よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

3-03:「豊かな社会」の矛盾:全体が裕福になるほど消費の割合は減るうえ、日本には貧困層への再分配―貧困対策は存在しない

2021年09月25日 | 日本経済分析
「家計調査は,一定の統計上の抽出方法に基づき選定された全国約9,000世帯の方々を対象として,家計の収入・支出,貯蓄・負債などを毎月調査しています。(総務省)」

 この家計調査は、回答率が低いとか、特定のバイアスがかかっているとかいろいろな評判があり、筆者もそのままは受け取れないかな、とも思うが、実感に合っているところも多々あり重要な統計であることに変わりはない。よく「納豆の消費量日本一の県は・・・」などと報道されるが、この家計調査を基にしている。

 以下この家計調査をもとに分析を進めるが、前回書いたように2019年、2020年は所得と消費に攪乱要因(消費税とコロナ)があるため2018年の家計調査年報を対象にしている

豊かになるほど消費に回す割合は減る

 中には巨額の資産をあっという間に食いつぶしてしまう人もいるだろう。そんな人生を送ってみたいと思わない訳でもないが、現実はどうだろうか。消費性向というのは消費支出÷可処分所得で求められる。

 2018年の家計調査年報から世帯人員二人以上の勤労者世帯を分析する。
 この調査結果は収入階級を五分位数、十分位数それぞれで出している。五分位数とはデータを小さい順に並べて、5等分したものであり、十分位数は10等分である。

 次の表は年間収入五分位階級の境界を示している。二人以上の勤労者世帯の20%は459万円以下の年収であり、40%は595万円以下、60%は737万円以下、80%は945万円以下、20%は1129万円以上ということだ。

年間収入五分位階級と年間収入
 Ⅰ ~459万円
 Ⅱ 459万~595万
 Ⅲ 595万~737万
 Ⅳ 737万~945万
 Ⅴ 945万~
 
 この収入階級別の消費性向(消費支出÷可処分所得)を示したのが次のグラフだ。やっぱりそうだ、ということ以上には出ないが・・・。家計調査は9,000世帯なので傾向はつかめるが、超富裕層は、数が少ないし対象とならないだろうし、正直に答えるかどうかも怪しい。この調査には反映されていないだろう。ちなみに家計調査は収入十分位階級も公表しており、それによると全家計の10%は1120万円以上、その消費性向は59.5%である。

 ただし20%というのも目が粗いので日本の勤労世帯の20%は年収945万円以上だというのは確かなことだと思われる。しかも世帯に二人の正社員がいれば十分達成可能な数字でもある。



家計への再分配はどうなっているのか?

 家計は税と社会保障料を負担し、社会給付を受けている。下のグラフは先ほどの収入階級別に負担と給付の実額を示したのが下のグラフだ。

 ただし、家計が受ける給付はこれ以外に現物給付(医療・教育等)があることを忘れてはならない。現物給付を含めた再分配構造については政府の項で取り上げる予定である。

 上段のグラフは金銭ベースでの負担と給付を項目ごとに示し、下段のグラフは負担と給付を差し引きし純負担(純給付)を示している。



 上段のグラフから公的年金給付が社会保障給付に占める割合が非常に大きいことが分かる。収入が上がるほど公的年金給付が減っていくのは、親から独立できるからであり、逆に言うと収入が低いと親の年金を当てにせざるを得ないということでもある。

 むろん、全ての世帯が親と同居し親の年金を世帯の収入としているわけではない。むしろ少数派であろう。

 そこで公的年金給付を除外したのが下のグラフである。




 収入階級が最も低い(年収459万円以下)の世帯でも純負担が月当たり34,234円となっている。この年収459万円以下の世帯の構成を見ると、世帯人員2.97人、有業人員1.58人、世帯主の年齢50.9歳、平均年間収入355万円、月次収入295,833円となっている。この家計から、親と暮らしていなければ月々34,234円の純負担を求めるという国に我々は暮らしているのだ。

恐るべき消費税の逆進性

 さらに消費税はこの負担に入っていない。家計の消費税負担を推計するのは容易ではないが、ここでは消費支出×10%を推定消費税として分析した。
 
 勤め先収入に占める税と社会負担に推定消費税負担を加えて割合を示した。



 あくまで理論値ではあるが、消費税の逆進性がいかに強いかお分かりいただけよう。消費性向が高いほど負担割合は高まる。つまり貧しい世帯ほど負担が大きい、それが消費税なのだ。

 繰り返すが分析対象としているのは「二人以上の勤労者世帯」である。先ほど見たように2.97人の家族で1.58人が働き、平均月収(一時金込み、年収÷12)は295,833円。そこから消費税込みで21.9%(57,540円)の負担を求めているのである。このような世帯は「財政破綻」ギリギリの生活を送っていると言わざるを得ない。


2-02 投資の停滞が長期停滞を招いている で書いた次のとおりである。
「高齢化の進展に伴う国家支出の増大をそのまま国民負担に求めたからこうなっている。税と社会保障の改革は叫ばれ続けているが妙案は出てこない。それは当然で、まずなぜ所得が増えないのかというところから問題を立てないと、所得一定または漸減という前提で政策を考えると事態をより悪化させるのだ。」

 日本には公的年金以外の所得再分配は存在せず、むしろ税と社会保障の出入りで再分配後の方が格差が広がるという制度になっている。

 日本に貧困対策は存在しない。コロナ禍だからと言って急に困窮家庭に分配を進めようとしてもできるはずはないのである。

貧困についてより深堀りしたい方はこちらを・・・
貧困統計ホームページ(「子どもの貧困」著者、阿部彩都立大教授が中心)



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