伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

海に眠る船 コロンブス大航海の謎

2006-07-31 19:56:15 | ノンフィクション
 航海士としては一流、総督・政治家としては無能だったコロンブスの経歴、航海の謎を追うノンフィクション。
 コロンブスの航海に使われた船は発見されていなくて、大航海時代に多用された「キャラベル船」は現物はもちろん図面も残されていなくて、古代ギリシャやローマの船よりも情報がないそうです(20頁)。最近パナマのノンブレデディオスで発見された沈没船がコロンブスの「ビスカイナ号」かもしれないが証明はできないだろう(340頁)と言われているそうです。
 コロンブスの出自も謎で、この本では1451年ジェノバ生まれと結論づけていますが、「エスニック・グループの名前を1つ、ランダムに挙げてみてください。コロンブスがその少数民族の出身だという本が必ず図書館で見つかります」(241頁)だそうです。
 そのコロンブスの謎を、沈没船と文書保管所の記録から追いかける人々の物語とコロンブスの航海日誌と手紙、同行者の手記などの物語を交えながら解き明かしていくという趣向の本です。

 死後数世紀は英雄として、最近数十年は虐殺者・侵略者として語られるコロンブスをどう評価するかについて、著者と訳者は中立を意識しているようですが、現地の住民と話が通じていたら太平洋も発見できていたのに(264~274頁)というあたりの記述にも、「場合によっては、現在のアメリカ大陸がコロンビア大陸と呼ばれたかもしれないのである。」(231頁)というあたりにもコロンブスへの同情がありありです。多くの人に語らせる形で中立を装いつつ、結局は記者の視点を語っているのは、ジャーナリズムの常套手段で、全体としては私にはなお美化の側に振れていると感じられましたが、それを意識した上で読めば、知らないことが多く読み物としては楽しめました。


原題:Die letzte Reise:Der Fall Christoph Columbus
クラウス・ブリンクボイマー、クレメンス・ヘーゲス
訳:シドラ房子
ランダムハウス講談社 2006年5月24日発行 (原書は2004年)
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葉隠Ⅰ・Ⅱ

2006-07-30 09:04:36 | エッセイ
 さて、葉隠です。佐賀鍋島藩士山本常朝の語りを田代陣基が筆記・編集した武士道書だそうです。「武士道とは死ぬことと見つけたり」「武士は喰わねど高楊枝」で有名なやつです。

 武士の心構えとしての忠孝とか、死ぬ気で戦えば勝てる可能性が大きいし斬られて死んでも恥ではないというような特攻隊的精神論が目を引きます。教訓の最初が、武士道というは死ぬことと見つけたり(Ⅰ14頁)ですし、いやしくも武士たる者は武勇にかけては自分以上の者はないというほどの心を持っていつでも死物狂いの覚悟が大切である(Ⅰ151頁)とか。
 渡船の中で小姓が酒に乱れて船頭と争い船から上がると刀を抜いて打ちかかろうとしたところを船頭が先に竿で頭を叩いたら、「たとえこちらに非があっても、いやしくも侍が頭を打たれた以上、詫びを言うどころのことではない。詫びを言うような格好をして相手に近づき相手の船頭を切り捨て、同時に酒乱の小姓も切り捨てるのが本当だ。」(Ⅰ119頁)なんて、かなりひどい話もあります。「詫びを言うような格好をして相手に近づき」なんてかなり卑怯。


 でも特攻隊的な精神論は必ずしも多くはありません。武士の心がけでも、「武勇にすぐれた者と美少年は、自分こそは日本一だと大高慢でなければならない」と言ったすぐ後で「しかし、道を修行する一日一日のことでは、己の非を知ってこれを改める以外にはない。このように心の持ち方を分けて考えないと、埒があかない。」(Ⅰ148頁)と諫めてみたり。全体としては、意外に現実的な処世訓が並べられています。
 主君への絶対的な忠を説いているのに、養子の不忠者に意見するときには「お前の養父は長患いだというではないか。長いことではない。わずかの間の孝行だ、逆立ちしてでも容易なことであろう」と説得してみたり(Ⅰ57頁)。


 忍ぶ恋が最高で、生きて命がある中に自分の恋を打ち明けるのは深い恋ではない(Ⅰ148頁)なんて何度も言っているのに、「美少年」が出てくるように男色はうまくやれなんですね(Ⅰ113~117頁)。


 話のスタイルは、師の折々の話を羅列する形で、必ずしもまとまってはいません。論語みたいなスタイルです。
 たくさんあることもあって、矛盾を感じることもしばしば。「気に入らないことがあるといって、役目を断り、引退するなどということは、お家代々に仕えてきた家来として、主君を二の次に考えていることになり、謀反と同様だ。」(Ⅰ104頁)と言っていたのが、別のところでは、「何の理由もなく同僚の者に先を越されて、自分がその下位に立ったとき、それを少しも気にかけないで黙って奉公をつづけてゆく人もある。また、それを情けないことだと思って意見を申し立てて引退する人もある。どちらがよいかと聞かれると、それは時と場合によると言わなければなるまい。」(Ⅰ151頁)とか。

 葉隠自体は前書き(夜陰の閑談)+11巻で構成されていますが、3巻以降は鍋島藩の藩祖や先代の言行録とか言い伝えられたエピソードの羅列で、テーマごとの整理はされていません。3巻以降にも教訓となる話もありますが、そうとは思えない話が多いです。人生論として読むのは2巻までで、後は鍋島藩や葉隠の研究でもするつもりでなければ、読み通すのはかなりの苦痛を要します。
 人生論としてみても、上下のはっきりした縦社会での処世という観点では意味がありそうですが、主君の批判は表沙汰にしないということが繰り返し強調されていて、臭い物に蓋で組織を守るという方向に行きそうで、疑問ありです。

語り:山本常朝 編集:田代陣基
訳:奈良本辰也、駒敏郎
中公クラシックス 
Ⅰ:2006年6月10日発行 Ⅱ:2006年7月10日発行
原書は1716年
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すぐわかるヨーロッパ陶磁の見かた

2006-07-28 23:05:06 | 人文・社会科学系
 ヨーロッパの歴史的な工芸美術品としての陶磁器の写真付き解説です。
 私は絵は好きなんですが、これまで陶磁器はあんまり興味なかったんです。でも、こうやって眺めると陶磁器の絵や彫刻もいいもんですね。スペインとかドイツにとっても美しい陶磁器の伝統があるなんて知りませんでした。
 ゆったりと眺めるとリッチな気分に浸れます。

 実は、今日都庁の貸金業規制課でのクレサラ相談の担当だったんです。で、たまたま今日は相談者なしだったもので、そこで読んでいたんですが、都庁の職員が電話でヤミ金とやり合っている声をバックに読んだので、優雅な気分ではいられませんでしたけど・・・


大平雅巳 東京美術 2006年6月30日発行
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絵ときでわかる計測工学

2006-07-27 21:35:17 | 自然科学・工学系
 機械などの製作や運転に使うさまざまなデータの計測方法について紹介した本です。さまざまな測定器の基本原理としくみを図示しているので、入門書としてはとても便利です。たださまざまな方面に手を広げすぎて、それぞれの測定器の解説が簡単に過ぎるのが難点。具体的な測定のポイントとか測定器の扱い方とかも図を入れながらもう少し踏み込んで解説してもらえるともっとよかったのですが。


門田和雄 オーム社 2006年5月15日発行
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宇宙のみなしご

2006-07-27 09:02:16 | 小説
 グループに入らない中2の少女が、人気者の弟との秘密の遊びの延長で始めたささやかな冒険(夜中に他人のうちの屋根に登る)を通じて、グループの中で仲間はずれにされている少女、世紀末の大戦のために選ばれた戦士というオタク少年と交流しつつ成長するお話。
 お話は学園生活とそこから少しだけ逸脱したささやかな冒険の範囲で進んでいき、そのなかで自分のことしか見えなかった少女が友達のことを考えて行動するようになります。方向は若干の逸脱行動から社会ル-ルへの適応へと健全に向けられています。そのあたり、なんか文部省推薦とか付いちゃいそうな感じがしておもしろくなく思えるかも知れませんが、無難に暖かな気持ちになれる作品です。

 芥川賞・直木賞とも児童文学出身の作家が取ったことで、児童文学出身の作家がなぜ受けるかが話題になっています。
 私は、文学・小説に対するニーズが変わったのだと思います。本が貴重なもので、数少ない作品を何度も読むとか、1作品を人生の糧にするなんてことが求められた時代には、難しい作品にステイタスがあり、また難しくても買われたのだと思います。しかし、今は文学・小説も大量消費される娯楽の1つ。もちろん、今でも昔と同じニーズはあると思いますが、数としては娯楽のための読み流しが主流だと思います。私自身、学生の頃は高橋和巳とか柴田翔とか、重い暗いものを好んで読みましたが、社会人として大量に流し読みするようになると、基本的には読みやすくて前向きになれるものがいいと思うようになりました。児童文学では、当然に読みやすさが強く求められますし、ストーリーもあまりこねくり回さないことになります。そういう作品が、今のニーズに合っているのだと思います。


森絵都 
理論社(フォア文庫) 
2006年6月発行(講談社から1994年11月発行)
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オートフィクション

2006-07-25 01:17:23 | 小説
 タイトルは自伝(autobiography)とフィクションを合体した造語で、自伝的創作の意味だそうです(63頁)。
 むしろ日本の文壇では「私小説」が尊ばれてきたのですから、そういう趣向自体は保守本流とも言え、それを自伝的「創作」なんて断りを入れるのは、著者の逃げのようにも見えます(ひねくれ者の思考ですね。著者の倍年取ってますから・・・)。

 現在を示す22nd winter から 18th summer 、16th summer 、15th winter と遡っていきます。
 最初の22歳は、作家の設定、とぼけぶり+二重人格ぶりから、読んでて筒井康隆ふうのパロディかと思いましたが、18歳まで来て、なんだ、純文学してるんだと気づきました。

 傷つきやすくて、自分勝手で、自信がなくてパニクりやすくて、切れやすい、第三者としてはできれば関わりあいたくないイヤな女。でも内側から見ると切ない女。
 16歳の頃が一番強くてしたたかに読めるのは、15歳の頃と22歳の頃がむしろ近く思えるのは、著者の意図でしょうか、私の読み違いでしょうか。
 学生の頃に読んだら、たぶん、切なさを共有できたんでしょうけど、社会人の趣味の読書としては、疲れるなあと思ってしまいます。
 いわゆる放送禁止用語満載で、電車の中で読むの気恥ずかしかったし。


金原ひとみ 集英社 2006年7月10日発行

読売新聞は8月21日に書評掲載
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インドの歴史 ケンブリッジ版世界各国史

2006-07-23 18:50:41 | 人文・社会科学系
 ケンブリッジ大学出版の世界各国史シリーズのインド近代史。ムガール帝国時代からイギリス植民地時代、独立・国民会議派政権を経てBJP(インド大衆党)政権に至るまでをカバーしています。

 ケンブリッジ大学出版の企画です(書いたのはカリフォルニア大学の教授ですが)が、次のような注目すべき指摘をしています。
 イギリスによって植民地化される以前のインドでは、ヒンドゥーとムスリムは決して自意識過剰な宗派団体として対立していなかった。また、自給自足する村落、硬直したカースト制度、沈滞した国といったインドのイメージが生じたのは、インドがイギリスによって植民地化された後だった(47頁)。イギリスが植民とを統治する新たな法制度を作る際に、ヒンドゥーとムスリムは根本的に異なるというへースティングズ(東インド会社初代インド総督)の主張によって、さまざまな宗派や伝統・習慣が混在するインドの地域社会が、原典にもとづいて画一的にヒンドゥーとムスリムに大別されるようになった。さらに、これが契機となって、ヒンドゥーとムスリムの相違がインド社会の最も重要な特徴だという考え方が生まれ、のちのインド国民の帰属意識の形成に決定的な役割を果たすことになる(89頁)。
 1990年代のインドでヒンドゥーとムスリムの深刻な紛争が繰り広げられている原因はイギリス植民地時代の負の遺産(多様な社会的階層を対立させることによって統治しようとした植民地政策)から脱却できず自由主義的な政策が進まず改革が結局は行われなかったところに90年代になり経済の自由化(規制緩和)で国民の経済格差が拡大し、貧しい階級、貧しい地域の人々が激しい疎外感を抱いたことにある(378~384頁)。

 全体としては、イギリスのインド政庁の悪逆非道ぶりが詳しく書かれているわけではないですが、イギリスの犯した誤りについてきちんと指摘しているのは立派ですね。

 私としてはガンディーについても継続的に論じてほしかったのですが、ガンディーの伝記じゃないですからしかたないですね(ガンディーの伝記でも、間が飛んでいて重要な局面でガンディーが何をしていたかわからないことがままありますし)。


原題:A Concise History of INDIA
バーバラ・D・メトカーフ、トーマス・R・メトカーフ
訳:河野肇
創土社 2006年6月30日発行 (原書は2002年)
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出張の読書(7月21・22日)

2006-07-22 23:14:32 | Weblog
 21日は六ヶ所村の再処理工場の裁判で青森に日帰り出張。出張の日はふだんの細切れでは読めない分厚い本を持っていきます。今回はケンブリッジ版世界各国史シリーズの「インドの歴史」。私の好みとしては、インドの古代史を詳しい本を一度読んでみたいのですが、実はそういう本ってないんですね。この本もインド近代史ですが、イギリスの学者がガンジーやインド独立運動をどう評価しているかに関心があるので読もうと思いました。
 でも、やっぱり重い。時々うつらうつらしながら往復の移動時間で半分までは読みました。うちに帰ってから、ガンジーが出てくるところまでは読みましたが、残り3分の1はお預け。
 22日は、日弁連の主導で弁護士過疎対策で作っている公設事務所の関係で、私は新潟の公設事務所の支援委員なので、その支援委員会の会合で長岡まで日帰り出張。電車に乗ってからさて、「インドの歴史」の続きをと思ったら・・・あぁっーー「インドの歴史」を忘れてきました。で、行きに寄った図書館で仕入れた「高橋尚子 夢はきっとかなう」。めっちゃ軽い。新幹線が高崎を通過するあたりでもう読み終わり。続いて今日の第2候補に考えていた「海に眠る船 コロンブス大公開の謎」。長岡までに6分の1読みました。帰りは宴会で酔いつぶれて新幹線に乗ったので、読まずに寝てました。
 日曜日は「インドの歴史」かコロンブスか・・・どうしようかなあ。

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高橋尚子 夢はきっとかなう

2006-07-22 22:41:28 | 趣味の本・暇つぶし本
 高橋尚子のこれまでがごくコンパクトにまとめられた本。
 芽が出なかった中距離走者時代、小出監督への売り込み、リクルートの歓迎会で裸身にアルミホイルを巻いてオバキューを踊りその後Qちゃんと呼ばれるようになったエピソード、マラソンへの転向後の華々しい活躍、セビリアの世界選手権で体調を崩して棄権しシドニーへの切符が危ぶまれ名古屋国際でぶっちぎりで優勝してシドニーへの切符を手にしたこと、シドニーでの金メダル、ベルリンでの世界新、東京国際での失速とアテネ落選、チームQ結成と小出監督から独立、東京国際での復活という、いまどきのQチャンファンならだれでも知っているストーリーを語るための最小限のエピソードを拾ったQちゃん入門書です。
 それでも監督から何を言われても「ハイ」と答え「私は人形、私は人形」と呪文のように唱えていた(74頁)とか、鬼気迫る話もあります。
 でも、密着取材何年とかいうレポートではないですし、世間で知られている以上に踏み込んだ知識を得たいQちゃんファンには明らかに食い足りないと思います。内容的にも2005年11月の東京国際女子マラソンでの復活までですので、何で今頃になって出版するのかは不明。


黒井克行 学習研究社 2006年7月7日発行
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平日の読書(7月18・19・20日)

2006-07-21 21:10:45 | Weblog
 連休も終わり平日になると、選ぶ本が一転して薄くなります。そうしないと持ち運びがしんどいし、なかなか読み切れないですから。
 18日(火曜日)は、ほどけるとける。なんか昔のホームドラマ風の軽い小説。通勤・移動の電車の中と弁護士会館での依頼者との待ち合わせの待ち時間で半分読み終わり、ついでだから自宅で晩飯後に読み切りました。まだ時間があったので19日用にと思っていた死体は切なく語るも読み始めました。これが予想したより軽くて・・・寝る前に半分読んでしまいました。
 19日(水曜日)は、死体は切なく語るの残りは朝出勤前に読み切りました。で、アフリカの人を持って出勤。これは薄いけどなかなかはかどりません。通勤、新宿法律相談センターへの移動、新宿法律相談センターでの相談の合間の待ち時間、裁判所への移動、裁判と弁護士会の委員会の間30分の待ち時間、事務所への移動、帰宅をフルに使ってようやく読み切りました。読んだ本もけっこう重かったし、仕事もけっこう疲れたので、帰ってからは読書なし。
 20日(木曜日)は、殺してしまえば判らないを持って出勤、通勤と移動時間で3分の1くらい読みました。まあミステリーですから、読み始めたら読んでしまわないと気になるので、夜に読み切りました。
 21日からは出張ですから長いのに挑みます。

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