uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
だからblogで訴えます。


こりゃ!退助!!~自由死すとも退助死せず~(14)

2020-12-29 13:04:19 | 日記
 










このイラストは私のblogの読者様であり、
イラストレーターでもあられる
snowdrop様に描いていただいた作品です。


#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…
 (snowdrop様のblogリンク先)

Snowdrop様
素晴らしいイラストをありがとうございました。
心から感謝いたします。










第14話  女将お菊


 退助にとって、お菊を待つ時間は永遠に思えた。
別れてから気が遠くなるような時間を耐えたのだ。
途中、お里と暮らした時間も存在してはいたが、
どんな時も頭の隅にはお菊がいた。

 自分の手の届かないところに行ったお菊を
忘れられるはずはない。
離別したお里には悪いが、
退助の心にはお里の部屋とお菊の部屋が存在する。
男は記憶の上書きはできない。

では女は?

よく耳にするのは、
「女は恋をする度、上書きする」との言葉。

では本当に、それまで経験した本気の恋まで
新たな恋に上書きされてしまうのか?
完全に過去の記憶を消し去ってしまうのか?

そんなことはあり得ない。

男脳と女脳の違いはあるだろう。
でも大切な人の記憶を完全に消すなど、
男にも女にも絶対に無いと信じる。

 今こうして同じ建物の、
すぐそばにお菊が存在する。
もうすぐ自分に逢いに来る。
 夢にまで見た再会の喜びと緊張が
退助の座る座布団に伝わり、
お菊を引き寄せる見えない力となって
引き寄せられるお菊であった。

「失礼します。」
お菊の声と共に襖(ふすま)が静かに開く。
「お久ししゅうございます。」
「おお、お菊も息災でなにより。」
「退助坊ちゃまは大そうご出世なさり、
ご立派な殿方におなり遊ばされました。
菊は嬉しゅうございます。」
「まだ坊ちゃまと呼ぶか。
ワシももう三十ぞ(満29歳)。
それに今は失脚中で果てない江戸修行の身。
何度出世してもいつも振り出しに戻る
へぼ双六のような人生じゃ。
どうじゃ、情けなかろう?」
退助は努めて明るく笑いながら言う。

「退助様の噂は逐一菊の耳に入っております。
だから御身の浮き沈みの様もよく存じております。」
菊の言葉に、
退助は積もりに積もったお菊の情報を欲しがった。
「ソチのその後を知りたい。
順を追って申してみよ。」

菊は居住まいを正し、
「あれからお屋敷を出た私は、
御親戚であらせられる北川郷の前野様宅にて
高知のお城に上がるための修行のため
半年ばかり御厄介になり、
その後、お城へ2年ご奉公させていただきました。

宿下がりのおり、身元保証をしてくださった前野様より、
良きご縁談を紹介していただきました。

それが今の亭主の定七でございます。
定七はカツオ漁網元の次男で、
獲れた海産物の販路拡大を当主である親に訴え、
江戸にある海産物問屋と
ここ日本橋の小料理屋を買収し、
江戸進出を果たしました。
それが今から10年前の事でございます。
それから私は女将として小料理屋の采配を任され、
土佐のカツオで御店(たな)を大きくし、
今ではこの料亭に姿を変えております。
だから国許からの退助様に関わる情報は
他の情報と合わせ、
船で行き来する家人から得ていたのでございます。」
「そうであったか。
ワシはそなたのその後の消息を殆ど知らなかった。
唯一そなたが何処ぞの者と
祝言を上げるらしいと云う噂を最後に
一切聞いておらぬ。」
「私は手に取るように退助様の事は
全部承知しておりました。
退助様が道場の娘様と祝言をあげた事も。」
「あれはソチがワシを待てず
知らぬ者との祝言の話を聞いたからじゃ。
それに今は離縁してひとりぞ。」
「そうでございましたか?
それは存じませんでした。
どうして再婚なさいませぬ?」
「それは・・・、暫くは考えとうないからじゃ。
婚姻は疲れる。
和主(わぬし)と引き離され、
妻だった里と引き離され
ワシは疲れた。分かってくれるじゃろ?
離縁後いくつも縁談はあったが、
ワシが総て断っておる。」

「それでは私がいつまでも独り身を通していたら、
お迎えに来てくださったと云うのですか?」
「勿論じゃ!別れの時、そう言うたじゃろ?」
「そんな事、無理に決まっています!
私と退助様では身分が違います。
そんな事、そんな事!!・・・・。」
お菊は涙声になった。

退助はそっと抱きしめたい衝動に駆られた。

「お菊、よく聞け。
ワシが今必死で働いているのは、
ワシとお菊のような身分違いでも
祝言を上げられるような
世の中にしたいからじゃ。
今はまた失脚してしまったが、
近日中に必ず復活する。

地位や名誉や金のためではない。
お菊に約束した思いを果たすためじゃ。

お菊と添う事は出来なくなったが、
あの時の約束は必ず守る。
身分違いから、悲しい思いをさせた菊への
せめてもの誠意と思ってくれ。

そして明日のワシの出陣を見守ってくれ。」

お菊はこのまま退助について行きたい
と心の中で強く思った。
でもそこはお菊の生まれ持った性格が
邪魔をする。

再会しても添う事の出来ない現実が
お菊の心を悪魔にする。

「退助様を見守るのは大そう骨が折れます。
だっていつも浮いたり沈んだり。
見ている方も疲れますのよ。
まるで小さい頃から喧嘩で勝ったり
負けたり、負けたり、負けたり。
あの時と全く変わっていませんもの。」
「何じゃ、その勝ったり、負けたり、負けたり
負けたりとは?
やけに負けが多いではないか!
ワシはそんなに負けておらんぞ!」
「あら、私が知る限りでも
蛇に加勢してもらい、
ようやく勝てた事がございましたが?」

退助は思い出した。
11歳の時、福岡孝弟(たかちか)との喧嘩で
負けた時の事を。
退助は顔を真っ赤にして
「あれ一回だけではないか。
その後は一度も負けておらんぞ!」
「あら、お殿様には何度も打ち据えられていると
ご城内ではもっぱらの評判でしたのよ。」
「おまんらはご奉公中に、
なんちゅうくだらん噂話に花を咲かせておるんじゃ?
情けんなかぁ~!」

しかしお菊の情け容赦ない追及は続く。
「それに退助様は妙な変態めいた剣で
お殿様に立ち向かったと。
ご城内の女子の間では、
退助様はご変態であらせれれると。」
「あんなぁ、おまん・・・。もうそのことは忘れよ!!
良いな、今すぐ忘れろ!」
「ハイハイ、忘れるよう努力いたします。
退助坊ちゃま。」
「坊ちゃまと呼ぶな!」

いつの間にやら昔に戻っているふたりであった。

その日を契機に、
江戸滞在中はもとより、
東京と地名が変わっても
日本橋にほど近いこのお菊の料亭に
足繁く通う退助であった。



お菊との再会は、戊辰戦争前夜の退助にとって
歴史的に驚異の働きを見せる原動力となった。


退助の決意が
象二郎と慎太郎、竜馬の動きを加速させる。



   つづく


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2 コメント

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Unknown (warin2020)
2021-01-02 07:47:04
あけましておめでとうございます🙇🙇😊😊
今年もよろしくお願い致します。🙇🙇😊😊

いつもリアクションありがとうございます。
返信する
warin2020様 (uparupapapa)
2021-01-04 11:08:11
あけましておめでとうございます。


コメントありがとうございます。
ご迷惑でなければ、これからも立ち寄らせていただきたく思います。
今年もよろしくお願いします。
返信する

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