よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
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日本経済の将来を展望する? 99%の悲観論に抗して ① 賃金の上昇に一番必要なもの

2023年02月13日 | 週刊 日本経済を読む
 今回は、世の中で「常識」となっていることとは少し違うことを主張したい。悲観論は憶測に基づき楽観論は事実に基づく、という。事実からどのような楽観論が組み立てられるのだろうか?

賃金総額は増え続けている



 国民経済計算(GDP統計)から賃金総額の推移を追った。1997年に最大となった賃金総額は、その後下がり続けたが、2003年にいったん底を打つ。その後、リーマン危機、大震災と低迷期が続くが2012年から上昇を始め、コロナ禍がなければ2020年には最大値を記録していたと思われる。統計は未発表だが2022年には最大値を記録することは間違いない。この間、「掛け声」を別にすれば、賃金を上げるような政策が採用されたことはないから日本経済の地力とみてよい。理由はシリーズの最後に触れるが、日本経済は放っておけば賃金が上昇する性質を持っているのである。
 しかし、24年かかってようやく賃金総額が戻ったというのは大災厄である。しかもその間に分母(労働者数)は5391万人から6016万人へと大幅に増えており一人当たりの賃金は下がっている。 

賃金のどこが?どのように増えのか?

 これには民間給与実態調査と賃金構造基本統計調査の二つの統計を用いる。

民間給与実態調査
 民間給与実態調査:国税庁は全ての労働者の源泉徴収のデータを持っている。それを加工したものが民間給与実態調査である。賃金の全数調査である。ただし、勤務先で年末調整を受ける労働者に限られる。ほぼ「正社員」のデータだ。給与階層別の労働者数の2011年と2021年を比較した。

 
         
       
 男性も女性も分布は右側に移動している。つまり賃金総額は増える方に移動したのだ。原因で一番考えられるのは勤続年数の上昇である。2011年以降、いろいろあっても経済は安定しており、失業率も低位で安定している。経済に大きな後退がないことが賃金が上昇し続ける条件だとしたらこの十年間はその条件を満たしていた。さらに女性の勤続年数が伸び、多分少しずつではあるが女性の管理職が増えているらしいことも注目される。女性の管理職が増えているらしい根拠は年収700万円以上の増え方である。

賃金構造基本統計調査
 民間給与実態調査には年齢の要素がない。年齢の要素も含めて調査しているのが賃金構造基本統計調査である。全数調査ではないが2021年の調査では2820万人を集計している。全労働者の半数を超えている。

 ここから、男性・女性のデータを加工した。全規模・全学歴である。

   男性

          女性 
 
*年収は、きまって支給する賃金×12+年間賞与その他特別給与額として計算した。

 やはり男性・女性ともに勤続年数は上昇していた。特に女性の勤続年数の上昇が著しい。ここではその原因や結果には言及しない。
 賃金構造基本統計調査のデータから勤続年数が一年上昇すると年収はどのくらい上昇するのか推計してみた。その結果は男性が約8万円、女性が4万円である。民間給与実態調査からそれぞれ労働者数は3000万人、2200万人とすると勤続年数が一年上昇すると、3兆2800億円増えることになる。非自発的失業が抑えられれば勤続は毎年一年延びていく。賃金総額が上昇を始めた2012年は215兆円、2021年は245兆円だから一年あたり3兆3300億円増加したことになり、整合的だ。

 経済が大きな景気後退を経験しなければ賃金は上昇を続ける。当たり前のことが三つの統計から明らかとなった。賃金の継続的上昇には、効果が上がりそうにない産業政策よりも失業率を低位に保つことが最も重要なのだ。

 賃金の上昇に一番必要なもの、それは安定した雇用環境である。
 当たり前のことだが、忘れている人が多すぎる。

 次回以降は、賃金総額は上昇を続けているのになぜGDPはそれほど増えないのか?日本経済は今後どうなるのか?という大予言をぶち上げる?つもりだ。

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