8月15日に行なわれたベネズエラ戦の招集メンバーが発表されたのは、五輪代表が銅メダルを懸けて韓国と3位決定戦を戦う2日前、8月9日のことだった。
オリンピックで44年ぶりにベスト4に進出した彼らの中から、いったい何人がA代表に名を連ねるか――。関心のひとつはそこにあったが、結局選ばれたのは、吉田麻也、酒井高徳、権田修一の3人だけ。吉田はオーバーエイジでの参加だったから、実際にはふたりだけしか選ばれなかった。A代表経験者の酒井宏樹と清武弘嗣に関しては、「できれば呼びたかった」とザッケローニ監督は明かした。ただ、両者とも左足首の捻挫(酒井)とコンディション不良(清武)のため、招集を見送らざるを得なかった。
しかし指揮官は、「五輪代表とA代表はスタイルが違う」「大きく変えるより、うまく行っている現状路線を踏襲(とうしゅう)すべきだと思っている」とも語っている。だとすれば、五輪代表の多くがA代表に食い込んでいくのは、簡単なことではなさそうだ。
現在のA代表は、「史上最強」との呼び声も高く、スタメンのほとんどが欧州組で占められている。しかも、昨年1月にアジアカップを制したときから1年半以上、レギュラーの顔ぶれが変わっていない。そのため、戦術面での浸透度も高く、連係も試合を追うごとに磨きが掛かっている。
6月に開幕したW杯アジア最終予選では、オマーンを3-0、ヨルダンを6-0で一蹴し、最大の難敵オーストラリアとのアウェーゲームも1-1で切り抜けた。かつてないほど快調なスタートで、チームの骨格は出来上がっているようにも見える。
とはいえ、最終予選の佳境に向けて、あるいはブラジルW杯本番に向けて、ザッケローニ監督もオプション作りの必要性は感じているに違いない。そう思わせたのは、ベネズエラ戦後半の采配だ。就任以来、初めて本田圭佑の1トップを試したのだ。それが機能すれば、五輪代表の攻撃陣が食い込む余地も生まれてくるように思える。
本田が前線にポジションを移せば、トップ下に空きが生まれることになる。そこに、本田と同じく当たり負けしないフィジカルとミドルシュートを備えた大津祐樹が名乗りを挙げてもおかしくない。また、攻撃面で『違い』を生み出せる点を重視すれば、ザックジャパンでの招集経験もある、宇佐美貴史にもチャンスがあるだろう。
また、香川真司がトップ下に入るとしたら、今度は左サイドハーフが空席になる。となれば、大津や宇佐美だけでなく、オリンピックで世界の度肝を抜いたスピードスター、永井謙佑にもポジション奪取の可能性が出てくる。
右サイドでは、最終予選ですでに岡崎慎司に代わって清武が、内田篤人に代わって酒井宏が途中出場を果たしている。その争いに割って入ろうとしているのが、ベネズエラ戦に選ばれた酒井高だ。サイドハーフもサイドバックもこなせるうえに、右でも左でもプレイできるため、ザッケローニ監督に重宝がられても不思議はない。酒井は言う。
「代表に呼ばれたのはアジアカップのとき以来。覚えていてくれて嬉しかった。ドイツでやっていることが間違っていなかったと改めて感じたし、この先もこのチームに残っていきたいと思っています」
さらに、センターバックのバックアップの人選にザッケローニ監督が頭を悩ませているならば、今野泰幸や吉田と同じように、フィード能力の高い鈴木大輔が試される可能性も十分ある。五輪代表でボランチを務めた扇原貴宏も、ユース時代にはセンターバックとしてプレイしていただけに、再コンバートするのも一考だ。
五輪世代の突き上げがA代表に必要だというのは、当の彼らも十分感じているようだ。A代表の一員としてアジアカップやW杯予選に参加した権田は語る。
「(五輪メンバーの)みんなとは、『次はA代表で会おう』『韓国にリベンジするにはA代表しかない』という話をしたし、若手の突き上げがなければ、代表は進化しない。そのためには、自分も含め、ただ代表に入るだけでなく、レギュラーの座を奪うようにならないと。それには、五輪で得た経験をクラブでどう活かすか。そこに懸かっていると思います」
かつて、北京五輪で3戦全敗の屈辱を味わった岡崎は、こんなことを言っていた。
「五輪は本当に悔しかった。あれを経験して、俺にはやっぱりゴールしかないという覚悟が決まった気がします」
岡崎は五輪の2カ月後に代表デビューを飾ると、翌年にはゴールを量産して日本をワールドカップへと導いた。本田もまた、北京五輪で惨敗し、当時所属していたVVVで2部降格を味わったことで、得点にこだわるようになったという。
ロンドン五輪は4位という成績だった。結果を見れば、北京大会とは異なり、惨敗ではない。しかし、韓国との3位決定戦で負った彼らの心の疵(きず)の深さが、北京五輪世代のそれに匹敵するくらい深ければ、彼らもまた、A代表へと昇ってくるはずだ。
「次はA代表で会おう」と誓い合ったロンドン五輪世代の突き上げが、ザックジャパンをさらなる高みへと導く。
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