限界消費性向低下の法則:
所得が増えるほど消費も増えるがその増え方は所得ほどではない
これは理論から導き出される結論ではなく、理論の前提となる経験上の事実である。
経験上の事実・家計調査に見る限界消費性向低下
政府統計・家計調査は家計の収入を十分位に分けて結果を発表している。図は「二人以上の勤労者世帯」をもとに消費性向と所得の関係を示している。
左図では可処分所得を消費と残余に分けた。残余は何らかの形態の貯蓄である。右図は各所得階層の消費性向(消費÷可処分所得)である。可処分所得とは収入のうち、税金や社会保険料などを除いた所得で、自分で自由に使える手取り収入のことだ。所得の各十分位は以下のようになっている。
年間収入十分位階級
Ⅰ 375万円以下
Ⅱ 466万円以下
Ⅲ 537万円以下
Ⅳ 604万円以下
Ⅴ 672万円以下
Ⅵ 750万円以下
Ⅶ 840万円以下
Ⅷ 962万円以下
Ⅸ 1165万円以下
Ⅹ 1165万円以上
図のように豊かになるほど消費性向は下がる。ひとランク上がるたびに2.3ポイントほど下がっていく。これは同時期の分布だが、横軸を時間にとっても同じ結果が得られるだろう。
豊かになるほど、さらに豊かになるのは難しい
ケインズは所得と消費と投資の関係を考察するうえで限界消費性向低下の法則を前提に置いている。下のグラフを理解するには前項の以下の式を思い出していただきたい。
所得=消費+貯蓄=消費+投資=生活手段の購入+生産手段の購入=次の所得
右図の所得②が上式の次の所得に当たる。増え方が鈍る消費に対して投資も鈍るだろう。結果として投資は所得を維持していくには過少となり所得の増え方も鈍っていく。貯蓄=投資であれば得られるはずだった所得①には届かなくなり所得②へと低下していくのだ。ケインズは有り余る富のせいで社会が貧しくなっていく可能性を主張している。
貯蓄が余剰資金となる。これは、社会が豊かとなって再配分や社会的投資のための原資を手に入れたのだから、悪いことではない。問題は原資=「有り余る富」の使い方である。有り余る富の使い方は営利目的ではありえない。営利目的の投資先がないから有り余っているのだから。
実はここがケインズと新古典派・現代正統派の分かれ道だ。ケインズは営利目的の投資では資本主義は救えないと考えている。新古典派・現代正統派は規制緩和によって営利目的の投資はまだ増えると考えるのだ。具体的にどのような規制緩和かは分からないが・・・