弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2012-12-19 | 日記
Q22 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。


(1) 高年齢者雇用確保措置の概要
 高年齢者雇用安定法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
① 定年の引上げ
② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないとしています。
 そして同条第2項において,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定されています。
※ 平成22年4月1日から平成25年3月31日までは,上記「65歳」を「64歳」と読み替えることになるため(附則4条1項),雇用確保措置が義務付けられているのは64歳までですが,65歳までの雇用確保について「努力」義務が課せられています(附則4条2項)。

(2) 雇用確保措置の内容
 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,そのうち,
① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
② 継続雇用制度を導入した企業の割合    → 83.3%
③ 定年の定めを廃止した企業の割合      → 2.8%
です。
 多くの企業が,正社員の60歳定年制を維持しつつ,継続雇用制度を導入していることが分かると思います。

(3) 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があります(平成25年4月1日以降は企業名が公表される可能性もあります。)。
 健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきでしょう。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
① 健康上支障がないこと(91.1%)
② 働く意思・意欲があること(90.2%)
③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
⑤ 一定の業績評価(50.4%)

(4) 就業規則の変更・届出義務
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法第89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

(5) 高年齢者雇用安定法9条の私法的効力
 高年齢者雇用安定法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。

(6) 継続雇用後の雇止め
 高年法9条が65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じることを要求している以上,通常は65歳まで有期労働契約が更新されるなどして雇用が継続されることにつき合理的理由があるものと考えられます。
 したがって,契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる可能性が高いものと思われます。
 最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。

(7) 平成25年4月1日施行予定の改正高年法
 平成25年4月1日施行予定の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,
① 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
について規定されています。
 平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
  平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
  平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
  平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
  平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 平成25年4月1日施行予定の改正法では,その他,
② 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
③ 義務違反の企業に対する公表制度の導入
④ 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定
等についても規定されています。

(8) 希望者全員を継続雇用するという選択肢
 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,通常は,
① 継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める
か,
② 再雇用自体は認めた上で,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること
が考えられます。
 継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが,基準は明確なものでなければならず,就業規則で定める継続雇用の要件を満たす場合には再雇用する私法上の義務も生じます。
 また,基準を適用することによる継続雇用拒否は,紛争を誘発することが多いというのが実情です。
 さらに,平成25年4月1日施行予定の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されています。
 改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが,例外的制度であるという位置づけは否めません。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば,原則どおり,(健康上支障がない)希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得ます。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎません(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。
 改正法では,継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されているところです。

(9) 継続雇用後の賃金額
 高年法上,再雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 また,高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきだと思います。
 「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。

(10) 高年齢者による継続雇用の拒絶と高年法の継続雇用制度
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として継続雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

(11) 組合員差別により再雇用の期待を侵害した場合の取締役の責任
 組合員差別により再雇用の期待を侵害したと認定された事案において,代表取締役個人が会社法429条1項の責任を負うとされた裁判例が存在します。

(12) 無期転換権(新労契法18条)行使に対する対処
 平成25年4月1日施行予定の新労契法18条では,同一の使用者との間で有期労働契約が通算で5年を超えて更新された場合には,有期契約労働者による無期転換の申込みにより使用者の同意が擬制され,無期労働契約に転換する制度が新たに規定されています。
 新労契法18条は継続雇用制度の対象となっている有期契約労働者にも適用されるため,5年を超えて有期労働契約が更新されるような制度設計になっている場合(満60歳の誕生日で正社員としては定年退職すると定めつつ,定年後再雇用される嘱託社員としては年度末までの期間雇用とするというように,定年後再雇用の期間が5年を超える場合)には,定年後再雇用された有期契約労働者から無期転換権を行使される可能性がありますので,無期転換後の第二定年についても就業規則に定めておく必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

退職勧奨と失業手当の受給条件

2012-12-19 | 日記
Q240 退職勧奨したところ,失業手当の受給条件を良くするために解雇して欲しいと言われたのですが,解雇しないといけないでしょうか?


 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることにはなりません。
 したがって,失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はありません。
 退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがありますので,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 なお,助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることに注意が必要です。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

退職勧奨のやり取りを無断録音された場合,その録音記録は訴訟で証拠として認められますか?

2012-12-19 | 日記
Q239 退職勧奨のやり取りを無断録音された場合,その録音記録は訴訟で証拠として認められますか?


 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまうのが通常です。
 退職勧奨を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

退職勧奨と注意,指導,教育,懲戒処分

2012-12-19 | 日記
Q238 解雇の要件を満たしていなくても退職勧奨できるのですから,問題点を記録に残したり,十分な注意,指導,教育を行ったり,懲戒処分を積み重ねたりする必要はありませんよね?


 解雇の要件を充たしていなくても退職勧奨を行うことができますが,有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど,退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなります。
 到底解雇が認められないような事案で退職勧奨したところ,明確に退職を拒絶された場合,手の施しようがなくなってしまうことがあります。
 退職勧奨に応じないようであれば解雇できるよう,退職勧奨に先立ち,問題点を記録に残し,十分な注意,指導,教育を行い,懲戒処分を積み重ねるなどして,解雇する際と同じような準備をしておくべきでしょう。


弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

解雇の要件を満たしていなくても退職勧奨を行うことができますか?

2012-12-19 | 日記
Q237 解雇の要件を満たしていなくても退職勧奨を行うことができますか?


 退職勧奨は合意退職を目指すものであり,合意退職は解雇ではありませんので,解雇の要件を満たしていなくても退職勧奨を行うことができます。


弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

退職勧奨して辞めてもらう場合,どの時点で退職の合意が成立しますか?

2012-12-19 | 日記
Q236 退職勧奨して辞めてもらう場合,どの時点で退職の合意が成立しますか?


 退職勧奨の法的性格は,通常は,使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)と評価することができます。
 したがって,労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み,使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期労働契約と契約期間途中での辞職

2012-12-19 | 日記
Q235 有期労働契約であれば,契約期間途中で労働者が一方的に辞職するのを防止することができますか?


 有期労働契約においては,本来,「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。」と定める民法628条に規制され,やむを得ない事由がなければ契約期間満了前には退職できないのが原則です。
 もっとも,期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き,その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(労基法14条1項各号に規定する労働者を除く。)は,民法628条の規定にかかわらず,当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後は,使用者に申し出ることにより,いつでも退職することができます(労基法137条)。
 また,労基法137条が適用されない事案であっても,有期労働契約者の就業規則に一定の期間(例えば,14日前とか,30日前)に申し出れば退職できる旨就業規則に規定されていれば契約期間満了前に退職することができます。
 有期契約労働者が使用者に退職希望の意思を伝えて欠勤を続けた場合,賃金の欠勤控除をしたり,懲戒処分に処したりすることはできるかもしれませんが,強制的に働かせることはできず,損害賠償請求も難しい場合が多いというのが実情です。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

正社員が一方的に退職を宣言して出社しなくなったのに対し,使用者が退職を承認(受理)しなかった場合

2012-12-19 | 日記
Q234 正社員が一方的に退職を宣言して出社しなくなったのに対し,使用者が退職を承認(受理)しなかった場合,労働契約は存続しますか?


 期間の定めのない労働契約の場合,労働者から使用者に対し辞職の意思表示が到達すれば,使用者が労働者の退職を承認(受理)しなくても,民法627条所定の期間が経過することにより退職の効力が生じます。




(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。

3 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3か月前にしなければならない。



弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準との違い

2012-12-19 | 日記
Q233 有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用された場合,雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準と同じですか?


 有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるといっても,雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準とは異なります。
 例えば,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は,業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し,「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で,「独立採算制がとられているYのP工場において,事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり,その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく,臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には,これに先立ち,期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても,それをもつて不当・不合理であるということはできず,右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判断しています。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期労働契約契約関係の実態を評価する際には,どのような要素に着目すべきですか?

2012-12-19 | 日記
Q232 有期労働契約契約関係の実態を評価する際には,どのような要素に着目すべきですか?


 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」によれば,裁判例における判断の過程をみると,主に次の6項目に関して,当該契約関係の実態に評価を加えているものとされています。

① 業務の客観的内容
 従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての正社員との同一性の有無等)

② 契約上の地位の性格
 契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば,嘱託,非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。),労働条件についての正社員との同一性の有無等

③ 当事者の主観的態様
 継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や,更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)

④ 更新の手続・実態
 契約更新の状況(反復更新の有無・回数,勤続年数等),契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法,更新の可否の判断方法等)

⑤ 他の労働者の更新状況
 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等

⑥ その他
 有期労働契約を締結した経緯,勤続年数・年齢等の上限の設定等

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期労働契約の類型

2012-12-19 | 日記
Q231 有期労働契約の類型には,どのようなものがありますか?


 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」(山川隆一座長)は38件にも及ぶ雇止めに関する裁判例を分析し,平成12年9月11日に「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」を発表しています。
 同報告では,有期労働契約の類型について,以下のような分析がなされています。

1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ
 [純粋有期契約タイプ]
  事案の特徴:業務内容の臨時性が認められるものがあるほか,契約上の地位が臨時的なものが多い。
 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い。
 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い。
 雇止めの可否:雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。

2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ
 1に該当しない事案については,期間の定めのない契約の解雇に関する法理の類推適用等により,雇止めの可否を判断している(ただし,解雇に関する法理の類推適用等の際の具体  的な判断基準について,解雇の場合とは一定の差異があることは裁判所も容認)。
 本タイプは,当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の3タイプに細分でき,それぞれに次のような傾向が概ね認められる。

(1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたもの
 [実質無期契約タイプ]
  事案の特徴:業務内容が恒常的,更新手続が形式的であるものが多い。
 雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの,同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
  雇止めの可否:ほとんどの事案で雇止めは認められていない。

(2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ,その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの
 [期待保護(反復更新)タイプ]
  事案の特徴: 更新回数は多いが,業務内容が正社員と同一でないものも多く,同種の労働者に対する雇止めの例もある。
  雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて,正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で,当該雇止めを認めた事案がかなりみられる。

(3) 雇用継続への合理的な期待が,当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの
 [期待保護(継続特約)タイプ]
  事案の特徴: 更新回数は概して少なく,契約締結の経緯等が特殊な事案が多い。
  雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする