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法律考第二十一回 条件と期限

2007-11-26 09:45:31 | 憲法考

条件と期限

 現在ではあまり聞か無くなったが、冗談混じりに「出世払いで支払うから勘弁してくれ」という言訳が巷でよく聞かれた。試みに、この法的意味を考えてみる。

 もし、こう言われて「返せる訳は無いだろうが、出世したらたら返せよ」と言って金を貸した人が大真面目で言った場合と「出世するまで待つから、必ず返せよ」と言った人の場合との契約としての法的意味を考えてみてみる。前者の意味は、「出世したらば必ず返せ、出世し無かったらくれてやる」と解せるので、出世した時点を期限とした条件付の金銭消費貸借と言える。後の場合は、「出世し無いことがハッキリしたら金を返せ」と解釈出来るので、出世し無いことが確定した時点を期限とする条件付の金銭消費貸借と言えよう。

条件が成就した場合の効果
民法第127条 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。

 不確定な期限は果たして法的に条件となりえるのかと思うのは自然であろうが、出世と言う意味をどう解すかを貸借した金の額や諸々の状況を常識的に考えられさえすれば、これらの条件の期限は必ず到来するものとも言え、事実、期限付き条件を扱った扱った判例もあり、これらは『出世払い債務』と言われている。

出世払い債務に関する判例

 これに関する判例は可也多いのだ。「上京の節」・「財産整理のうえ」などと言うものも『出世払い債務』と看られる。これらも一見法的意味を持つ約束事とは見られないと思う人もいよう。

狭い意味(停止条件付法律行為)での『出世払い債務』を扱った判例

①大審院明治43年10月31日(民録739頁)

 争点となったのは、借り手側が借金を返せるような状況になったか如何かであったが、未だ駆り金を返すまでに至ら無いと判断し、貸し手側の返還請求を退けた。

②大審院大正4年3月24日(民録439頁)

 この判決は一般の常識からすれば全くふざけたものだったと見られる。借り手が貸し手の『出世払い債務』に関する貸し金の返還請求に関して、「俺は○○も出来るほど、もう十年以上も前の○○年から返金出来るだけの身に成っている。それなのに、○○さんはそれを知っていて何の請求もしてきて無い。今更、請求されても、この債務は時効であり、払う必要は無い」と言うような主張を借り手が主張したと思われ、これに対して判決は貸し手の返還請求を斥けたのだ。

 しかし、「お前はもう出世し無いことがハッキリしたのだから金を返せ」と言うことを請求した野暮な判例は見当たら無い。ここには、人間の心理の綾が見て取れるのだ。

広い意味での『出世払い債務』の意味

 これは、「その事実の発生する見込みのある間だけ、期限の猶予を与えてやる」とだと解する立場(解除条件付法律行為)である。

①大審院明治32年2月9日(民録2巻26頁)

 上京の節に返してもらうことを約束して金を預けたが、すでに上京する機会は無くなったと解され、返還請求が認められた。

②大審院大正四年2月19日(民録163頁)

 債務者の婚嫁または分家のときに支払うと言うことを約したが、それを果たす前に亡くなった場合は遺産相続人が債務を負って払うべきだと判示した。

③大審院大正四年12月1日(民録1,935頁)

 家屋を売却した上で支払うとの約束であったが、家屋がほかに処分されて仕舞い、最早、債務者の手では処分出来無くなった時に支払えと判示をした。

④大審院大正10年5月23日(民録1,935頁)

 国から特許権を与えられたときに支払うとの約束だったが、特許権権を得る見込みが消滅したときには支払えと判示した。

広い意味での『出世払い債務』の支払いを免除した判決

①大審院大正4年10月23日(民録1,752頁)

 ある機械を買い付けるについて残金を機械の試運転を三回したあとで、三ヶ月たったら支払うとの約束をしたのだが、試運転の結果この機械が契約の内容どおりの仕様と大幅に違っていたのが分かったので、残金支払い債務は消滅したと判示した。

②大審院昭和16年9月26日(法律新聞4,743号15頁)

 相続財産は皆無、自分も無資力の相続人が、限定承認をした上で、相続債権者と、将来視力がついたら弁済するとの約定をなした場合、資力がつく見込みがなくなったときには弁済期が到来すると解釈花の立た無いと解釈した。つまり、上記約定は停止条件付債務弁済の契約と認めるとの判示をしたのだ。

 我妻栄先生などは、上記例示などから条件か期限かの振り分けを、具体例において理解するようにと説示していたのだが、民事上の法律問題を解決することは実生活上の利害で対立した人同士の問題を情理を通して決められた決まりをどう適用して如何に解決して行くべきかと言う問いに対する答えを出すものと私は理解しているので、具体例に条文を厳密に当て嵌める作業はいらないと考えており、法条にのっとった複合的概念を考え、各法文に矛盾しないような解決法としてこれを利用することも「有りだ」と考えるものである。よって、上のような問題は総て「条件付期限」と言う言葉で括れることと考えているのだ。


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