伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ハタラクオトメ

2012-02-29 22:49:28 | 小説
 斜陽の腕時計メーカーに勤める入社5年体重100キロの食いしん坊OL「ごっつぁん」こと北島真也子が、取締役の思いつきでやらされた女性だけのプロジェクトに次第にのめり込んでいき、新商品企画を実現すべく奮闘する会社員小説。
 少し斜に構えていたOLたちとか、近所の中学生とかが、ひょんなことから1つのことに熱心になり、生き甲斐や達成感を感じるという、読みやすくもあり読後感もいいパターンの展開ではあります。
 ただ、ごっつぁんもその祖母も料理が得意で、文句をいわずにというキャラというか行動パターンの設定、全体として無茶で身勝手な上司たちに逆らわず相手を立てて企画を通したりというの、基本的には現在の企業社会の文化をまるごと肯定した上での長いものには巻かれろの処世術だし、それを「日経ビジネスAssocie」に連載となると、社畜養成講座に思えてしまう。
 「風邪を引いて、すっごい咳をしているくせに、マスクをしないヤツらーそういうヤツらは、他人がどうなってもいいと思ってるんだよね。なんで、菌を平気でばらまけるんだろう。射殺したっていいよね?」「電車の中で携帯電話で話すヤツの家を、燃やしてもいいでしょ」「ホームで濡れた傘を何回も何回も振って、水切りするヤツは、その水滴が他人にかかることなんかどうでもいいんだ。傘が濡れていることがそんなに気にくわないなら、ドライヤーを持ち歩けばいい。そんなヤツ、セメント抱かせて、海に捨ててもいいよね」という近所の中学生明希(将来は弁護士になりたいんだそうな・・・)。最後は友達思いで明るい面を見せる、ある種お約束の展開ですが、キャラとしては最初のひねたままの方がおもしろかったなぁ。


桂望実 幻冬舎 2011年3月30日発行
「日経ビジネスAssocie」2009年4月21日号~2010年10月5日号
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シーカー、シーカー2

2012-02-24 22:28:48 | 物語・ファンタジー・SF
 クィディッチの伝説の英雄の物語、ではない(すでに世の中は、こういうジョークが通じるほどハリー・ポッターの記憶をとどめていないとは思うが)。
 辺境の町に生まれた青年が、幼なじみを殺した邪神への復讐のために修行を重ね迷宮都市のダンジョンでモンスターと闘い経験値を積んでいくRPGファンタジー。
 特性が「天才」という驚異的な才能と学習能力を持つ主人公が、若くして信じがたいほど高度の戦闘能力を獲得していき、まわりには美女が群がり次々と肉体関係を求められていく、あまりにも男の妄想満開で読んでいて気恥ずかしくなる展開。戦闘場面も、ある意味で理屈っぽく、しかし全然あり得ない荒唐無稽なもので、なじめない読者には過剰な言葉の羅列に感じられます。最初からアニメでやってくれた方がよさそう。
 主人公が無限に強くなり続けるのを、見境のない女好きと運勢が最低ランクの点で少し緩さを感じさせるあたりのバランスで読ませてる感じがします。最初から信じられないくらい強い主人公をどこまで強くしてそのバランスを保てるかが、続編の関心というところでしょうか。


安部飛翔 アルファポリス
1巻 2011年8月8日発行
2巻 2011年12月1日発行
コメント (2)
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ゴダールと女たち

2012-02-04 20:44:50 | エッセイ
 映画監督ジャン=リュック・ゴダールの足跡を、ゴダールの長編デビューにあたってその霊感の源泉となったアメリカ人ジーン・セバーグ、60年代中期にその画面を飾った2番目の妻であるデンマーク人アンナ・カリーナ、革命の時代をともに過ごした3番目の妻でロシア貴族の末裔アンヌ・ヴィアゼムスキー、70年代以降のフェミニズムと家庭の政治への志向に影響を与えた4番目の妻のスイス人アンヌ=マリ・ミエヴィルの、正統的なフランス性から逸脱した血筋の4人の女性を通じて描くという構想のエッセイ。
 40年余をともに過ごしたアンヌ=マリ・ミエヴィルについては、互いに映画製作を通じて影響し合う様が描かれていますが、それ以外は、女性・女優を通じてゴダールを描くというよりは、ゴダールと関わったことを切り口として、女優の行く末を描くことの方に力が入っている感じがします。
 女房に逃げられるというのも一種の才能という評価(6ページ、216ページ)は、芸術家であればこそでしょうけど・・・うーん、そうかもしれない。
 実は内容よりも、「岡崎京子と1990年代の思い出に」という献辞と第1章・第2章の岡崎京子のイラストに誘い込まれて手にしてしまい、ホロリとしてしまいました。


四方田犬彦 講談社現代新書 2011年8月20日発行
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あやしい統計フィールドガイド

2012-02-01 08:21:49 | 人文・社会科学系
 メディアで報じられる疑わしい統計の評価方法について論じた本。
 基本的には、人口統計などの基本的な数字を自分の頭に入れておき、あり得ない数字を洗い出す、社会的なことを議論する統計数字を聞いてそんなひどいことになっているとは思ってもみなかったというときは統計数字に嘘がないか疑ってみるべきというような、一種の常識をベースに誤った統計の生まれ方を紹介しています。
 悪意がなくても小数点の打ち間違いをしているかもしれない、メディアはそういうことをチェックできていないかもしれない。その統計は誰が作成したのか、その数字によって利益を受ける者が作成したのではないか。対象の定義はどうなっているか、広い定義を取れば当然数字は大きくなるし、定義が変更されることによって実態は変わっていなくても急増したことにされる場合もある。ある問題が注目されることでそれまで申告されなかったことが多く申告されることになって急速に蔓延したと扱われることもある。といった基本的な説明が続き、ある意味で当然のことですが、頭の整理にはなります。
 鳥インフルエンザで初期に東南アジアで治療を受けた人の50%が死亡したという話から死亡率50%という数字が一人歩きしたが、東南アジアの貧困層で病院に入院するのは最後の手段で大部分の人は感染しても入院することなく回復していたという可能性が見過ごされていた(118ページ)とか、1990年から2003年までに主要な医学雑誌に掲載された論文のうち特定の治療法が有効であることを述べ1000回以上他の論文で引用された論文は45本あったが、後の研究により7本は間違いであることがわかり7本は間違いではなくても言い過ぎであることがわかった(146~147ページ)など、医学・科学領域のものでも驚くべき発見は結局間違いであることも少なくないという指摘は、肝に銘じておきたいところです。


原題:Stat-Spotting
ジョエル・ベスト 訳:林大
白揚社 2011年12月20日発行 (原書は2008年)
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