よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

50:第15章 流動性への心理的誘因と営業的誘因:言葉の定義と日本語訳について

2021年03月21日 | 一般理論を読む
内発的動機があれば不可能はない(扉絵)
motive 、incentive、inducement の違い

 この章には「流動性の罠」が登場するが、その前に上記概念を検討する。筆者が気になっただけである。

流動性への動機の解明―流動性選好ってなぜ起きる?

 ここは一般理論の論旨を追っていくと結構難解である。「あらかじめ予想される論点」を網羅しているからである。さらに翻訳の問題がある。と言っても訳者の問題ではない。日本語と英語の問題である。

本文:“Chapter 15 THE PSYCHOLOGICAL AND BUSINESS INCENTIVES TO LIQUIDITY”

訳:「第15章 流動性への心理的誘因と営業的誘因」

本文:“We must now develop in more detail the analysis of the motives to liquidity which were introduced in a preliminary way in chapter 13.”

訳:「ここで、第13章で予備的に導入した流動性への動機について、さらに分析を深めておかなければならない」

動機、誘因 何がどう違うのだろう?

 問題は motive だ。研究者新英和中辞典では以下のようになっている。

Motive:動機,真意,目的
【類語】 
motive は人に行動を起こさせる内部的な衝動    ⇒動機,真意,目的
incentive は人にいっそうの努力や行動をうながす刺激   ⇒刺激、動機、誘因、奨励金、報奨物
inducement は人に行動をとらせる外部からの誘因,特に金銭的なもの      ⇒誘引(すること)、誘導、誘引するもの、誘因、気を起こさせるもの

内発的な動機から外部的誘導へ

 内発的な動機から外部的誘導へと並べると motive ⇒incentive ⇒inducementとなりそうである。しかし日本語訳はほとんど変わらない。適当な日本語がないということである。

こういう例文もある。

the motive or incentive for action or volition:行動や意志の動機や誘因

放っておいてもやる人もいれば飴玉でやる気を起こす人もいる。だからOR なんだろう。

Inducementになると対価、契約の意味がしてくる。

“the motives to liquidity”
「流動性への内発的動機」

“THE PSYCHOLOGICAL AND BUSINESS INCENTIVES TO LIQUIDITY”
流動性への(流動性という報償による)心理的営業的誘因

こんなところか?
(今の社会的条件を所与とすれば)人はそもそも生来流動性を選好するものだ、という認識が裏にあるのは間違いない。集団や営業という生(なま)の生活から離れた抽象度の高い範囲ではINCENTIVEとなるのだ。

 そもそも流動性へのmotiveを持っており、それがincentiveによって変化する。人はinducementによって現金を保有しているわけではない。(もしそうなら、つまり外部からの誘因によって流動性選好が変化するなら、簡単に現金保有量を操作できるだろう)

 以上頭に入れて次の論考を進める。

 

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