内田樹の研究室というHPに、今回のコロナ騒動について、ある週刊誌のインタビューに答えた内容が掲載されていたので一部抜粋で紹介します。
「カネか命か」という選択においては「命」を選べというのが世の常識です。
まさか「命よりカネが惜しい」という人はいないので、ふつうはさまざまな説話が教えてくれるのは「カネも命もどちらもと欲張ると死ぬ」という経験則です。こんなことは究極の問いでもなんでもなくて、小学生でも即答できなければいけないことです。
ですから、自粛のせいで生活が立ち行かないという人に対しては政府はあれこれ言わずに十分な支援を行うべきです。他の国が当たり前のようにやっていることをどうして「矛盾」だと感じるのか、その感覚の方が僕には理解できません。
「命の選別」医療崩壊が発生し、限られた人工呼吸器を若者に回し高齢者を見捨てるという惨状が世界中で起きています。これは「弱い人を助ける」という人類の倫理を崩壊させるものです。
医療崩壊というのは、倫理の問題である以前に「医療資源の不足」という単純で物質的な問題です。「医療崩壊を起こさないために何をするか」というのは倫理の問題でも道徳の問題でもなく、純粋にロジスティックスの問題です。
ここでも同じように、医療崩壊という黙示録的事態をもたらしたのはロジスティックスの手抜きという日常的・散文的事実であるという前段が隠蔽されています。
「こんなことをしていたら、万一のときに医療崩壊が起きるぞ」ということについて警告を発していた人が現場にはいたはずです。しかし、それが無視され続けた。どうしてなのか、そのことをきちんと問う必要があると思います。
人工呼吸器が1台しかないところに患者が2人来たら、1人は死ぬしかありません。いくら倫理的正解を求めても、正解なんかありません。そんな問題について今「どうあるべきか」なんか悩んでも、仕方がない。それより「こんなことが二度と起こらないようにするにはどうしたらいいのか」を今から考えておく方がまだしも救われる命は多くなると思います。