弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,どのような点を検討する必要がありますか?

2012-12-13 | 日記
Q217 懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,どのような点を検討する必要がありますか?


 懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,規律違反行為により職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したのかが問題となり,
① 規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等)
② 程度,回数
③ 改善の余地の有無
等を総合検討することになります。

弁護士 藤田 進太郎

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管理職なのに残業代を請求してくる。

2012-12-13 | 日記
Q21 管理職なのに残業代を請求してくる。


(1) 管理職≠「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)
 管理職であっても,労基法上の労働者である以上,原則として労基法37条の適用があり,週40時間,1日8時間を超えて労働させた場合,法定休日に労働させた場合,深夜に労働させた場合は,時間外労働時間,休日労働,深夜労働に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
 当該管理職が,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
 中小企業の場合,管理監督者の実態を有する管理職は,取締役とされていることも多い印象です。
 通常は,管理監督者扱いとすることで残業代の支払義務を免れることができると考えるべきではありません。

(2) 管理監督者と深夜割増賃金
 管理監督者であっても,深夜労働に関する規定は適用されますので,管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず,深夜割増賃金(労基法37条3項)を支払う必要があることに変わりはありません(ことぶき事件最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。

(3) 管理職からの残業代請求に対するリスク管理
 管理監督者としていた社員から労基法37条に基づく割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し,その他の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総賃金額を調整したほうが無難かもしれません。

(4) 管理職本人が残業代不支給に同意していたり,就業規則で管理職には残業代を支給しない旨定めたりした場合
 労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり,無効となった部分については労基法で定める基準が適用されます(労基法13条)。
 就業規則等で管理職には残業代を支給しない旨規定したり,管理職本人が残業代不支給に同意したりしていたとしても,直ちに残業代の支払義務を免れるわけではありません。

(5) 管理監督者の判断基準
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して,判断されることになります。

(6) ①職務の内容,権限及び責任の程度
 ①職務の内容,権限及び責任の程度を検討するにあたっては,労務管理を含む事業経営上重要な事項にかかわっているか,事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか,現場業務(管理監督以外の仕事)にどの程度従事していたか,他の従業員の職務遂行・労務管理に対する関与の程度,管理監督者として扱われている社員の割合等が考慮されるます。

(7) ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
 ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度を検討するにあたっては,タイムカード等による始業終業時刻管理の有無,欠勤控除の有無等が考慮されます。

(8) ③待遇の内容,程度
 ③待遇の内容,程度を検討するにあたっては,役職手当や賃金の額が役職に見合っているか,社内における賃金額の順位,管理職になった後の賃金総額と管理職になる前の賃金総額との比較等が考慮されます。

弁護士 藤田 進太郎

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懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けるとのことですが,根拠条文はありますか?

2012-12-13 | 日記
Q216 懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けるとのことですが,根拠条文はありますか?


 労契法15条では,「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されており,懲戒解雇も懲戒権濫用法理の規制を受けることになります。

弁護士 藤田 進太郎

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勝手に残業して,残業代を請求してくる。

2012-12-13 | 日記
Q20 勝手に残業して,残業代を請求してくる。


(1) 不必要に残業をする社員への対応
 不必要に残業をする社員に対しては,注意,指導して,改めさせる必要があります。
 長時間労働は,残業代(割増賃金)請求の問題にとどまるものではなく,過労死,過労自殺,うつ病等の問題にもつながりますので,放置してはいけません。

(2) 早く帰るように注意しても帰らない社員への対応
 不必要な残業を止めて帰宅するよう口頭で注意しても社員が指導に従わない場合は,現実にオフィスから外に出るまで指導する必要があります。
 終業時刻後も社内の仕事をするスペースに残っている場合,残業していると評価される可能性が高くなります。
 残業させる必要がない場合は,社内の仕事をするスペースから現実に外に出すべきでしょう。
 最低限,タイムカードを打刻させるとか,現実に働いていた時間を自己申告させるとかする必要がありますが,いつまでも部屋に残っているのを放置していると,タイムカード打刻後も残業させられていたとか,実際の残業時間よりも短い残業時間の自己申告を強制された主張されて,残業代請求を受けるリスクが生じることになります。
 やはり,現実に,社内の仕事をするスペースから外に出すのが本筋でしょう。

(3) 所定労働時間に仕事に集中しない社員の労働時間
 仕事の合間に,食事したり,仕事とは関係のない本を読んだり,おしゃべりしたり,居眠りした場合であっても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。
 居眠り等が目に余る場合は,その都度,上司が注意,指導して仕事させるのが本筋です。
 上司が部下の注意,指導,教育を怠っていたのでは,無駄な残業はなくなりません。

(4) 残業代支払の基本的な発想
 残業させたら残業代の支払を免れることはできないという前提で考える必要があります。
 ①残業自体を減らすことで残業代の発生を抑制するか,②残業代を支払済みにしておく必要があります。

(5) 能力が低い社員,真面目に仕事をしない社員の残業代
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因であった場合であっても,現実に残業している場合は,残業時間として残業代の支払義務が生じることになります。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは,注意,指導,教育等で改善させるとともに,人事考課で考慮すべき問題であって,残業時間に対し残業代を支払わなくてもよくなるわけではありません。

(6) 一定金額以上は残業代を支払わない約束
 一定金額の残業手当を支給し,その金額の範囲内で残業を行う旨合意されていたとしても,残業手当の金額を超えて労基法上の割増賃金が発生している場合は,不足額部分の支払義務が生じることになりますので,そのような合意で割増賃金の支払額を限定することはできません。
 例えば,「月5万円の残業代を払うから,5万円の範囲内で残業して下さい。」と伝えていたとしても,社員が現実に残業した時間で残業代を計算した結果,残業代の金額が5万円を超えた場合は,原則として追加の割増賃金の支払を余儀なくされることになります。

(7) 上司の責任・管理能力
 部下に残業させて残業代を支払うのか,残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任であり,上司の管理能力が問われることになります。
 その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については,翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となります。

(8) 黙示の残業命令
 明示の残業命令を出していなくても,残業していることを知りながら放置していた場合は,想定外の時間にまで残業していたような例外を除き,黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。
 実際の事案では,どれだけ残業していたのかはよく分からなくても,残業していたこと自体は上司が認識しつつ放置していることが多いというのが実情です。
 上司が残業に気付いたら,残業をやめさせて帰宅させるか,残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。

(9) 事前申告制と残業代
 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定められていたとしても,実際には決済を受けずに仕事をしていて,上司がそれを知りつつ放置していた場合は,黙示の残業命令により残業していたと認定され,残業代の支払を余儀なくされるリスクがあります。
 就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分です。

(10) 部下が上司の知らないところで残業したような場合
 「上司が先に帰って,部下が上司の知らないところで残業したような場合も,残業代を支払わなければならないのですか?」といった質問を受けることがありますが,弁護士に相談するような事案はたいてい,毎日のように部下が残業をしているのを上司が知りながら放置しているケースです。
 部下がたまたま1日だけ,上司の知らないうちにこっそり残業したといった程度の場合は,残業代の支払いを拒絶できる余地がありますが,そのような場合は,弁護士に相談しなければならないような問題にはならないのが通常です。

(11) タイムカードと労働時間
 残業代請求の訴訟では,タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が,その日の実労働時間と認定されることが多くなっています。
 タイムカードの打刻時間が,実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は,それを敢えて容認してタイムカードに基づいて割増賃金を支払うか,働き始める直前,働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにすべきでしょう。

(12) 自己申告制と労働時間
 基本的には申告どおりの労働時間が認定されますが,自己申告された労働時間が,実際の労働時間に満たない場合は,実際の労働時間に基づいて残業代が算定されることになります。
 自己申告制は,適切に運用しないと,隠れ残業時間(残業代不払い)が生じるリスクを負うことになりかねません。
 パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし,自己申告の労働時間との齟齬が大きい場合には事情説明を求める等の工夫をすべきでしょう。

(13) 長時間労働のリスク
 長時間労働は,過労死,過労自長時間労働は,過労死,過労自殺,うつ病等の問題が生じやすいという問題があります。
 当該社員の人生が破壊されるだけでなく,職場の雰囲気も悪くなり,会社が高額の損害賠償義務を負うこともあります。
 本人の同意があったとしても,月80時間を超えるような時間外労働を恒常的にさせるのは勧められません。

弁護士 藤田 進太郎

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