取消し
意思表示の効力が取り消されるまでは有効で、取り消されれば初めに辿って無効となると言うのが「取り消し」である。
○ 婚姻の解消は、飽く迄解消であり、解消した時点から解消の効力が発生するものであり、賃貸契約の解消もこの手です。
○ また、申し込みの取り消しなどは撤回と呼ばれます。撤回とは、未だ効力が確定してい無い法律行為の効果を将来に向かって確実に阻止する一方的意思表示の行為だと定義義付けられます。表示者が撤回の意思を一方的に相手方に表示するだけで足りるのです。
取り消しの当事者
(取消権者)
民法第120条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
○ 未成年者が一度取り消したならば再度取り消すことは取消を際限なくすることになるので認められない。当然である。
○ ここでの代理人には法定代理人に限らず、取消のために立てられた任意代理人も含まれる。
○ ここでの承継人には特定承継人も含まれるか?特定承継人とは、例えば、取り消されるべき行為が騙されて詐欺者に物を売った場合に、詐欺者からその物を買った第三者のような人のことを言う。通説は含まれるとするが、異論もある。
◎取消の相手方
売買の場合の特定承継人などは取消の相手方とはなら無いとされるが、これ等の者は取消があった場合には取消権者から売買の目的物を取り戻されることにもなるのに、取消の相手方とされ無いことは可笑しいとの意見もある。取消すべき行為の相手方が取消の相手方となる。
取消の効力
取消によってその法律行為は初めから無かったことになり、未履行の場合は履行しなくともよくなり、既に履行されたものは取り戻されるのです。この取戻しが不当利得返還請求権から生じるものなのか、所有権に基づく取り戻しから生じるものなのかは債権法の分野となります。また、この返還義務の範囲は「現に利益を受ける限度」で返還すれば足りると法定されています(民法第121条)。これは不当利得の返還義務(民法第703条)の「その利益の損する限度」と同じ意味です。ただ、不当利得のように善意・悪意で返還義務の範囲は変わりません。
○現に利益を受ける限度の意味
たとえば、未成年が金銭の消費貸借契約を取り消したときの借りた金の返還義務は、遊興費などで浪費した金は変換する必要が無いが、生活費やほかの債務の支払いなどに使った金は返す義務が生じると言うことです。これに関しては、未成年の善意悪意に差をつけた支払い義務を課すべきだとの意見もありますが、いずれにしても、立法政策の問題となることは否めません。
取り消し得べき行為の追認
◎ 追 認
取り消すことのできる行為を最早取り消すことが出来無いようにすることを追認といいます(民法第121条前段)。実質は「取消権の放棄」に当たる行為が追認なのです。すでに生じている効果を確定的なものにすることがこの追認なのです。追認によって第三者の権利を害することはできない(民法第121条但し書き)。
○ 追認権者
取消権者と同じ。
○ 追認のできる時期
(追認の要件)
民法第224条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。
3 前二項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。
上の条文一項の意味を、未成年者、脅迫を受けた者、詐欺を仕掛けられた者のそれぞれの場合について考えて貰いたい。
追認するには追認する者に取り消し得るものだとの認識がなければならない。この認識は法定代理人が追認する場合にも同様な認識を必要とする。
法定追認
一定の事実があれば当然追認したと認められることを法定追認という。特に、法定追認の効果を欲しないとの意思表示を明示しない以上、追認の効果が発生し、最早、取り消すことは出来無くなるのだ。
(法定追認)
民法第125条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
取消権の時効取得
(取消権の期間の制限)
民法第126条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
◎ 取消権の消滅時効?
取消権のような形成権(権利の行使をして始めて効力が生じるような権利)について中断(時効の進行を止めて時効を起点から進行させるものとすること)などと言うことは考えられ無いので、これらの時効を除斥期間として考えるのが通説である。
除斥期間(じょせききかん)とは、法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度。民法に規定はなく、解釈によって認められている。消滅時効と効果が似ているが、上記制度趣旨から、中断は認められず(ただし異論が強い)、援用されずとも裁判所の職権によって権利消滅を判断できるという差異が認められている。また除斥期間は権利発生時から進行し(消滅時効は権利行使が可能となった時点)、遡及効果も認められない。
○取消権の時効を除斥期間であるとすると取消権の行使をした場合に生じる不当利得返還請求権との関係を探る。
取り消しによる返還請求権も、この除斥期間内に消滅するとするのが通説となった。ただ、取消権というものが絶えず返還請求権と重なり合っていると言うものではない。
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