伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

哲学するってどんなこと?

2022-08-31 21:57:15 | 人文・社会科学系
 哲学とは何かを、「哲学とは、私たちの生の土台や前提となっている基本的なものごとの本質が何であるかを論理的に考えることである」という著者が示した定義を出発点に検討し、論ずる本。
 哲学について、宗教は反証可能性がない非科学的なもの(158ページ)で、現象予測が実際と一致しないときにはつじつま合わせが行われたり不一致自体が無視される「退行的」なものである(174~175ページ、177ページ)のに対し、哲学は科学と並んで「真の知を求める知的な探究」「前進的なプログラム」だ(183~185ページ)と称揚しています。宗教と並んでフロイトの精神分析論について、反証不可能であり「それゆえ科学的な仮説とは言えません」(156ページ)、「退行的プログラムに属する疑似科学の理論」(171ページ)と評価しています。フロイトかフロイト系列の人に何か恨みでもあるんでしょうか。
 さまざまにテーマを変えながら、哲学の議論の仕方を紹介して行くのですが、否定/批判したい相手(主張・論)に対しては抽象化してある種極端な例も一体と扱った上で完全には一貫できないことを問題視し、守りたい主張(論)については「本質」という名で典型的なところでは成り立つ、すみからすみまで極端なものまで一律に考える必要はないと論じているような印象を私は受けました。現実世界では、また私の業務分野の法律実務のような実学の世界では、すべてのことに一律に当てはまる原理や「真理」なんてものはないのが当然で、そんなもの求めること自体に無理があると思います。それを求めるのが哲学だというのならそれはそれでいいですが、そういう議論と姿勢が、芸術の定義で論じたような(46~52ページ)哲学の世界の構成員に哲学として認められればいいんだというムラ社会独自の文化に繋がっていくなら広がりを持てなくなっていくことでしょう。もちろん、「著者がつじつまの合わないことや、あからさまに間違ったことを書いているように思えるのは」私のような素人が「誤った枠組みで文献を読み、理解してしまっているから」(247ページ)なのでしょうけれども。


金杉武司 ちくまプリマー新書 2022年7月10日発行
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おもろい話し方 芸人だけが知っているウケる会話の法則

2022-08-30 23:44:38 | 実用書・ビジネス書
 芸人のネタを考える「ネタのゴーストライター」をしているという著者が、会話を弾ませちょっとした笑いを取るための会話術を論じた本。
 最初に挙げられている、初対面の相手と話すときには、中身のない話を積極的にしろというアドバイス(3~5ページ、20~25ページ)が意表を突いています。お互いに中身のある話題を探して話そうとすると、中身のある話をしないといけないと考えて、話しづらい、会話のハードルが高い状態を作ってしまう。めちゃくちゃしょうもない、どうでもいい話、中身のない発言をすることで会話のハードルを下げ、話しやすくするというのです。なるほどと言うべきか、しかし、それは相手に「おもろいおっさんやな、こいつ」という印象を与えたい場面ならいいけど…
 終盤で、「お笑いタイプ」を「むじゃきボケ:とにかくボケまくる、お調子者」「MCツッコミ:場をしきり、まわりに的確にツッコむ仕切り屋」「イジられツッコミ:イジリへのリアクションやツッコミで笑いを取る愛されキャラ」「天然ボケ:意図せずに笑いを起こす“お笑いモンスター”」「癒し:いるだけで心やすらぐマスコットキャラ」の5つに分類し、診断テスト(238~240ページ)を載せています。テストによれば私はMCツッコミタイプで、話すより聞き手にまわる、ボケるよりはツッコミにまわるべきなんだそうです(218~221ページ)。癒しタイプには、なりたくてもなれないんでしょうね (-_-;)


芝山大輔 ダイヤモンド社 2022年5月31日発行
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いじめ加害者にどう対応するか 処罰と被害者優先のケア

2022-08-29 22:19:07 | 人文・社会科学系
 いじめ被害者に対するケアとして学校に行かなくてもいいというのは優しい排除であり、被害者が事実上学校から追われ加害者がそのまま通い続けるのはおかしい、加害者を処罰し、スティグマ化して(その用語法からして加害者をさらし者にしてということかと思いますが)いじめは恥ずかしいことだという認識を徹底させるべきだと主張する本。
 現実にはいじめ加害者への出席停止はほとんど行われていないのに匿名のアンケートでは相当な割合の教員が出席停止にすべきと考えている、このギャップは衝撃的ですと述べられています(10~11ページ)。私には、ネット世論では少しでも逸脱した者、軽微であれ「犯罪」を犯した者に対してはクビにしろだの処罰しろだのという声があふれかえるのと同じ構造だと思え、それを根拠に加害者を出席停止にするのが正義だというのであれば、あまりにプリミティブだと思います。
 学校が警察の力を借りたら負けと、学校内での解決を図ろうとする姿勢を批判し(7~9ページ)、行政の直接介入についても難しい問題としつつそれを受け入れる必要性を示唆しています(19~21ページ)。学校や教師の取り組みが鈍い、信用できないとして、だから警察や行政権力の介入を求めるのか、警察と権力は信じて任せられるのか。こういった言論は、市民の自由や権利を守る歴史的な活動の成果や流れを掘り崩し権力者・為政者を利するものではないかという疑問を持ちます。
 いじめ加害者を処罰してスティグマ化せよ、いじめは恥ずかしいことだとの認識を徹底させろと繰り返し強調してきた著者が「おわりに」では、「いじめの問題については、いじめ自殺が起きるたびにマスコミが騒ぎ立て、加害者や学校側が集団リンチもかくやという勢いで批判されるのですが、そうした騒ぎが毎回『祭り』的に消費されてしまい、本質的な対策にも解決にもほとんど結びついていないという現状があります」と嘆いています(61ページ)。私には、そのマスコミによる加害者叩きは、著者が求めている加害者の処罰、スティグマ化そのものだと思えるのですが。


斎藤環、内田良 岩波ブックレット 2022年7月5日発行
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最新版 メディアを動かすプレスリリースはこうつくる!

2022-08-28 23:21:45 | 実用書・ビジネス書
 中小企業、団体が、商品やサービスをメディアを使って広報するためにどのようにメディアにアプローチすべきかを説明した本。
 自分が売りたい、掲載してもらいたいという意識ではなく、メディア・記者側の立場で、言いふらしたくなるようなネタに仕上げる、そのために誰がどういった思いで誰のために生み出した商品なのかに着目して心を動かすエピソードやストーリーを考えていくというのが基本姿勢とされます。5W+1Hではなくて5W+5Hを意識する、5W+1Hに加えて、How long(期間)、How many(数量)、How much(金額)、How in the future(将来性)を書けというのです(92ページ)。う~ん、ビジネス視点に徹すると数量、金額が重要ということですね。そして将来性を挙げるのは、報道価値、記者の心情を考えるとなるほどねと思います。
 170ページ以降に著者がやって成功したプレスリリース例が紹介されています。A4判1枚紙に何を書くか、なんですが、こんなに文字を詰め込んでいいんですか。多いのは1行48字もあって40数行組です。もちろん、空白行を入れているので文字が印字されている行は30数行ですが。これをFAXで送って大丈夫かと思ってしまうのですが。


福満ヒロユキ 同文館出版 2022年7月7日発行
 
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世界大麻経済戦争

2022-08-27 21:03:17 | ノンフィクション
 日本ではただ所持しているだけでも逮捕され処罰される大麻(マリファナ)について、医薬品としての需要、産業用(繊維、建築資材等)の需要などから合法化する国(アメリカでは州レベル)が増えているとして、日本はこのままでは大麻ビジネスに乗り遅れると主張する本。
 人を攻撃的にして暴力に繋がりやすいアルコール(飲酒)が合法なのに人をリラックスさせストレスを減らし、依存性・禁断症状・耐性(繰り返し使用により効きが悪くなり使用量が増えること)・習慣性・中毒性のすべてでアルコールより危険度が低い大麻を禁止するのは不合理(8~12ページ、38~40ページ)というのは、そう言われるとそうかなと思います。ただ著者が引用しているのは1つの研究報告についてのニューヨークタイムズの記事で、長期使用の影響についてはまだわかっていないことが多い(42~45ページ)、厚労省の広報等は証明されていないことを誇張している(46~49ページ)という主張だと、影響がわかっていないから解禁できないのか、だから解禁すべきなのかというところに行ってしまい、嗜好用の大麻を合法化している国はまだかなり少数派にとどまっているのを世界の潮流は合法化というイメージで描き出しているところと合わせて、今ひとつ説得力が弱い印象を持ちます。
 医療用、産業用需要も合わせて書いているのが多方面からの記述となっている面はありますが、ごっちゃになっている感じがして、そこは切り分けて整理した方がいいように思えました。


矢部武 集英社新書 2021年8月22日発行
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まだ、法学を知らない君へ 未来をひらく13講

2022-08-26 21:35:09 | 人文・社会科学系
 東大法学部が2021年度前期(4月~7月)に1年生を対象にオンラインで行った「現代法学の先端」と題する講義を出版したもの。
 「デジタル社会と憲法」(憲法)、「同性カップルと婚姻」(民法)、「刑法は個人の尊厳を守れるのか」(性犯罪処罰:刑法)、「金融サービス仲介業制度の導入」(商法)、「役員報酬と法」(会社法)、「非正規格差をなくすには」(労働法)、「著作権法の過去・現在・未来」(知的財産法)、「プラットフォーム全盛時代に適正な競争を確保する」(日本の公取の運用:競争法)、「ビッグテックの台頭」(欧州競争当局の姿勢:競争法)、「GAFAの利益をつかまえる」(租税法)、「国際間のサイバー攻撃をどう規制するか?」(国際法)、「契約とContract」(オリンピック契約:英米法)、「一人一票の原則を疑う」(法哲学)の13講義で、先端の議論かどうかは置いても、また講師の個人的な趣味/興味に応じたものとみられますが、現代的あるいは時事ネタを扱う興味深いものです(金融サービス仲介業制度を紹介したものは、ただ立法の経緯と内容を紹介するだけで、学生が興味を持てそうな問題提起や検討もなく、何のために書いているのかと思いました。この講義はおそらく爆睡者続出だっただろうと推測します)。
 東大法学部の教員といっても、権力者・官僚機構に奉仕する/すり寄る人ばかりでなく、権力者や大企業に批判的な人や、方向性はさておいて独自の見解をいう変わった人もいるのだなと感じられました。私としては、著作権者の保護(実際には何ら著作を生み出さない著作権ビジネスで儲けている人が保護されていると思いますが)というか著作物の利用の制限にあまりにも偏している著作権法の現状を、東大の知的財産法の教授がかなりはっきりと批判的に書いていることに新鮮な感動を覚えました。


東京大学法学部「現代と法」委員会編 有斐閣 2022年7月10日発行
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労働者派遣法[第2版]

2022-08-25 21:23:36 | 実用書・ビジネス書
 労働者派遣法についての解説書。
 編著者・著者紹介(巻末)を見ると執筆者は全員学者であるとともに、「初版 はしがき」によれば全員厚労省の審議会等の委員として労働者派遣法の立法・改正に関与しているとのことです。そういうことからか、はしがきに表れた著者の自負とは逆に、元々が読みにくい労働者派遣法の法令・指針・業務取扱要領等の用語をそのまま用いた本文は著しく読みにくい。私は、一応労働者派遣法の構造・概要は学習済なので(労働者派遣法関連も扱っている二弁の「労働事件ハンドブック」等で編集代表をしていましたし)書いてあることは(予め)わかるのですが、それでさえ流し読みすると文意が取れず、恐ろしく眠気を誘う部分が長い。労働者派遣法をこの本で学ぶという人が最初から通読できたら、私はその人に賞賛を惜しみません。
 そして、この本の姿勢は、派遣関連業務を行う事業者の正当性というか、怪しげな印象を払拭することに多大な熱意を持っていると感じられます。職安法で禁止されている「労働者供給」と派遣の関係については、本質的には派遣は労働者供給と同じだけど、職安法の禁止規定は派遣法の派遣を除外しているから禁止されないだけ(言ってみれば、賭博は刑法で禁止されているが、公営ギャンブルは法律で正当化されているから適法なのと同じようなもの)と私は認識していますが、この本の姿勢は労働者派遣は適法だというところからスタートしてそうである以上労働者供給が禁止されている理由もそれに合わせて考え直す必要があるそうです(49~50ページ。もっとも、279ページでは、別の執筆者が私の認識と同様の記述をしていますが)。派遣はもともと正当なんだと言いたいがために歴史も書き換えようってことですか。派遣禁止業務の説明でも、禁止されている港湾、建築労働者も格別に実質的には労働者派遣システムがあるなど、禁止されているから本質的に派遣が許されないわけではないという説明に紙幅を割いています(86~96ページ)。確かに、類書にはない踏み込んだ説明ですが、力の入れどころが、派遣労働者保護じゃなくて、事業者の擁護にすごく偏っている印象を持ちます。関係者なら誰でも覚えてるレベルのテンプスタッフの容姿ランク(A、B、C、D)付き名簿流出事件を紹介するときも「大手人材派遣会社」(78ページ)と匿名にして気を遣ってますし。
 官僚ではなくて学者が書いたという意味がありそうな箇所としては、第6編第7章の雇用関係の終了(派遣労働者の解雇・雇止め:234~245ページ。雇用安定措置をてこに、派遣元との交渉などから有期派遣労働者にも雇用継続の合理的期待が認められるべきことを主張しているところは、労働者側の弁護士としては少し励まされます。裁判実務としてはハードルが高いですけど)、第7編第5章の派遣先の使用者性(団交応諾義務等:275~286ページ)、第10編第2章・第3章(派遣法違反の民事効、労働契約申込みみなし:327~356ページ)くらいでしょうか。派遣労働契約で派遣先(就業場所)とその派遣先ごとに合意されている賃金は、就業規則の変更によっては変更されないものとして合意したものとみなされるから、派遣先から中途解約されて派遣労働者に派遣元が別の派遣先を紹介した場合でも、派遣労働者が同意しなければ、賃金を切り下げることはできないし、他の派遣先への就労を命じることもできない(205~207ページ)という指摘にはハッとさせられました。現実にはそれを武器に戦ったとき、派遣元は契約更新拒絶してくることが予想され、どれだけ使えるかは心許ないですが。


鎌田耕一、諏訪康雄編著 三省堂 2022年4月25日発行(初版は2017年2月)
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新・建築入門 思想と歴史

2022-08-24 23:56:16 | 人文・社会科学系
 建築とは何か、石器時代の洞窟からモダニズム(近代建築)さらにはポスト・モダン(ポスト構造主義、脱構築:1980年代のニューアカブームを経験した世代には、今や懐かしいお言葉)まで、建築の歴史を哲学する本。
 著名建築家の「新・建築入門」などと銘打たれた本が新刊として出版されたので、本当に入門のつもりで手にしたのですが、建築家ってこんなに抽象的な思索にふけるものなのかと驚きました。「しかし主観主義の徹底が主観主義自体を破壊し、そこから新たなる客観が生成される。古き客観は、このようなプロセスをへて新しき客観へと更新されるのである。コペルニクスの地動説、デカルトの解析幾何学、ガリレオ、ニュートンの力学等の新たなる客観主義は、すべて、そのような形でうみ出されたものである」(138ページ)例えばこういう文章が建築入門という本に書かれるものでしょうか。ここで、客観(主義)は原理、普遍性、演繹法を、主観(主義)は個別事例、帰納法を意味していると考えれば概ね言いたいことはわかると思いますが、この引用した文章は、この本の議論のうちかなりわかりやすいところです。「ミケランジェロこそは、まさに徹底して主観の建築家であった。主観のダイナミズムを全開させることを通じて、圧倒的な空間の可能性が開かれることを、彼は実証した。しかし、彼が主観の人だからといって、彼に普遍的なるもの、絶対的なるものに対する信仰がなかったわけではない。(略)彼こそは最も強く、激しく普遍を希求した芸術家であった。しかし、彼は自己と普遍の間に、いかなる客観性をも介在させる必要を感じなかった」(157~158ページ)とか言われても、わかりません。しかし、なんか、読んでいて格好いい。この今どき見ない蠱惑的でペダンティックな文章は何だろうと思ったら、実に1994年に書かれた本(ちくま新書)の新装文庫本だというのです。
 著者は、文庫版あとがきの中で、1994年の新書版を振り返って「ここで僕が一番書きたかったことは、モダニズムもポストモダニズムも共に自己中心的な破壊行為だということである」(221ページ)と書いています。「画家は絵の具とキャンパスがあれば絵を描くことができるが、建築家はそのようにして建築を作ることができない。その富はクライアント(施主)の富であり、」(174~175ページ)という認識、この本を書いてから日本の田舎を巡り田舎の職人さんたちと一緒にものを作り始めた(222ページ)という姿勢が、著者の当時の姿勢と試行錯誤を象徴しているように思えました。


隈研吾 ちくま学芸文庫 2022年3月10日発行(新書は1994年11月)
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忍者に結婚は難しい

2022-08-23 23:56:19 | 小説
 伊賀忍者組織中の「下忍」の家に生まれ他の忍者とともに郵便局に勤めつつ、政府側の要人の警備等の裏業務を行っている草刈悟郎と、上の指示により政府とは反対側の裏業務をこなす甲賀忍者の末裔月乃蛍が、互いにその素性を隠して、相手が忍者とは知らないままに、趣味のキャンプ場で知り合って結婚するが、互いに一般人とは生活が合わないと思って不満を溜め込んでいたところ、ある日、同じ要人を、悟郎は警護する側、蛍はスキャンダルをつかむために侵入する側でミッションをこなすこととなり、蛍が屋敷に侵入してみるとその要人はすでに殺害されており、脱出する蛍を悟郎が手裏剣で狙い…という展開の小説。
 設定、展開は、まぁ娯楽作品だからねと思う場面が多いですが、夫婦関係を描いたヒューマンストーリーと読めば、なかなかのものと思います。
 悟郎と蛍の日常生活での争いの種となる男も座って小便をすべきかという問題ですが、洋式であれ和式であれ、座ってすると出し終わったと思って立ち上がったとき、まだ残ってる感があって、それで立ってするとけっこう出るんですね、これが。歳をとると出が悪くなるとか、そういう問題があるのかもしれませんけど、体の構造上というか、膀胱に残っている尿をちゃんと出すために、私は立ってしたい派です…(^^;)


横関大 講談社 2022年5月30日発行
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旅行トラブルの裁判例と実務 旅行等をめぐるリスクと法的責任

2022-08-22 21:53:37 | 実用書・ビジネス書
 旅行の際のトラブルや事故についての裁判例を検討し解説した本。
 旅行については、旅行業者のほとんどが標準旅行業約款を用いているため、民法等の法律解釈よりも旅行業約款の解釈適用が重要になります。募集型企画旅行(パッケージツァー)では、実務上はパンフレットと旅行条件書が具体的な契約内容(旅行業者の説明内容)となり、旅行業者は手配完成債務(航空券やホテルの予約等)を負うだけでなく、旅行計画通りにできなくなったときにできるだけ計画に沿った旅行サービスの提供を受けられるように必要な措置を講じる旅程管理債務や旅行者の安全を確保するために旅程やサービス提供者の選択等に関して十分に調査し合理的な措置をとる等の安全確保義務、旅程の重要な変更があった際に旅行業者に過失がなくても一定率の変更補償金を支払う旅程保証責任、旅行参加中の偶然の事故による旅行者の損害について旅行業者に過失がなくても一定の補償金を支払う特別補償責任等が定められています。
 旅程に重要な変更があった場合、旅行者は出発前であれば取消手数料を支払うことなく解除できることが約款上定められています。旅行業者がその変更を速やかに旅行者に伝えなかった場合、旅行者は解除権の行使の機会を奪われることになります。この場合に、裁判例では、旅行業者の旅程変更や説明義務違反によって財産的損害は生じていないとして慰謝料のみを認め、あるいは変更された旅行サービスを受けているから損害があってもその利益と相殺するなどとしているのに対し、それでは説明を怠った旅行業者のやり得を許すことになりおかしい、すぐに知っていれば旅行者が解除したはずの場合は旅行代金を返還させるべきと論じられていて(108~112ページ、184~192ページ、193~202ページ、208~219ページ。164~175ページは微妙ですが)、兵庫県弁護士会消費者保護委員会の戦う立場が見えて参考になりました。
 旅行中の事故に関する安全確保義務については、旅行業者はサービス提供者ではないことを重視して、サービス提供者の選択に過失があったかを検討して、旅行業者の責任を否定する判決が多く、現在に至るまで旅行中のバス事故について旅行業者の安全確保義務違反が認められたという事例は見当たらないとされています(226ページ)。しかし、海外旅行の場合に個人の被害者が、バスの運行業者に対して損害賠償請求をするとか裁判を起こすことは困難です。当該国(トルコ)の法律で旅客運送のためには交通省の許可が必要とされているのに無許可の業者を選択した(東京地裁平成25年4月22日判決:242~249ページ)とか、当該パイロットが事故当時所定の習熟度試験に合格しておらず不定期便の運行を許されていなかった(東京地裁平成22年12月24日判決:259~264ページ)というケースでさえ旅行業者のサービス提供機関選定に安全確保義務違反がなかったとするのは、あんまりだと思います。
 自分の経験に乏しい分野の裁判例をまとめて読むのは、いつも勉強になりまた知的好奇心をそそられるのですが、旅行トラブルでは標準旅行業約款で旅行業者の責任がいろいろと定められていて民法レベルよりもそちらに注意すべきこと、いくつかの論点で裁判上高いハードルがあることを知り、そういう事件に当たったら頑張らないとねと思いました。


兵庫県弁護士会消費者保護委員会編 民事法研究会 2022年4月15日発行
 
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