河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

茶話152 / 老いの小文 五の⑤

2024年11月21日 | よもやま話

※④のつづきです。初めての方は茶話148から読んでください。

旅の三日目も備前晴で、午前中は昨日刈り残した草を刈た。
11時頃に早々に切り上げて、少し早い昼食のカップうどんをすする。
昨日の夜、酒を飲んでいて、「いつもの湯郷の温泉は飽きたから、違う温泉に行こう」。
「それなら、奥津温泉に行こう。奥津渓も紅葉しているかもしれない」。
「紅葉しているはずだ」という断定ではなく、「紅葉しているかもしれない」の推量表現に何んだか安心した。

岡山三大河川の一つである吉井川に沿って津山へ。
津山から、また吉井川にそって北に上る。
吉井川の源流が奥津渓なのだ。
光沢のある真っ黒な瓦の家が続く。
日本三大瓦の一つである島根の石州瓦(赤色)の黒色バージョンで、屋根に積もった雪を早く溶かすために黒い釉薬を塗っているのだという。
 黒光る石州瓦に柿紅葉
二時間ほど走って奥津渓に着く。
緑と黄と赤のまだらな紅葉だったが、友人の推量通りだったので納得した。
それでも、渓谷(たに)と紅葉はよく似合っていた。
この渓谷の岩の白さが、紅葉を引き立てているのだろう。
 紅葉まだ 岩の白きや 奥津渓

紅葉見学もほどほどにして、日帰り温泉施設へ向かった。
「花美人の里」という名の大きな温泉施設だという。
「風呂から上がったら、悪いけど、ビール飲んでもかまへんか?」
「ああ、ええで。気にせんと飲んで!」
と言っているうちに入口に着いた。
そこには真っ赤な字で「本日定休日」と書かれた看板があった。
谷底に落ちた人間に上から石を投げるような、完膚なきまでの仕打ち。
我にとっては、どこに行っても「はずの国 岡山」の決定打だった。
結局、いつもの湯郷温泉に向かった。

湯郷の日帰り温泉施設は「鷺温泉」という。
その昔、円仁法師が、ここで鷺が足の傷を癒すのを見て発見したとことから名付けられた名湯だ。
西陽を背に受けて出来た自分の影を踏みながら入口の階段を上がる。
湯につかりながら考えた。
とかくこの世はままならない。
何もかもが思い通りになるとは限らない。
自分の影を踏むようなもので、踏んだと思って一歩先に出れば、影ももう一足に先へ逃げているのだと……。
※⑥につづく

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