伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

古代インカ・アンデス不可思議大全

2022-03-31 20:40:12 | 人文・社会科学系
 古代インカ文明とそれ以前のプレインカのさまざまな文化について、さまざまな文献と現地の人から聞いた話を取り混ぜてまとめて紹介した本。
 インカ文明とスペインの征服者/略奪者によるその末路に至る解説がメインではありますが、私自身は、インカに惹かれてこの本を手にしたものの、これまでまったく知識がなかったプレインカの方に興味をそそられました。
 砂漠地帯で超乾燥環境のため、ミイラや木、布類が2000年以上前のものでもいい状態で残っているというのがすごい。で、最大で長さ20m、幅6mを超す織布が残っていたとか(46ページ)。いったいどうやって織ったのか(幅6mの織機なんて作れたのか…)、古代文明の技術水準の高さに驚きます。
 自然環境では、ナスカの地上絵が残っていた理由として土壌に含まれる石膏が夜海からくる霧で少し溶かされそれが朝の冷たい空気で固まって作った絵が固定される、小さなつむじ風が四六時中巻き起こって細かいごみを取ってくれるため絵の輪郭がクリアに保たれると解説していて(285ページ)、なるほどそういうものかと思いました。
 イラストが多用されて土器や壁画、織布のモチーフが多数紹介されています。これがユーモラスで、もっと見たいと思いました。モチェの土器ではエロな土器(肛門性交、多しって…87ページ)が有名だそうです。南アジアや東南アジアよりもさらにおおらかな文化だったのでしょうね。
 インカでは月蝕は月が病気で眠り込んだ姿と捉えられそのままでは落下して大地に激突するとあらゆる楽器をかき鳴らし大声で叫び犬を集めて棒で打ちすえて悲鳴を上げさせたとか(22ページ)。でも日蝕は何か悪いことをした者に天罰が下される印として特にイベントなしだとか(同)。風習はさまざまでところ変われば、ですね。


芝崎みゆき 草思社 2022年2月7日発行
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いまファンタジーにできること

2022-03-30 22:05:05 | エッセイ
 日本では「ゲド戦記」という邦題を付されて出版された EARTHSEA シリーズ等の作者がファンタジーについて行った講演、評論等をまとめた本。
 動物が登場する児童文学/ファンタジーについての評論「子どもの本の動物たち」が全体の半分近くを占め、そこでは多数の作品が取り上げられ紹介されています。
 他方で、裏表紙の紹介で「指輪物語、ピーターラビット、ドリトル先生物語、ゲド戦記から、ハリー・ポッターまで。ファンタジーや児童文学を読み解きながらその本質を明らかに」とされているのは、かなりミスリーディングというか、出版サイドの売らんかなの羊頭狗肉で、このうたい文句に惹かれて読むと失望すると思います。ドリトル先生物語は動物の本ですので「子どもの本の動物たち」の中で他の動物作品と同レベルで触れられており、「ゲド戦記」は「YA文学のヤングアダルト」で説明されていますが、指輪物語とピーターラビットは何度か登場はするものの内容の説明はなく(説明するまでもないということでしょう)、ハリー・ポッターについては、独創的で前例がないと激賞する評論家がいることについて「はっきり言えば紋切り型で、模倣的でさえある作品」を独創的な業績だと思い込むとはなんて無知で素養のないことかと嘆くのみ(51~52ページ)です。
 ル=グウィンらしいプライドとシニカルな筆致、白人を主人公とすることへの疑問と EARTHSEA 3部作の後の17年で得たフェミニズムの視点(3部作のときには「ジェンダーについて問いただす用意ができて」いなかったこと、17年のうちにフェミニズムの第2波が打ち寄せ、そこから学んだことを、ル=グウィン自身が「YA文学のヤングアダルト」で語っています)が全体に満ちていて、それらを楽しめる読者には読み味がいいエッセイ集だと思います。


アーシュラ・K・ル=グウィン 訳:谷垣暁美
河出文庫 2022年2月20日発行(単行本は2011年8月、原書は2009年)
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永遠についての証明

2022-03-29 21:27:33 | 小説
 数学的現象を「見る」ことができる「数覚」に恵まれた天才的数学者三ツ矢瞭司が見いだされて理系の名門大学の特別推薦生となり、そこで初めて得た仲間熊沢勇一、斎藤佐那とともに、小沼教授の指導を受けながら数学の難題に取り組み実績を上げるが、仲間が離れていく中で孤立感に苛まれ、その天才的直感的証明の不完全性を指摘されて苦闘し転落していくという展開の小説。
 才能をめぐる自覚と嫉妬、他人への説明の難しさ、理解を得ることへの渇望とそれが満たされない孤独感、挫折を知らない者の打たれ弱さなどがテーマになっています。
 後半、三ツ矢瞭司はアルコールの力により素粒子/塵が、数学的な理論が「見えてくる」というのですが、経験上、飲んでいるときや疲れているとき、深夜・明け方に、画期的なアイディアを思いついて高揚して書き散らしたものは、後で冷静になって読み返すと間違いや穴だらけということが多いと思います。そう思わずにそれを続けのめり込むというのはちょっと流れに無理があるんじゃないかと感じました。


岩井圭也 角川文庫 2022年1月25日発行(単行本は2018年8月)
野性時代フロンティア文学賞受賞作
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カウンセラーが悩み解決! SNSコミュニケーション

2022-03-28 22:31:58 | 実用書・ビジネス書
 SNSでのコミュニケーションの仕方、トラブルの回避・解決方法について、Facebook、Twitter、Instagram、LINEに分けてアドバイスする本。
 リアルのコミュニケーションを大切にして、SNSだけで完結/解決しようとせずに、電話やオンライン通話を取り入れて行くことを勧めています。「基本的に、SNSでは、心を打ち明けたり、相手に違う意見をぶつけたりは、すべきではないと思います」(27ページ)という言葉が象徴的です。
 「私はFacebookに投稿するときは、30分は時間を掛けています」(39ページ)って…慎重になる必要があるとは思いますが、そこまでは…まぁ、私も書きかけて、読み返して、やっぱりやめたって思うことは多い(結局書かずにやめることの方が多い)ですけど。
 著者の仕事がらなのか、毅然とした対応を勧めている点もわりとあります。「『死ね』『バカなんじゃないの?』などといった明らかな中傷が書き込まれた場合には、すぐにコメントを削除して、相手を『即ブロック』しましょう」(66ページ)とか、Facebookで「いいね」を押しただけで文句を言ってきて謝ってもなお「あなたは心のケアとかカウンセリングをやられているようですが、そんなことで大丈夫ですか?」と言ってきた輩に対して、これは捨てておけないと思い「お言葉ですが、私は子どもたちの性被害のケアに対して本気で取り組んでおります。私たちの活動のことをご存知ないのに、私のたった1つの『いいね』ボタンで、活動そのものを否定するのはやめていただけませんか。よろしくお願いいたします」と返事をしたというエピソードが書かれています(67~68ページ)。売られたけんかは買わなきゃ、ですかね。


浮世満理子 日本能率協会マネジメントセンター 2022年2月10日発行
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女警

2022-03-27 22:18:28 | 小説
 男社会の警察で6か月前に県警本部長となり「女性の視点を一層反映した県警プロジェクト」の推進を図る深沼ルミA県警本部長の引きで2か月前に監察室長に就任した姫川理代が、新人女警青崎小百合巡査が駅前交番で相勤の年野健警部補を射殺してその後拳銃自殺したという大スキャンダルの真相を探り、事件をめぐる警察内の力関係駆け引きに参加していくというミステリー仕立ての警察小説。
 ミステリーとしては、布石とその回収はたぶんきちんとなされているとは思いますが、第一感を懸命に否定するエピソードを作者が並べるのにしかしどうかなと疑いを持ち続けていたら結局第一感に戻るというのはとても後味が悪く、どんなに説明されてもやられた感がなく鮮やかさを感じません。
 作者が警察官出身(の覆面作家)というだけあって、警察の組織の体質とその中での力関係駆け引きの描写は迫真のものと感じられます。ただ前例のない他県警がやっていない/できていない政策を推進するということは、政策は予算の取り合い、優先順位決定の問題である以上、どこかにしわ寄せが行くのは当然のことで、終盤での姫川理代の動揺/憤激は主人公の理解の程度/底の浅さあるいは器の小ささを感じさせ、違和感がありました。
 女性の警察官の主人公の名前が姫川っていうの、どうなんでしょう。誉田哲也の姫川玲子シリーズに「敬意を表して」っていうことになるんでしょうか。どちらかというと仁義なき戦いのイメージを持ちましたが。


古野まほろ 角川文庫 2021年12月25日発行(単行本は2018年12月)
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親愛なるあなたへ

2022-03-26 20:57:53 | 小説
 中学生で苦もなく書いた小説が出版された引っ込み思案で自意識過剰な「いひひ」と笑うクセがある気持ち悪い少年柿沼春樹と、義母が死んで「フリーのグラフィックデザイナー」の義姉と2人暮らしになりながらアルバイトして稼ごうとさえせずに全面依存して平気な音楽で他人を感動させたいという高校生小倉雪を軸にした青春小説。
 好きなものを好きと言える、それがいいことでそれができる者が羨ましいというテーゼを掲げ、予定調和的に進行する前半から、ストーリーもキャラクター(人格)も破壊していく後半への展開は、ちょっと予想外でした。前半のまま最後まで行ったら退屈したとは思います。いずれの主人公も、周囲からは褒められ評価され持ち上げられているのですが、どうにも共感できないというかわがままぶりが鼻についてしまうので。と言って、こういう壊し方についていき、楽しめるかは、私には難しい感じがしました。この展開だったら、364ページかせめて371ページで終わる方が、さらにいうと後半は半分程度に圧縮してスピーディーにした方がよかったと思います。


カンザキイオリ 河出書房新社 2021年11月30日発行
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終恋

2022-03-25 23:34:15 | 小説
 看護師歴37年のバツ2の61歳小鳥遊志津恵が、45年前の高校生時代からの元彼相原徹也から逢いたいというメールを受け、逡巡しつつも再会しドキドキしながら不倫関係を始める老いらくの恋小説。
 年月を経ての再会で、自分が元彼との過去を美化して記憶を書き換えていたことを認識する経緯は、う~ん、そうだよねと思わせられます。歳をとって丸くなっていることもあり、昔の傷や嫌だったところも、今なら許せるというか、それほど気にならなくなっているということはありそうですが。
 そうは言っても、旧交を温めるのなら笑っていられるけれども、都合のいい女として不倫関係を続けられるかは、どうだろうと思う。たいていの小説では、過去の相手から受けた仕打ちをくっきり思い出したところで思いとどまるのではないか。60歳を超えた主人公を、分別のある者、執着を持たなくなった者、枯れた者として描くのではなく、その寂しさ、開き直り、あるいは人間そんな簡単には悟れないよと描いてみたというところでしょうか。


高生椰子 幻冬舎 2021年12月1日発行
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権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか

2022-03-24 21:05:14 | 人文・社会科学系
 菅首相による学術会議任命拒否問題と新型コロナウィルス感染症対策での専門家会議の位置づけを契機に、政権・官僚と専門家の関係について論じた本。
 大まかには、官僚機構が外部の専門家の知識と専門家に諮ったという外形を利用して政策を進めてきた(原子力問題では官僚には巨大技術を扱う能力・知識がなく原子力ムラに翻弄されたと評価:222ページ等)が、第2次安倍政権に象徴的にみられるような新自由主義政策(小さな政府志向で官僚が扱う領域が減少)の下で官僚の士気が下がり、官邸に人事権を掌握されて官僚が官邸にすり寄り、さらに政権が正規の審議会等を無視して「有識者会議」を駆使して思い通りの意見を出させるようになってきていることを説明しています。著者の怒りは、そういった政治・官僚の思惑にすり寄る専門家の側の浅ましさにも向けられているのですが、全体としては経緯の説明が多くを占めています。
 新型コロナウィルス感染症対策関係では、安倍首相の突然の公立学校一斉閉鎖の「お願い」、菅首相の重傷者以外は自宅療養を原則とする(事実上見捨てる)という方針決定が、専門家会議に事前に諮られずになされたことについて、政権は何のために専門家会議を設けたのか、専門家会議は事後であれなぜ専門家としての意見を表明しないのかと論難しています(158~162ページ等)。まさにそのとおりだと思います。
 司法制度改革では、法科大学院についての大学側の「バスに乗り遅れるな」とばかりの設置フィーバーのすさまじさ、日頃教壇で正義、社会的平等、公正、人権といった価値を強調していたはずの法学者たちが「法科大学院がなければ大学の格に係わる」といった発言をすることはどこで整合するのかなどを厳しく批判しています(201~206ページ等)。法学部の学者さんからロースクール問題での大学側の問題点について自分より厳しい意見を聞くとは思いませんでした。著者の批判精神に敬服します。


新藤宗幸 朝日選書 2021年12月25日発行
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ヨーロッパ・コーリング・リターンズ

2022-03-23 22:45:02 | エッセイ
 イギリス南端の街ブライトンに居住する著者が、主としてイギリスの政治、経済政策、福祉・医療・教育政策がイギリス社会の庶民層・底辺層に及ぼしている影響についてレポートした文章を取りまとめて出版したもの。
 2016年に「ヨーロッパ・コーリング」(岩波書店)として出版されたYahoo!ニュース掲載記事に、その後執筆した2021年までのコラム等を追加したものだそうです。性質上古くなると価値が下がる時評類はそのまま文庫化するわけにも行かなかったのでしょうけど、別の本として売りながら前の本と同じ文章を多数掲載されると、多数の同じ曲が入ったアルバムを量産するミュージシャンをみるような気持ちがします。
 基本的に堅めのテーマではありますが、文章が短めで読みやすく、傾向としていえば福祉・教育の充実を求め、そのための予算を削減して底辺層をいじめる保守党の緊縮政策(象徴的にはサッチャー)を批判するものが多く、日本でいえば安倍・菅とか維新とか大嫌いな読者には耳に心地よい読み物です。
 グローバル経済を批判し自給自足経済を求める主張(民族派のみならず緑派にも例えば「これってホントにエコなの?」(2022年3月10日の記事で紹介)でも重視されている視点です)に対して、経済の自給自足が進めばもっともダメージを負うのは貧しい国々だ、経済の自給自足という概念は自助の概念によく似ている、自給自足や自助は本質的にそうする力のある強者の弁なのだとするコメント(418~419ページ)にハッとさせられました。


ブレイディみかこ 岩波現代文庫 2021年11月12日発行
 
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黄色い夏の日

2022-03-22 22:08:48 | 小説
 美術部の宿題でスケッチの題材にするために以前見かけてお気に入りだった古い家を覗き込んでいたらその住人が祖母の入院時の同室者であったことから中に案内され、そこで同年代の美少女と出会って夢中になり何かと口実を作ってその家に通うようになった中1の藤原景介と、その景介の様子に不審感を持ち心穏やかでいられず景介の後をつける景介の幼なじみの平田晶子の視点で描く青春不思議経験小説。
 冒頭から一応「謎」が提示され、まぁ大方幻想に行くのか、霊に行くのかという予想はつくのですが、そういう展開からして何か合理的に納得できる説明はもともと期待できないところではあるのですが、「どうして?」部分はやはり結局よくわかりません。そのあたりは、不思議な体験を味わうでいいじゃない、昔話・民話の類いはそういうもんでしょと流せるかどうか、でしょうね。


高楼方子 福音館書店 2021年9月10日発行
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