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法律考 第十五回 法律行為 その2

2007-11-21 15:21:35 | 憲法考

意思表示

 意思表示は私法の根幹を成す概念である。民法の諸項目の中でも、最も重要なものの一つでもある。しっかり、把握することは法を学ぶ上で必至となる。

私的自治の制度

 私法の領域では、我々が生活して行く上で他人と持つ法律関係は当事者の意思を標準において法律が構成されている。

意思表示の標準

 私的自治の制度を実現していくためには、先ず、自分はこうありたいと言う表現が無ければなら無い。それと共に、そうした意思に従った効果を与えて行くことがなければならない。この様な表現効果とを要素として両者が因果関係を持って満足されたものを意思表示と言いうことになる。要は、意思表示とはある法律効果を期待して表現することだと要約される。

観念の通知と分類されるものなど

 こうして貰いたいと言う意識の無い表現は、意思表示の要素とはなら無い。例として、社員総会の通知、代理権をあたえたゆえの通知などがある。単にあることを報告することを観念の通知と言う。各自、考えて貰いたい。ところで、催告とは債務者に弁済して貰いたいと表現することであり、意欲の表示であるから意思表示の一つの要素は満足される。しかし、それ自身に対しては法律は何ら効果を与えてい無い。否、催告をすれば、時効の中断や履行遅滞、解除権の発生など副次的効果があるではないかと言う反論が為されよう。しかし、催告での意欲は単に単に弁済貰いたいと言うだけのものであり、始から直接副次的効果と結びつくものでは無いのだ。

意思表示の論点

 意思表示のようそとなる外部への表現はときには、相手方に思わぬ受け取り方をされることがある。自分はこうなることを期待したために表現したのだが、色々な情況が関係して、その表現を受け取る相手方が別の意味でその表現を受け取ってしまうことがあるのが当然とされることもある。この場合、表現者と相手方のどちらを守るべきかと言う問題が生じる。この項目の以下の説明がこの難しい問題を解決する助けとなるかもしれない。

心裡留保(民法第93条)

 ある法律的な一定の効果を期待して無いいはそれに反する効果が出ると分かっていて、恰もそのような効果を期待する表現をした者には、後でそれは誤りだったと言うとに法律は手を貸すことは無い。ただし、相手方も表現者の内心を知っていたときには、その意思表示は始から無かったことになる。

通謀虚偽表示(民法第94項)

 表現されたものとは別の効果を期待すること相手方と企んで為された意思表示は始から無かったことになる。

 これに似たものとして、第三者を保護するものとして詐害行為取消権というものがあるが、保護されるべき第三者としては、此処での規定と法律行為が第三者を害する目的で行われた場合にそれを第三者が取り消すことが出来る詐害行為取消権(民法第424条)の二段構えの手段があるのだ。

通謀虚偽表示にたいする第三者の保護(民法第94項)

 上のような無効行為をした者達が無効を主張をすることで、彼らの為したことを虚偽だと知らずにいる第三者に損害を与えることはあってはなら無いので、この場合には彼らがその意思表示の無効を主張出来無いことにしている。

 この規定は、不動産について最も効力が発揮される。不動産登記の効力にはお互い善意であるような不動産の取得などの権利関係を登記の有る無しによって決着をつける対抗力と登記を信じて不動産を買った者などを守る公信力なるものがある。しかし、現在のところこの一般の場合には公信力は認められてはい無いというのが通説になっている。そこで、民法第94項を適用することで虚偽の意思表示の場合には、あたかも登記に公信力を与えたかのような結果になるのだ。善意の第三者を守る取引の安全の確保について動産では如何なろうか?例えば、何らかの原因で本当は売る気が無いのに売った場合には、事情を何も知ら無い買主は民法第93条などが無くとも即時取得(民法第192条)(これについては以前この連載の中で説明している)の規定を適用することで救うことが出来るのだ。

錯誤(民法第95条)

 表示行為から推測されるものと表意者が真に意図したことが食い違っていることを表意者自身が気付か無かった時に表意者を保護しようとする規定で、此場合には表意者が気付か無いことに重大な過失が無い限り、その意思表示を無効とするものである。

錯誤による無効と相手方との保護

 民法第95条の何処を見ても相手方が善意であろうと無かろうと相手方を保護する言葉は一切無い。此規定に関しては、「表示の錯誤」、「内容の錯誤」、「動機の錯誤」などの錯誤の種類を上げ議論紛々するところがあって、判例もこの種訳に従って、他の諸事情を考慮して無効を認めたり否定したりするのを通例としていたが、余り意味の無いことと私は感じる。要は、表示者がうっかりして誤りだと気付か無い儘に、その意思表示をすることで狙った効果からすれば一般的に言って擋認めることは無いだろうと言うような表示行為をしてしまった場合には、表意者のうっかりの程度が許され無いほど酷いもので無い限り、表意者がその意思表示の無効を主張出来るとすれば良いのだ。よって、条文を其の儘、素直に解し、上記のことが証明されてさえいれば、相手が如何あれ、兎に角、その意思表示を無効にすることだけは許されると解すれば良く、但し、取引の安全と言うことからして無効とした後での相手方の保護を如何に為していくかを考えれば良いのではないか?そこで、譬え重大な過失が無かったとしても、うっかりしたこと自体で相手に損害を与えたことには相当と認められる範囲での責任を取らなければなら無いというのが世間相場であるので、相手の損害に対してはそれに相当する賠償をしなければなら無いとすればよいと思うのだが、如何だろうか?法律の条文を素直に解することで矛盾が出てしまうことを避けるために条文の解釈を弄り回すことは、法律をより分かり難くしてしまい、本筋を外れて条文が言わんとすることを枉げてしまう結果にもなりかねないので、条文に致命的誤りが無い限り、条文は素直に解釈すべきでその矛盾を別の方法を探して解決していく姿勢を持つことが必要でなかろうか?

詐欺脅迫

 相手方から詐欺や脅迫を受けて為した意思表示は取り消すことが出来る(民法第96項)。

 取り消しは無効とは違い、その意思表示は取り消されない限り一応有効に成立しているのだ。これを取り消すことで、意思表示は始から、無かったことと看做されるのだ。

 此処での詐欺脅迫に違法性があるものかを取り消しの判断基準とするようなことをいちいちくどく言う学者がいるが、問答無用である。取り消すべきであるような騙しや脅しがあればよいのだ。法律上の是非の判断は羊羹を切るような訳には行かない。お前に違法性がある脅しをされたと言っても相手方が素直に認めるわけが無い。世の中で現実に行われる善悪を実際に決めるのは法的手続きによる。取り消されるべき騙しか脅しかは具体的事情を考慮して決められるもので、法に違反する程度のものか如何かを一般論で議論しても始まらないのだ。

 法律の相手以外の者から騙されて為した意思表示は相手方が騙されていることを知らない場合には取り消すことが出来無い(民法第96項)。

 騙されて為された意思表示のほうが、脅されて為された意思表示よりも表意者の保護は薄い。脅されて為された意思表示は、相手方が脅されて為したと知らなくとも、取り消すことが出来るのだが、騙されて為した意思表示は相手方が騙されて為した物だと知らなければ、取り消すことが出来無いのだ。

 騙されて為した意思表示は譬え騙されて為したことを相手方が知っていたとしても、その意思表示の取り消しで損失を受けるような騙されたと言う事実を知らなかった人がいるならば、表意者は取り消すことは出来無い(民法第96項)。

 良く、人に騙されるのは当人に隙があるからだと騙されるのは当人にも責任があるかのような見方をする人がいる一方、程度にも拠るが、脅かされたほうのが人の意思の自由を奪われると考えるのが通常であろう(我妻栄先生においては此考え方には反対であったらしい)。上の2条項は此観点から騙された物の保護を薄めた規定であるのだ。

 騙されたり、脅迫を受けたりして不動産を適正価格よりもずっと安く売ってしまった場合を考えてみる。売った本人が取り消すことが出来るのは、売ってくれと申し込まれ、売りましょうと承諾したそのことを取り消せるのであって、売買契約を成立させた要素の一つである承諾と言う行為を取り消すことで、売買契約が無効となるのだ。

 騙して不動産を売った者から買った者が第三者に転売した場合を考えてみよう。買主は売りにしに買ってくれと申し込まれて騙されて買いましょうと承諾してしまったのであるから、取り消すことは出来、売主と買主の売買は無効となり、買主は売主に転売した不動産を返さなければなら無い。しかし、買主は転売してしまっているので売主に変換に替わる賠償責任が生じるのだ。

 売主が買主に騙され場合に買主が騙して取得した不動産だと知っていて買主から転売を受けた場合や売主が買主に脅されて売った場合に転売を受けた場合には、売主によって最初の売買の契約が取り消されたとしても、転売自身には何の影響も受けない筈なのに、転売を受けた者は売主からの返還請求を拒むことは出来無いのだ。売主が転買者から取り戻した時には、最初の買主には瑕疵有る不動産を打った者としての責任を転買者に負わなければならないのだ(民法第561項)。

意思表示の到達隔地者に対する意思表示の効力発生時期

 民法では相手方に到達した時をもって、意思表示の効力発生要件とする(民法第97項)。

 一旦、各地者に対する意思表示による効力が発生したならば、意思表示者に不測の事態が生じても、その効力には影響を及ぼされ無い(民法第97項)。

 限られた期間に各地に散らばった大勢の者達に通知をする場合等の特別の理由がある場合には、発信主義を採る。例えば、本来は法律行為では無いのだが、社団法人の総会や株主総会の召集通知の効力発生には発信主義を採るのだ。

 到達主義の例外として最も問題となるのは契約についての承諾の場合(民法第526条)である。

(隔地者間の契約の成立時期)
民法第526条 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

(公示による意思表示)
民法第98条 意思表示は、表意者相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。
2 前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
3 公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて『過失があったときは、到達の効力を生じない
4 公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地簡易裁判所の管轄に属する。
5 裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。

(意思表示の受領能力)
民法第98条の 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。


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