医師の予想では
正月頃の予定だった
癌の予定だった
予定通りに人生はすすまない
「今日は調子がいいから大丈夫」
父は母にゲートボールに行くよう勧めた
母は携帯電話を持たずにでかけた
12時ころ弟から、父が緊急搬送されたと連絡があった
調子がいいから、午前中 庭木の剪定をしていた
汗をかいた
お風呂を沸かし、一人で入った
2階にいた、義妹さんが宅急便を受け取るついでに
父の様子を見に来たのは11時ころ
父は湯船でなくなっていた
救急車を呼んだ
いつもの病院をお願いしたが
救命救急センターに運ばれた
医師から「30分で宣告」と言われ
義妹から電話がかかってきた
「私が宣告をうけていいでしょうか?」
「お願いします」と言った
旦那に帰宅してもらい、息子も戻り、実家に行った
母に電話をかけ続け、ようやくつながった
母は家の前で、ご近所さんと待っていた
義妹さんは、救急車に乗る前に、お隣に鍵を渡し
弟はお隣に電話をかけていた
母が家に戻るのをずっと待っていてくれた
母はもう知っていた
甥っ子と姪っ子がまだ学校
息子に留守番をさせ、病院に向かった
父はもう、霊安室にいた
病院に運ばれたときは、すでに心肺停止
変死扱いになり、警察がきていた
可愛そうに、義妹は1時間以上、尋問をうけていた
「形だけです」というが、しつこい
可愛そうに、父は警察に運ばれた
検死をしないと、帰れない
警察で一泊することになった
父は、小汚い、警察車両で病院をでた
父は、まだ温かく、やわらかかった
苦悶の表情はなく、おだやかだった
薬による、むくみもなくなっていた
苦しんだ様子はなかった
正月くらいの予定だった
癌で死ぬ予定だった
余命は8か月と聞いていた
3月もたなかった
実家に戻って、すぐ 警察が現場検証にきた
可愛そうに、義妹さん、また1時間以上 尋問された
「病気がわかってから、離れたことがないのに。なんで一人でお風呂にはいったんだろう」
母はないていた
「そいう人なんだよ。せっかちだから」
私も泣いた
実感がわかず、足元が宙に浮いている
実家に泊まる準備をして、 息子の制服にアイロンをかけて
数日家を空けてもいいように掃除をして
安定剤と眠剤を飲んだが
自分がここにいて、どこにいるのかわからない
私の心も、お父ちゃんの魂とおなじく、中有をさまよっている
もっとしっかりしないと、母を支えられない
全てが、あやふやで、