【『民事保全法』逐条解説】第二章 保全命令に関する手続 第四節 保全取消し
(本案の訴えの不提起等による保全取消し)
第三十七条 保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない。
仮差押決定が、債務者を審尋することなく発令される、仮の手続であることから、債務者は未確定な債権者の権利保全のために重大な不利益を被ることになる。そのため、債務者にとっては、本案訴訟において最終解決を急ぐ必要があります。
そこで、債務者は、裁判所に対し、債権者が一定の期間内に本案訴訟を提起するよう、また提起している場合には、その係属を証する書面を提出するよう、起訴命令の申立をすることができます。
裁判所から、起訴命令は発令されたにもかかわらず、債権者が指定された期間内に本案訴訟を提起しなかった場合には、債務者は、保全命令を発令した裁判所に対して、本案訴訟の不提起による保全取消申立をすることができます。
仮差押命令に不服のある債務者が、保全取消の申立をしても、それだけでは、当然には、執行は停止されません。別個保全取消決定に伴う執行停止の申立が必要です。
※本案は,付随的または派生的な事項に対して,主要または中心たる事項を表す語である。民事訴訟法上,その意味は使用される局面(場所)によって,いろいろに理解されている。たとえば訴訟判決(訴訟要件または上訴の要件が欠けているため,請求の当否について判断をせずに訴えまたは上訴をしりぞける判決)に対するものとして〈本案〉判決という言葉が使用されているが,この場合における本案は原告の請求(訴訟物)そのものを表し,したがってまた本案判決は訴えの適否ではなくて,その中身に相当する請求の当否に関する判決を意味する。
- ほんあん【本案】 本案は,付随的または派生的な事項に対して,主要または中心たる事項を表す語である。.....
2 前項の期間は、二週間以上でなければならない。
3 債権者が第一項の規定により定められた期間内に同項の書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない。
4 第一項の書面が提出された後に、同項の本案の訴えが取り下げられ、又は却下さ れた場合には、その書面を提出しなかったものとみなす。
5 第一項及び第三項の規定の適用については、本案が家事事件手続法 (平成二十三年法律第五十二号)第二百五十七条第一項 ((調停前置主義)人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件により家庭裁判所が調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。)に規定する事件であるときは家庭裁判所に対する調停の申立てを、本案が労働審判法 (平成十六年法律第四十五号)第一条 に規定(この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、・・・)する事件であるときは地方裁判所に対する労働審判手続の申立てを、本案に関し仲裁合意があるときは仲裁手続の開始の手続を、本案が公害紛争処理法 (昭和四十五年法律第百八号)第二条に規定(この法律において「公害」とは、環境基本法(平成五年法律第九十一号)第二条第三項に規定する公害をいう。)する公害に係る被害についての損害賠償の請求に関する事件であるときは同法第四十二条の十二第一項 に規定(公害に係る被害について、損害賠償に関する紛争が生じた場合においては、その賠償を請求する者は、公害等調整委員会規則で定めるところにより、書面をもつて、中央委員会に対し、損害賠償の責任に関する裁定(以下「責任裁定」という。)を申請することができる。)する損害賠償の責任に関する裁定(次項において「責任裁定」という。)の申請を本案の訴えの提起とみなす。
6 前項の調停の事件、同項の労働審判手続、同項の仲裁手続又は同項の責任裁定の手続が調停の成立、労働審判(労働審判法第二十九条第二項において準用する民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第十六条 の規定((調停の成立・効力) 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。)による調停の成立及び労働審判法第二十四条第一項 の規定((労働審判をしない場合の労働審判事件の終了)労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。)による労働審判事件の終了を含む。)、仲裁判断又は責任裁定(公害紛争処理法第四十二条の二十四第二項 の当事者間の合意の成立を含む。)によらないで終了したときは、債権者は、その終了の日から第一項の規定により定められた期間と同一の期間内に本案の訴えを提起しなければならない。
7 第三項の規定は債権者が前項の規定による本案の訴えの提起をしなかった場合について、第四項の規定は前項の本案の訴えが提起され、又は労働審判法第二十二条第一項 (同法第二十三条第二項 及び第二十四条第二項 において準用する場合を含む。)の規定((訴え提起の擬制)労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合において、当該請求について民事訴訟法第一編第二章第一節の規定により日本の裁判所が管轄権を有しないときは、提起があったものとみなされた訴えを却下するものとする。)により訴えの提起があったものとみなされた後にその訴えが取り下げられ、又は却下された場合について準用する。
8 第十六条本文及び第十七条の規定は、第三項(前項において準用する場合を含む。)の規定による決定について準用する。
(決定の理由)
第十六条 保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。
(送達)
第十七条 保全命令は、当事者に送達しなければならない。
(事情の変更による保全取消し)
第三十八条 保全すべき権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更があるときは、保全命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができる。
2 前項の事情の変更は、疎明しなければならない。
3 第十六条本文(保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。)、第十七条(保全命令は、当事者に送達しなければならない。)並びに第三十二条第二項(裁判所は、保全異議の申立てについての決定においては、保全命令を認可し、変更し、又は取り消さなければならない。
2 裁判所は、前項の決定において、相当と認める一定の期間内に債権者が担保を立てること又は第十四条第一項の規定(保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。)による担保の額を増加した上、相当と認める一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施又は続行の条件とする旨を定めることができる。)及び第三項(裁判所は、第一項の規定による保全命令を取り消す決定について、債務者が担保を立てることを条件とすることができる。)の規定は、第一項の申立てについての決定について準用する。
(特別の事情による保全取消し)
第三十九条 仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるときその他の特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができる。
2 前項の特別の事情は、疎明しなければならない。
3 第十六条本文及び第十七条の規定(第三十八条3項を参照。)は、第一項の申立てについての決定について準用する。
(保全異議の規定の準用等)
第四十条 第二十七条から第二十九条まで、第三十一条及び第三十三条から第三十六条までの規定は、保全取消しに関する裁判について準用する。ただし、第二十七条から第二十九条まで、第三十一条、第三十三条、第三十四条及び第三十六条の規定は、第三十七条第一項の規定による裁判については、この限りでない。
※ 第三節 保全異議 を参照のこと。
2 前項において準用する第二十七条第一項の規定による裁判は、保全取消しの申立てが保全命令を発した裁判所以外の本案の裁判所にされた場合において、事件の記録が保全命令を発した裁判所に存するときは、その裁判所も、これをすることができる。
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