運命と出会う瞬間

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「あわのうた」のこと その1

2012年12月12日 11時25分07秒 | Weblog
 もう、何年前のことになるのだろう。
たぶん、15年はたっている。

チバラギと呼んでいた北総のニュータウンで
仕事と家事と両方で明け暮れていた。

銀行での待ち時間に手にした雑誌(文芸春秋だったかなあ?)の
グラビアがパラリとめくれて
モノクロで両ページいっぱいに旧そうな神社の全景が現れた
「こんなところがあるのねー、なんだかすごい」
と、目を凝らすと
「熊野本宮大社」と書かれていた。
熊野・・・どこだっけ、それは。
確か、那智の滝とかがあるところで
以前、大阪の祖母が、『あんなとこまではよういかんわ、遠い遠い山の奥やで、
京都や奈良とはわけがちがうわ』、と言っていたっけ。
そんなことを思いながら、遠い世界を垣間見た、と思った。

それから幾日もしないうちに
書店で、立ち読みをしていたら
背中合わせで読んでいた人が立ち去ったと同時に
バサッと後ろの棚から本が落ちる音がした。
振り向いたら、このあいだ、銀行で見たばかりのあの神社の写真と同じような
カラーの、神社の写真のぺージが開かれた状態で本が落ちていた。
拾い上げながら、文字を読むと、
また熊野本宮大社社殿、と書かれていた。
私にははじめての遠い地の神社の写真を二回も見るなんて
いまここが何か行事でもしていて注目されているのかな。。くらいに
そのときもそんなに気にはとめなかった。

けれど、それだけでは終わらなかった。
旧街道沿いに、一軒だけある古本屋でも
「見て!!」といわんばかりに背表紙が飛び出ていた本を
何だろう?と取り出したら「熊野本宮大社なんとか年記」とかだったり
毎月送られるDMが「春の紀伊半島」なんて特集で
またもや、あの写真が載っていたり
いまでこそ、こんな話をすると
「呼ばれたのねー」なんて、みなさんおっしゃるけれど
当時は、そういう世界とは縁のないところにいたし
そんな発想を私もしてはいなかったが
あんまり続くので
なんだか行って見たい気にもなるたびに祖母の言葉を思い出し
そんな地の果てみたいなとこ
休みもないのに行けっこないわ
と打ち消した。

(伊勢だの出雲だの岩木山神社だの。。とあたりまえのように巡っている最近のことを思うと、信じられないような当時だ。書いていてこの十数年の変化にあらためてビックリしてしまう。)

とうとう、すっかり春めいたある日
新橋に出かけた折に
めったに都内まで出ることはないので
みどりの窓口の前を通りがかったときふと
『行けるわけではないけれど
どうやったら行くのか調べるだけでも調べておこう』と
(当時はインターネットなんて使っていなかったのです。)
中に入り、いくつもある時刻表と用紙が置かれた台のひとつの前に行ったら
目の前の時刻表がすでに開かれて置かれていて
ページの見出しは和歌山・熊野、となっていて
分厚いそれは、名古屋からの近鉄ワイドビュー特急の時刻割りだったのを見て
観念して、
「行こう!!」と決めた。

いまの私のフットワークの軽さからしたら
あたりまえの強行軍だけれど
あのときは一大事。
ほんとうに、用意周到、覚悟も総動員して、ガイドブックを買い
自分でなんてやったことのない、旅の計画を練った。

なにが私を突き動かしていたのだろうかわからない。
一泊でどうやって帰ってくるか。
夜、東京からどこかまで辿りついておいて
翌朝、本宮まででかけなおさないとならない。
そして、女一人で一泊での宿をとるのがまた大変だった。
「女性のかたおひとりでは何かあっても困るのでお断りしています」
と何軒にも言われ、
とうとう、お仕事ですか?とか聞かれ、
「そうなんです」と答えてしまい、どぎまぎした。
毎朝、おかみさんがおまんじゅうを焼くという、川沿いの旅館で
ようやく予約ができた。

予定どおり名古屋からワイドビューで新宮に出て
最終バスでその旅館の前まで行き着けた。
ホッと安心して、翌朝の本宮行きのバスの時刻とバス停を確かめて
布団に入り、ガイドブックを復習して眠った。

いよいよ!!
あの本宮へ行くんだわ!
目が覚めて、そう思いながら
ゆうべはよく気がつかなかった
この旅館の部屋の隅々までの心配りや
旧いけれどよく磨かれた障子の桟や床の間の花を
布団の中でうつぶせになったまま
頭をもたげて眺めて、部屋に入る気持のよい陽射しに
わくわくしていたら
館内放送なのか、部屋の上のほうで
なにやら聞こえている
聞き取れないので
「あら、朝食の始まりが遅れるとかだとバスの時間だいじょうぶかしら?」と
耳をそばだてても、まだ、何を言っているかわからない
と、突然、
(誓って私は部屋に独りでした)
やわらかな男性の声、(ジェットストリームの城さんを少し低くしたみたいな)が
右耳のところで響いた。
「ホツマツタエ・・」
え?
「ホツマツタエ」
な、なに、なんで??
なんて言ってるの?
気味がわるいとか、こわいとか思っている暇もなかった
そういう感覚はなく、妙に覚醒して
布団に置いてあったガイドブックに
はさまっていたボールペンでとっさに書き込んだ
「ほ、ほ?ほつまつ たえ??」
声はもうしなかった。
部屋は、明るく日が射し込んでいて静かだった。
不思議な夢は、これまでに何度か見たことはあったけれど
起きていて、こんな声をきいたのははじめてだった。

   あー、長い、、、つづく。