2014年 4月 23日 12:14 JST 更新
【オピニオン】中国、領有権の野望「封印」すべきか
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702303595604579518592205491288.html?mod=WSJJP_opinion_LeadStory
アジア太平洋地域が領有権をめぐる緊張に包まれるなか、中国は、西側諸国が中国をこの地域の「いじめっ子」のように描こうとしているとして反発を強 めている。中国の領有権をめぐる対立は実際のところ、海外メディアによる否定的な報道につながっている。だが、そのうちどれほどが反中国的偏見によるもの なのだろうか。そして、中国自身はどれほどの責任を負うべきなのだろうか。
あるベテランのストラテジストは、中国自身に負うところが大きいと述べる。
ワシントンにある米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアソシエート、エドワード・ルトワック氏は最近の筆者とのインタビューで、中国はあまりにも多くの隣国にけんかを売る「悪い戦略」を追求していると指摘した。
オバマ米大統領の1週間にわたるアジア歴訪が迫るなか、ルトワック氏は、中国が「例えば、日本に焦点を定め」て第2次世界大戦時の罪を日本が完全には認めたがらない点を強調し、「その他の国については口にしない」方が戦略的にずっと有効だろうと主張した。
中国が日本批判を苦手としたり遠慮したりしているわけでないのは言うまでもない。中国はかなりの資源、つまり国営メディアとパブリックディプロマ シー(広報外交=広報や文化交流を通じて外国の国民や世論に働きかける外交)キャンペーンの両方を投入しており、日本が戦時の歴史を塗り替え、軍国主義の 道を歩もうとする意図を持った侵略者であるかのように描いている。
しかしルトワック氏によれば、中国にとって問題なのは、中国が「インド、日本、マレーシア、フィリピン、それにベトナムから領土、礁、岩礁、領海 の譲渡を要求しており、しかも同時にそうしている」点にある。その結果、これらアジア諸国には団結して中国を包囲しようというインセンティブが生まれてい るというのだ。
もし中国が日本のみを怒りの標的とするなら、正当な歴史的不満を幅広く活用できるだろう。例えば、中国は現在白熱した問題になっている東シナ海の 釣魚島(日本名:尖閣諸島)の領有権を主張する際、日本が1894年の日清戦争でこれを奪い、第2次世界大戦後に返還するのを怠った島だと述べている。
こうした中国の主張は、他の東アジアの国・地域も日本に対して同じような不満を持つという事実によって補強される。同じく釣魚島の領有権を主張している台湾は、ふだん日本と良好な関係を保っているが、日本の戦時中の略奪行為については、中国と同じ不満を抱いている。
一方、韓国は別件で日本と領有権を争っている。韓国は独島(日本名:竹島)を管理しているが、日本も領有権を主張している。また韓国は中国に似 て、第2次世界大戦中に日本の統治下で大いに苦しめられたが、過去の侵略行為を美化したり、否定したりしようとする日本の右派の発言や行動に反発すること がしばしばだ。
日本の右派が歴史修正主義に走る傾向は、中国に多くの攻撃材料を提供した。スタンフォード大学のフィリップ・リプシー助教(政治学)は最近、「日 本の保守派は、日本自身と国際社会に図らずも大きな損失を与えている。彼らは、日本が東アジアの一番の不安定要素であるとする見方に格好の材料を与えてい るのだ」と述べた。
だからと言って、中国が日本に対する世界的な見方を「アジア地域の安定を妨げる国」に容易に変えられるわけではない。過去の罪と現在の欠点がどう あれ、日本は依然として安定した民主主義国で、世界の平和と発展に寄与してきたし、中国がしばしば自国民を苦しめるようなひどい人権侵害の罪も負っていな い。
しかし中国は、日本の過去の罪について熟考する正当な誘因を近隣諸国に熱心に与えていないようにみえる。それどころか中国は多くの近隣諸国との間で過熱した領有権紛争に関与し、これら諸国に中国自体を懸念させる沢山の理由を与えてしまっている。
例えば中国は東南アジアで、南シナ海の事実上すべての水域で主権を主張しており、この水域にある島々や海底資源をめぐる領有権をますます積極的に 主張している。今年1月には、中国南部の海南省は紛争水域で操業するあらゆる非中国漁船に対し、まず中国政府から操業許可を得るよう義務付ける規則を制定 した。
これより先、中国は2012年、フィリピンとの間で係争している南シナ海のスカボロー礁からフィリピン漁船を追い出したし、近年はベトナムとの間で 係争している島々の近くで操業していたベトナム船のケーブルを切断したり、ベトナム漁民を拘束したりした。
米海軍大学校教官のトシ・ヨシハラ氏は、こうした中国の動きを受けてベトナム、フィリピン、カンボジア、そしてインドといったアジア諸国は日米両国との関係緊密化に積極的になっていると指摘した。
前出のルトワック氏も同じ意見で、「(中国が)だれに対しても同時に要求していることから、日本は、孤立するどころか、至る所で手を差し伸べられており、至る所で歓迎されている」と述べた。
確かに、中国の領有権の主張は目新しいものではなく、中国だけが最も論議を呼ぶ主張を展開しているのでもない。また一部には、中国は自ら惹起した 最近の近隣諸国との危機は一つもなく、危機に過剰反応しているに過ぎないと主張する向きもいる。にもかかわらず、中国はかくも多くの領有権の主張をかくも 攻撃的に同時に追求することで自国の利益を損なっているのだ。
専門家の間では、中国が強めている自己主張は、それまでの外交戦略の放棄に起因するという向きが少なくない。中国人学者Zheng Bijian(鄭必堅)氏が2005年に米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」で叙述していた大国的地位への「平和的台頭」戦略を放棄したというのだ。
この文脈で、中国の習近平国家主席は最近、中国を「覚醒したライオン(獅子)」と表現した。同主席は、このライオンは「平和的、友好的、文明的」 だと強調しているが、外部の観測筋は中国の行動の中に、「中国全盛時代がついに到来した」との北京指導部の考え方の高まりをかぎ取っている。こうした以前 よりも力ずくの外交政策は、米国は衰退する大国だとする見方(それは2008-09年の国際金融危機以降、中国の外交政策サークルで広く議論された)が影 響力を増しているのと時を同じくしている。
中国に対するこうした洞察は、アジア諸国政府に少なからぬ懸念を呼んだ。それはオバマ大統領のアジア歴訪の際、日本、韓国、マレーシア、フィリピ ンといった国の指導者との話し合いのテーマになるだろう。中国の台頭を前にして、米国のアジア友好国や同盟国は、安全保障上のコミットメント(関与)を順 守するとの再確認をワシントンに熱心に求めている。そうしたなかでルトワック氏は「中国は『平和的台頭』と呼ばれた従来の政策を継続し、島々について口を 閉ざし、何も求めず、単に成長し続けるのがふさわしいし、中国にはそうする義務がある」と論じた。
ルトワック氏自身、中国指導部が彼のアドバイスに従う公算がほとんどないのを承知している。黙ったままでいることは、習主席が21世紀に追求す べきだと中国人民に奨励した「中国の夢」と合致しないからだ。その主要な柱は、強くて自己主張できる国家を建設し、19、20世紀に被った屈辱を二度と味 わわないということだ。
だが、たとえ強い国であっても自分の強さを賢明に扱い、それを大切に育まねばならない。「韜光養晦=力を隠して時節を待つ」という外交政策ドク トリンを打ち出したのは、中国の最高指導者・小平だった。それによって、米国やその他諸国が中国の台頭を封じ込めようとする引き金にしないようにしたの だ。中国は今や、小平時代よりもはるかに強い。だが米国と大半のアジア諸国に挑むのに十分なほど強くはない。そのことは、北京指導部の奨励する「中国の 夢」追求にあたって肝に銘じる価値があるかもしれないのだ。
(筆者のYing Ma (馬穎)氏は「Chinese Girl in the Ghetto(ゲットーの中の中国人少女)」の著者で、香港の公共放送局である香港電台で「China Takes Over the World(中国が世界を征服する)」の司会を務める。ツイッターは@gztoghetto)