【『民事保全法』逐条解説】
(趣旨)
第一条 民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押え及び係争物に関する仮処分並びに
民事訴訟の本案の権利関係につき仮の地位を定めるための仮処分(以下「民事保全」と総称する。)については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
本案は,付随的または派生的な事項に対して,主要または中心たる事項を表す語である。民事訴訟法上,その意味は使用される局面(場所)によって,いろいろに理解されている。たとえば訴訟判決(訴訟要件または上訴の要件が欠けているため,請求の当否について判断をせずに訴えまたは上訴をしりぞける判決)に対するものとして〈本案〉判決という言葉が使用されているが,この場合における本案は原告の請求(訴訟物)そのものを表し,したがってまた本案判決は訴えの適否ではなくて,その中身に相当する請求の当否に関する判決を意味する。
民事訴訟の本案の権利の実現をするには、
①原告が請求している権利が金銭債権の場合、執行を保全する為に、債務者の財産の処分に一定の制約を加える裁判所の決定(仮差押え)をするか、
②金銭債権以外の権利執行を保全する為に、現状の維持を命ずる仮処分をするか、
③争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害や急迫の危険を避けるため、本案訴訟の確定まで仮の状態を定める仮の地位を定める仮処分のいずれかを場合によってしなければならない。
主として、此れ等の保全処置を扱う法が「民事保全法」である。
(民事保全の機関及び保全執行裁判所)
第二条 民事保全の命令(以下「保全命令」という。)は、申立てにより、裁判所が行う。
仮差押え乃至仮処分を行うことによって対象物の現状を保持することを命じること(保全命令)は、申し立てによって裁判所が行う。
※判決・決定・命令
判決はなんとなくわかるけれど、決定、命令って何だろう?
判決は、訴えや請求に対する判断など重要な事項についての裁判で、裁判といえば大体はこの判決を指します。
判決の審理は、当事者が口頭で主張をぶつけあう口頭弁論の方法で行います。裁判の主体は裁判所とされていますので、複数の裁判官による合議制の場合、その合議体全体で判決書を作成、言渡しを行います。この判決に不服であれば、訴訟の当事者は控訴や上告というかたちで上級裁判所に訴えること(上訴)を認められています。
これに対して、決定と命令は、訴訟の進め方や訴訟手続上の付随的事項の処理などのように、訴訟のメインテーマである訴えや請求に比べて重要性の低い事項や、特に判断が急がれる事項についての裁判です。判事補(司法修習を終えて間もない裁判官。原則として一人で裁判することができない)であっても単独で行える場合があります。
決定・命令の審理を口頭弁論で行うかどうかは裁判所や裁判官の裁量に任されています。判断結果の告知も、必ずしも判決書による言渡しの必要はなく、事件ごとに相当と認める方式で行うこととなっています。これに不服であれば、抗告・再抗告という簡易な不服申し立てができます。
共通点の多い決定と命令ですが、その違いは、裁判の主体にあります。裁判所によって行われるのが決定、裁判官(裁判長)によって行われるのが命令です。したがって、合議制の裁判であれば、決定は合議体全体で行い、命令は裁判長単体で行います。裁判官が一人の単独制では、このような違いが出ないため、明瞭な区別は難しくなります。
2 民事保全の執行(以下「保全執行」という。)は、申立てにより、裁判所又は執行官が行う。
裁判所に対して仮処分や仮執行を求める意思表示することで、裁判所或いは執行官が行う。
※執行官とは、日本における単独制の司法機関で、地方裁判所に置かれる。民事執行手続において、自ら執行機関として、また執行裁判所の補助機関として業務を行ったり、訴状等の送達(執行官送達)を行ったりする。特別職の国家公務員で地方裁判所の監督下にあり、裁判所職員である(裁判所法62条)。裁判所の管轄下にありながら、執行処分によって得る手数料による一種の独立採算制である。
3 裁判所が行う保全執行に関してはこの法律の規定により執行処分を行うべき裁判所をもって、執行官が行う保全執行の執行処分に関してはその執行官の所属する地方裁判所をもって保全執行裁判所とする。
※【執行裁判所】 強制執行に関する権限をもつ裁判所。原則として、執行手続きを行う地またはこれを行った地を管轄する地方裁判所がこれにあたる。しっこう‐さいばんしょ 〔シツカウ‐〕【執行裁判所】 強制執行に関する権限をもつ裁判所。原則とし.....
(任意的口頭弁論)
第三条 民事保全の手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
民事保全は、将来なされるべき強制執行における請求権の満足を保全するために、さしあたり現状を維持・確保することを目的とする予防的・暫定的な処分であり、仮差押え、係争物に関する仮処分および仮の地位を定める仮処分をその内容とする。このため、保全執行は、請求権を確証する債務名義の存在を要件とせず、口頭弁論を必要としない略式の手続(決定手続)で取得できる保全命令(仮差押命令または仮処分命令)に基づいて行う。
※係争物 訴訟における争いの目的物。
※口頭弁論 日本における民事訴訟手続において、双方の当事者または訴訟代理人が公開法廷における裁判官の面前で、争いのある訴訟物に対して意見や主張を述べ合って攻撃防御の弁論活動をする訴訟行為をいう。
※訴訟物 民事訴訟法学上の基本概念の一つであり、狭義には、裁判所がその存否を審理・判断すべき権利ないし法律関係をいう(訴訟物たる権利関係。ただし、例外的に事実も含まれる。)。広義には、訴訟上の請求と同義に用いられることもあり、この場合には、原告の被告に対する一定の権利ないし法律関係の主張(権利主張)という意味で用いられたり(狭義の請求)、権利主張に加えて裁判所に対して原告の権利主張を認めて一定の形式(給付、確認又は形成)の認容判決をせよとの要求(判決要求)を含む意義で用いられる(広義の請求)こともある。
(担保の提供)
第四条 この法律の規定により担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は担保を立てるべきことを命じた裁判所が相当と認める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律 (平成十三年法律第七十五号)
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