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今日の筆洗

2021年11月22日 | Weblog
一八七三(明治六)年、実業家の渋沢栄一が設立した第一国立銀行の「株主布告」に渋沢自身が銀行の理念について書いている。口語訳をすれば「そもそも銀行とは大きな川のようなものだ。役に立つことは限りない」▼個人が持っているだけではわずかな水滴のようなお金だが、それを銀行が集め、大きな流れをつくりだせば、大資金となって、人の役に立つ。そういう趣旨である▼第一国立銀行が現在のみずほ銀行につながっているのだから、「大きな川」とうたった渋沢さんもさぞ、渋い顔をしているのだろう。現金自動預払機(ATM)が使えなくなるなどみずほ銀行で相次いだシステム障害問題は経営陣の退陣に発展し、親会社みずほフィナンシャルグループ社長、みずほ銀行頭取らが引責辞任する見通しだそうだ▼川のように円滑なお金の流れを支えるべき銀行がこうたびたびシステム障害を起こし、流れをせき止めたとあっては経営陣の責任は免れまい▼金融庁の検査によれば、システム自体に重大な欠陥はなく、その運用に問題があったという。システムを保守管理する人員を大幅に削減したことも障害の頻発を招いた原因という指摘がある。川の見張りをおろそかにした結果だろう▼「みずほ」とはみずみずしい稲の穂のこと。徹底的な再発防止を願いたい。豊かなみずほの実りには安定した水の流れが欠かせない。
 

 


今日の筆洗

2021年11月20日 | Weblog
今季の米大リーグが開幕してひと月あまり過ぎたころ、メッツの主力ストローマン投手がツイッターで、大谷翔平選手への賛辞を重ねつつ明かしていた。「試合が終わると、電話に向かって走り、彼がその夜何をしたかをチェックしている」のだと▼あこがれの選手の活躍を一刻も早く知りたいと走る少年の姿が浮かんでくる。ときに野球少年を思わせる大谷選手だが、他チームの立派な大リーガーまで子供のようにした今季である▼同じように魅了された米国の野球記者は多かった。満票の記者投票の意味はそういうことだろう。圧倒的な支持を集めて、大谷選手がア・リーグの最優秀選手に選ばれた▼数々の強烈な本塁打、コーナーに決まった160キロ級の速球とともに、今季の印象に残るのが、投手として死球を与えた場面である。謝罪しないという米大リーグで、自然にわびを入れ、相手を気遣った。プレーだけでない純粋な精神に、米国の記者も感じ入ったようである。「尊敬に値する」と書いていたのを読んだ▼右肘の手術の後、投打ともに進化している。並の努力ではなかったはずだ。さらに上も目指すという▼二種類の人がいて、一方は少数で<自分に多くを要求し、自分の上に困難と義務を背負い込む人>だと思想家オルテガが述べている。少年の純粋さと選ばれた人の厳しさと。両面を持つ堂々のMVPであろう。
 

 


今日の筆洗

2021年11月18日 | Weblog
今年の日本シリーズは昨年、一昨年ともに最下位だったヤクルトとオリックスの顔合わせである▼最下位であろうと精進すればわずかな期間で力をつけることもある。それを証明してみせた二つのチームに励まされた方もいるだろう▼最下位からの優勝と聞いて小欄の世代が思い出すのは一九七五年、「赤ヘル旋風」の広島カープである。カープに初優勝をもたらした名将、古葉竹識さんが亡くなった。八十五歳▼あの年もカープが優勝できるとどれだけの人が予想したか。ルーツ監督は判定への不満などから開幕早々に退団。その後を引き受けた古葉さんがチームをまとめ上げ、ペナントをつかみとった。創設当時は資金難に泣き、市民の募金によって遠征費を捻出したと伝わる、万年下位球団の初優勝。広島の市民はどんなにうれしかったか。数十万人が集まった歓喜の優勝パレードがよみがえる▼南海コーチ時代に野村克也さんの采配を学んだという。どんな局面にも顔色ひとつ変えない冷静さとわずかなチャンスでも一点を確実にものにする野球は敵チームからすればいやらしかった▼ベンチではバットケースの陰に隠れるように立っていた。あの位置に立つとすべて見えたそうだ。「選手がきちんとした動きをしたかどうかも全部分かるんです」。きっと、これからもバットケースの陰から日本野球を見守ってくれるだろう。
 

 


今日の筆洗

2021年11月17日 | Weblog

「バケツ戦争」とは一三二五年、かつてのイタリアの都市国家、モデナとボローニャの間に起きた戦争で約二千人が亡くなったと伝わる。「バケツ戦争」とは奇妙な名だが、モデナの兵士がボローニャの井戸からバケツを盗んだことが原因となり、戦争が始まったためである▼戦争とはほんのささいな理由でも始まることをそのバケツが教えてくれる。無論、それ以前からお互いへの不信や怒りがあったのだろう。それが積み重なった結果、取るに足らぬバケツでさえも戦争を引き起こす着火剤となる▼台湾問題などを巡って、対立を深める米中両国が昨日開いた首脳会談。米国としては偶発的な衝突を招かぬための「ガードレール」を置くのが目的という▼具体的な会談の成果は見えてこない。これを境に関係改善に一気に向かうとも思えぬが、両国の険悪な空気がこの会談によって少しでも和らぐことを期待したい▼バイデン大統領は会談の冒頭「米中首脳には紛争に向かわぬようにする責務がある」と述べた。その通りで核を保有する大国同士が万が一にも衝突すれば世界を大きく揺さぶることになる▼首脳会談を定期的に開催することだ。積み重ねるべきは相互不信ではなく、対話と理解である。たとえオンラインでもお互いに顔を合わせ、言葉を交わし続けていれば盗んだバケツが戦争を引き起こすようなことにはなるまい。


今日の筆洗

2021年11月16日 | Weblog

イチョウの色が緑から美しい黄色に変わりつつある。東京の日比谷公園に一風変わった名前のイチョウの木がある。「首かけイチョウ」という。小春日の陽(ひ)を受けた黄色の葉がまぶしい▼「首かけ」とは物騒だが、一九〇一年、この木を公園内に移植する際の話に由来する。もとは公園近くの日比谷交差点近くにあったが、道路拡張に伴い、伐採することになった。これに反対したのが「日本の公園の父」、本多静六。自分の首をかけてでも移植させると訴え、その名がついた▼気候変動問題を協議したCOP26は成果文書を取りまとめ、閉会した。地球という大きな木を守るための会議である▼焦点だった石炭火力発電をめぐる表現は段階的廃止から段階的削減に残念ながら後退した。温室効果ガスを多く排出する石炭火力を段階的に廃止したい欧州などに対し石炭への依存度がなお高い中国やインドが難色を示し、表現を弱めることで何とか折り合った▼後退した成果文書に対し不十分だとの声があがる。もっともだが、石炭火力を減らそうという方向性を国際社会が共有したことを前向きにとらえるしかないか。あのイチョウでいえば伐採ではなく、移植の方向だけはひとまず確認できたのである▼温暖化抑止は成果文書を踏まえた各国の対応にかかる。首をかけて、取り組んでほしい。地球という大木を枯らすわけにはいかぬ。


今日の筆洗

2021年11月15日 | Weblog
鬼ごっこなどで幼い子は鬼につかまっても鬼になることを免除されたものだ。覚えていらっしゃるだろうか。そういう子は「オマメさん」とか「おみそ」と呼ばれていた▼今、思えば、よくできたルールである。この例外規定があることで幼い子も年上の子と一緒になって楽しく遊べる。そうやって遊びを学ぶ▼お隣の韓国にも同じルールがあるそうだ。話題の韓国ドラマ「イカゲーム」の中にそんな場面が出てきた。呼び方は「カクテキ」と言うそうだ。あのキムチのカクテキ。理由は分からないが、日韓とも食べ物の名というのが不思議である▼幼い子にやさしいルールを共有しているとは、お隣との近さを感じる話だが、戦後最悪という日韓関係の方は相変わらずで改善の兆しが見えない。これが原因なのだろう。日本、中国、韓国の首脳による日中韓サミットは今年も開催が見送られると聞く▼三カ国は年に一回、サミットを開くことにしているが、これで二年連続での見送り。慰安婦問題や元徴用工訴訟問題を巡る日韓の対立が依然として解けない。双方の事情は分かるが、首脳同士が会わない限り、解決はさらに遠ざかろう▼「オマメさん」「カクテキ」の特別ルールではないが、対立する問題をとりあえず脇に置いて、両首脳がまず会うための工夫が必要だろう。さもなくば、いつまでたっても鬼ごっこさえ始まらない。
 

 


今日の筆洗

2021年11月13日 | Weblog
<橇(そり)の鈴さえ寂しく響く/雪の広野(こうや)よ町の灯よ>。東海林太郎が歌った戦前のヒット曲『国境の町』はそう始まる。舞台はソ連に近い旧満州の町か。遠い古里と故国に残る人へ、募る思いが歌ににじむ▼節は<一つ山越しゃ他国の星が/凍りつくよな国境(くにざかい)/故郷はなれてはるばる千里/なんで想いがとどこうぞ>と続く。寒風が吹く季節の異郷の景色が、心に冷たく迫るようだ▼故郷を離れ、冬が近づく国境の森に今さまよっている人たちは何を思おう。ポーランドに近い旧ソ連のベラルーシ西部の森で、難民数千人が立ち往生している▼西欧の見方によると、過去にない種類の攻撃が行われているという。ベラルーシが、遠く離れた中東から欧州行きを望んでいる人々を、欧州連合(EU)の一員の隣国ポーランドに送り込もうとしているそうだ。経済制裁を科してきたEUに、混乱をもたらすための「人間の盾」「駒」が難民であると指摘される▼ポーランドは入国を拒んだ。行き場を失った人々に死者が出たとも報じられている。子どもも多いという難民を材料にした攻撃が本当なら、人道上許されないだろう。他国の星の下、駒になった人に異国の景色はどう映っているか▼後ろ盾のロシアを含めEUとの関係が緊迫している。寒さは厳しくなっている。難民が凍りつくような目に遭わないことを祈りたい、国境の森である。
 

 


今日の筆洗

2021年11月12日 | Weblog
僧侶でもあった作家の今東光は法名を春聴といった。出家を申し出たその女性の法名に、自らの一文字を授けようとしている。「春」であったが、女性は辞した。「おそれいりますが、春に飽きて出家するのです」。当時五十一歳だった作家、瀬戸内晴美である▼東光が三時間座禅を組んで、浮かんできた「寂」の文字に、「聴」のほうを添えて、心静かに世の中の声を聞く−そんな境地を思わせる「寂聴」が生まれたそうだ▼あまたの恋愛に、文学賞受賞や作家としての人気…。人生の春を経験する一方で、「幼い恋」をして夫や娘のもとを去っている。胸に「生涯の悔い」も秘めていたという。作品が酷評される苦境もあった。寒風の冬も味わってきた人が出家とともに「人のため、文学のため」を思わせる後半生に向かうのに、よく合う法名であったようだ▼平和を唱えてきた。温かい言葉で、悩んでいる名もない人にも向き合った。家族を捨てて後悔している自分の顔が、相談者の表情に重なることもあったという▼それでも「この世は生きるに足る」。波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生から聞こえてきた思いを多くの人に伝えて、瀬戸内寂聴さんが九十九歳で亡くなった▼源氏物語の現代語訳は後世に残ろう。出家は世を驚かせたが、王朝時代の文学者に通じる生き方でもあった。寂しくなりそうだ。仏教の「寂滅」の言葉も浮かんでくる。
 

 


今日の筆洗

2021年11月11日 | Weblog
家財道具をすべて売ってしまった男。これでは家ががらんとして寂しいからと、まず家中に白い紙を張る。その上に近所の絵描きに頼み込んで、床の間、掛け軸、たんすからあくびしているネコやヨウカンがのった皿に至るまで細かく描いてもらう▼古典落語の「だくだく」である。絵の家財道具によって豊かな「つもり」になって暮らそうというのがほほ笑ましくも切ない。最後に頼んだのが長押(なげし)の槍(やり)。槍があれば用心にもなるうえ、武芸の心得があるのかと人から侮られずに済む▼中国の狙いも米軍への用心のためか。中国新疆ウイグル自治区のタクラマカン砂漠に空母やミサイル駆逐艦をかたどった模型が出現したそうだ▼張り子がかたどっているのはいずれも米軍の軍艦で、中国軍はこれらを標的にして演習をしているとみられる。米軍を攻撃している「つもり」とは穏やかではない▼演習場を覆うものはなく、衛星から丸見えの状態にしているのも中国軍の計算なのだろう。台湾や南シナ海などをめぐり対立する米国に張り子の米軍艦を見せ、こちらの準備は整っていると警告しているかのようでもある▼米中間の緊張はついに砂漠に無粋な軍艦の玩具を浮かべるほどになったか。タクラマカン砂漠にハトの絵でも描き入れたくなるが、平和になった「つもり」では意味はない。両国の緊張緩和に向けた現実の動きがほしい。
 

 


今日の筆洗

2021年11月10日 | Weblog
「小田急る」という不思議な言葉を『日本俗語大辞典』(米川明彦さん著)で見つけた。昭和初期の流行語らしい。小田急線に動詞化の接尾語「る」を加えたもので意味は「郊外に出かける」だそうだ▼一九二九(昭和四)年の大ヒット曲「東京行進曲」(作詞・西条八十、作曲・中山晋平)に由来する。一番の銀座から始まって当時の東京の名所が歌われているが、新宿を歌った四番の歌詞に<シネマ見ましょか/お茶のみましょか/いっそ小田急で逃げましょか>と出てくる。とすれば「小田急る」には逃避行などやや艶っぽいニュアンスも含まれていたか▼かつての流行から九十年余りを経て「小田急る」は別の意味として使われるようになるかもしれぬ。小田急電鉄は二〇二二年春から小学生の運賃を実質的に下げ、どの区間を利用しても一律五十円とすると発表した▼全国の鉄道会社でも初の取り組みだそうだ。現在の小児運賃はだいたい大人運賃の半分。それが一律五十円とは子育て世代には魅力的な話。子どもにやさしくするという意味で「小田急る」は復活するか▼子育て世帯の外出を促すほか、沿線地域に愛着を持ってもらう狙いもあるそうだ▼現在は都内でも指折りの人気の沿線なれど、少子高齢化に伴う人口減も視野に入ってくる東京の未来である。<いっそ沿線に住みましょか>を期待しての一手なのだろう。