よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

1-04:国際競争力という幻、貿易立国という神話

2021年09月30日 | 日本経済分析
 見出しから結論が分かってしまうような文章は嫌いだが、ブログの見出しはキャッチーじゃなきゃ、ということでご理解を。
 「巨額の公的債務」と「国際競争力の低下」で日本は没落しつつある、というのが「識者」の共通理解のようである。なんと簡単に枕詞のように使われている事か・・・自らの無知をさらけだしているだけなのに。
 公的債務は一国全体で見た過剰資金の裏返しであることはすでに見た。「国際競争力の低下」についてはどうだろう。

 というわけで今回は貿易の問題を取り上げる。

日本経済にとっての「貿易」

 グラフはGDPの内訳である。データは2021年4-6月期だ。
 ただしカラクリがあって輸入をカウントしていない。この図だけでは、輸出が民間企業設備投資を上回っており、まさに「日本は貿易立国だ」という論拠になるものだ。古典派・現代正統派は「供給しかみない」から当然輸出しかみない。だから国際競争力偏重・貿易立国論者となる。



 次のグラフは輸入をカウントし純輸出(貿易収支)の項目を設けている(純輸出=輸出―輸入)。この期は純輸出がGDP比でマイナス0.42%となっている。GDP全体にとって純輸出がプラスに働くこともあればマイナスに働くこともあるが、いずれにせよ、その寄与度は極めて小さい。輸出と輸入はほぼ同じように動くからだ。




輸出・輸入は同期して動く

 では、純輸出、輸出、輸入の推移を見てみよう。グラフは1955年からで、実額である。



 輸出入の額は増大しているが、純輸出は1996年から右肩下がりとなっている。これを「日本の国際競争力の低下」と捉える論者が多いが、次に触れるように、大きな間違いである。
 
GDPに対する輸出入のの寄与度

 次にGDPに対する割合をグラフにしてみた。



 いろいろうるさい補助線を引いてしまったが、概して好況時には輸出も輸入も増えないということである。筆者がこどものころ、世間では輸出はGDPの10%だとされていたが、輸出が20%まで上ったとき「日本の不況も来るところまで来たな」と思ったものである。なぜなら
 
純輸出(貿易収支)=国内総供給―国内総需要

 だから、総供給の過剰(総需要の過少)が貿易黒字となる。逆も真なり、で総需要の過剰は貿易赤字を招く。
 実際にバブルの時は輸出入のGDP寄与度が下がってるのが見てとれる。景気の鍵を握るのは国内需要なのだ。

貿易収支の時代から経常収支の時代へ

 さらに経常収支の推移も見てみよう。
 わずらわしいが、ここで簡単に語句の説明をしておく。

 経常収支=貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支の合計
  •  国際間のサービス収支は輸送、旅行、金融手数料、知的財産使用料の合計。
  •  第一次所得収支とは海外投資の収益である。
  •  第二次所得収支とは無償援助のことだ。
  •  日本から海外へ、海外から日本への投資(資本取引)は別に勘定される。


 経常収支は赤の折れ線グラフとなる。今や海外投資の収益(第一次所得収支)が、貿易・サービス収支を大きく上回っている。現状の姿は「貿易立国」ではなく「海外投資立国」となっているのだ。

 国際収支の決定要因については、一度紹介した小野善康「景気と国際金融」をぜひ参照されたい。同書12Pからの「2 国際収支の決定要因」は必読である。が、ここではこれ以上踏み込まない。

 この項では以下の二点を筆者が主張している、ということを頭においてもらえば十分である。

① 純輸出(貿易収支)=国内総供給―国内総需要
個々の産業ではプラスマイナスはあるが一国経済全体としては上記式が成り立つ

先進国になればなるほど、経常収支が貿易収支を上回る傾向を持つ
「国際競争力」を持つ産業ほど、海外進出が進み、その投資収支(経常収支)が貿易収支を上回っていく。のちほど企業の項目で触れることになるが経常利益が営業利益を大きく上回る事態が進行している。投資の収益はごく一部にしか還元されず格差拡大の大きな要因となるのだ。

貿易黒字の縮小は「国際競争力の低下」 を示しているのか?

 戦後、壊滅した経済を復興させるには、海外からの資金導入と、その償還のために貿易赤字を減らすことが絶対命題だった。
 貿易立国論が誕生し支配的となり日本経済の創世神話のようになってしまったのだが、円相場が自由化されてその時代は終わった。1970年代初頭には終わっていたのである。

 ところが、古典派・現代正統派は供給側の経済学である。貿易黒字の縮小を「国際競争力の低下」と捉える。海外投資の収益と貿易黒字は両立しない。もし両立するなら、世界中の貨幣が日本に集まってしまうではないか?!

 GDP=総供給=就業者数×一人当たり付加価値額と言う図式を描いてしまうから、一人当たり付加価値額の低下が経済の停滞を招き、国際競争力の低下を招くのだと考えてしまう。

 前に取り上げた「財務省の指導理論」がまさにその典型である。「中国やインドといった新興国が台頭し、グローバル経済での競争が激化する中、日本経済も「高品質・低価格の競争」から「高付加価値の競争」に転換する必要性を強調する有識者も多い」といった世迷言を並べてしまうのだ。お断わりしておくが、私は彼らの知性や品格を一瞬たりとも疑ったことはない。
 しかし無知とはこのように恐ろしい。高品質・低価格高付加価値は何が違うのだろう。浅学非才の筆者にはわからないが、多分これを書いた人にもわかっていないだろう。
 
 成熟した資本主義国においては問題は需要側、それも国内の需要側にある。これこそケインズが一般理論で掲げた経済理論である。実は、我々が知っているGDP統計は支出側すなわち需要側の統計である。
 
 次回から、GDP統計(支出側)を使って日本経済停滞の原因を探っていく。
 

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