伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

すごい片づけ

2020-09-30 00:42:02 | エッセイ
 片付けについての心がけを述べる本。
 冒頭に掲げられている「あなたが片づけられない、たったひとつの理由とは……?ズバリ!片づけたくないからです。」(17ページ)、これは至言だと思います。潜在意識のレベルで片づけたくないと思っていれば、いつまでも片づけられないし、いったん片づけてもすぐにリバウンドする。それはなるほどなと思います。
 しかし、この本でなるほどと思うのはそこまでで、あとは神社や日本の伝統になぞらえた精神論、例えば片付いていない家には貧乏神や疫病神がやってくる(71ページ)などの脅しや、著者の好みの押しつけ、例えば「トイレのフタを開けっぱなしにしておくと、折角の福の神のエネルギーが逃げていく」「トイレに人工的な香りを置くのは、あまりおススメできません」(159ページ)とか、運気、エネルギー、パワーとか、語呂合わせを駆使した、例えば「拭く」は「福」に通じる(75ページ)などの根拠もなく内容に乏しい語りが続けられます。この種の話に感心できる人(まぁこれだけ根拠のないことをもっともらしく自信を持って断言できるのは一つの才能と言えるでしょうけど)にはいいのでしょうが、私には苦痛に思える本でした。「仕事で使うデスクの上の空白のスペースと、仕事の能力は比例します。」(196ページ)というのが、耳が痛かったためかも知れませんけど。


はづき虹映 河出文庫 2018年10月20日発行(単行本は2014年10月)
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ふたりぐらし

2020-09-29 01:44:40 | 小説
 定収がなく脚本を書いて応募するが採用されずにいる元映画技師の信好と35歳の看護師紗弓の夫婦の日常、親との付き合い、仕事上のできごとなどを描いた短編連作。
 赤貧というはどではないものの、定収入がなく妻に食わしてもらっていることを引け目に感じ、発泡酒を1日に2本とは贅沢なと思い、老いた母にへそくりで鰻をおごってもらったことを後ろめたく思い妻には言えない信好と、貧しさの中で慎ましく暮らしながらもささやかな幸せを見いだし夫の周囲にいる特に男女関係にあるわけでもない女の存在に嫉妬を露わにしつつけなげに夫に愛情を寄せる紗弓の姿は、微笑ましく切ない。信好の隠し事や紗弓の嫉妬が、互いに相手に悪いという思いに通じ、結局は相手に対する愛情を深めいたわりに向かうというあたりが、しみじみといいなぁと思います。
 先行きの見えない時代にあって、自分自身ももう高齢者と呼ばれる歳になってきた零細自営業者なので、貧しさに圧迫され将来に不安を持つ信好と紗弓の暮らしぶりは、他人事には見えませんが、その中でも仲睦まじく生きる2人の姿には、力づけられます。
 久しぶりに、いいものを読ませてもらったなと思いました。


桜木紫乃 新潮社 2018年7月30日発行
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未来からの脱出

2020-09-27 00:03:08 | 物語・ファンタジー・SF
 食事や本、映画、スポーツ中継等の娯楽は提供され、職員が入居者の健康状態を把握して対応してくれるが、職員は日本語を話さず入居者からのコミュニケーションは取れず、ソフトに管理されて外出はできない施設に入居している脚力の弱った老人サブロウが、自分が入居した経緯等についてどうしても思い出せず、他の入居者も同様であることに疑問を感じて、職員の目をかいくぐって脱出を試みるという展開の小説。
 入居に至る経緯の記憶がなく、脱出方法についてのヒントのような印や道具が自分の身近に隠されていることをめぐっての検討や推理を重ねる前半は、ある種のミステリーになっていて、楽しく読めます。
 他方で、施設に関する謎の部分というか、世界の設定は、ちょっと大がかりに過ぎる(だからSFと位置づけたのですが)ように思えますし、論理を弄んでいる感じで、私には読み味を悪くしているように感じられました。
 「未来からの脱出」というタイトルは、主人公が「未来から」脱出しようとしているとは読めませんし、脱出しようとしているとすれば今ある未来から別の未来へということでしょうから行こうとする先もまた「未来」なわけで、この作品の内容にはそぐわないと思いました。


小林泰三 角川書店 2020年8月26日発行
「カドブンノベル」連載
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カエルの小指

2020-09-26 23:05:00 | 小説
 詐欺師から足を洗って口先の巧さを活かし実演販売士として稼働する武沢竹夫の前に現れたキョウと名乗る中学生が、不幸な境遇を語り責任を取れと言って、武沢から実演販売を習ってビデオを撮り「発掘!天才キッズ」という番組に出演し…という計画を話して武沢に協力を迫るという展開のサスペンス小説。
 冒頭で、武沢らが墓の前で、死者に謝りもう一回だけ派手な詐欺をやらせてくれと話すシーンがあり、プロローグ的な位置づけなので、当然どこかで説明があるだろうと思っていたら、最後までその墓で眠る死者と武沢が詐欺師から足を洗った経緯の説明はありませんでした。そういうことならそうなのだろうと思って調べたら、「カラスの親指」という作品の続編なのだそうな。サブタイトルが「 a murder of crows 」(カラスの群れ)なので気がつけということなのでしょうけど。
 ちょっと子どもができすぎ・頑張りすぎの感はありますが、よくひねられた展開が楽しめる作品です。


道尾秀介 講談社 2019年10月23日発行
「メフィスト」連載
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アタラクシア

2020-09-25 23:03:24 | 小説
 盗作疑惑からなかなか立ち直れずにいるラノベ作家水島桂と婚姻しているがパリ時代の知人のシェフ蓜島瑛人と不倫中の元モデルのライター由衣、浮気を繰り返す夫拓馬が帰らぬ家で同居する母に苛立ち口汚く罵りながら反抗的になってきた息子信吾と暮らし雇い主の蓜島や同僚にもとげとげしく接するパティシエの藤岡英美、人気が落ちて酔って荒れるギタリスト俊輔と婚姻しているが同僚の荒木とのセックスにいそしむ由衣の担当編集者佐倉真奈美、ホストのヒロムにいいようにあしらわれながら援交に励む由衣の妹枝里らの思い、気まぐれ、怒り、戸惑い、恋愛、セックスなどを描いた群像劇。
 由衣と瑛人の甘いラブアフェアを描いた冒頭から、自分のことを棚に上げてひたすら周囲を恨み罵る英美の落差で驚かせ(不愉快でもありますが)、周囲の人物へと話を拡げ、誰もがひねてどこか異常な感性・感情の壊れたところがあり、また意外に寛容で純朴なところも見せという形に落とし込んで行く展開の手際のよさに、最終的には感心しました。


金原ひとみ 集英社 2019年5月30日発行
「すばる」連載
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判例に学ぶ婚姻を継続し難い重大な事由

2020-09-23 00:34:05 | 実用書・ビジネス書
 離婚訴訟の大半で争点となる民法第770条第1項第5号の離婚事由「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の解釈について判例を検討し解説する本。
 前半では民法の規定や解釈上の論点についての沿革や判例の推移、学説等を解説しています。学説を並べないと違う考えとの利害得失が議論しにくいということはあるのかもしれませんが、実務的には、あるいは特に裁判業界関係者以外の読者にとっては、そこは省いて判例の推移と現在の裁判実務の主流の考え方の説明に集中した方が読みやすくわかりやすくなるのではないかと思います。
 後半は、判決の紹介です。弁護士の立場で読むには、もう少し事案の事情の説明があった方がいいように思えますが、他方で、通して読むことを考えると、1つ1つの判決の紹介の長さとしてはこれくらいが望ましいとも思えます。各判決紹介の最後に「キーポイント」というコメントがあり、判決紹介で触れられていない事案の事情や判決の考慮事項についての指摘があり、助かります(本当は、その部分に関する判決文の引用や事実関係の具体的な紹介の方が、弁護士にとっては助かるのですが、あまりに長くなるとか、判決文ではそこがうまく書かれていないとかの事情があるのでしょう)。
 必ずしも明確でない、また判決により裁判官により揺れ動く部分がある「婚姻を継続し難い重大な事由」の理解に有用な本だと思います。もっとも、読みやすくする配慮は見られるものの、裁判業界関係者以外の読者が読み通せるかどうかは疑問ではありますが。


本橋美智子 日本加除出版 2020年7月9日発行
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歴史を変えた100の大発見 生物 生命の謎に迫る旅

2020-09-22 00:34:04 | 自然科学・工学系
 生物学上のテーマや歴史上のできごと・学説から100のキーワード・ことがらを選んで、1項目最大でも見開き2ページでイラストや写真付きで説明する本。
 ヴィジュアルで説明がシンプルでとっつきやすくはなっているのですが、生物学の歴史という観点から、かつては信じられていたが現在では誤りと考えられている現在一般人にはあまり知られていない学説が少なからず紹介されているのが、一面では興味深いのですが、読者の目からは必要のないことにページを割きすぎという印象を持たれかねません。シリーズタイトルの「歴史を変えた100の大発見」(原書でもそういうシリーズタイトルのようです)からすれば、ふつうの読者は、現在の科学/生物学につながっている真実の発見が紹介されているという期待を持って読むと思うのですが、その点ではタイトルにフィットしていない、生物学の歴史の専門家のマニアックさ/自己満足を優先させた本とも言えます。
 そういう観点から、テーマについての説明よりも学者/研究者に焦点が当てられることが少なくなくて、ウィルスを発見しウィルス学の創始者の1人とされるマルティヌス・ベイエリンクは、ウィルスの発見に加えて窒素固定(ある種の細菌が気体中の窒素を取り込んで植物が使用できるようにする)も発見したが風変わりな人物で同僚からも感じが悪いと評価されていてノーベル賞を受賞できなかった(67ページ)とか、DNAの二重らせん構造の解明を決定づけたX線回折を実施したロザリンド・フランクリンは業績を認められる前に死にその上司がノーベル賞を受賞した(90ページ)などが勉強になりました。


原題:BIOLOGY An Illustrated History of Life Science (series PONDERABLES 100 Discoveries That Changed History)
トム・ジャクソン編 監訳:山野井貴浩、訳:日髙翼、菅野治虫
丸善出版 2019年11月20日発行(原書は2017年)
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ある晴れた日に、墓じまい

2020-09-20 00:35:05 | 小説
 44歳のバツイチで古書店「時書房」を経営する赤石正美が、乳がんが発見されて右乳房切除手術を受け抗がん剤治療を受けることになったのを契機に、子もおらず墓守をする者もいなくなるので無縁墓になる前に墓じまいをしようと決意し、頑固者の父やジコチュウの兄らと摩擦を起こしつつ、墓じまいを進めるという小説。
 墓じまいをどう進めていくかという、現実的な話のうんちくもあり、それはそれで勉強になりますが、そこを掘り下げている作品でもなく、私には、どちらかと言えば、零細自営業者があまり儲からない事業をどう維持し、体力がなくなってきたときに力仕事や雑務をどうこなしていくかという悩みの方に、やはり歳をとってきた零細自営業者として共感してしまいました。


堀川アサコ 角川文庫 2020年8月25日発行
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逃亡小説集

2020-09-19 22:07:08 | 小説
 市役所での対応にいらだって市役所の駐車場を出てすぐ一方通行を間違って逆走し警察官に見つかって質問されるうちに嫌気がさしてそのまま車を発進させて逃亡した男の思いを描く「逃げろ九州男児」、高校生男子とその中学のときの担任女性教師の交際と逃避行を交換日記を通じて描いた「逃げろ純愛」、大麻使用疑惑を受けて逃走中の元アイドル歌手とそれをドッキリカメラと誤信し続ける元アイドルの大ファンだった山奥の温泉宿経営者のドタバタを描く「逃げろお嬢さん」、行方をくらませた日本郵便の下請け会社の運転手のゆくえと失踪の動機を追う「逃げろミスター・ポストマン」の4編からなる短編集。
 これら4編の中では、2者の視点が交錯する「逃げろ純愛」が、微笑ましい内容と相まってよい読み味を出していると思いました。
 逃げろ九州男児で、主人公の叔父が死亡した交通事故についての「裁判」が話題になっています。「被告人が」と言っている(46ページ)のですから、刑事裁判だと思うのですが(民事裁判なら訴えられた人は被告人ではなく、被告です)、「頼りにしていた弁護士は」「裁判のやり直しには腰が重い」(47ページ)とされています。刑事裁判なら被告人に有利な判決(被害者に不本意な判決)が出たときに控訴するのは検察官であって、弁護士が控訴をするというわけではありません。主人公のいらだちの原因となる市役所の対応が詳しく書かれないのも、人間が些細なことで暴走するその性を書きたいのかも知れませんが、こういう粗さがあると、ただ雑に書いてるんじゃないかというふうに読めてしまいます。「逃げろお嬢さん」のいかにものりピーの事件を使った安易さ加減も続けて読むことになるわけですし。


吉田修一 角川書店2019年10月4日発行
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京アニ事件

2020-09-10 20:31:19 | ノンフィクション
 アニメーション研究家の著者が、京アニ事件からしばらくの自分のマスコミ対応、他の評論家の対応、アニメ界における京都アニメーションの独自性、過去の事件でアニメ(アニメファン:オタク)が受けてきた理不尽な扱いとの比較、被害者実名報道の是非、国内外からの多額の寄付への驚き等について説明し論じた本。
 事件そのものについては、報道を超える情報はありません。タイトルから、事件そのものについて調査して書かれていると期待すると、不満が残ります。事件に対するマスコミ等の対応を論じ、事件を契機としてアニメ界、京都アニメーションの社会における位置づけを語る本として読むべきでしょう。
 京都アニメーションについては、丁寧な仕事と高いクオリティ、従来のアニメファンの好みを外さない可愛らしい造形のヒロインを数多く登場させつつアニメの新しい楽しみ方を提供し人気を拡大してきた、非正規雇用・業務委託(フリーランス)の過酷な労働に依存する業界の中で京都アニメーションは正社員雇用で福利厚生も充実していたなどと持ち上げています。求人情報では期間1年の契約社員雇用で正社員登用ありとされている(122ページ)のが、実際どの程度正社員として登用されるのか、本当にきちんとした労働条件が確保されているのか、それならなぜに事件前から「秘密主義」で社内のことは表に出さない(58ページ、120ページ)のか、疑問に思えますが。


津堅信之 平凡社新書 2020年7月15日発行
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