内発的動機があれば不可能はない(扉絵)
motive 、incentive、inducement の違い
この章には「流動性の罠」が登場するが、その前に上記概念を検討する。筆者が気になっただけである。
流動性への動機の解明―流動性選好ってなぜ起きる?
ここは一般理論の論旨を追っていくと結構難解である。「あらかじめ予想される論点」を網羅しているからである。さらに翻訳の問題がある。と言っても訳者の問題ではない。日本語と英語の問題である。
本文:“Chapter 15 THE PSYCHOLOGICAL AND BUSINESS INCENTIVES TO LIQUIDITY”
訳:「第15章 流動性への心理的誘因と営業的誘因」
本文:“We must now develop in more detail the analysis of the motives to liquidity which were introduced in a preliminary way in chapter 13.”
訳:「ここで、第13章で予備的に導入した流動性への動機について、さらに分析を深めておかなければならない」
動機、誘因 何がどう違うのだろう?
問題は motive だ。研究者新英和中辞典では以下のようになっている。
Motive:動機,真意,目的
【類語】
motive は人に行動を起こさせる内部的な衝動 ⇒動機,真意,目的
incentive は人にいっそうの努力や行動をうながす刺激 ⇒刺激、動機、誘因、奨励金、報奨物
inducement は人に行動をとらせる外部からの誘因,特に金銭的なもの ⇒誘引(すること)、誘導、誘引するもの、誘因、気を起こさせるもの
内発的な動機から外部的誘導へ
内発的な動機から外部的誘導へと並べると motive ⇒incentive ⇒inducementとなりそうである。しかし日本語訳はほとんど変わらない。適当な日本語がないということである。
こういう例文もある。
the motive or incentive for action or volition:行動や意志の動機や誘因
放っておいてもやる人もいれば飴玉でやる気を起こす人もいる。だからOR なんだろう。
Inducementになると対価、契約の意味がしてくる。
“the motives to liquidity”
「流動性への内発的動機」
“THE PSYCHOLOGICAL AND BUSINESS INCENTIVES TO LIQUIDITY”
流動性への(流動性という報償による)心理的営業的誘因
こんなところか?
(今の社会的条件を所与とすれば)人はそもそも生来流動性を選好するものだ、という認識が裏にあるのは間違いない。集団や営業という生(なま)の生活から離れた抽象度の高い範囲ではINCENTIVEとなるのだ。
そもそも流動性へのmotiveを持っており、それがincentiveによって変化する。人はinducementによって現金を保有しているわけではない。(もしそうなら、つまり外部からの誘因によって流動性選好が変化するなら、簡単に現金保有量を操作できるだろう)
以上頭に入れて次の論考を進める。