スコットランドは湿地の多いところでこんな笑い話がある。力自慢の男が歩いていると「助けてくれ」という声が聞こえてきた。見れば立派な身なりの紳士が沼地に沈み込んでいる▼男はロープを投げ、紳士を引っ張るのだが、びくともしない。首まで沈み、これまでかという瞬間、紳士が言った。「しかたない。馬はあきらめよう」。分かりにくいか。紳士は馬にまたがったまま沈んでいた。馬を早くあきらめていれば自分で脱出できていただろう▼公明党が政府に求めている十八歳以下の子どもに一律十万円を給付する案にこの話を思い出した。コロナ禍の苦しい生活がある。物入りの子育て世代にはありがたい話だが、やはり、ひっかかるのは給付に所得制限のないことか。自力で脱出できたにもかかわらず、助けを求めていた紳士の顔がどうもちらついてしまう▼所得制限を設けず、さほど、お困りでもない富裕層にも同じ金額を給付することが果たして、理解されるかどうか。経済対策の側面もあろうが、当座のお金に困っていない家庭ではそのまま貯蓄に回りかねず、それでは経済効果も薄かろう▼子どもに限らず、まず、ロープを投げるべき相手はコロナという沼地に足を取られ、今もがき苦しんでいる人であろう▼ロープを投げ入れるべき場所、ロープの太さ(給付額)をよく議論したい。ロープの数は限られている。