伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

動物園を100倍楽しむ!飼育員が教えるどうぶつのディープな話

2024-05-13 18:40:21 | 自然科学・工学系
 動物園などで見られる動物51種について、概ね3ページで、その生態や希少性(絶滅危惧の程度)等を解説した本。
 動物園の飼育員の話が中心ということからか編著者の関心からか、繁殖(発情期や交尾の方法、妊娠期間、1度の出産での出生数や出産の頻度、その後の子育て)と寿命の話題と餌・食事、飼育での注意点の話題が中心となっています。
 アルマジロの陰茎が全長の2/3に及ぶ(13ページ。そう書いていながら、「交尾では体長の約半分ほどにまで膨らんできます」って、謎)とか、アルマジロ類の多くは1日に16~18時間眠ります(12ページ)とか、トリビアが満載です。
 トナカイは硬い餌を与え続けると歯が著しく摩耗したり欠損する(41ページ)、ゴリラに野生でない人が食べる甘い果実をやるのは虫歯の元(51ページ)など、餌についての苦労話もいろいろとあり、興味深く読めました。


大渕希郷編著 緑書房 2023年7月10日発行
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化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか

2024-05-09 21:45:41 | 自然科学・工学系
 化石の中のDNA(古代DNA)研究の歴史と現在と今後のあり方について、「ジュラシック・パーク」(恐竜の血を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められた化石から恐竜のDNAを採取して恐竜を復活させる)の実現の可能性、恐竜ほど古いものは無理でも近年の絶滅動物なら復活させられるかというテーマを軸に、著者の愛読書の「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」(奥泉光)の例を用いながら論じた本。
 化石の中から採取したアミノ酸やDNAは、劣化し分断されている上に菌類や細菌が入り込んで増殖していたり、さらには採取・実験・検査の過程で別の(現生の)ものが混入するなどのおそれがあり、そもそも化石生物のものかどうかの同定からして難しいなど、学問・研究的な観点での慎重さが求められる一方で、PCRによるDNAの増幅技術やゲノム解読・塩基配列決定技術の進歩により絶滅種の復活も比較的最近絶滅した種であれば技術的には不可能ではなくなっていること、その中で絶滅種を復活させるということがいいことなのかとか、勉強になるとともに考えさせられる本でした。
 DNAの増幅やゲノム解読に関する技術的な説明には私には難しく思えたところがありましたが、それ以上に、著者が強調するクワコーの素晴らしさが、私には今ひとつ理解できないのが残念でした。


更科功 中公新書 2024年2月25日発行
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生命はゲルでできている

2024-04-26 20:34:33 | 自然科学・工学系
 生物の体が細胞から細胞外マトリックス、血管、腱、靱帯、軟骨、筋肉、皮膚など様々な階層でゲル状の組織でできていること、その性質、利点などを説明した本。
 ゲル(ドイツ語読み:英語読みではジェル)の例にゼリーやこんにゃくの他に豆腐やゆで卵、炊いたご飯やゆでた麺などが挙げられ(2ページ)驚きます。物理では、物質の3態として気体、液体、固体の分類がなされ、物質はその3つに分けられると思っていましたが、考えてみると生物の世界ではそう分類できないものが大半だと気づきます。通常は柔らかい流動性のあるものでも変形し流動する間もないほどのごく短時間にことが起こると硬いもののように振る舞う(外力を跳ね返す)、極めて速く足を動かせば水上を駆け抜けることもできるもので、時間スケールの取り方で固体のような性質も液体のような性質も持ちうるという説明があり(11~14ページ)、ちょっと目からウロコの気分がしました。そういう原理で水上を走るトカゲが表紙に採用されています。
 さまざまな生物組織やそれを構成する化学物質、構造の説明は、かみ砕いてなされているようで、でもわかったようなわからないような感じのところが多くありました。ゲルについての研究はまだ日が浅く、わかっていないことがとても多いというのですが。
 いろいろと視野を広げてくれる刺激に満ちた本でした。


長田義仁 岩波科学ライブラリー 2024年3月14日発行

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健康寿命をのばす食べ物の科学

2024-01-06 00:07:10 | 自然科学・工学系
 食品、食生活が健康に与える影響とその原因・機構に関する研究の現状等について解説した本。
 新書であること、序盤の語り口等から平易な本と思って読み始めましたが、中盤以降はカタカナ・英字の生化学物質名と構造式が頻出し、あぁ私はやっぱりこの分野(生化学)が苦手だったんだと再認識するハメになりました。化学物質とか亀の子(ベンゼン環)とかが苦手な人は220ページ以下のまとめだけ読むという方針が無難に思えます。
 私は、聞き慣れない生化学物質名が出てきたところで脳が固まってしまい/拒絶反応を起こし、説明内容の大部分が理解できていないので、たぶん私の理解不足なのだろうと思うのですが、母乳についての説明で「乳の源は血液で、乳一リットルをつくるのに血液四〇〇~五〇〇リットルが必要とされます」(206ページ)って、それでいいんでしょうか。母乳で乳児を育てれば授乳量は1日あたり1リットルくらいになるということですが、人間の体内の血液は通常5リットル程度といいますから、この記述だと、授乳中の母親は毎日全血液の100倍程度を消費し(乳に変え)ているということになりかねません。私の読み違いなら(なんといっても、私はこの本の説明のほとんどがちゃんとは理解できてませんから)それでいいんですけど…


佐藤隆一郎 ちくま新書 2023年4月10日発行
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はたらく土の虫

2024-01-03 21:14:16 | 自然科学・工学系
 土壌中に生息する虫たちの生態を解説した本。
 著者自身は、体長0.5~2ミリメートルくらいの節足動物「トビムシ」の研究を専門としている(世界中でトビムシを専門とする生態学者は50人くらいだとか:3ページ)そうですが、土壌生物
には「分解者」のイメージがつきまとうがミミズやシロアリのような特に影響力が強い者以外は野外では分解作用の検出さえ難しく分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できないとか(2~3ページ)、人工的な培養器の中でいろいろな餌を同時に与えると強い好き嫌いを示すトビムシが自然条件下では消化管内容物に大きな差はなく菌糸や胞子、腐食など多様な餌が入っている(105~106ページ)など、観察が難しい土壌動物について確定的に明らかにされていることはまだ少ない(133ページ)という研究者としての悩みが語られています。
 「はたらく土の虫」というタイトル、ほのぼのとしたタッチの挿絵から、子ども向けの本のようにも見えますが、しっかり大人向けの本です。


藤井佐織 瀬谷出版 2023年11月30日発行
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都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰

2024-01-02 21:47:25 | 自然科学・工学系
 東京や著者の住む市川市を中心に都会で生息する鳥たち、特にツバメ、スズメ、カラス、水鳥、ハヤブサ・タカ・フクロウ等の様子を解説した本。
 人間の傍で営巣することで天敵のカラスから守られるツバメ、人の傍ではあるがツバメほど人に近づかず人目に付かないところで営巣するスズメ、バブル後急増したが生ゴミなどの対策で2000年以後東京では激減したカラス、駆除されなくなりまた緑地保護の動きもあって都市への進出が見られる猛禽類などの様子が紹介され、鳥と人との距離が論じられています。
 カラー口絵ではカラフルなイソヒヨドリやカワセミが目を惹きます。カワセミが、きれいな水のない都会で生息しているということには興味を持ち、より詳しく読みたいところですが、カワセミ関係は2ページだけ(142~143ページ)で、著者の関心はそちらにはあまり向かず、ほとんどのページがそれ以外のツバメ、スズメ、カラス、猛禽類などに当てられています。その辺、学者らしいということでしょうか。


唐沢孝一 中公新書 2023年6月25日発行

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津波 暴威の歴史と防災の科学

2023-12-23 22:08:54 | 自然科学・工学系
 津波被害の歴史を解説した本。
 津波研究者の手による研究書なのですが、時系列に沿った記述ではなく、また体系的な論述でもなく、著者の語る物語的な配列と流れで、過去の被害もインタビューに重きを置いた紹介をしていて、読み物風の構成・体裁になっています。
 現時点での日本の読者の目からは、津波というと東日本大震災を想起するのですが(原題の "TSUNAMI" からサザンオールスターズの歌を想起する人もいるかもしれませんが)、2011年の日本の津波被害に度々言及はしているもののそれを紹介した章はありません。海外の視点(著者の所属はオーストラリアとハワイ)からは東日本大震災は津波被害としては代表的なものではないということなのでしょう。1755年のリスボンの津波による経済的損害は2011年の津波で日本が被った経済的損害の約2倍と明記されている(224ページ)のを見ると、そう学ぶべきなのかと思いました。
 この本でエピソードを紹介する度、人間は歴史に/被害に学ばない、簡単に忘れてしまうという指摘が繰り返されています。肝に銘じておきたいと思いつつ、そういうもんなんですよねとも思ってしまいます。


原題:TSUNAMI The World's Greatest Waves
ジェイムズ・ゴフ、ウォルター・ダッドリー 訳:千葉敏生
みすず書房 2023年10月2日発行(原書は2021年)
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不整脈 知って解消不安と疑問

2023-11-27 22:34:30 | 自然科学・工学系
 不整脈の種別、症状、原因、治療等について解説した本。
 不整脈は大きく2つに分類されますとして、頻脈性不整脈と徐脈性不整脈を挙げ(8ページ)、徐脈性不整脈は、1分間の心拍数が60回未満となるものとしつつ、徐脈でも運動時に心拍数が増えて必要な量の血液を送り出すことができれば問題はなく、問題となるのはふだんから心拍数が少なく運動をしても心拍数が十分増えない状態と説明しています(60ページ)。これに対し、頻脈性不整脈については、何らかの原因で1分間の心拍数が100回以上となるものとして、強い動悸やめまいや失神が起こったりするが、タイプによっては自覚症状が現れないこともあるとしています(34ページ)。頻脈性不整脈については「特に治療が不要なものから突然死を招くものも」と書かれ、日常的に頻脈(1分間100回以上)で自覚症状がない場合に気にしなくていいのか、どういう場合に「突然死の原因となる」というのか、読んでいてわかりません。日常的に1分間100回以上で増えていないならそれは「不整脈」じゃないということなのかもしれませんが、徐脈性の場合はもともと少なくて運動時も増えない場合こそが問題とされていることからすると、日常的に頻脈の場合が問題ないのかは判然としません。そのあたり、もっとはっきりと説明してもらわないと、不安と疑問が解消されないように思えます。


副島京子監修 別册NHKきょうの健康 2023年9月25日発行
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人はどう死ぬのか

2023-11-26 20:46:16 | 自然科学・工学系
 外科医、麻酔科医として勤務した後外務省の医務官として海外勤務し、在宅医療クリニックで勤務した著者が、自己の経験に基づいて死の実情について語る本。
 下顎呼吸(顎を突き出すような呼吸)が始まると蘇生措置を施しても元に戻ることはまずなく(17~18ページ)、最後の段階では点滴は効果がないだけでなく心臓と腎臓に負担をかけ肺にも水が溜まり徒に患者を苦しめるだけ(46~47ページ)、酸素マスクも実際ほとんど意味はなく単に家族を安心させるためだけのパフォーマンス(47ページ)だそうです。「長生きを求めて病院にかかると、治してもらえる病気もある代わりに、何度も病院に通わされ、長時間待たされ、いろいろ検査を受けさせられ、不具合を見つけられ、その治療のためにまた病院からは解放されず、不安と面倒な毎日が続く危険が高いでしょう。病院にかかっても、死ぬときは死にます。そもそも医療は死に対して無力です。それなら自分の寿命を受け入れ、好き放題に残り時間を過ごしたほうが、よほど気楽」(132ページ)というのが著者の意見です。私も社会人になって以来、生命保険加入の際と歯医者以外病院にも検査にも行ったことがなく、著者の意見に共感します。単に聞きたい意見だけ聞く耳持つ状態というべきかもしれませんが。
 老衰死について、決して楽ではないと著者は釘を刺しています。それまで元気でいて急に衰えるわけではなく、死のかなり前から全身が衰え、不如意と不自由と惨めさに、長い間耐えたあとでようやく楽になれる、視力も聴力も衰え味覚も落ちて楽しみはなく、食べたら誤嚥して激しくむせ誤嚥性肺炎の危険にさらされ、関節痛に耐え寝たきりになって下の世話や清拭、口腔ケアなどを受け、体は動かせず呼吸も苦しく言葉も発するのも無理というような状況にならないと死ねないのが老衰死だというのです(134ページ)。言われてみればごもっともです。
 そういうことから癌で死ぬ方がましという話にもなるのですが、ここでも興味深い説明があります。癌の判定は最終的には生検(鉗子で腫瘍の一部を採取)して顕微鏡で見て行う(病理診断)のですが、癌細胞の塊をつついたらそのときに癌細胞が血流に乗って転移するんじゃないかという疑問を、私はずっと持っていました。医師である著者も同じ疑問を持ち、「何人かの医師に聞いてみましたが、いずれもその話には触れたくないと言わんばかりでした。いわばがん診断界のタブーです」(156ページ)というのです。まぁ、X線検査等も放射線被ばくによるリスクがあることがわかっていてもそのリスクよりメリットがあるという評価でやっているわけで、それと同様にリスクよりメリットがあるという評価なのでしょうけれども。もっとも、その検査被ばくについても、日本は検査被ばくによる発がんが世界中でダントツに多く欧米は全がん患者の1%前後であるのに対し日本は3%もある(150ページ)というのですが。また、病理検査で癌かどうかは判定できても進行の速さや転移するかどうかは顕微鏡では見分けられない(155ページ)とのことです。
 医療知識の点でも、死生観でも、さまざまに刺激を受ける本でした。


久坂部羊 講談社現代新書 2022年3月20日発行
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南極アトラス 最新の地図とデータで見る過去・現在・未来

2023-11-24 23:07:18 | 自然科学・工学系
 南極の地理、気象、生態系、観測・居住の実情、探検の歴史、未来予測などをカラーの地図と写真を駆使して解説した本。
 地図も美しいのですが、衛星写真、特に「はじめに」の3枚などが息をのむほど美しい。
 知識としては、南極大陸周辺での結氷と融氷が海洋深層水の流れ:熱塩循環の原動力となっていること(99ページ)、南極海の「極前線」で冷たい海水と温かい海水が混ざり合う海域が地球上で最も生産性の高い(植物プランクトンの多い)海となっていること(102~103ページ)、南極海が温室効果による熱と二酸化炭素を吸収する世界最大のシンク(産業革命が始まってから人類が大気中に放出した余分な二酸化炭素の最大43%、温室効果で生じた熱の75%を吸収したと推測されるとか)であること(104~105ページ)など、南極海に関する部分が、私には興味深く感じられました。
 記述が、地図にしやすい分野に限定されています(例えば氷床コアの採取は、私としてはその分析結果の方が関心がありますが、採取場所と深さしか触れていない:42~43ページ)が、それでもさまざまな領域について知ることができ、勉強になりました。


原題:ANTARCTIC ATLAS
ピーター・フレットウェル 日本語版監修:渡邉研太郞、訳:藤井留美
柊風舎 2023年10月15日発行(原書は2020年)
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