おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

絞首刑

2019-06-10 10:35:13 | 映画
「絞首刑」 1968年 日本


監督 大島渚
出演 佐藤慶 渡辺文雄 小松方正 石堂淑朗
   足立正生 戸浦六宏  松田政男  小山明子
ストーリー
主人公の在日朝鮮人死刑囚"R"は強姦致死等の罪で絞首刑に処せられた。しかし信じられないことに絞縄にぶら下がったRの脈はいつまで経っても停止せず、処刑は失敗する。
縄を解かれたRは刑務官たちの努力の末に漸く意識を取り戻すが、処刑の衝撃で記憶を失い心神喪失となっていた。
事訴訟法により、刑の言い渡しを受けた者が心神喪失状態にあるときには執行を停止しなければならない。
その状態では刑の再執行は許されないので、Rの記憶を取り戻させようと、死刑執行人たちが四苦八苦する。
刑務官たちは躍起になるが、Rの無垢な問いかけは彼らの矛盾を鋭くえぐっていく。

寸評
TGの1千万円映画として製作された作品である。
制作費を製作者とATGが半額づつ出資するシステムだったが、当時として1千万円という制作費は厳しいものだったと思う。
しかしマイナー公開を逆手に取った意欲策も数多く製作された。
「人間蒸発」「初恋地獄篇」「肉弾」「心中天網島」「サード」などなどだ。
当時は映画青年を気取ってATGに通ったものだ。
さてこの映画に対する僕の当時の印象は、日本国家に内在する矛盾、問題点をあらわにするその内容のせいもあって出演者が皆インテリに見えたことを思い起こす。
実際、インテリたちが作った問題映画だったと思う。

作品の冒頭で拘置所の片隅の死刑場が映され、大島渚自身によるナレーションで執行の説明がなされる。
死刑執行の場所を忠実に再現した作品ということだったので、死刑執行場面はテレビや映画で何回か見ていたが、これが本物だと信じたことを思い出す。
本物かどうか知らないが、モノクロ作品だったことがリアルな緊張感を伝えていた。
とはいうもののシリアスな感じの冒頭からやがて映画はコメディの様相を呈してくる。
小松方正たちが春歌(卑猥な歌)を唄いだすところなんか思わず笑ってしまう。
教育部長演じる渡辺文雄がとにかく面白くて、官憲をバカにしているコミカルさを当時は痛快に感じた。
映画は死刑制度の原理的な問題から在日朝鮮人差別の問題、さらには貧困を背景とした犯罪心理にも及ぶ。
Rの姉と称する小山明子が登場したりもして大島らしい演出を感じたのと、その小山明子の白装束が鮮明な記憶として残っている。
死刑囚Rは死の世界から蘇生し「僕を有罪としようとするもの、つまり国家がある限り、僕は無罪です」と叫ぶ。
検事はそういう思想を生かしておくわけにはいかない。
為に死刑囚Rは、すべてのRのために、Rであることを引き受けて死ぬ。
死刑を行う側も殺人にはならないのか?と問いかけていた。
ブラック・ユーモアに満ちた作品としては、僕の記憶にある限りにおいて「絞首刑」が一番だ。