河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

俄――ハテ? ハーテ? ハテ!

2022年08月23日 | 祭と河内にわか

 「ハテ、ハテ、ハテ」とつなげてオチにするのが河内俄だが、三つの「ハテ」は同じ調子ではない。
 「ハテ?」〈小さな疑問〉
 「ハーテ?」〈大きな疑問〉
 「ハテ! わかったわい。オチ」〈感嘆〉


 「ハテ」とツッコミを入れてオチをつける型が初期の大阪俄にあることから、河内俄が大阪俄に伝わったと結論したが、確証があるわけではない。
 一歩ゆずって、「ハテ」でオチをつけた大阪俄が南河内に伝わったとも考えられる。
 どちらにせよ、江戸時代の元文・寛宝の頃(1740年頃)には河内俄は存在していたことになる。


 「ハテ」でオチを付ける〈大名俄・狂言俄〉の後に〈そりゃなんじゃ俄〉が登場する。
白い障子紙を貼った行燈(あんどん)をすっぽりとかぶった男が三人ほど、仰向けに寝ている。
 一人が出てきて、
 「そりゃなんじゃ」とたずねると、中から
 「フカのかまぼこ」

 〈もの言わぬ物がもの言う俄〉である。

黄色い布をすっぽりとかぶった男がじっとしたまま動かない。
 一人が出てきて、
 「こりゃなんじゃ」とたずねるが答えがない。
 何度かたずねるが黄色い布はなにも言わない。

 〈もの言わぬ俄〉である。
 ハテ? ハーテ?

 ハテと気づいた客が、

 「クチナシ」

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俄――ハテ! わかったわい!

2022年08月23日 | 祭と河内にわか

 大阪俄が生まれる前から、南河内には素人による狂言を真似た芝居〈物真似狂言〉が行われていた。
 もちろん、南河内に限らず全国各地に存在していただろう。
 出雲の阿国は三十郎という狂言師を夫に持ち、それに傳介(でんすけ)という狂言師くずれの男が加わり、三人で狂言仕立ての芝居を踊りの合間に入れていたという。
 しかし、オチはなく、最後は座員全員の総踊りでしめくくっていた。

 念仏踊りや風流踊りに〈物真似狂言〉が加えられたものが〈歌舞伎〉になる。
 〈物真似狂言〉にオチがつくと〈にわか〉になる、
 河内俄の一例を紹介する。
 銭形平次(平)・子分の八五郎(八)・男

 右手から男が出てくる。真ん中で突然苦しみだす。見ると胸に包丁が刺さり血がたらたらと流れている。男は中央で一分ほど苦しみ、バタと欄干に顔を乗せて、死んだように倒れる。そこへ、平治の子分の八五郎が登場する。
「ああ、平和やなあ」             
「ウッ、ウッ、アアッー。助けて」
「ああ、事件も無いし、静かやなあ」男を無視する
「ウワァ、ウッ、ウワアア、アー」 大声をあげる
「人が苦しんでるがな、なんや男か」やっと気づく
「こら、ええかげんにせえよ。礼はなんぼでもするさかいに助けてくれ」 札束をちらつかす 
「それを早く出さんかいな。てえへんだ。おやぶーん!」 平次が登場する
「おいおいおい。どないしたんや?」
「親分、殺人です」
「ええ、なんやと、なんや男やないかい」
「こ、この札束が、め、目にはいらんか」
「おっ、これは大事件や。おい、大丈夫か?」
「あっ、あっ、あかん」 ばたと息絶える
「親分、どないしまひょ?」
「どうせ旅の者(もん)やろ!」
 死んだまま、足袋を手で上に挙げる。
「見てみ、やっぱし、タビのもんや!」。
 足袋を横に振り、「ちゃうちゃう」
「ナニ、足袋を出して、旅のもんと違うとは?」
「ハテ?」
「ハーテ?」
「ハテ!  わかったわい!。足袋の裏に書いてある。こいつは「ここのもん(ここの者)じゃ!」
 ※足袋の裏に大きく「九文(ここのもん)」と書いてある。1文=2.4cm


 河内俄は、最後に何か物を出す。「ハテ?」とツッコミのあと、物に絡めてオチをつける。
 これは河内俄の約束事、掟でもある。
〇無銭飲食した男Aが店主に問い詰められ、無地の羽織を差し出して
A「これで、許しとくなはれ」
B「羽織を出して許してくれとは。ハテ?」〈ツッコミ〉
C「ハテ! わかったわい。無地の羽織で紋無しじゃ(=一文無し)」〈オチ=ボケ〉

 単純な駄洒落のようだが、話の筋から必然的に出しても不自然でない物でオトス。
〇浮気をした男が、雨の降る夜の遅くに、(みの)を着て家に帰って来た。
 じっと忍んで待っていた女房が「寒かったでしょ」と一升徳利を出す。
 その優しさに改心した男は、蓑と一升徳利を出し、
男「これが、わしの気持ちや」
「蓑と一升徳利で今の気持ちとは? ハテ?」
男「ハーテ?」
「ハテ! わかった! 徳利(とっくり)と見なんだが、(身の)一升(一生)のあやまりや!」

 駄洒落と言って侮るなかれ。

 洒落言葉に粋(すい)言葉。
 ちょっとした洒落でその場を和ます。これが大阪の粋(すい)である。

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