伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

甘い薬害(上下)

2008-02-29 21:34:06 | 小説
 謎のフィクサーの誘いに乗り民事の法廷経験もないのに欠陥薬品の集団訴訟で大儲けし、あっという間に金満弁護士となり、欠陥薬品の集団訴訟に邁進した若手弁護士の欲望と良心の痛み、栄光と末路を描いた小説。
 短期間の金儲けをもくろんで裁判外の和解で処理するため、法廷シーンはほとんどなく、リーガルサスペンスというよりは弁護士業界ものと位置づけられそう。序盤に少し法廷シーンが出てきて、久しぶりの法廷ものかと期待しましたが、そこは肩すかし。まあ、舞台設定がグリシャムの地元のミシシッピ州ではなくてワシントンですから(アメリカは州毎に法律が違うから)法廷シーンを書き込むのは無理がありますしね。
 作品の雰囲気としては、「路上の弁護士」と「原告側弁護人(レインメーカー)」を組み合わせた感じでしょうか。
 集団訴訟弁護士を金儲けの亡者のように描き、他方頑固一徹の有能な被害者側弁護士を性格悪く描いた上で負けさせたりするのは、司法と弁護士業界に失望しているのでしょうか。それともグリシャムが大企業寄りのメンタリティを持つようになったのでしょうか。
 「自然な日本語をめざして」いると書かれている「超訳」ですが、どうも私には日本語としても引っかかりが多くて内容と字数のわりには時間がかかった感じです。
 長らくグリシャム作品の翻訳が止まっていてここに来て立て続けに出版された(大統領特赦・最後の陪審員:新潮文庫、甘い薬害:アカデミー出版、無実:ゴマブックス)経緯は知りませんが、様々な社から続けて出るのはグリシャムファンにはうれしいやら混乱するやら・・・


原題:THE KING OF TORTS
ジョン・グリシャム 訳:天馬龍行
アカデミー出版 2008年2月20日発行 (原書は2003年)
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少女たちの性はなぜ空虚になったか

2008-02-27 06:38:58 | ノンフィクション
 女性の性意識の変化をテーマにしつつ、どちらかといえばそれよりも1970年代以降のメディア、サブカルチャーの傾向を軽くレビューした本。
 タイトルの疑問については、処女神話自体が日本では近年のもので底が浅い、80年代以降メディアでの性のタブーが減少した(MOREレポート、ananのsexシリーズ等)、バブル崩壊後女の商品価値が下がりセックスの価値も引きづられて下がった、出会い系ツールで垣根が下がったというようなあたりのことなんでしょうけど、回答としてははっきりしません。
 メディアの流れは書かれているけど、論としてはあんまりスッキリしない感じ。著者が私とほぼ同い年なもので、著者のメディア経験は同時代史的にはよくわかるのですが。


高崎真規子 NHK出版生活人新書 2008年1月10日発行
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東京タワー オカンとボク、時々、オトン

2008-02-26 09:11:25 | 小説
 九州の斜陽の街で母親の女手一つで貧しくとも特に不自由することなく育てられながら東京で自堕落な生活を重ねギャンブルや酒に溺れて知人や母親に金を無心する放蕩息子が、癌を患った母親を東京に呼び寄せ看取るまでの小説。
 苦労しているはずなのに明るい母親と負い目を感じるボク、節目節目に現れるずっと別居の父親の関係と思いを描いた作品です。
 時折はさまれるコミカルな文章とほろりとさせるエピソードが巧い。ベストセラーとなったのもうなずけます。
 私の年齢の問題もあり、前半は親の目で読んでこのバカ息子がと思い、主人公の年が自分に近づいてくると主人公の目で読んでしまうのが、少し情けなかったのですが。
 節目節目で「五月にある人は言った」というフレーズと言葉の引用が置かれ、何度も繰り返されるので、ここまでやればラストかその近辺にそのある人が絡んだ仕組みが用意されているだろうと思って読み進めたのですが、それがないので、特に悪いラストとは思わないのですが、不満足感が残りました。


リリー・フランキー 扶桑社 2005年6月30日発行
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死ぬ前に読め!新宿歌舞伎町で10000人を救った生きるための知恵

2008-02-24 09:08:14 | エッセイ
 歌舞伎町救護センターを開いている著者の5年間の相談経験からの人生論。
 タイトルもすごいですが、著者の自負もすごい。前書きから「私と直接出会った人間には必ず救いが訪れる。それは、この5年間の相談者10000人が一人も欠けずに救われたことが証明している。」(4頁)ですもんね。こういう発言って宗教団体くらいしかできないですね・・・って著者は僧侶か。なるほど。
 それはさておき、書かれていることは面白いし含蓄があります。DV夫は、自分自身が弱いからさらに弱い立場の人間に向かう(30頁)、DVを防ぐには最初の暴力を絶対に容認しないことが大切だ(36頁)、喧嘩に強いのは相手に徹底した恐怖を植え付けることができる奴(44頁)、喧嘩を売られそうになったらぶつぶつ独り言をいうかへらへらわけもなく笑えばいい(48頁)、どんなに周りが大騒ぎしても本人に立ち直る意思がない場合は立ち直ることなんかできるわけがない(116頁)とか。
 どうしても死にたいのなら誰にも迷惑をかけずに死ね、体にダイナマイトを付けてヤクザの事務所で自爆でもすればいい、世の中に迷惑を掛けているヤツを道連れにして死ね(80~81頁)って・・・さすがに弁護士にはできないアドヴァイスです。


玄秀盛 ぶんか社 2007年12月20日発行
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日本人はなぜシュートを打たないのか?

2008-02-23 09:17:11 | 人文・社会科学系
 著者のドイツでのサッカー経験をベースに論じたサッカー論。
 攻撃の目的はシュートを打つこと(結果としてのゴールは偶然性が高い)、守備の目的は相手からボールを奪い返すこと(失点を防ぐというのは受け身の結果に過ぎない)という整理は、いわれてみれば当然ですが、納得できます。
 勝負はボールのないところで決まる、攻撃ではクリエイティブな無駄走り(スペースへの走り込みによりパスを引きだし、ディフェンダーを引きつけ、新たなスペースを作るなど、走り続けることで相手を崩しチャンスを作っていく)、守備ではボールを持つ相手へのチェイス&チェック(プレッシング)と周囲の連動(パスコースを切る、レシーバーへのプレス、インターセプト、カウンターの準備など)などを主体的に考えて実行していくことが大事。全く同感です。日本代表のサッカーを見ていて、タイトルにあるような「どうしてそこでシュートを打たないんだよ!」と思うことが多いのはもちろんですが、私はそれよりも攻撃の時に「どうして2人目、3人目が走り込んでこないんだよ」「誰もこぼれ球を狙いに行かないのはなぜなんだ」と思い、攻撃でも守備でも「何、歩いてんだ」と思うことの方が多いんです。
 シュートを打たないのは個人主義が根付いていない日本人の心性としても、組織サッカーというなら組織のために献身的にスペースへの走り込みや相手へのプレッシングをやってもよさそうなのに、それもさほどではないのはなぜ?と思っていました。自分こそシュートを決めてやるといういい意味での利己性が出せないのに、確実にパスをもらえるときでないと走り込まない、走り込まなくても自分の足元にパスが欲しいという利己性は出すわけです。でもこの本を読んで、どちらも共通して、失敗を恐れずリスクを取って積極的に主体的にアクションを起こして行こうという心性の欠落によるものと理解しました。


湯浅健二 アスキー新書 2007年7月25日発行
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もっと知りたいゴッホ 生涯と作品

2008-02-22 08:27:23 | 人文・社会科学系
 ゴッホの解説本。
 牧師の息子として生まれたお坊ちゃんでありながら学業も仕事も続かず絵も売れず貧しく暮らし弟の仕送りに頼って作画を続けた生涯、なぜか浮世絵で知る日本を理想化して憧れ続け南仏を日本と同視してユートピアを夢見たアルル時代、ゴーガンとの諍いと耳切事件、精神病院への入院などが紹介されています。
 牧師の息子で伝道師になり損ねたことからくる教会へのアンビバレントな気持ちが、作品の中での教会の描き方にも反映しているようですね。そのあたりは初めて知りました。
 ゴッホは黄色と青が印象的ですが、そのシンボルとしては私はアルル時代の「夜のカフェテラス」が気に入っています。独特のゴッホのうねりはないのですが。


圀府寺司 東京美術 2007年12月25日発行
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クリムトとウィーン

2008-02-22 07:48:08 | 人文・社会科学系
 グスタフ・クリムトの解説本。
 19世紀末のウィーンの状況や、クリムトが工芸美術学校からスタートしたこと、それが徹底したデッサンと工芸品のような作品の素地となっていること、若くして新ブルグ劇場の天井画や美術史美術館の階段の間の装飾画で名声を得たこと、多数の女性との間で多くの子をなしたことなど、作品そのものよりも人生とその周辺のエピソードの方に重きを置いた感じです。
 今回の本では、有名な金ぴか模様の肖像画よりも、また幻想的な絵よりも、壁画の方に惹かれました。特に初期の美術史美術館の装飾画の写実性と歴史的なモチーフの巧みさにはビックリ。これで名声を博したのはうなずけます。こっちの方を大写しにした画集も見てみたいなと思いました。
 でも、私には、クリムトの絵がなぜ19世紀末ウィーンで誕生したかより、なぜ最近受けているのかの方を分析して欲しい気がします。


木島俊介 六耀社 2007年12月5日発行
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ロッカショ 2万4000年後の地球へのメッセージ

2008-02-21 21:58:06 | 人文・社会科学系
 私たちの世代には元YMOのと紹介すべき坂本龍一の呼びかけに共鳴したアーティストたちが六ヶ所村核燃料再処理工場に反対するメッセージをつづった本。
 前半はロック・アーティストSUGIZOによるインタビュー構成、後半は様々な人の語り。様々な立場からの反核燃の声を集めている本なのですが、スマートで格好いい。アーティストの声が多いだけに、何気ない語りが印象深い。
 これまで、ヨーロッパでは人気歌手が反戦歌をヒットさせたりすることがよくあるのに日本ではそういうことがないのを残念に思っていました。そのあたり、電力会社はメディアの大きなクライアントでレコード会社も関わっていたりする(37頁)なんてことも語られています。しかし、「それを超えるのは実は簡単なんだ、というのを見せてあげられればいい」(37頁)「『坂本が平気なんだから、僕も』というふうな流れをね」(38頁)というのがすがすがしい。


STOP-ROKKASHOプロジェクト 講談社 2007年12月18日発行
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ナンシー・アンドリアセン 心を探る脳科学

2008-02-20 08:04:30 | 自然科学・工学系
 脳の画像(CTスキャン、MRI等)を用いて統合失調症や脳と心の仕組みを研究する脳科学者を紹介する番組をブックレット化したもの。
 MRI技術の進展によって生きた人間の脳の活動を観察できるようになり、それを用いて様々な行動時に脳のどの部分が活性化しているかの脳地図(ブレーンマッピング)を作成することでアルツハイマーや統合失調症の治療に役立てて行くというのがその研究です。アルツハイマーも統合失調症も脳の変化/脳組織の一部喪失によるものとされ、化学物質(薬)による治療と予防が語られています。
 アンドリアセン博士の話で注目されるのは、この種の研究をしていると、特定の細胞や遺伝子や化学物質の働きで全てが決定されるという方向に行きがちなのですが、脳には驚くべき柔軟性があり自らよりよく修正することができる(69頁)、「わたしたちは遺伝子によって決定されているのではなく、常に環境を受けとめ変化している」「健康でより幸せになる選択をすることもできるし、一方で悪い選択をすることもある」(73頁)ことを強調していることです。ただそのことは抽象的に言われているだけで具体例が挙がらないのが残念。そこをもう少し敷衍して欲しかったのですが。


ナンシー・アンドリアセン+吉成真由美 NHK出版 2007年11月25日発行
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やってはいけない!会計・税務50の落とし穴 個人事業者編

2008-02-19 21:28:21 | 実用書・ビジネス書
 個人事業者の会計処理、税務申告などについて、やってはいけないことややったら損することを挙げて、各項目について「やってはいけない!」「なぜ、だめなのか?」「こうしよう!」の3段階で解説した本。
 本の書き方として、各項目を3段階で解説する手法は、考えとしてはメリハリがついてよさそうですが、読んでみると説明がダブることが少なくないのと、各項目の中で数パターン紹介しているので流れが悪い感じ。1パターンずつその中で段階を踏んで説明した方が読みやすいかも。
 説明項目は、通常の個人事業者からサラリーマンの軽い副業レベル、さらには個人事業と関係なさそうな話までいろいろで、対象業種もあれこれなので、実務用として読むには散漫。
 他業種の説明で弁護士については「税法以外の法律上のトラブルに巻き込まれたとき」「税理士・弁護士・社長の3者で、じっくりと話し合いをしてトラブルの解決に尽力します」「いざというときだけに相談する存在でありたいと思います」(150頁)って・・・弁護士に対する競争意識がありあり(税法の分野には弁護士は出てくるな、税法以外でも税理士は社長のパートナー、いざというとき以外は弁護士は出てくるな;まぁ私は税法関係やる気ないし、会社の側で仕事する気もないからどうでもいいけど)。それにしても税理士さんって「税法以外の法律上のトラブル」の時にも出てくるんでしょうか。


林卓也 ソフトバンククリエイティブ 2007年12月20日発行
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