―いや~な音があったら、遮音したいのが人情。ところが低周波音は、遮音すればするほど、ますます強烈になってしまうのです。―
前号で20デシベルの差について書きましたが、低周波音の20デシベル差となると、その差は更に大きくなります。
1波長(波形の山から山、谷から谷)で3.4メートル進む100ヘルツの音と、340メートル進む1ヘルツの低周波音では、同じデシベルでも音の持つエネルギーが格段に違うからです。
音や振動には、発生源から離れるにしたがい、伝わりにくくなる「距離減衰」という特性があります。ところが低周波音は、一般の騒音と異なり音のエネルギーが大きく、距離減衰が少なく、エネルギーを保ったまま遠くまで届きます。つまり、物体を貫通する割合が高く、遮音が難しいのです。人の話し声ならば壁一枚で遮音できますが、鐘の音は市中に、花火のドーンという低音や遠雷は山を越えて、更に窓を閉めた室内でも聞こえます。このような低周波音は、脳の遮音壁であるはずの頭蓋骨を貫通して脳自体を振動させるので、様々な体調不良を感じさせるともいいます。
低周波〈音〉も空気振動ですから、〈音〉として振動が物に伝われば物が振動します。テレビででんじろう先生が、ボウルにラップをかぶせて塩を撒き、ボウルに向かって声を出すと、声の大きさや周波数に合わせて塩が飛び跳ね踊りだす、という実験をみせてくれますが、あの状態でしょうか。頭蓋骨の中で、脳が振動しているなんて、考えただけでめまいがします。脳に震動が伝わることで身体や神経に異常をきたす例としては、鉱山や工事現場で削岩機を長期間使い続けることによって起こる振動障害という疾病があります。
我が家の場合は、隣接する工場が振動・騒音防止と称して、工場の外壁を囲い、屋根を鋼鈑スレートに改装してから、振動も不快な音圧も一層ひどくなりました。音源を囲うという行為が、その意図に反し低周波音がさらにつらく感じさせられるという結果となってしまった例は、ほかにも聞いています。
当初は騒音問題と捉えられがちだった低周波音問題は、騒音防止のための遮音や隔壁を設置することで、騒音によってマスキングされていた低周波音を露呈させる結果となってしまうのです。
その上、自衛策として、遮音のためにサイジングで家の外壁を囲み、二重サッシで密閉すると、逃げ場のなくなった低周波音は屋内にこもり、内壁の素地が石膏ボードであればさらに増幅され、とんでもないことになります(思えば行政の基地周辺の騒音対策はこの方法ですね。ヘリコプターなどは低周波音のレベルが高いので、解決できないのが頷けます)。
この高気密+石膏ボード悪人説は、低周波音の不快な音圧の軽減を試み、自宅の天井を改造したときに確信しました。天井部分の石膏ボードをはずしたときに軽減した音圧が、石膏ボードを張るとともに復活したのです。そして、石膏ボードの使用が少ない部屋では明らかに音圧が下がります。しかし、今日の一般住宅では石膏ボードを使わないことは難しく、壁も天井もない家では生活ができません。
『週刊金曜日』暮らしコラム(2007年9月28日№.672号)津木とねこ
編集部03-3221-8521(禁無断転載)
前号で20デシベルの差について書きましたが、低周波音の20デシベル差となると、その差は更に大きくなります。
1波長(波形の山から山、谷から谷)で3.4メートル進む100ヘルツの音と、340メートル進む1ヘルツの低周波音では、同じデシベルでも音の持つエネルギーが格段に違うからです。
音や振動には、発生源から離れるにしたがい、伝わりにくくなる「距離減衰」という特性があります。ところが低周波音は、一般の騒音と異なり音のエネルギーが大きく、距離減衰が少なく、エネルギーを保ったまま遠くまで届きます。つまり、物体を貫通する割合が高く、遮音が難しいのです。人の話し声ならば壁一枚で遮音できますが、鐘の音は市中に、花火のドーンという低音や遠雷は山を越えて、更に窓を閉めた室内でも聞こえます。このような低周波音は、脳の遮音壁であるはずの頭蓋骨を貫通して脳自体を振動させるので、様々な体調不良を感じさせるともいいます。
低周波〈音〉も空気振動ですから、〈音〉として振動が物に伝われば物が振動します。テレビででんじろう先生が、ボウルにラップをかぶせて塩を撒き、ボウルに向かって声を出すと、声の大きさや周波数に合わせて塩が飛び跳ね踊りだす、という実験をみせてくれますが、あの状態でしょうか。頭蓋骨の中で、脳が振動しているなんて、考えただけでめまいがします。脳に震動が伝わることで身体や神経に異常をきたす例としては、鉱山や工事現場で削岩機を長期間使い続けることによって起こる振動障害という疾病があります。
我が家の場合は、隣接する工場が振動・騒音防止と称して、工場の外壁を囲い、屋根を鋼鈑スレートに改装してから、振動も不快な音圧も一層ひどくなりました。音源を囲うという行為が、その意図に反し低周波音がさらにつらく感じさせられるという結果となってしまった例は、ほかにも聞いています。
当初は騒音問題と捉えられがちだった低周波音問題は、騒音防止のための遮音や隔壁を設置することで、騒音によってマスキングされていた低周波音を露呈させる結果となってしまうのです。
その上、自衛策として、遮音のためにサイジングで家の外壁を囲み、二重サッシで密閉すると、逃げ場のなくなった低周波音は屋内にこもり、内壁の素地が石膏ボードであればさらに増幅され、とんでもないことになります(思えば行政の基地周辺の騒音対策はこの方法ですね。ヘリコプターなどは低周波音のレベルが高いので、解決できないのが頷けます)。
この高気密+石膏ボード悪人説は、低周波音の不快な音圧の軽減を試み、自宅の天井を改造したときに確信しました。天井部分の石膏ボードをはずしたときに軽減した音圧が、石膏ボードを張るとともに復活したのです。そして、石膏ボードの使用が少ない部屋では明らかに音圧が下がります。しかし、今日の一般住宅では石膏ボードを使わないことは難しく、壁も天井もない家では生活ができません。
『週刊金曜日』暮らしコラム(2007年9月28日№.672号)津木とねこ
編集部03-3221-8521(禁無断転載)