伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

怪物の木こり

2022-12-31 19:16:34 | 小説
 脳内にマイクロチップを埋め込んで人の感情や記憶を制御できる技術であるが倫理上の問題から使用が禁じられている「脳チップ」を埋め込まれているサイコパスの殺人鬼弁護士二宮彰が、鋭い牙と大きな耳の生えた怪物のマスクをかぶり手斧で攻撃してきた襲撃者に襲われて逃げ切った後復讐を決意し、他方で頭蓋骨を割られて脳を持ち去られた死体が次々と見つかって「脳泥棒」と呼ばれることとなった連続殺人犯を警察が追うというミステリー小説。
 プロローグと二宮サイドの展開で、読者には警察がたどり着けない犯人の狙いが序盤から察せられ、警察の動きをじれったく思い、またそこに一定の優越感を持たせるという手法なのかと思いますが、結局のところ、犯人が狙い犯行を遂げて行く過程はわかるもののなぜ連続殺人に至ったかという動機は今ひとつ説得力を感じず、そこに消化不良が残る感じがしました。
 傲慢で冷酷、平然と嘘をつき良心が咎めないという二宮の設定、作者はきっと弁護士が嫌いなんでしょうね。世間から弁護士がこういうふうに見られているのかも、と考えておくべきかもしれませんが。
 脳内にマイクロチップを埋め込んで人の感情や記憶を制御する技術が2000年にはすでに開発され実験が進んでいたという設定は、私が知らないだけかもしれませんが、不気味な、あるいは挑発的なものに見えます(カズオ・イシグロが「わたしを離さないで」で臓器移植のためのクローン人間の作成管理を過去の時制で描いていたように)。


倉井眉介 宝島社文庫 2020年2月20日発行(単行本は2019年1月)
2018年このミステリーがすごい!大賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辞めない社員の育て方

2022-12-30 22:05:09 | 実用書・ビジネス書
 千葉県内の公立小学校の教員・教頭・校長を務め、定年後大学で講義を持っている著者が、自らの教育実践等の経験に基づいて教育について論じた本。
 著者の経験に基づいて、小学生あるいは学生がやる気になる、生き生きと参加する授業の工夫であったり、校長等の経験によるリーダーのあり方などを述べているところは、実践的で説得力があると思いますが、それがタイトルの「辞めない社員」にどうつながるのか、そこに持っていく部分はちょっと観念的になり無理に言ってる感もあります。著者自身が3回辞表を書いた(あとがきにかえて:157~175ページ)というのですから、自分の実践が辞めない社員の育て方なんだと言われても説得力がありません。
 タイトルは気にせずに、後半の不登校の小学生たちを集めて富士登山をする試み(138~141ページ)とか、校庭に人力の伝統技法(上総掘り)で井戸を掘ってビオトープを作る試み(142~151ページ)などを読むのが、楽しげでありまた爽快感もあってよさそうです。


大久保俊輝 時事通信社 2022年11月24日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本の気候変動5000万年史 四季のある気候はいかにして誕生したのか

2022-12-29 23:54:37 | 自然科学・工学系
 植物化石の分析研究等から推定される5000万年前以降の日本の気候の変動とその原因となったできごと等を解説した本。
 5000万年という超長期のスパンで見ると、活発な火山活動等によって現在よりも約10℃気温が高かった約5000万円前から長期的には寒冷化が続き、現在は間氷期の温暖状態であること、他方で産業革命以降の温暖化は極めて急速なものであることが説明され、私が子どもの頃に聞かされていた寒冷化の話と現在言われている温暖化の話が頭の中で整理された気持ちになりました。
 日本の気候が緯度のわりに温暖で雨が多く日本海側では雪が降る(雪が多い)ことは、強い暖流の黒潮が近海を通り、その支流の対馬海流が日本海を流れること、日本海が存在して高い山があるためにシベリア高気圧からの冬季モンスーンが大量の水蒸気をはらんで日本アルプス等に吹き込んで大雪となるというような地理的条件があるためであること、かつては日本は大陸の一部であったがそれがマグマのリフティング等によって次第に移動して島となり日本海が形成されたこと、黒潮が日本近海を流れるようになったのはインド亜大陸の移動に伴う1700万年前頃のインドネシアの地形変動(ボルネオ島の回転等)によりそれまではインド洋に抜けていた赤道付近の海流が北上するようになったためであること、寒冷化の原因は、約4000万年前に南極大陸がオーストラリアや南アメリカと完全に離れたために南極周極流ができて暖流が流れ込まなくなって氷床に覆われたこと、約450万年前にパナマ海峡が閉鎖された(パナマ地峡がつながった)ためにメキシコ湾流がヨーロッパまで流れて大量の水蒸気を運びそれが偏西風によってヨーロッパ北部・シベリアに雨や雪を降らせてその真水が北極海に流れ込んだために北極海が凍結するようになったこと(パナマ仮説)などが説明されています。気候が地形に左右されること、大いなる自然の不思議に気付かされました(風が吹けば桶屋が儲かる的な印象もありますが)。


佐野貴司、矢部淳、齋藤めぐみ 講談社ブルーバックス 2022年9月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

住民課のシゴト ver.2

2022-12-28 23:26:13 | 実用書・ビジネス書
 市区町村役場内で住民と接する機会が多く役所の顔とも言うべき部署である住民課に配属された地方公務員向けにその業務内容を解説した本。
 弁護士業務上は、戸籍と附票、住民票の取り寄せが必要になることが多いのですが、個人情報保護の要請というか風潮から、さまざまな制約が課されるようになり、特に住民基本台帳業務は「自治事務」とされて各市区町村役場の裁量が大きい(36ページ、38ページ)ため独自の対応をされることが増えています。破産者から金を巻き上げた相手に返還請求するためにその相手の住民票を破産管財人として請求したら拒否する自治体があって驚きました。通常の弁護士としての職務上請求(事件依頼の遂行のための請求)なら出すが、破産管財人は破産者の依頼によるものではないから拒否するというのです。何が根拠だと聞いても、市としての判断ですと言い張られ、裁判所(破産部)の調査嘱託で取りましたが、こういうの、どうにかして欲しい。
 2022年1月11日以降は、戸籍の附票は、本籍と筆頭者氏名を省略して交付するようになったとか(89ページ)。戸籍の附票は、実際上は先に戸籍(謄抄本)自体を取らないと取れない(請求書の記載事項がわからないため)ので、意味はないですが、いろいろうるさいことが増える傾向ですね。2014年6月20日以降に消除された住民票(除票)と戸籍附票(の除票)は保存期間がかつて5年だったのが150年(!)になり、5年経過した後も取れるようになった(77~78ページ)というのはありがたいですが。


住民窓口研究会編著 ぎょうせい 2022年9月20日発行(初版は2018年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方

2022-12-27 22:57:44 | エッセイ
 ブラジルのサンパウロ大学病院等で緩和ケア医として働く著者が、自分が緩和ケア医となった経緯や死生観、人生観等についてTED(ちょい悪のテディベアの映画ではない。念のため)で行った講演を取りまとめて出版した本。
 講演集なので、全体を貫くストーリーはありませんし、首尾一貫したものともいいがたいところがあります。講演集だということが最後の訳者解説にしか書かれていないので、前から順に素直に読んでいると、次第に何なんだこれは、と訝しく思えてきます。タイトルや最初の方の記述から、緩和ケア医としての臨床経験から緩和ケアのあり方や末期癌患者たちの現実の姿が書かれているのだろうと思ったのですが、後半は概ね、より抽象的・観念的な哲学が語られているように見えます。
 緩和ケア医として、「私の役目は、ただそこにいること」といい(81ページ)、患者について「少しでも死を意識すると、時間の感覚は大きく変わります」「死に直面したとたん、人は自分のことを即座に理解し、行動を起こせるようになります」(72~73ページ)とか、そこに「いる」ことの大切さ(86ページ)というのは、哲学的でありつつも臨床的にも見えます。しかしSNSで暴力や偏見を煽ってる人は「生ける死者」(82ページ)とかは、当否は別として、緩和ケア医としての経験に関係ない意見でしょう。
 著者によれば、よく生きるための最も簡単な秘訣は、感情を表す、もっと友人と過ごす、自分を幸せにする、自分のための選択をする、人生に意味をなすために働き、仕事を目的にしないことの5つを心がけることだそうです。心の欲するところに従えども矩を踰えずと行ければよいのでしょうけれども…


原題:A MORTE E UM DIA QUE VALE A PENA VIVER ( Death Is a Day Worth Living )
アナ・アランチス 訳:鈴木由紀子
飛鳥新社 2022年8月8日発行(原書は2016年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伝わる短文のつくり方 「言語化のロジック」が身につく教科書

2022-12-26 21:18:56 | 実用書・ビジネス書
 コピーライターの心得のようなことを比較的短い文章とイラストで語った本。
 商品を買ってもらうための宣伝でのキャッチコピー作成を念頭に置いたもので、短文の作成、考えを短文で表すこと一般を扱ったものではなく、またキャッチコピー作成に関しても作成のテクニックに触れるところはごくわずか(104ページと138ページのコラム2つくらい)である上に、それもありきたりで、そうかそうすればいいのかと思うようなものではありません。
 「言語化のロジック」が身につくというのも「教科書」というのも、しっくりこない感じです。
 コピーライターになるには、あるいはキャッチコピーを考えるには、こういうことも考えておいた方がいいねというくらいの読み物という位置づけかと思います。

 私のFacebookページ(https://www.facebook.com/profile.php?id=100088819815220)を作るにあたって、この本も念頭に置きつつ、キャッチコピー案を考えてみました。
1.会社と闘うとき、思い出してください
2.会社と闘いたいときがある
3.闘う準備、できてます
4.それは解決できない悩みですか
5.この紛争、どう解決したいですか
6.納得できないとき、闘いますか、諦めますか
まわりの意見を聞き、いろいろ考えた末、4にしました。
「伝わる」でしょうか…


OCHABI Institute 株式会社ビー・エヌ・エヌ 2022年9月15日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人

2022-12-25 23:40:15 | 小説
 自然堂紙パルプ商会という会社から独立して取引先と見込んだ出版社の社屋に近い西新宿に「渡部紙鑑定事務所」を名乗って事務所を構えたがその会社も移転してしまい、紙納品の仕事を探して外回り営業に明け暮れていた渡部圭が、「神探偵」と誤解した若い女性から同居中のカレシが作っている模型のジオラマをヒントに浮気調査を依頼され、その調査から派生して受けた別のジオラマの調査から失踪調査と殺人事件に巻き込まれて行くというミステリー小説。
 主人公の渡部圭の仕事は、ごく普通に考えて、紙類専門商社というべきもので、「紙鑑定」は商売にならないし、このミステリーでの調査にもほとんど役立ちません。余談・世間話的に紙についての蘊蓄が語られ、それ自体は興味深く読めますし、この作品の売りであろうとは思うのですが、主人公に「紙鑑定士」を名乗らせるのも、タイトルにそれを付けるのも場違いだと思います。タイトルは版元のマーケティング戦略によるところが大きいと作者が言い訳していることが解説で紹介されています(363ページ)が、作品の設定で「渡部紙鑑定事務所」「紙鑑定士」の名刺を持たせている(9ページ)のですから、出版社のせいとも言えないでしょう。
 なぜか次々ヒントが知らされるのを慌ただしく追っていく、例えばダン・ブラウンのラングドン教授シリーズのようなことを紙オタクと模型オタクがやる、みたいな印象です。
 前半から主人公の心情面で登場する(23ページ等)真理子と、主人公の真理子との関係も、後半に真理子が実際に登場すると、微笑ましくはありますが、前半でイメージさせたのとは違う感じです(読者の期待・予想とは異なっていると思います)。
 それらも含めて、ちょっと落ち着かない感じが残りました。


歌田年 宝島社文庫 2021年2月18日発行(単行本は2020年1月)
2019年このミステリーがすごい!大賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

図解即戦力 SNS担当者の実務と知識がこれ1冊でしっかりわかる教科書

2022-12-24 23:59:46 | 実用書・ビジネス書
 企業・事業者が自社の広報・認知度拡大・優良顧客の育成・顧客ニーズの把握等のためにSNSを利用する際の担当者が知っておくべきことなどを解説した本。
 SNSを個人利用している側からは見えにくい、SNSを利用している企業ができること(入手できる個人情報とその利用法など)、企業側が考えていることなどが読めて、そういうこともあるのかと勉強になりました。
 Facebookページ(普通のアカウントとは違う基本は企業用のもの)って、自由に無料で作れるんですね。LINEの公式アカウントも(認証済みアカウントにするためには審査が必要で、それはそれなりに厳しそうですが)。
 私もFacebookページ、作ってみました(↓)。
https://www.facebook.com/profile.php?id=100088819815220

 ところで…炎上に対する法的措置の検討のところで、「一般的には、被害を受けた証拠を揃えて裁判所で告訴の手続きをしなければ、警察による捜査が始まりません」(120~121ページ)って…告訴は捜査機関(警察か検察)に対してするもので(刑事訴訟法第241条)、裁判所に告訴しても受け付けてくれません。SNS担当者は投稿に際して法務部門のチェックを受けろと書いている(70~71ページ)のに、本を書くときには法務部門のチェックを受けないのか、まさか野村総研の法務部門は告訴先さえ知らないのか…


広瀬安彦 技術評論社 2022年9月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フリーランス&個人事業主のための確定申告[改訂第17版]

2022-12-23 22:36:49 | 実用書・ビジネス書
 個人事業主のための会計と確定申告の基礎的な知識を説明し、青色申告や法人化のメリット等を解説した本。
 自分で確定申告をしている身には、すでにしていることの確認ですが、法人化のメリットで、同じ収入で個人事業主のままの場合と法人化して利益を全額給料としてもらったときの税額の違い(実質は事業所得への課税と給与所得への課税の違い)を数字にされると、個人事業主がいかに虐げられ搾取されているか、言い換えれば給与所得者がいかに優遇されているかを改めて感じます。給与所得者には給与所得者が損して個人事業者が得しているという妄想を持っている人が多いですが、それは所得を隠せる、つまり不正(脱税)をすればということで、正直に申告している個人事業者には給与所得者の優遇ぶりは垂涎の的です。年間所得400万円で法人化して利益を給料としてもらう方が税金が安くなり、所得1000万円だと54万円、1600万円だと100万円の差が出るそうです(225ページ)。
 必要経費の費目(勘定科目)の説明で、名刺や年賀状も広告宣伝費と書かれていて(230ページ)、そうなんだと思いました。私は名刺は消耗品費、年賀状は通信費にしているのですが。もっとも、巻末付録の一覧表では、名刺作成費は消耗品費(事務用品費)とされていますけど(254ページ)。この巻末付録の「勘定科目と控除の早見表」で、出張での食事代が旅費交通費とされています(244ページ、245ページ)。出張しなくても食事はするので、私は、依頼者に請求したことも、またそれを経費として申告したこともありませんが、それ、経費にしていいんだ? さらに大きな驚きは、出張日当も旅費交通費にされていること(244ページ)。いや、個人事業主の出張日当って、払う方じゃなくてもらう方でしょ。この一覧表でも配当とかの支払を受けたのは「所得」になっています。もし個人事業主が従業員に出張させてその従業員に日当払う場合を言っているのなら費目は当然給料賃金ですしね。大丈夫か、これ?と思ってしまいました。
 経費の偏りがあると税務署にチェックされる可能性が高くなるので高額になる費目は一部を抜き出して自分で別の費目を作れ(インターネットサイトに払う情報利用料は通信費ではなく新聞図書費とか諸会費にする、オフィス用品は消耗品費とは別に事務用品費を作る等:230ページ、232ページ、235ページ)というのは実務的な助言なのでしょうけど、そういうもんなんですかねぇ(姑息な感じがする)。


山本宏監修 技術評論社 2022年10月6日発行(初版は2007年1月10日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女の敵には向かない職業

2022-12-22 21:24:16 | 小説
 田舎町の勤務先の会社が倒産して失業し女性誌に投稿した漫画が「努力賞」に入って付いた担当編集者に東京で住み込みのアルバイト先がないかと頼み込んでいたところに中学の頃から憧れていたファンタジー系マンガ家の篠宮香蓮のアシスタントが辞めたといわれてアシスタントになった30過ぎの葛城彩華が、仕事場で上から目線で口を出してくる香蓮の双子の弟でマンガ家の神薙志門と対立しながら過ごすうちに、篠宮香蓮のボツ原稿が個人売買のサイトに流出し、激高して犯人捜しをする神薙に疑われ、SNSで情報が拡散し暴走するファンによるとみられる事件に巻き込まれ…という展開のサスペンス仕立ての小説。
 神薙は、才能があり根強いファン層を持つ双子の姉香蓮を羨み、優位に立とうとし、また香蓮を利用して自分を売り込もうとするなど、実力不足なのにそれを自覚せず偉ぶる器の小さい勘違い男と描かれていますが、自分の才能を過信し真剣に努力せずにいる勘違い系としては葛城も似たようなものに、私には見えます。神薙の欠点は、マンガ家としてということではなくて人間としての欠点で、それを「女の敵」というレッテルを貼ったり、ましてやマンガ家としての欠点ということでもないのに「向かない職業」というタイトルのセンスは、疑問に思えました。

 
水生大海 光文社 2022年10月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする