魂魄の狐神

天道の真髄は如何に?

法律考第十三回 物 その2

2007-11-20 15:06:20 | 憲法考

動産と不動産

 民法では物の分類の一つとして、不動産とそれ以外のもの(動産)に分ける。不動産と動産との法律的扱いと自然的相違は、①他の人にその権利を主張する場合、不動産には登記(民法第177条)があるが、動産はその物自身に行使できる権利を他人に主張できるためには、その物を前権利者から引渡しを受けていることが必要である(民法第178条)。また、質権などで、自分の手元にあることで自己に権利があると他人に主張できる(民法第352条)規定がある。さらに、お互いの妥協を伴う意思の決定を見て、争いごと無く、かつ、誰にも分かるように動産を手元に置き始めた者は、自分のものであることを信じ、かつ、そのように信じることが自然であると認められた場合には、時間の経過を待たずに動産についてその物に対する権利を主張できる(民法第192条)と言う規定もある。②物権に関るものとして、不動産と動産には用益物権や抵当権の設定の可否についての相違があるのだが、此処では説明を省略する(民法第369条)。③不動産と動産とには裁判所管轄権でも相違がある。④強制執行の執行方法・差し押さえの範囲・制限や執行の種類についても不動産と動産では相違する。

 日本ほど土地の所有権について強い権利を持たせている國は少ないとも言われているが、私権が公共の福祉によって制限を受けることは憲法に条項があり、土地所有権も法で幾つかの制限を受けるのだ。例えば、鉱業法の適用を受ける鉱物採掘権は國に留保され、温泉法には土地の掘削許可の規定や温泉採取の制限命令などの規定があるのだ。

 民法第86項には、不動産の定義として、土地とその定着物を挙げているが、土地と一体にしてある物が、総て独立した不動産として認められるかという問題がある。此処で言う土地の定着物の要件となる物は一体どういうものか。①そもそも、建築過程で建物が建物として認められるのは、一体、何処までなのか?また、その基準の置きかたの問題もある。過去の古い判例には真っ二つに分かれているものがある。②立木は不動産と認められる(立木法項)。③土地と一体をなし独立の権利対象としては認められない概念として従属定着物といわれる物がある。④従属定着物ではあるが、土地の所有者の所有に属し、一定の要件によっては土地から独立した物として扱われる物として半独立定着物とされるものがある。ただし、独立した物と認められるには公示(明認方法)を備える必要があるというのが通説である。ただし、立ち木や農作物については我が国において古くから独立した取引が認められているものであり、公示は他人に対する権利の主張のみからの要件だとするのが一般的考えだ。これに属する工作物の例としてガスタンクやテレビ塔などがある。これ等の概念は定着物の附合の問題と言われるものである。

 不動産以外は総て動産である(民法第86項)。しかし、動産であるが、対抗要件、抵当権設定、強制執行の執行方法などで不動産に準じて扱われる場合がある。これには民法の特別法での規定がある(船舶の登記、船舶所有権移転の対抗要件などは商法で、自動車の抵当権設定は車両法や自抵法)。

 債権者の特定は無く債権の成立・存続・行使の総てを証券によってのみ為される無記名債権も動産である(民法第86項)。これに属する物として小切手、無記名の公社債券、商品券、乗車券、入場券、学校債等がある。

 貨幣については債権的返還請求権しか認められず、物件的返還請求権が認められないのは言うべくも無い。貨幣は持っていること自体その者に所有権があるものと看做されるので、受領によって所有権が発生し、即時取得の規定(民法第192条)の適用は無いのだ。

主物と従物

 物の所有者が、その物の使用と共に常に、自分が所有する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする(民法第86項)。従物であるための要件は、①主物従物とも本来独立した物であり、②従物は社会観念上、継続して主物の経済的効用を助けると客観的に認められること、③②の役割を従物が持つために主物と従物との位置的関係が妥当と認められること、④両者が同一の所有者に属するものであること、⑤両者とも不動産・動産の別を問われない。

 効果としては、従物は常に主物の処分に従う(民法第86項)。主物の抵当権の効力の範囲は当然従物にも及ぶのだ(民法第370項)。①主物たる不動産の登記の対抗力は従物にも及ぶ(最高裁判例昭和44年3月28日民集23・3・699)。②当事者が従物を除外する意思を表示した時はそれに従う。③当事者は従物のみを処分することが出来る。

 宅地に対する抵当権設定と従物(最高裁判例昭和44年3月28日民集23・3・699)では、土地の構成物と従物は異なる。土地の構成物とは土地に付着し、土地と一体として認められ容易に土地から取り外すことが出来無いものである。石垣や大きな庭石などがこれに当たる。取り外すことの出来る石灯籠や庭石は従物であるとされた。

 主物と従物に似た概念として、主たる権利と従たる権利がある。これは法に規定は無いが、認められた概念である。(例)元本債権についての転付け命令(債務者の預金などを債権者へ直接的に移すのと同じ効果を生じる手続のこと。債務者の財産に対する強制執行のひとつである)の効力は利息再建にも及ぶ(大陪審判例大正10年11月15日民録27・1959)。

元物と果実

 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する(民法第206条)。

 天然果実は原則として元物から分離した時から独立の物とされ、その所有権は分離したときに「収益権を有する者」がその所有権を取得する。では、その「収益権を有する者」としては、

(果実の帰属)
第89条1項 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。

(所有権の内容)
第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

(地上権の内容)
第265条 地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。

(永小作権の内容)
第270条 永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。

(留置権の内容)
第295条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

(不動産質権者による使用及び収益)
第356条 不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

(借主による収去)
第598条 借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。

(賃貸借)
第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(財産の管理の計算)
第828条 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。

 未分離の天然果実は慣行により、未分離のまま取引される。

 法定果実は物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とされ(民法第88項)、法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する(民法第89項)。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿