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フィリピンの危機は日本の危機、 中国から南シナ海を守れ

2013-10-20 10:14:09 | 時評
フィリピンの危機は日本の危機、
中国から南シナ海を守れ

2013.10.17(木)  北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38926

アジア重視政策を強調していたオバマ大統領がTPP首脳会合やASEAN、それに東アジアサミットの全てを欠席し た。そのため、ケリー国務長官が派遣されてアジア重視政策を堅持する姿勢をアピールすることに努めたが、アメリカ大統領欠席の実質的影響(少なくとも東南 アジア地域安全保障における)は避けられないと、多くの東アジア安全保障に関与する米軍関係者の間で残念がられている。
米比同盟の強化に水を差すことに
 南シナ海南沙諸島に対する中国の領有権確保の行動が露骨になるにしたがって、海軍力ならびに空軍力が極めて弱体なフィリピンは、アメリカ軍による 強固なプレゼンスを再び求めるようになった。そのため、アメリカとフィリピンはかつてのようにスービック軍港にアメリカ海軍を常駐させる方向での具体的調 整を進めている。
 多くの米軍・シンクタンク関係者たちは、このようなタイミングでオバマ大統領がASEANや東アジアサミットで南シナ海の安全保障問題に対する懸 念を表明し、フィリピンのアキノ大統領と会談してアメリカ海軍・海兵隊・空軍によるフィリピン常駐、あるいはより密接な合同軍事演習の開催などをぶちあげ ることを期待していた。たとえ「南シナ海の海洋安全保障に関する米中間の話し合いが平行線をたどったとしても、中国の南シナ海侵攻戦略に対して強力なブ ローを食らわせることになったに違いない」と考えられるからである。
 ところが、中国に一撃を食らわせるどころか、肝心要のオバマ大統領が姿を現さないという、まさに想定外の事態となってしまい、中国側は胸を撫で下 ろすとともに、フィリピンやベトナムなど中国と対立している諸国はオバマ政権のアジア重視政策に対して深く失望を覚えたに違いない。
 特に、フィリピンにとってアメリカ海軍は頼みの綱であり、軍レベルでの具体的調整は続いているものの「オバマ大統領による直接的な中国牽制が実現しなかったのはフィリピンにとってもアメリカ海軍にとっても痛恨の極みである」とアメリカ海軍関係者は述べている。

軍事力の裏付けが伴わない安倍首相の声明
 オバマ大統領が欠席した一方で、安倍晋三首相による南シナ海の海洋安全保障に対する「全ての関係国が国際法を順守し、一方的な行動を慎むべきである」との声明は、フィリピンやベトナムなど中国と敵対する国々からは大いに歓迎された。
 しかしながら少なからぬ軍事関係者からは、アメリカの同盟国である日本の首相によるこの種のコメントは極めて重要であるものの、日本自身が尖閣諸 島問題で中国に効果的反撃を加えずに「アメリカ頼み」という姿勢を国際社会にさらけ出してしまっているという状況下では、安倍首相の声明は単なる「原則 論」を述べたにとどまり、中国共産党の覇権主義に対する実質的牽制とは程遠いとの声が聞かれた。
もしも日本が東シナ海、そして南シナ海で具体的な対中牽制行動(もちろん挑発的である必要はないのであるが)を実施するならば、それこそフィリピン をはじめ多くの東南アジア諸国を励まし、力づけることになる。それだけではなく、同盟国日本が自らの領域防衛(東シナ海)と自らのシーレーン防衛(南シナ 海)のためにようやく立ち上がった、との明るいニュースがアメリカ政府にもたらされ、停滞気味のアジア重視政策にエンジンがかかるものと思われる。

日本の国益を直接左右する南シナ海情勢
 日本では、南シナ海での南沙諸島や西沙諸島をめぐる中国による覇権主義的領域拡張行動が、尖閣諸島そして東シナ海での「明日は我が身」的な状況として取り沙汰されている。しかしながら、南シナ海での出来事は決して対岸の火事ではない。
 中国共産党が主張するように南シナ海が「中国の海」となってしまうことはもちろん、南シナ海での領有権紛争が激化してトラブルが頻発する海域になってしまうことは、いずれも日本の国益を直接的に損なうことになる。その点を我々は強く認識しなければならない。
 なぜならば、日本に石油・天然ガスをもたらす莫大な数の各種タンカーが航行しているシーレーンの85%程度は南シナ海を通過しているからである。
 もし南シナ海が名実ともに「中国の海」となってしまった場合、日中間で極めて深刻な対立が生じた際には、中国が日本に対して「南シナ海での日本向 け船舶の航行の安全が保証されないであろう」旨の通告を突き付ける事態が想定される。それにより、シンガポール沖から南シナ海を北上しバシー海峡を抜けて 日本に向かう莫大な数のタンカーは、マカッサル海峡を抜けてフィリピン海を北上し、日本に向かう迂回航路を航行しなければならなくなる。その結果、輸送費 が跳ね上がるだけでも、日本経済が被る影響は計り知れない。さらには、日本向けタンカーは危険であるとの“風評”も生じて、保険料や船賃自体が高騰し、日 本にエネルギー危機をもたらすことになるであろう。
南シナ海が完全に中国の手に帰さなくとも、南シナ海の数多くの岩礁をめぐって覇権主義中国が海軍力や空軍力を投入して軍事紛争が頻発するようにな るだけで、上記の状況に準じて日本向けタンカーや船舶はフィリピン海の迂回航路を航行せざるを得ない状況に直面し、日本経済そしてエネルギー供給は深刻な 危機に直面してしまう。

フィリピンに海自艦艇を派遣せよ
上記のような状況に立ち至らないために、かつては日本もフィリピン同様にアメリカ軍事力を頼り、アメリカの威力によって中国に対して睨みを利かせ てもらうことを期待していればよかった。しかしながら、2期目のオバマ政権下で、急転直下「アメリカ頼み」は極めて危険であることが表面化し、アメリカ軍 関係者たち自身もそのような危惧を述べ始めている。まさに、「アメリカ頼み」には見切りをつけるべきターニングポイントに日本は立たされている。
 それでは、南シナ海での日本の国益すなわち南シナ海を縦貫して日本に石油と天然ガスをもたらす“日本の生命線”としてのシーレーンの自由航行を確保するには、どうすればよいのか?
 もちろん「アメリカ頼み」から脱却しなければならないとはいっても、日米同盟は実質的に強化していかねばならないことは言うまでもない。ただし、 自主防衛能力を飛躍的に強化して「足らざる部分を同盟により補う」という対等な立場の軍事同盟に日米同盟を変質させていかなければならない。
 フィリピンの海軍はようやくフリゲートを2隻(いずれもアメリカ沿岸警備隊の旧式カッター)手に入れた程度で、小型哨戒艇しか装備せず、どの艦艇 からも対艦ミサイルや防空ミサイルを発射できる能力は保持していない。また空軍は、わずか12機の軽攻撃機(それに加えてアメリカからF-16戦闘機12 機を導入する計画があるが)しか保有していない。そんなフィリピンを、南シナ海でなんとかアメリカが支えようとしているわけである。
 しかし、シリア攻撃が不発に終わった経緯や、その際にオバマ大統領が事前に連邦議会の承認を得ようとした悪しき前例(本コラム「軍事介入に消極的になった米国、そして中国がほくそ笑む」参照)を構築してしまったこと、それに強制財政削減によるアメリカ軍の弱体化(本コラム「アメリカの強制財政削減でいよいよ日本は追い込まれる」「米陸軍が国防費枯渇で存亡の危機に、立ちはだかる中国の『A2/AD戦略』」 参照)等々から判断すると、かつてのアメリカのようにフィリピンに対する万全な抑止力の提供は極めて困難と見積もらざるをえない。したがって、日本が自ら の生命線とも言えるシーレーンの安全を確保するために、日本自身がアメリカ海軍と協力しつつフィリピンに軍事的支援を提供することは、まさに南シナ海にお ける日本の自主防衛努力の第一歩と考えられる。
 もちろん、現状では海上自衛隊シーレーン防衛艦隊を編成してスービック軍港を拠点に南シナ海をパトロールすることは戦力的にも、経済的にも、国内 法的にも不可能である。そこでとりあえずは海自艦艇や哨戒機などをフィリピンに派遣して、フィリピン海軍や空軍それにアメリカ海軍との共同訓練や、フィリ ピン将兵に対しての実地教育訓練などを実施し、恒常的にスービック軍港はじめフィリピン周辺海域に自衛隊のプレゼンスを維持させるのである。
 日本が、積極的に自主防衛のための軍事を展開したとなると、日本やフィリピンの“親分”として振る舞い続けていたいアメリカは、無理をしてでも フィリピンに対する軍事力の展開を強化し、南シナ海での対中封じ込めで“お山の大将”たらんとするのは必至である。その結果、日本にとっての自衛隊展開の 目標である南シナ海シーレンの自由航行の確保は、日本自身の努力と、日本によって引きずり込まれるであろうアメリカ軍事力によって維持されることとなる。

何としてでもひねり出さねばならない国防費
 もちろん、現状でも各種作戦行動に支障をきたす程度の予算しか割り当てられていない海上自衛隊に、フィリピンに展開をする余力はない。何としてでも国防費を大幅に増額することが、いかなる分野においても自主防衛努力をスタートさせる大前提となる。
 確かに口では「対等な日米同盟関係」などと言う日本の政治家は少なくない。だが、外敵による現在・近未来の軍事的脅威レベルを国際水準に照らして 判断すると、日本の国防予算は“冗談”と言われてもしかたがないほど小規模である。このことは、予算的にも精神的にも極めて苦難が多い自主防衛努力を半ば 放り出して「アメリカ頼み」を続けている何よりもの証左である。
 しかしながら、「アメリカ頼み」は期待できなくなった現在、自主防衛能力の急速な構築が絶対に必要であり、その大前提として国防予算を何としてでもひねり出さなければならない状況に日本は直面しているのである。
 そのためには、国家存続のために必要とされている自衛隊と比べると無用の長物としか見なせないような無駄な国家支出を大幅に削減するなり(例え ば、憲法改正なしでも実施できる国会議員定数の半減など)、経済学者の丹羽春喜氏(大阪学院大学名誉教授)が主唱している政府貨幣発行権を行使するなり (アメリカでも迫り来るデフォルトに対処するため連邦政府によるコイン発行権の行使が囁かれている)、前例からかけ離れた思い切った手を打って国防費を捻 出する必要がある。