おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

細雪

2019-06-23 09:53:00 | 映画
「細雪」 1983年 日本


監督 市川崑
出演 岸恵子 佐久間良子 吉永小百合
   古手川祐子 伊丹十三 石坂浩二
   岸部一徳 桂小米朝 江本孟紀
   小林昭二 辻萬長 常田富士男
   浜村純 小坂一也 横山道代
   三宅邦子 細川俊之 上原ゆかり
   三條美紀 根岸明美 仙道敦子
   
ストーリー
昭和十三年の春、京都嵯峨の料亭、蒔岡家の四姉妹と幸子の夫貞之助が花見に来ている。
幸子は今度の雪子の縁談を本家の長姉鶴子から、家系に問題があるとの理由で断わるように言われ苛立っていた。
五年前末娘の妙子が、船場の貴金属商奥畑の息子啓ぼんと駆け落したことがあった。
その事件が新聞ダネになり、しかも雪子と間違って書かれてしまった。
本家の辰雄が奔走して取消し記事を出させたら、妙子の名をより大きく出す結果になってしまい、妙子も雪子も本家の不手際から分家の幸子の家に居つくようになってしまったのである。
人形作りに励む妙子は、啓ぼんとの仲も冷め、奥畑家にもと奉公していて、現在は写真家で立とうとしている板倉と親密な間柄になっていたが、板倉は中耳炎をこじらせて急逝してしまう。
雪子は、鶴子が夫の筋から持ってきた銀行員、幸子の女学校時代の友人、陣場夫人の紹介の水産技官野村、幸子の行きつけの美容院のマダム井谷が持ってきた製薬会社の副社長橋寺と見合いするが、いずれも雪子が気にいらなかったりとうまくいかなかった。
そんな折、本家では辰雄が会社からもって帰ってきた東京赴任の知らせに、鶴子が動転していた。
井谷がまた雪子に見合い話を持ってきた。相手は華族の東谷子爵の孫である。
板倉が死んでから酒場通いを続けていた妙子は、その酒場のバーテンダー・三好のところに押しかけ同棲してしまうが、貞之助が会いに行くと、三好はしっかりした青年で、妙子も地道な生活設計を立てているようで心配はなかった。
鶴子は悩んだ末東京へ行くことを決心し、雪子も東谷との縁談がまとまる。
そして、冬の大阪駅、雪子や貞之助らが見送るなか、鶴子たちを乗せた汽車は出発した。


寸評
あまりの優雅さに、王朝絵巻の時代から脈々と息づく日本人の美への憧憬を感じてしまう作品だ。
昭和13年と出るから、日本が戦争に突き進んでいく直前の上流階級の世界を写し撮っているいるのだが、この蒔岡家四姉妹を演じたキャスティングが素晴らしい。長女の鶴子を岸恵子、次女の幸子を佐久間良子、三女の雪子を吉永小百合、四女の妙子を古手川祐子が演じているのだが、姉妹でありながら全く違う性格の四人が微妙な絡み合いを繰り広げる。これに養子の伊丹十三と石坂浩二がからむのだが、このキャスティングも的を得ていて、映画の成功はそのキャスティングによるものだと思う。

物語の進行に応じて、四季折々の日本的風景がスクリーン一杯に映し出される。始まりは春、雨の嵐山渡月橋。
姉妹が料亭での食事会に集まる。遅れてきた鶴子が羽織を脱ぐと真っ赤な裏生地が見え、総絞りの見事な着物を着ている。彼女達が成り上がりの金持ち一家ではないことを無言の内に知らしめるシーンだった。
食事を終え、雨上がりの桜見物に出かけると色んな種類の桜が咲き誇っている。
桜が咲き始めて散るまでは早い。そのわずかな期間にロケをこなす苦労が見て取れる。あちこちの桜の名所で撮影しているが、出演者を初め満開時のスケジュール調整の苦労を想像してしまった。
会話は船場言葉で、佐久間はなかんちゃん、吉永はきあんちゃん、古手川はこいさんと呼ばれている。そこに本家と分家の意地の張り合いなどが盛り込まれると、ちょっと懐かしい雰囲気を感じる。
僕が同族会社に入社した頃には、長男の社長をおおぼん、次男をなかぼん、三男をこぼんと呼ぶ出入り業者がまだ居たのだ。
蒔岡家の四姉妹は四人ともにさしたる苦労を知らない、典型的なお嬢さんである。お嬢さん育ちゆえの鷹揚さや子供っぽさが笑いを誘ったりする。時に意地の張り合い、時に喧嘩しながらも、お腹をかかえて大笑いする仲の良さを見せる。それが姉妹なのかもしれない。四女の妙子は周囲を騒動に巻き込んでいく厄介な存在だが、三女の雪子は内面はかなり頑固で我がままながらも、滅多なことでは感情をあらわにしない。
その雪子を演じた吉永小百合さんは本当に久しぶりにいい!僕にはデビュー作の『キューポラのある街』以来の作品だと思える。僕はいわゆるサユリストではなかったが、それでも小百合さんの映画を随分と見てきた。しかし、どうも作品に恵まれていなくて、小百合さんのために企画された作品ですら、その魅力を引き出せなでいる。どうも小百合さんの整った美人顔、明るい性格、ちょっとオチャメなところなど、あまりにも素敵過ぎる印象がそうさせているのかもしれない。
しかしこの作品での彼女は、セリフを前面に出す出なく、秘めた芯の強さと色香を漂わせている。
雪子に想いがあるらしい義理の兄である貞之助との何気ない振る舞いの中や、妹の妙子に足のつめを切ってもらうシーン、あるいは二人の姉の切ないやり取りを見てそっと流す涙、東京へ行く姉を見送る涙のシーンなど、本当に良いシーンを独り占めしている感がある。
圧巻は雪子が東谷(江本孟紀)と見合いをするシーンあたりからエンディングにむかって、朽ちて落ちる前の柿の実の如く、やがて没落していくであろう旧家と、往年の繁栄を思わせる雰囲気が一気に描き出されるところだ。
雪子の婚礼衣装にと用意されていた着物を座敷一杯に広げたところ、長姉・鶴子を見送るシーン(雪子と婚約者の東谷を見つめる義兄貞之助の眼差しがいい)、密かに思いを寄せていた雪子の結婚に一人酒を飲む貞之助、雪の舞うシーンにかぶるかつての四姉妹の和やかな日々に胸が締め付けられる。
封切り時に「なぜ今ごろ細雪なの?」と思ったりしましたが、見終わるとなぜだか妙にホンワリした気分になった。