伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

純情エレジー

2010-01-29 23:55:12 | 小説
 婚姻外で割と簡単にHしちゃう女と寄り添う男のまっすぐに幸せになれない関係を描いた短編恋愛小説集。
 2年あまりのうちの短編を集めたもので、2話目の「あなたを沈める海」と6話目の「避行」が同じ話の女側からの語りと男側からの語りで対になっている他は関連はありません。
 強いて共通点を挙げると、女が割と簡単にHしちゃう都合のいい女なんだけど、女の方もそれを楽しんでいて男の方もドライに利用するのではなく切なく思っていて、まっすぐな幸せには向かえないけど、しかし不幸というわけでもなく、どこか切ない思いが残るといった感じでしょうか。
 セックスシーンは多いんですが、官能小説というよりは、恋愛小説というか胸の方で感じる読み物だと思います。


豊島ミホ 新潮社 2009年3月20日発行
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だむかん

2010-01-29 19:46:23 | 小説
 豪雨・洪水の際に緊急放水してダムを守るために長期間宿直勤務するダム管理事務所の労働者の鬱屈とプロ意識などを描いた小説。
 緊急時のために必要ではあるが日常的には業務がなく無駄飯食いと低く見られる労働者たち、ダム管理事務所をオジ捨て山と軽蔑し勤務時間中も遊んでいる役立たずと見る本部の職員たち、ダム管理事務所を廃止するわけにはいかないがコスト削減のために労働者を減らしたい電力会社幹部の関係を描きながら、本部から派遣された職員がダム管理事務所ではお荷物になり次第に考えを変えていき、洪水の場面では力を合わせてようやく対処する姿を描くことで、効率重視のトレンドの中で削減されていく保安労働の意味を考えさせるようになっています。
 豪雨の際の放水を1999年の玄倉川ダム水難事故をモデルにして書いていて、そこは水死したキャンパーのわがまま・自己責任というマスコミ側、そして電力会社側の視点だけで書かれています。多数の人が死んだ事故をダム管理事務所の業務を正当化して死者を非難するために使うことには後味の悪さを感じました。この作品のテーマからは現実の事故をモデルとして書く必要もなかったように思えるのですが。


柄澤昌幸 筑摩書房 2009年12月10日発行
太宰治賞
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明日、アリゼの浜辺で

2010-01-28 22:11:57 | 小説
 地道に会社勤めを続けたが退職勧奨を受ける山口彰男、大学時代司法試験受験サークルの希望の星だった先輩と結婚寸前までいったがドロップアウトした彼に失望し銀行に勤めて別の男と結婚した木戸文枝、軽薄なケータイ小説家に弄ばれつつあきらめられない愛子、ニューカレドニアで友人と共同出資でダイビングショップを開く仁多俊夫、怒鳴り散らしながらも有能な脚本家を世に出したいプロデューサーの倉木丈彦らが、交錯しながら織りなす群像劇。
 目次から短編集とは見えず、最後には書き下ろしと書いているのに、第2話を読む頃には短編連作かと思い、第3話を読み始めると登場人物の関連さえ断ちきられて短編連作でさえなく「ニューカレドニア」がキーワードとなる短編集かと思い、話が違うじゃないかとぶん投げたくなりました。しかし、第4話でこれまでの登場人物がニューカレドニアに集合し始め、最後には1つの話としてまとまります。そういうの、巧みというべきなんでしょうけど、通しの主人公がおらずメインストーリーがない群像劇なので、まぁ収まるところに収まったなという程度の感慨しか持てませんでした。
 ニューカレドニアは爽やかでのんびりして気持ちいいぞ、ウジウジしないでやりたいことやろうよって、そういうテーマは読み取れますが。


秦建日子 新潮社 2009年12月20日発行
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かけら

2010-01-27 19:52:47 | 小説
 日頃父親と関わらず関心もない大学生の娘が意に反して父親と2人で日帰りバス旅行をするハメになりその機会に父親を見直し親しみを感じるという表題作、婚約者と結婚話を勧めながら別れた後も同じマンションに住み続ける元カノをことあるごとに思い出して婚約者と比べる未練男の後ろ髪話の「欅の部屋」、沖縄から東京の大学の下見に来た従妹に馴染めず苛立つ自分と馴染む夫の距離感を描く「山猫」の3つを並べた短編集。
 3編とも身近な人間関係の間合いや違和感を、特段の事件も大きな展開もなく淡々と描いています。
 口数も少なくお人好しで男としての魅力を感じさせない父親が、何となく邪険にされていた娘から見直されるという表題作は、川端康成文学賞の最年少受賞作だとか。あまり華を感じさせない作品ですが、選考委員が娘に見直されたい父親たちで、テーマがその琴線に触れたとかいうことじゃ、ないんでしょうねぇ。


青山七恵 新潮社 2009年9月30日発行
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永遠のかけら

2010-01-26 21:47:09 | 小説
 大学の同級生だった男杉生とルームシェアしながら杉生の親戚の未知子のところで家事手伝いのバイトを始めた24歳女希之果が、かつて仲良かった2歳年上の従兄晃の残像を追い求めつつ、何人かの恋人と付き合ってみたものの強く好きと感じられず、杉生とも微妙な距離感を保ちながら、人を好きになるとは・・・と模索する青春小説。
 恋多き母と妻子ある男との間に生まれ祖母の元で育ち、その後も奔放に生きる母とは馴染めず、近くにいながら母と別居して暮らす希之果。仲のよかった従兄に自らキスしつつ相手がその先へ進もうとしたところで逃げた経験とその後その従兄が年上の女と駆け落ちして消えたショックが尾を引き、従兄へのこだわりと「本当の」愛への憧れと渇望を持つ希之果。そういう設定の主人公が、自分は人を強く好きになることができないと感じ、信じ、思いこみつつ、シングルマザーとなる道を選びながら相手に愛されたかったのに愛されなかったというコンプレックスから乳児に愛を注ぐよりも自分が愛されることを求めそれがかなわないことに苛立つ未知子を間近に見、その未知子が乳児とのコミュニケーションを経て変わっていく姿を見て、自分がこもってしまった心の殻を溶かしてゆく、そういう流れがメインテーマになっています。
 人を好きになるとはどういうことかを、繰り返し問いつつ、その結果として希之果自身が変わることで先が見えるような、あるいはラブストーリーの結果自体はどうとでもなるような、そういうラストに爽やかさを感じました。


高瀬ちひろ 講談社 2009年8月29日発行
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追憶の雨の日々

2010-01-25 21:40:15 | 小説
 29歳司法書士の川村祐司が、上司から紹介されたコールガールクラブを利用した際に派遣されてきた中学の同窓生平野佳織と再会し、それを機に佳織は祐司のマンションに転がり込み、中学生の頃の延長のように同棲生活が始まるが・・・という設定の青春小説。
 仕事に停滞感・倦怠感を覚える祐司と、その中身は語られないものの当然に辛い過去を背負ってきたはずの佳織が、楽しかった中学生時代の続きのようにままごとのような同棲生活を続けるその喜び微笑ましい日々の描写が続きます。作者は私より6つ年下で40代半ばにさしかかったところ。中年になると幼い頃や青春時代をともに過ごした人とまったりと過ごす時間に安らぎを感じ、またそれに憧れを感じます。そういうニーズに乗っかった作品かなと思いますが、中年おじさんとしてはそれでも注文通りにスムーズに入り込んでしまいます。登場人物の設定には29歳でノスタルジーに浸らせるかなという思いもありますが。
 小説としては、最初から結末をほのめかし続け、その結果として結末がどうなるかではなく、佳織の過去がいつ明らかになりいつ2人の甘い同棲に破局が訪れるかに関心が向いてしまいます。それを終わり間際まで先送りし続けるのは、ノスタルジーに浸る中年読者層へのサービスかなとまで感じてしまいましたが、結局佳織の過去は明らかにされないままに結末を迎えます。う~ん、これだけ引っ張った挙げ句にこうなると、結局巧い設定を考えつかなかったのかなと感じてしまいます。
 ただ、最初から破滅の匂いを漂わせ、予定された破局を迎えるのは、幸せだった青春時代に帰り着けるなんて思うのはしょせん夢だよ、幻想だよというメッセージなのでしょう。小説を読み終えたら、待っているのは、変わらぬ現実。でも、祐司にとっては、実は都合のいい結末だったんじゃないの、だからこそ今ノスタルジーとともに振り返ってられるんじゃ・・・とも読めますけどね。


浅倉卓弥 宝島社 2009年8月21日発行
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外務省ハレンチ物語

2010-01-25 20:47:41 | 小説
 元外務省主任分析官が小説形式で、外遊でハメを外した国会議員の事件もみ消しや外務省職員の下半身スキャンダルや「報償費」を使っての私的な飲み食いや不正蓄財、重要人物の弱みを握るためのソ連・ロシアの情報部や外務省の活動などを解説した本。
 ノンフィクションではないと断ってはあるものの、いかにも見え見えの仮名の上に、念を押すように誰がモデルかくどいくらいほのめかしています。さすが「アサ芸」連載といったところでしょうか。
 「アサ芸」連載のためでしょうけど、内容的には、下半身ネタが中心で、外交官が研修生や家事補充員の女性を職権濫用したり飲酒酩酊させてお手つきにする描写はかなりえぐい。そのあたりと不正蓄財の手口が、力を入れて書いてある感じで興味深いですが、私はどちらかというと外務省も含めた情報機関が政治家や新聞記者の弱みを握り意のままに動かすための陰謀の方に関心を持ちました。
 書き下ろしの3本目がエピソードがダブってちょっとネタ詰まりかなとも感じますが、読み物としては大変楽しく読めました。仕事がら、訴訟対策は大丈夫かいと思ってしまいますが。


佐藤優 徳間書店 2009年3月31日発行
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ハリウッドスター、撮影開始!

2010-01-24 19:25:57 | 小説
 「転校生は、ハリウッドスター」(2010年1月23日の記事で紹介)の続編。
 前作のラストで大物監督の新作映画への出演が決まったケイトリンですが、その映画にかつてケイトリンを売名に利用して振った元彼のドルーが共演し、さらにはまたしてもライバルのスカイも出演することになり、大混乱。その3人と周囲の人々の思惑が交錯してストーリーが展開していきます。
 ライバルのスカイがケイトリンを攻撃し続けるのは前作通りですが、これに売名の思惑からか強引によりを戻そうとするドルー、映画の宣伝のためにケイトリンとドルーの熱愛報道を流させようとする宣伝部長の指示が加わってケイトリンの恋人オースティンが心をかき乱され、板挟みになったケイトリンが悩みもだえるというパターンです。前作では、スカイとローリ以外は基本的にいい人という設定でしたが、今回は打算的で強引なドルー、利益第一の宣伝部長など、読者の反感を買う登場人物が増え、ちょっといらつくシーンが増えます。それでも基本は前作同様の軽いテイストを味わうのが正解でしょう。
 パターンが決まっているところに新しい登場人物を入れてかき乱すというおなじみのパターンで、流れから想定される続編でも同様の新たな登場人物が予告されています。原書はこれまでに4巻まで出ているそうですが、そういうパターンで続きそうです。


原題:Secrets of My Hollywood Life : on Location
ジェン・キャロニタ 訳:灰島かり、松村紗耶
小学館 2009年11月23日発行 (原書は2007年)
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転校生は、ハリウッドスター

2010-01-23 20:12:16 | 小説
 大ヒットしているテレビドラマシリーズ「ファミリー・アフェア」の主役の双子姉妹の妹役女優ケイトリン・バーグが、撮影のオフ・シーズンに休暇をかねて普通の高校に通いたいと言いだし、親友リズが通う高校に変装して偽名で転入生として通い、そこでラクロス部キャプテンのオースティンに恋心を抱くが、実は仲が悪い姉役のスカイ・マッケンジーがケイトリンの秘密をかぎつけ大騒ぎにというストーリーの青春ラブコメ。
 今どきの16歳にして「スター・ウォーズ」オタクという点を除けば、普通のむしろ普通よりまじめそうな人柄のケイトリンが、様々なトラブルに対処し乗り越えていく様子が読みどころだと思います。
 絵に描いたような少女漫画の悪役タイプのライバル・スカイや、高校での同じ役回りのローリとか、パターンにはまりすぎてますし、オースティンとの関係も純情すぎてちょっと優等生すぎる感じはしますが、あまり気にしないで読めれば危なげなく楽しめる軽いタッチの読み物です。


原題:Secrets of My Hollywood Life
ジェン・キャロニタ 訳:灰島かり、松村紗耶
小学館 2009年6月22日発行 (原書は2006年)
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あの子の考えることは変

2010-01-22 22:14:00 | 小説
 セフレと断言されている27歳脚本家をイギリスに行っているという彼女から引き離して独占するために太らせ見栄えを悪くする「モンスター計画」を進めるジェラート屋のバイト23歳Gカップ女巡谷と、同居する自臭恐怖癖のあるしかし実際不潔な引きこもりの23歳処女日田が、変化を期待しつつもがく様子を描いた青春小説。
 前半では日田の変人ぶりが強調され、普通の女と描かれていた語り手の巡谷が、後半になるとときおり過敏になりパニックを起こし、この子の考えることも変になる転換が少し巧み。
 ただ杉並清掃工場の煙突から出るダイオキシンを吸い続けることである日突然「発症する」ことに自分の変化を期待するという設定は、中途半端に現実が入り込みせこくもあり、今ひとつ興味を感じにくい。
 若い女性に清潔で清純なイメージを持ってきたし持たされてきた世代としては、ストレートに不潔で性欲を剥き出しにした23歳処女とか見せつけられると、幻想を壊されるというか辟易するというか、ちょっと考え込んでしまいました。


本谷有希子 講談社 2009年7月29日発行
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