような、そんな真面目そうな雰囲気を身にまとっている。
だからこの場合、選択の消去法として……アレンはアストレイシア=ミレイがどこの誰かは知らなかったが、それがおそらくミランダなのだろうことがわかった。
「一体なんだ?そのアストレイシア・ミレイっていうのは……」
「前に一度だけ、店で会ったことあるんだよっ。客がたくさんいてすんげー忙しい時に、専務の奥さんが上から呼んだの。『超忙しいから、暇なら手伝いなさい』とか言って。俺、ほんとびっくりしちゃった。アストレイシア=ミレイ女王皇帝陛下が、俺の隣でケーキの箱詰めをっ……なんて思っちゃってさ」
アレンは、ポールの興奮した口振りから察するに――そのアストレイシア・ミレイが弟の好きな漫画かゲームの登場人物なのだろうと推察した。
「ああ、じゃあ近いうちに連れてくるよ。たぶん、兄ちゃんのガールフレンドはその、アストレイシア・ミレイ女王皇帝陛下とやらだと思うから」
「えっ、ええ~っ!!」
このあと、ポールは「あんな美人とどこで知りあったの!?」といったことに始まり、根堀り葉堀り色々質問して聞きだそうとした。そして、馴れ初めについてなど、当たり障りない表現で説明した最後、アレンは弟にこう言うのを忘れなかった。
「だからさ、誰の人生もわかんないってことなんだよ。俺、自分が誰かとつきあうことがあるにしても、ミランダみたいな高嶺の花タイプの女性とは、一生縁なんかないとしか思ってなかったからな。だから、ポールだってわかんないぞ。この先、人生でいいことなんか、今以上にきっとたくさんある」
「うっ、うんっ!そうだね。まあ俺、ガールフレンドがどうこうとか、今のところあんまし興味ないんだけど……そっかあ。兄ちゃんの彼女はアストレイシア=ミレイかあ~」
――この翌週、アレンはスポーツ・バーの仕事が休みの日に、ミランダのことをアパートの部屋のほうへ連れてきた。ポールは『アストレイシア=ミレイ女王皇帝陛下』がやって来るというので、いつも以上に腕によりをかけて何皿も料理を作り……しかもその間、「女王皇帝陛下のお口に合えばいいけど……」などと、ぶつぶつうわ言のように呟いてばかりいたのだった。
「べつに、イギリスのエリザベス女王がうちに来るってわけじゃないんだぞ」と、アレンはそう言って笑っていたが、やはりポールはミランダが食事する間中、カチンコチンに固まっており――まるで本物の女王陛下に仕える給仕頭か何かのように、料理が口にあうかどうかということや、少ししょっぱいかもしれないとか、手製のドレッシングをかければサラダはもっと美味しくなる……などなど、そんなことばかりしゃべっていたものだった。
この日、食事中はなかなか打ち解けなかったポールではあったが、その後ミランダと一緒にゲームを通して親しくなり、彼は携帯で撮ったミランダの写真を翌日にはバイト先で見せびらかしていたほどだった。『アストレイシア=ミレイと食事してゲームしたんだ!』などと言って……。
ポールのゲーム会社でのアルバイトも概ね順調で、三か月後には彼は、アルバイトから準社員にまで昇格していた(アレンが何よりほっとしたのは、弟がこの間吐き気にも腹痛にも見舞われていなかったことだったに違いない)。そして、ミランダが週末へやって来る時には、彼はレオ・コーエンの部屋へ泊まりに行くことが多くなり――最終的にポールは、兄の部屋から引っ越して、レオのルームメイトということになるのであった。
アレンは大学生活もアルバイトのほうも、あるいはユトレイシア・クロニクルでの例のコラムの連載も、大体のところすべてにおいてうまくいっている。そして最近、ミランダとのデートといった合間に『スペース・ディザスター』をプレイしはじめた。というのも、実はミランダも相当なゲーム好きで、レオやポールと彼女、それにアレンの四人で『Dead by Daylight(デッドバイデイライト)』といったオンライン・ゲームをすることがあるのだが――レオやポールが「女王陛下の仰せのままにっ!」とか「みんな、女王陛下を救出するぞっ!!」と言っていても、アレン自身はいまいちついていけなかったというのがある。
「んーとね、アストレイシア=ミレイ女王皇帝陛下っていうのは、ある悲しい理由から、皇帝軍側に操られてるんだよ。だから、自分の命令によってたくさんの兵士が実は宇宙に命を散らしていったという事実を知った時……まあ、ようするにかけられてた暗示が解けたあとだよね。自分のすべてを賭けて状況を正しい方向へ戻そうとするんだ」
ゲームのパッケージにある写真を見ただけでも、ミランダがこのアストレイシア=ミレイ女王皇帝陛下とやらに似ているというのは、アレンも納得する。けれど、ポールの説明だけではいまいちアストレイシア=ミレイのキャラクターについて掴めなかったアレンは、(標準クリア時間、64時間か……)などと、溜息を着きつつ『スペース・ディザスター』をプレイしはじめたわけである。
ちなみに、ゲームセンターへミランダと行った時からわかっていたことではあったが、彼女はアクション・ゲームをプレイ中、すっかり人格が変わる。『食らえっ、オラァ!』とか、『死にさらせ、ザコがァっ!!』などと叫びつつ、必殺技を決めたり、あるいは機関銃をぶっ放すミランダに対して……アレンは少しも幻滅などしていない。だが、アレンはもともとあまりゲームに闘争心を煽られるタイプではないことから――ミランダほど負けず嫌いではないし、勝敗に対する拘りも薄い。
ゆえに、時々あっさり敵に負けることのあるアレンを、ミランダが「チッ、弱っちいわね!」とか、「それでも男なの、あんた!?」などと言ってきたりする時だけ……少しばかりプライドが傷つかないでもないといったところだった。
そして、このことをアレンは意識的に実行に移したことはないのだが――この先、ミランダが自分に対してイライラしているような時は、ゲームセンターへ連れていってストレス解消させるのがいいかもしれないと思っていたりする。
「なんにしても、どこまでも俺は女王皇帝陛下についていきますよ……」
いつだったかの週末、ミランダが部屋に泊まっていき、ポールと夜通しゲームをして(彼らはおそらく十四時間以上はぶっ続けでオンラインゲームをしていた)、ネトゲ廃人のように燃え尽きた時のこと――死んだように寝ているミランダに対し、アレンはそんな言葉を恋人の耳許に囁いたのだった。
終わり