伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

カラー図解 海底探検の科学

2023-09-30 22:50:22 | 自然科学・工学系
 海底資源(海底熱水鉱床、レアアース泥、コバルトリッチクラスト、メタンハイドレート等)探査を中心とする海底探査の技術と探査の実情の説明及び海底探査や海洋調査でどんなことがわかるかなどを解説した本。
 電磁波が速やかに減衰するために届かない水中で、光も届かず高圧の環境となる深海底での探査をするために技術的にどのような問題があり、それをどう乗り越えてきたかの説明は、知的好奇心に訴えるものがあり、勉強になりました。
 深海底のことは未解明のことが多く、海底探査・海洋調査によってさまざまなことがわかる期待があることは理解しますが、どうも全体としては、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究活動の必要性をPRする本という色彩が強く感じられました(著者は現職は大学教授ですが、元JAMSTEC技術研究主任)。


後藤忠徳 技術評論社 2023年7月11日発行
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恋とそれとあと全部

2023-09-29 00:06:23 | 小説
 男子生徒用下宿に住む友人からは「めえめえ」と呼ばれる(あだ名の由来は/なぜ羊なんだか、説明されない)テニス部所属の高校2年生の瀬戸洋平が、一応密かに思いを寄せている隣り合っている女子学生用下宿に住む帰宅部の仲良し仲間のサブレこと鳩代司に誘われて、夏休みに新幹線で北に向かって約3時間の司の母方の祖父のところに2人で4泊の旅行をする間の2人の様子・思い、共通の友人エビナ、ハンライ、ダストらとのラインでのやりとりや過去のエピソードの回想などで構成される青春恋愛小説。
 今どき珍しいくらいの純情で爽やかな恋愛小説で、そこに読み味のよさを感じる人も、物足りなさを感じる人もそれぞれにいそうです。終盤のやりとりにこだわりが見られますが、これもそれに魅力を感じる人も、あってもなくてもと思う人もいるかなというところです。


住野よる 文藝春秋 2023年2月25日発行

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「ひきこもり」の30年を振り返る

2023-09-28 21:57:26 | 人文・社会科学系
 「『ひきこもり』が問題視されない社会となるために当事者・臨床家・研究者の3人が過去を振り返り、現在を確認し、未来の構想につなげる」という長いサブタイトルにあるように、研究者と当事者と精神科医の著者3名が「ひきこもり」をめぐるメディア、行政、精神科医らのこれまでの対応について語り、あるべき姿を論じた本。
 2022年12月18日に立教大学で行ったシンポジウムの内容を書籍化したものだそうです(はじめに:2ページ)。
 3者の立ち位置が違うことは折に触れて語られています(例えばはじめに:3ページ)が、当事者団体の代表理事を務めている著者がひきこもりを病気とする者たちへの反発を語る、その語り方に私は精神疾患に対する偏見を感じてしまいました。ひきこもりが問題視されない社会を目指すということであれば、それはまた精神病患者が問題視されない社会をも目指すはずではないかと、私は思うのですが。
 精神科医の著者の、専門家で臨床実務を行ってきた立場での葛藤と気苦労に、仕事がら痛み入ります。


石川良子、林恭子、斎藤環 岩波ブックレット 2023年8月4日発行
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夜空に浮かぶ欠けた月たち

2023-09-27 18:43:31 | 小説
 溝口純が死んだ父から受け継いで再開した純喫茶「純」と、カウンセラーの椎木さおりと精神科医の椎木旬の夫婦で経営する心療内科椎木メンタルクリニックを舞台に、母子家庭で母の仕送りを受けながら東京の女子大に入学したものの周りのキラキラした同級生に気後れして不登校になっている篠原澪、教材制作会社のデザイン室に勤務し仕事の締め切りが守れず上司のデザインを見て平気でダメ出ししながら雑誌社にイラストを売り込む植村直也、食品メーカーの営業でチームリーダーを務めながらダメ男に貢ぐ有馬麻美、設計事務所を辞めて専業主婦になり不妊医療をして38歳で子どもを産んだが子どもに愛情が湧かず世間から見れば協力的な夫や義母に反発し続ける春日美菜、そしてさおりのうつ病から精神科医を志した椎木旬、幼い子(芽依)を置いて夫の元を飛び出した溝口純のエピソードを綴る短編連作。
 心療内科をベースに、誰しも心を病むことはある、そこからゆっくり立ち直ればいいし、やりなおせるよというメッセージを伝える作品です。
 「ふがいない僕は空を見た」(映画を先に見て、その原作として)以来、わりと気にして読んでいる(直木賞受賞作は短編集ということで読んでませんけど)のですが、尖ったというか癖のあるところが落ちて丸くなりずいぶんとすんなりと心に染みるものを書くようになったのだなと感じるのは、私だけでしょうか。


窪美澄 株式会社KADOKAWA 2023年4月11日発行
「野性時代」

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認知症でも心は豊かに生きている 認知症になった認知症専門医長谷川和夫100の言葉

2023-09-26 21:45:26 | 実用書・ビジネス書
 認知症のスクリーニング判定に広く用いられている長谷川式簡易知能評価スケールを開発した認知症専門医の著者が認知症を発症しそのことを公表した上で、認知症について語った本。
 著者が認知症患者となった上で認知症患者が記憶を失うということは体験の全体がすっぽりと頭の中から抜け落ち何を忘れているのかさえも思い出せなくなることであり過去の記憶がないと現在にも未来にも自信が持てなくなりイライラする、過去の話(昔話)をするときは現在につながる話をしているので不安や焦燥感がなくなり自信を持てることがある、認知症患者に過去を回想させる/それを支援することは大事だと述べている(88~93ページ)のに感じ入りました。認知症の人の心理的な欲求にはなぐさめ、愛着、帰属意識、携わること、自分らしさの尊重があり、ケアする人がやってはいけないことは急がせる、できるのにさせない、途中でやめさせる、無理強いする、無視して放っておくことだ(130~143ページ)というのも。
 認知症になった著者が心がけているのが「明日やれることでも今日手をつけること」(27ページ)というのも、最近明日やれることは明日に回そうとしがちな私は、ハッとさせられてしまいました。


長谷川和夫 中央法規 2020年8月10日発行

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「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信

2023-09-25 20:49:58 | 実用書・ビジネス書
 病気と健康について世上言われていること/迷信について、医師である著者の意見と著者が考える対処方法を語る本。
 著者がこの本で一番言いたいことは、たぶん、最初の方で酒、タバコについて取り上げた上で言う「人の指図は要らない。一事が万事、私たちには自由に生きて不健康になる権利がある」(40ページ)というところだろうと思います。
 解説されている研究データで驚いたのは、高血圧等の予防・対策のために勧められる減塩食について「研究によれば、食塩11.1gを3.6gに減らすことで血圧は白人なら1ぐらい、黒人なら4ぐらい下がる。アジア人だと、なんと下がらない」(62ページ)って。
 近年流行というかスタンダードになっている Evidence Based Medicine : EBM(証拠に基づく医療)のエビデンスについて日本では「根拠」「科学的根拠」と意訳されがちだが、そうするとメカニズムの解明とか理論が重視されることになりおかしいと指摘しています(132~134ページ)。その薬がなぜ効いたかがわからなくても臨床試験で効果があればそれがエビデンスで、EBMはある意味でメカニズムのことは忘れるという思想だというのです。私は、EBMというのはもともと著者のいうようなものと受け止めていたのですが、違う風潮もあるのですね。
 EBMについて、「エビデンスという言葉はなぜか『科学的根拠』と訳されているが、もともと法廷に提出される『証拠』という意味でも使われてきた歴史がある。法廷は意見を戦わせる場であり、そこでは弁護士が頭を使って物語を考える。どんな弁護士でも証拠=エビデンスは参照するが、同じ証拠から引き出す物語は弁護士によって違うだろうし、訴訟に勝つか負けるかも弁護士によって違う。このたとえで言えば、ガイドラインは弁護士だ。間違わない弁護士はいないし、負けない弁護士もいない。ガイドラインを絶対と思うのは迷信だ」と説明しています(147ページ)。医療にかかわる専門家団体のガイドラインを弁護士の訴訟活動にたとえるのが適切かは、私にはわかりませんが、含蓄のある文章に思えます。


大脇幸志郞 生活の医療社 2020年6月11日発行

 
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世界金玉考

2023-09-24 16:58:30 | 趣味の本・暇つぶし本
 キンタマについての雑学を綴った本。
 冒頭に「全人類の半数が所持しているにもかかわらず、これほど等閑にふされてブラブラしている臓器はないのではないか。悲しいほどの日陰者である」そんなことでいいはずがないということが執筆の動機とされています(7ページ)。いや、臓器のほとんどは、全人類の半数ではなく全人類が所持してるんですけど。体表に見えるキンタマよりも、体内で見えない臓器はもっともっと意識に上らないと思うんですけど…
 専門家ではない元雑誌編集者の著者は、外国語では、「睾丸」のような医学用語ではなく俗語的な「キンタマ」に当たる言葉は何かについて、文献調査ではなく、知り合いやレストランの人に聞いてそれを書いています。学術性ではなくバイタリティを感じ、ある意味で圧倒されますが、これだけのネタのためにそんなに引っ張るなよというテレビのバラエティ番組を見たときのような感想も持ちました。
 文学系のエピソードが多いのですが、終盤に去勢に関する記述が集中し、そこはマニアックなほどに書かれていて、ちょっとお腹いっぱい感がありました。


西川清史 左右社 2022年11月30日発行

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殺した夫が帰ってきました

2023-09-23 23:57:59 | 小説
 都内のアパレルメーカーにデザイナーとして勤め一人暮らししている主人公が取引先の男につきまとわれ自宅にまで押しかけられたところに、5年前に仙台で崖から転落したDV夫を名乗る人物が現れて助けられ、記憶を失っていたという相手を訝しく思いつつ、優しく紳士的に振る舞う様子からビクビクしながらもともに暮らし始め安堵しつつあったがそこに不気味な手紙や警察からの連絡があり…という展開のミステリー小説。
 今ひとつ重みを感じさせない描き方ではありますが、虐げられた女たちの人生の選択に涙します。
 ストーリー、設定については、つじつま合わせはされているものの、まぁミステリーとしてはそういうのもありなのでしょうけれども、私には反則気味に思えました。


桜井美奈 小学館文庫 2021年4月11日発行

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孤独という道づれ

2023-09-22 00:16:50 | エッセイ
 パリ暮らしが長い(近年は日本在住だとか)女優岸惠子のエッセイ集。
 最初の方は、小説「わりなき恋」とその次に書いた「愛のかたち」がどれほど苦労して書いたか、その割に思ったほど売れなかったという愚痴が書き連ねられています。その後、大怪我をした話や詐欺に遭いかけたとか泥棒の被害の話、装い(和服・洋服等)、言葉などの話題で経験や思いが語られています。
 概ねそういう話で終わるのかと思っていたところ、終盤に、昔の国際結婚と離婚、長期の外国暮らしと近年の帰国に絡んで、離婚や娘の戸籍記載とビザ・入管の扱い、母の葬儀と住民票などに関して法律の不合理を述べる文章が続きます。法律、特に戸籍や入国管理などに関するものは、市民の立場ではなく国・行政が管理しやすいこと、役所の都合が優先される度合いが強く、とりわけ著者のように外国暮らしが長いと日本の役所の姿勢・取扱の頑なさ・異常性が目に付くものと思います。ふだん忘れがちではありますが、そういったことは気にとめておきたいところです。


岸惠子 幻冬舎文庫 2022年5月15日発行(単行本は2019年5月)




 
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六畳間ミステリーアパート

2023-09-21 21:15:04 | 小説
 父親が母親に対して言う言葉が陰湿であると感じて14歳の時から両親に別れるべきだと言い続け、大学卒業を機に両親が離婚したが父親からは「自分が正しいことをしたと思っているのか」と聞かれ、母親はより憔悴したのを見て、自分の心に化け物が住み着いたと信じ、長年付き合っている恋人へのプロポーズに踏み切れないフリーライターの田中が、松山市にある「言葉の呪い、祓います」という売り文句のことだま荘という古いアパートに、狐の面を付けた二宮と名乗る管理人の下、1年間にわたって相談役として他の住人の悩みの解決を手伝い、管理人が与えた謎解きをすることで自分にとりついている化け物が祓えると言われて、他の部屋の住人の悩み・トラブルにかかわるという短編連作小説。
 そういった設定だと田中の方がさまざまな住人と積極的にかかわっていく展開が予想されますが、それぞれのエピソードはむしろ住人側の語りで話が進んで、途中に田中が出てくるという形を取り、田中と二宮を狂言回し役にしてつなげられてはいますが、今ひとつ全体としてのまとまりを感じにくく、最後に語られる二宮のストーリーにも今ひとつ説得力というかなるほど感が私には感じられませんでした。もともと「呪い」がテーマですし、田中の人物設定に共感ができないので仕方ないかなとも思いましたが。


河端ジュン一 新潮文庫 2022年11月1日発行
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