『 いにしへや、
かゝる山路に 行きかねて、
寝にけむ人は、
ころされにけり
雨霧のふか山なかに
息づきて、
寝(ぬ)るすべなさを
言ひにけらしも
山がはの澱の 水(み)の面(も)の
さ青(を)なるに
死にの いまはの
脣(くち) 触りにけむ 』
***
このうたには下記の前書きが添えられている。
『ーー城破れて落ちのびて来た飛騨の国の上(じやうらふ)の、
杣人(そまびと)の手に死んだ処。』
上(じやうらふ)とは国語辞典で調べると、『年功を積んだ上位の人』とある。
***
このうたの状況はこういうことらしい。
昔,飛騨の国の何処かの城の高位の女官が、戦いで敗走し、山へ逃げた。
霧雨の降る、その山で一夜を過ごそうとしているとき、「きこり」に殺された。
おそらく釋超空は、民間伝承探訪の旅の途中で、この逸話を土地の人から聞いたのだろう。
その逸話に触発されて、このうたを作ったのではないか。
このうたの透徹にして透明な哀感は、まさに釋超空の世界だと私は思う。
特に以下の最後の箇所は、北原白秋が釋超空を評して言うように、『尋常人の鍛錬(たんれん)によっては得られぬ、不気味なほどの底から光って響いて来る』、或る幽鬼さをも感じさせないだろうか。
釋超空以外の人が、この不気味なほどの静謐な詩的イメージを表現しえただろうか。 素人ながら私はそう思う。
『 山がはの澱の 水(み)の面(も)の
さ青(を)なるに
死にの いまはの
脣(くち) 触りにけむ 』
かゝる山路に 行きかねて、
寝にけむ人は、
ころされにけり
雨霧のふか山なかに
息づきて、
寝(ぬ)るすべなさを
言ひにけらしも
山がはの澱の 水(み)の面(も)の
さ青(を)なるに
死にの いまはの
脣(くち) 触りにけむ 』
***
このうたには下記の前書きが添えられている。
『ーー城破れて落ちのびて来た飛騨の国の上(じやうらふ)の、
杣人(そまびと)の手に死んだ処。』
上(じやうらふ)とは国語辞典で調べると、『年功を積んだ上位の人』とある。
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このうたの状況はこういうことらしい。
昔,飛騨の国の何処かの城の高位の女官が、戦いで敗走し、山へ逃げた。
霧雨の降る、その山で一夜を過ごそうとしているとき、「きこり」に殺された。
おそらく釋超空は、民間伝承探訪の旅の途中で、この逸話を土地の人から聞いたのだろう。
その逸話に触発されて、このうたを作ったのではないか。
このうたの透徹にして透明な哀感は、まさに釋超空の世界だと私は思う。
特に以下の最後の箇所は、北原白秋が釋超空を評して言うように、『尋常人の鍛錬(たんれん)によっては得られぬ、不気味なほどの底から光って響いて来る』、或る幽鬼さをも感じさせないだろうか。
釋超空以外の人が、この不気味なほどの静謐な詩的イメージを表現しえただろうか。 素人ながら私はそう思う。
『 山がはの澱の 水(み)の面(も)の
さ青(を)なるに
死にの いまはの
脣(くち) 触りにけむ 』